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## 第六章「精霊の声」

 二つの気配が、空洞の中に漂っていた。


 分かれた上半身と下半身が——火の精霊と土の精霊が——それぞれ静止していた。もう暴れていない。もう一体として動いていない。ただ、漂っている。拘束が解けた後の、途方に暮れた気配だ。


 フィーアが動いた。


 ゆっくりと、二つの気配の前に飛んでいった。制御石がない今、拘束具が分かれた今——届くはずだ。フィーアが妖精語で呼びかけた。声ではなく、空気に意味を乗せる方法で。


 二つの気配が、動いた。


「届いてる」


 フィーアが振り返らずに言った。声が違っていた。何かを中継している声だ。


「苦しかった——ずっと苦しかった」


 フィーアの声が震えた。


「何も聞こえなかった。自分の声も聞こえなかった。一つにされて——自分が何なのか分からなくなった。ずっと、ずっと——叫んでいたのに」


 フィーアが黙った。黙ったまま、浮いていた。小さな体がかすかに震えていた。


 誰も声を出せなかった。アレクも何も言えなかった。


 ドルフが倒れたままの床が、見えた。


---



 リーンが立ち上がった。


 空の矢筒を床に置いた。弓も置いた。武器を手放す——エルフにとって、それが意味するものをアレクは知っていた。無防備になる、ということだ。その上で、前に出る。


 二つの気配の前に歩いていった。フィーアの横に立った。


「私が話す」


 声が小さかった。しかし、震えていなかった。


 リーンは精霊語で話し始めた。


「私はリーン。森のエルフです」


 二つの気配が、微かに揺れた。エルフの声だ。かつて、最初に対話できた声だ。制御石を埋め込まれる前に、声を交わした声だ。


「あなたたちを傷つけたのは、ドワーフだけではありません」


 リーンの声が、一瞬だけ詰まった。続けた。


「私の先祖が——森のエルフの精霊使いが、制御石の設計を手伝いました。あなたたちの声を聞いて、石を埋める場所を決めたのは、エルフです。あなたたちが苦しんでいくのを横で見ていたのも、エルフです」


 フィーアが目を閉じた。ミュエルがリーンの肩から飛び立ち、フィーアの隣に浮いた。二体の妖精が、リーンの言葉を二つの気配に中継していた。エルフの言葉を、妖精が精霊の感覚に変換して届けている。


「壊れたとき、私の先祖は死にました。しかし生き残った者たちは——責任をダークエルフに押しつけました。嘘の童話を作って、自分たちの関与を消しました。エルフの名が汚れるのを恐れて」


 リーンの手が拳になっていた。指が白い。


「数百年間、あなたたちがここで叫んでいたのを、誰も聞きに来なかった。嘘を信じて、誰もここを覗かなかった。——私もその嘘を信じていた一人です」


 二つの気配の炎が、変わった。


 激しかった赤と白が、落ち着いていく。聞いているのだ。エルフの声を、聞いている。


「今さら謝って済むことではありません。あなたたちの数百年は返せない」


 リーンの目が濡れていた。泣いてはいない。泣く手前で止まっている。止まったまま、声を出し続けている。


「でも——あなたたちの声を聞いた者がここにいます。あなたたちが叫んでいたことを知った者がいます。今日から、忘れません。エルフは忘れないようにすることで前に進むから——あなたたちのことは、忘れません」


 フィーアとミュエルが、リーンの最後の言葉を届けた。


 炎の色が、静かになった。橙色になった。さらに薄くなった。温かい色だ。怒っていた炎が、静かになっていく。


 二つの気配の輪郭が揺れ始めた。


 岩と炎が、溶けるように薄くなっていった。分かれた後で、一瞬だけ別々の気配が見えた。


 一つは——土の気配だった。山の奥で、長い時間をかけて鉱物を育てていた存在の気配。


 もう一つは——火の気配だった。岩盤の深くで、静かに燃え続けていた炎の気配。


 どちらも穏やかだった。


 それらが消えた。


 空洞が、静かになった。


 フィーアが戻ってきた。ゆっくりと、アレクの肩に降りた。何も言わなかった。


 青白い光が、空洞を照らしていた。精霊たちがいなくなった空洞を。


 だが、完全に気配が消えたわけではなかった。


 より深いところから、気配が伝わってくる。童話によると精霊は一体ではなかった。少なくとも二体。あるいはそれ以上。



---



 帰り道に、接続部を落盤させた。


 人間のヴィラ鉱山とドワーフの旧坑道が繋がった場所——三週間前に鉱員が掘り当てた地点だ。天井の弱い箇所を見極め、崩落させた。


 崩落は数分で終わった。轟音と粉塵が通路を満たし、それから静かになった。


 接続部が塞がれた。


 しかしアレクは分かっていた——「見えない光」は残る。石の性質は変わらない。光を放つ石はまだそこにある。この空間が光を生み出し続け、生き物の形を歪め続ける。封印の向こうで、誰も届かない場所で。


 それは変わらない。今日ここで何をしても、変わらない。


 四人で、来た道を戻った。


---



 坑口から出たとき、光が眩しかった。


 昼を少し過ぎた頃だった。松の木が風に揺れている。鳥の声がする。地上の空気が、肺に冷たく入ってきた。石の匂いとあの言葉にしにくい匂いが、少し引いた。


 フィーアがアレクの肩の上で深く息を吸った。「地上の空気ってこんな感じだったんだ」と言った。「忘れてた」


 ヴァルターが入り口の近くにいた。ケルンと一緒に、待っていた。四人が戻ったのを確認して、表情が変わった。人数を数えた。もう一度数えた。


「全員か」


 アレクは少し間を置いた。


「全員です」


 ヴァルターが息を吐いた。しかし安堵の息ではなかった。


「接続部を落盤させたので、怪物がここから流れ出ることはなくなります」とアレクは言った。「ただし、ドルフ・ロック・バーデンと、ガルドは——坑道の中で亡くなりました」


 沈黙があった。


「上層は以前より状況が改善されるはずです。ただし深部は使えません。見えない光の石の密度が高すぎる——中層より下に人間を送れば、また同じことになります」


 ヴァルターは難しい顔をした。自分には見えなかった——光る石は美しかったし、怪物がいなくなった今、鉱山はただの豊かな採掘場に見える。しかし目に見えない死がある、とアレクが言っている。


「分かった」とヴァルターは言った。完全に理解した声ではなかった。しかし「呪い」とは言わなかった。それだけは変わっていた。


 オスカーが近づいてきた。「仕事を終えたか」と笑顔で言った。それから表情が変わった。人数を見た。


「自分の仕事は終えました。暗くて深かったです」とアレクは言った。


---


(エピローグへ続く)




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