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あなたと同じところに逝けるのなら (馬8)  作者: 蔵前
十三 相談する相手は選ぶべき
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向こうに存在する心配事らしきもの

「あれ?俊明和尚には兄弟がいなかったはずですけどね。代々の住職の家系で子持たずでね。彼は奥さんの亡き後に山から別の住職を派遣して貰って交替をしたのですよ。茨城?栃木?百目鬼姓が多い地方があるそうですから、同姓の他人じゃないですかねぇ。」


「本当に知らない人ですね?いいですか。絶対にお礼参りは禁止ですからね。この間の誤通報の三人組の現場は、彼らがいくら「何もなかった。」と言い張っても、事件性を追及できるほどだったのは御存知ですよね。」


「何ですか?その誤通報の三人組って。」


 俺が大げさに驚いてみせると、髙は大きくハァと息を吐き出し、諦めたように俺に言い捨ててから通話を一方的に切った。


「あなたが帰京前には解決するように頑張りますから、どうか何もしないで下さいよ。」


 英明はまだ諦めていなかったのか。


 英明は俊明和尚の息子だと自称している男だ。

 妻側の親族の一人で、裕福な住職である俊明和尚の跡継ぎとなるべく勝手に養子縁組の書類を作成し申請してしまった。

 それは受理されてしまい、公文書偽造として俊明和尚は取り消しを求めたが、相手が妻側の親族という事で罪を問えなかった上に取り消しにも至れなかったそうである。


 その上、受理をされて一度養子としての戸籍も出来てしまったがために、幾許かの金を握らせて養子を解消した後も英明は百目鬼姓を名乗っている。

 そして、その出来事により彼の妻は心労で倒れて短い生涯を終え、妻側の親族が英明を再び押し付けてきたがために、彼は寺も故郷も捨てたのだ。


 彼は寺を譲ったあとに妻と隠居をするために買っていた家に一人で入り、そこで死病を患うまで、たった一人で生活をしていたのである。


「あれは誰ですか?」


 俊明和尚と目黒川で花見を楽しんでいたところ、俺達を睨みつけるようにじっと眺めている男に俺は気づいたのだ。


「私には関係のない人です。」


 俊明和尚は感情も見せずに淡々と答えた、と思い出す。


 人への最大の攻撃は「無視」だという。

 俊明和尚は花見をその後も楽しみ、俺は俊明和尚だけを気にして、そんな俺に俊明和尚は愛情を示し、俺達を必死で睨む英明については存在さえしないものと切り捨てていた。

 けれども英明はその後も俺に纏わり付き、そのうちに俺に脅しを掛けるまでになったのである。

 この俺に。


 俺はとある日に、英明含む四人の腕に覚えがありそうな男共に囲まれた。

 彼らはどうやら俺を痛めつけて何でも言うことを聞く傀儡にして、俊明和尚の土地権利証や財産を盗ませる思惑であるらしかった。


 彼らの失敗は、俺が当時は相当な未熟者だったと知らなかったことである。


 簡単な話だ。

 返り討ちにしたはいいが、俺はかなりやりすぎたのだ。

 気が付けば、俺の足元には手足が折れて呻く男達の山だ。


「あー。どうしようかな。」


 俺の思わずの言葉に、後ろから俊明和尚の軽やかな笑い声が聞こえた。

 振り向くと、俺を山から連れてきた時と同じ仙人か妖しのような風情を纏った俊明和尚が立っており、その老齢ながら美しく整った顔を悪魔のように歪めて笑っていた。


「病院に連れて行かないとね。良純、君は免許はあるかい?」


「いえ、車の免許はありません。」


「そうか。直ぐに戻るからこの襤褸をちょっと人目から隠しておいて。」


 彼はそう言って姿を消すと、二、三十分後に白い中古トラックを運転して戻って来た。


「荷台にそいつらを乗せてブルーシートで隠して。まだ死んでいないよね。」


 やりすぎだが死ぬほどの怪我ではないのは一目瞭然だ。

 俺は彼の言葉に久しぶりに僧の振りを捨てた本来の自分に戻り、大笑いしながら荷台に慮外者達を積み重ねていた。


「君の声は本当に良い声だね。」


 運転席の俊明和尚の言葉に、助手席に座る俺はひどく照れたものだ。

 俺達は東京郊外の病院の前に彼らを捨てた。

 彼のその無頼な行為に唖然とする俺に、彼は追い打ちのようにろくでもないことを言い放ったのである。


「次はもうちょっと考えて暴れてね。通報されたら困るでしょう。」


「もうちょっと考えれば、暴れてもいいのですか?」


「いいよ。二階から君の戦う姿を見て惚れ惚れしたからね。」


 翌日、俺は彼に自動車教習所に放り込まれた。

 お稽古ごとに子供を放り込むのは親であれば当たり前だからだ。

 俺は成人なので自動車教習所という名のお稽古塾である。


 お玩具を与えるのもそうだ。

 彼はいくつかの新車のパンフレットまで俺に手渡して、好きなものを選べとまで言ったのだ。


 しかし俺はそのパンフレットが楊が俊明和尚に頼まれて揃えていた事を知るや、子供のように鼻を曲げて「いらない。」と言い放ってしまったのである。

 そして新車に全くの興味が湧かなかったのは、トラックが俺が免許を取るまで俊明和尚が隣に座って運転を教えてくれたという思い入れのあるものであり、俺はそのトラックを失うことが恐ろしかったこともある。


 ただし、最近楊からトラックが元々借り物で、俺が普通乗用車を欲しがるどころかトラックに執着したからと、俊明和尚が知人からトラックを買い取ったという話を聞いてかなり落ち込んだことは秘密である。


 あの時彼に車を買ってもらえば、俺は彼と車選びをしたという思い出までも手に入れることが出来たに違いないのだ。

 情けなく甘ったれた俺に対して、彼はなんと愛情深い親であったのだろうか。


「どうしようかな。」


 あの時と同じ言葉が無意識に口から出た。

 玄人は俺と違ってか弱いだけの生き物だ。

 連れて帰って暴漢に傷つけられたら困ると、俺は最近出来た自称息子候補に電話する事にした。


 しかし玄人に足を踏まれて笑っていた男は、俺の頼みに「僕はかわさんによって謹慎中です。」と返したのである。

 あいつは思っていたよりも常識人であったようだ。

 それでも玄人のためには目を光らせるはずだ。

 それならばあっちは大丈夫だろう。

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