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ひのくに戦記1913 -戦火の世界-  作者: 茂野夏喜
第一章 
46/134

戦うってこと 4

 友軍の軍服、多少の返り血を浴びたらしい痕跡。軍帽からはみ出た黒色の綺麗な髪。相変わらず、何を考えてるのか読めない能面のような無表情。


 「無事、でしたか」


 白楼魅夜。そこらじゅうを這いずり回り草木や土地に汚れた俺の服装を確認しつつも、冷静に怪我のないことを確認してそう言った。




 「……」

 俺は、言葉が出なかった。何が起きているのか、よくわからなかったから。え、なんで?この辺に見回りを置くなんて話、聞いてなかったけど。それも、白楼魅夜?じゃあ、他のメンバーもいるってこと?



 「とりあえず、後に続いて。あんまりぼーっとしてると死んじゃいますよ」

無言の俺を置き去りに、彼女は俺の殺した敵兵に一瞥をくれたのち、中腰でサッサと走り抜けていく。しばしぼうっとしていた俺は、無気力に歩く、彼女が向かっていったであろう場所、恐らく他のメンバーも集まっているであろう場所。


 俺の仲間たちが皆殺しにされた現場へ。




*   *   *




 「くそ!」

ニュージーランドの斥候部隊は、任務に外れた行動を取ったことを心の底から後悔していた。油断した敵の輜重部隊、しかも荷物の量はかなり大規模。今回は敵の事情を偵察することが目的だったが、ここでうまいこと妨害ができれば敵に大きな打撃を与えることができると確信し、”絶対に勝てる”戦いを始めたはずだった。


 ふたを開けてみれば、たった一人の生き残りに手こずった挙句、更なる敵の伏兵を呼び寄せてしまったようだ。比較的遠方で銃声を聞いたのち、続々と仲間が倒されていく。



 「離脱だ!敵も手練れだ、退くぞ!」


もはや位置がバレてしまうことも気にせず、彼らはいち早くこの場から撤退することを選択していた。深い森の中を、草木に塗れながら必死で進んでいく。



 「小隊長、敵の襲撃で既に6人やられました!残りの者達もバラバラです!」

「分かっている!さっさと離脱だ、くそっ!」



 そういった瞬間、小隊長の部下頸部には鋭い痛みを覚えていた。


 「……?」

そしてその一瞬ののち。何が起こったのかも理解できないまま、彼の意識は永遠に失われることとなる。隣にいた小隊長は、彼の首が綺麗な断面を晒して滑り落ちるのを、狐に包まれたような顔で見送った。



 「え……?」

そしてまた彼も、今度はうなじのあたりに強い衝撃を覚える。一瞬視界が真っ白になった直後、彼の意識もまた飛んで行ってしまう。




 「生きてると、良いんだがな」

木々の間から零れる僅かな光が、白刃に鈍い光を反射させている。その刃に付いた鮮血を一拭きに取り去り、ほとんど音もなく鞘の中へ仕舞う。


 その言葉は、この近くにいるはずの某友軍新兵に向けたものであり、また今しがた気絶させた男へ向けたものでもある。先ほどの手法は必ずしもうまくいかない、敵の意識していない死角から一瞬で意識を飛ばすほどの打撃を加えたのだ。下手すればショックで死んでいるかもしれない。


 「……息は、あるか」

それだけ確認すると、徳長蒼龍は気絶した小隊長を抱き上げ、来た道を引き返していく。近辺に敵の気配はなく、そのまま悠々と立ち去って行った。




*   *   *




 「どこから狙われてる!?」

「……あまり大きな声を出すな、撃たれるぞ」

「くそ……!」

こちらも、敵の襲撃でバラバラになったニュージーランド兵二人組。一人は拳銃にストックをとりつけたような銃で先導して進み、もう一人は短銃身のライフルで後ろを警戒している。


 「注意して進め、その辺に待ち伏せてるかもしれんぞ」

「分かってるっ……!」

小声で会話を交わしつつ、慎重に進んでいく。


 しばらく進んだところで、数メートル先の茂みに物音を確認した。先導役は反射的にそちらに銃口を向け、そのまま3,4発ほど連射した。

「敵か!」

「……恐らく。だが止まってる暇はない」

優先すべきは離脱。たまたま遭遇した不審な存在に数発撃ちこんだだけ。このルート上に味方はいなかったから、同士討ちの可能性も低そうだ。



 と、そこから数メートル進んだところで銃声。そう遠くないポイントから。

「うぐっ!」

後方を警戒していたほうが倒れる。肩から血を流している。もう一人は身を低くして周囲を伺うものの、敵の姿は見えない。


 「どこから撃たれた!」

「ぐぐ……。わからん。先に行け!」

「……くそっ!」


 そもそもが斥候、すべきことは敵の撃破にあらず。今度はこちらが一刻も早くこの場を離脱し、敵から逃げる側だ。


 「……すまない」

「心配するな、すぐに追いつく」


 絶対に果たせない口約束を交わし、無傷の方は先に先に進んでいった。




 「畜生、畜生!」

追う側が、今度は追われる側。絶対に勝てる戦いから敗走しつつ、極限の緊張感と戦う、追っ手にどれだけのやる気があるのか知らないが、そう遠くない距離に敵が潜んでいることに間違いはないだろう。



 逃げる敵。必死の形相で草木をかき分ける敵。時々転びそうになりながらも、そこら辺の都会っ子よりも慣れた足取りで進んでいく。


 それを、スコープ越しにじっと見つめている男が一人。多少不規則な敵の進路を観察しつつ、好機を伺っている。


 そのうち、敵は少し開けた場所に到達。一瞬立ち止まり、次の瞬間向かい側の茂みに向かって駆け始めた。



 ――今だ。




 敵が向かう先を予測し、僅かな偏差をつけて迷わず一射。銃弾は思い通りの弾道を描き、敵の胸のあたりに命中。草木に血しぶきを浴びせつつ、敵が倒れるのを確認、




 「……命中。死んだな」

勇田は、スポッターに戦果を報告。スコープから目を外し、相方の方を見る。


 「了解です!それじゃ、生き残った方を助けに行きましょうか」

「だな」

勇田、信濃原両名は狙撃体制をやめ、立ち上がり、先ほど肩を撃ち抜いた敵の方へと移動を開始した。




*   *   *




 深緑の軍服に銃剣が突き刺さり、血を滴らせる。移動の機会を逸した3人組は、一発の銃弾を放つこともなく、突然現れた男にまとめて瞬殺された。


 「終わりだ」

滝隅秀一は銃剣を抜く。的確に肝臓を貫かれた敵兵は、そのまま力なく崩れ落ちる。


 「仕事が速いなあ。……おぉ、これは面白い」

遅れて現れた男は、敵兵の死体には目もくれず装備品に興味津々の様子。彼は敵兵の取り落した銃を拾い上げ、観察し始めた。


 「これはBR110、正式にはBREEZ RIFLE110 。なるほど、我々の九六式より森林戦向けね。名前通り全長110cm、弾薬は我々のと一緒かな?ただ5発装填か……」

黒桐史郎。人より武器に目がない彼は、誰に語るでもなく一人ブツブツと呟いている。一通り眺めたのち、今度は別の武器に目をつける。


 「こっちは……オーストラリア製ね、AMのP9拳銃を改造したのかな。ストックと拡張弾倉のついたカービン銃、弾は30発くらい入りそうだ。無理に近寄ったら連射食らって死んじゃうかもね」

「……そうか。精々気を付けるこったな」

唯一の聞き手たる滝隅は、それが自分に向けられた言葉であると知りつつも他人事のように答えた。先ほどは敵が”撃ちにくい”場所から突進を仕掛け、一気に制圧できた。


 だが、敵の装備にいかなる留意もしていなかったのも事実。今後は一応気を付けようと、コッソリ決心を固める。



 「こんなに早く新しい銃が見れるなんて感激だなあ。他にもなんかないのかなあ」

「……さすがに、趣味が悪いんじゃねーのか?」

「え、君がそれ言うの?」

何の躊躇もなく、あまり”踏み込まれたくない領域”へ土足で上がり込んでくる。だがそこに皮肉とか悪意とかは一切なく、単純に疑問だったのだろう。それが分かっている滝隅は、一々不快感を示したり、窘めるようなことはしなかった。


 「まぁ、それはいいんだがよ。どうでもいいがお前、どこで知識仕入れてんだ?」

「うーん……。色々、かな。マニアの情報収集力を甘く見ちゃいけないよ?」

「……そうか」

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