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002 来たらわかるガチな転生やん(ダミ声)

文章の書き方や口調が安定してないかも知れません。アドバイス待ってます。

 視界が切り替わると大きな木で塞がれていた。


 ただし、その表現だと誤解を生んでしまうだろう。確かに目の前には木があるのだが、周りを確認すると目の前だけではなくあちらこちらに。


 ――つまり俺がいるのは森の中だった。


  少し離れた所に看板が立ててある。『ゴブリン注意』……日本でいう『クマ注意』みたいなものであってくれ。それならあまり出ない気がするから。


 大勢のゴブリンが出てきて虐殺されてしまうのも嫌だ。とりあえず安全な場所まで辿り着くことを当面の目標としよう。


「さて、どっちに向かえばいいんだ?」


 知らない森の中。向かうべき方角も分からない。

 とりあえず適当な方へと出発することにしよう。

 看板もあるんだ。町や村からそう遠くないだろう。


  歩いていれば、きっとどこかに辿り着ける……はずだ。


 歩き出そうとすると頭の中で機械の様な無感情な声が響いた。


 《ステータスオープンと言ってください》


 これは異世界転移のチュートリアルの可能性が高いと判断し、拒否する理由もないので従う。


「ステータスオープン」


 すると突然視界の左側に文字が表示される。どうやら俺自身の能力を表しているようだ。まるでゲーム画面を見ている感覚になる。



<名前> タケト=マツモト

<種族> 人族

<年齢> 17

< LV >1

<HP>170/170

<MP>170/170

<攻撃力>170

<防御力>170

<素早さ>170

<命中率>170

<会心率>170

<魔攻力>170

<精神力>1700

 装備:学生服一式、下着一式、アイテムポーチ

 所有金額:0エン

 スキル:【全てを見通す目】

 固有スキル:【年功序列】

 簡易設定:【自動換金 ON】



 一応固有スキルを確認する。意識をそこに持っていくだけで説明が開いた。


【年功序列】:パーティ内の合計年齢、合計レベル、合計種族数に応じて能力が上昇。またスキル、アイテムが手に入る場合もある。


 まあEだから強くはないと予測できる。精神力がほかと比べて異常に高いのはぼっちなりに鍛えられたという所だろうか。


 ただ、一般人の能力の水準が未知な以上この数値が高いのかどうかは判断出来ない。

 次に【自動換金 ON】に意識をむけた。


  【自動換金 ON】:相場に合わせて自動で換金する。期間限定。


 うん、何を? って聞きたい。そして期間限定ってなんだよ。まぁこれは後で確認することにする。

 次にスキルを確認。


  【全てを見通す目】:相手を見通す。


  え? 見通すっていうのは具体的にどこを? ……じゃなくて何を?


 こちらもよく分からないな。


 ここでまた頭に声が響く。


 《これより十分間、他者のスキルランクを確認できます。今後の接触時の対処法の判断材料としてご確認ください》


 すると出席番号順に名前、その横にランクが書いてある。ざっと見たところ学級委員長の田中賢一と天然の斎藤晴香がS、基本俺と関わりのない奴らはA、ここは記憶しておかなければならないだろう。

 他は多くて覚えてられない。


 くじの混ぜ方と面接の順番はエール次第だったはずだ。そしてSを引いてくれた二人。

 あの二人なら力を無意味に行使したりしないだろう。ありがとう。


 もし他の奴らだったら。


 こっちで遭遇した時に何されるか分かったもんじゃない。過剰な力に慢心して色々仕掛けてくるに決まっている。笑顔で。


 いや、それは偏見が過ぎるか。でも斎藤さんの前では猫かぶりな奴らだからな。そう思われても仕方ない。


 《他者のスキルランク確認の時間は終了しました》


 瞬間、先程までのステータス画面のみの簡素な視界に戻る。

 最後にアイテムポーチだけは確認しておかなければ。


【アイテムポーチ】

 数学の教科書、化学の教科書、物理の教科書、古典の教科書、ルーズリーフ、筆箱(シャーペン、消しゴム、物差し、予備の消しゴム予備のシャーペン)、スマートフォン、電子辞書、水筒、弁当箱(冷凍食品多め)


 ここで分かったのは今朝登校した時カバンに入れていたものがこのアイテムポーチに収納されたということだ。

  しかし、アイテムポーチはどこを探しても見つからない。


「まさか体の中に埋め込まれてるんじゃないだろうな」


 仕方ないので水筒に意識を向けると手の上に現れた。


 《アイテムポーチの初使用が確認されました》


 アイテムポーチは転移した時に自動で付く実体のない入れ物のようだ。容量は分からないが便利な仕組みだ。


「しかしどうしたもんかね」


 ポツリと呟く。

 この状況、この不安。どうやら人間が一人でいると喋らないとやってられないらしい。だってゴブリン出るんでしょ?

 すると茂みがガサガサと揺れる。


 あっ、これゴブリンに殺されるパターンじゃないか?


 絶望的な状況を想像してしまった俺の予想は外れ、茂みから現れたのはスライムだった。


「なんだスライムかよ、脅かすなよ」


 とはいえこのスライムがどの程度の強さなのか分からない。見た目と相反して強敵かもしれない。常に最悪の状況は想定しておかなけらばならないだろう。


 とりあえず攻撃してから無理そうなら即退却する策でいこう。様子を伺うようにスライムを見ると右端に文字が表示される。


<名前>スライム

<種族>魔物

<Lv.>3

<HP>10/10

<攻撃力>10

<防御力>10

<素早さ>10


 それと同時にあの音声が響く。


 《スキル【鑑定Ⅰ】の初使用が確認されました》


 あぁ、見通すというのは相手の能力が対象なのか。


 さっきは考えないようにしていたがどうやらエッチな意味では無かったらしい。


 別に可愛い女の子の服を透視したいなんて微塵も思っていないし、仮に可能だとしても絶対にやらないけどな。


 本当だぞ? 俺は二次元に生きているんだからな。


 スライムのステータスは俺のと比べやや少ないように感じる。これは数値が0のステータス情報を省略しているということにした。


 サッカーボールを蹴るイメージでスライムに全力で蹴りを入れると、ぶじゅっ、という鈍い音と共に形が崩れた。


 《自動換金の初使用が確認されました》


 確かめてみるとどうやら自動換金はこういったモンスターを倒した際、お金を貯めてくれるらしい。


 説明文でいう相場が討伐料という事ならこのシステムで入る金と討伐料で元の金額の二倍稼げる。

 仮にそうだとすれば相当有利にお金は手に入る。異世界人への優遇措置なのか?


 お金の単位はさっきは気づかなかったがエンなのでこれは日本円と同じである可能性が高い。

 もしそうなら金銭感覚の面においては相当な助けになるだろう。


「収納」


 ぐちゃぐちゃになったスライムの死体に向かって意識をむけそう告げると、一瞬のうちに消え失せた。


 確認するとアイテムポーチにはスライムの死骸が追加されており、言葉だけで勝手に収納してくれることも確認した。


 さらに嬉しいことにアイテムポーチに関しては周りに転がった石ですら意識によって出し入れ可能であることが判明。


 どうやら少し離れていれば「収納」の一言が、手に触れたままであれば意識するだけで収納が可能なようだ。

 アイテムを取り出すには意識するだけでいい。


 これは大きい。生活面で役立ちそうだ。


 とりあえず日があるうちにこの森のけもの道を歩けるだけ歩くことにした。


 数時間は歩いたところでようやく人の気配がする。

 ここに来てようやく街にたどり着いたようだ。


「だいぶ歩いたけど、なんとかなったな」


 町の入口らしき簡易な門の前に二人の兵士がいた。

 まずはともあれ話しかけてみる。


「あの、すみません」


「なんだどうした? 変わった格好をしているが……」


 まず日本語が通じたという感動。しかし服装についてはどうしようもないな。


 確かにこの格好は浮いている。ここから見える街の中の人はまぁなんというか少なくとも学生服は着ていない。


「それが気付いたら森の中でして、思うに記憶喪失かなと」


 魔法がある世界と聞いてはいるが「召喚されました」なんて言って騒ぎになるなんてことも無きにしも非ず。

 まぁ、ごまかす。無難にいこう。


 記憶喪失とか言っておけば大体のことは誤魔化せるだろうという浅はかな判断による行動だ。


「記憶喪失かりそりゃ、大変だ。その身なりといい、どこぞの貴族で馬車で山賊に襲われたなんてオチじゃないだろうな?」


「と言われても分かりませんよ」


 俺はあくまで記憶喪失なんだからな。何も知らない分からない。


「はぁ、なら身分証明書は無いか?」


「多分ないです」


「そうか、ならこの水晶に手をかざしてくれ」


「はぁ、わかりました」


 何故そんなことを、と疑問を顔に浮かべてしまったのだろう。その疑問に兵士は笑いながら答えてくれた。


「いやなに、犯罪行為をしたことのある者が手をかざせば光る魔道具さ。やましいことしてる奴を中に入れることは出来ねぇからな」


「なるほど、ありがとうございます」


 その水晶は光ることはなく、溜息をつき安堵した。


「んじゃ改めて、ケルキトラの街へようこそ、本当は銀貨5枚取るところだが目を瞑ってやるよ」


 門番がそんなんで大丈夫なのかこの街は.....と、俺の疑問の視線に気付いたらしく兵士は言葉を続けた。


「こういう時は黙って礼を言うもんだぜ」


「……ありがとうございます!」


 街に入ろうと歩き出すとさっきの兵士が声をかけてきた。


「おい兄ちゃん、身分証明書がないならギルドにいってギルドカードを作ってもらうといい。冒険者として働けるし、身分証明書の代わりにもなる」


「親切にどうも、行ってみます」


「そのまま大通りをまっすぐだぞー」


 本当に親切な人だ。手を振り歩き出す。もう一人の兵士はずっと黙ったままだったが寡黙な人なのだろう。


 しばらく歩くといかにもって感じの建物に着く。間違いなくギルドだろう。モン◯ン経験者は語る。


 クエスト受注とかあるのだろうか。クエスト出発、テーレー♪ なんて音楽が懐かしいぞ。


 入ると多くの冒険者たちで混んでいた。騒がしい人の集団の切れ目を縫って進み受付嬢に尋ねる。


「すみません、登録したいんですけど」


「はい、よろしいですよ」


「手数料はいくらします?」


「登録が初めてでしたらかかりませんが、再発行であれば冒険者のランクによって変わります」


 それってハ〇ターランクですよね? ステータス表示といい、此処はゲームの世界なんじゃないか?


「ああ、初めてです」


「ではこちらに手をかざして下さい」


 そう言って受付嬢はポイントカードの様な板を取り出してきた。手をかざせば何でもできそうなこの世界。


 かざすとその板は薄く光り、文字が現れる。



 ―――――――――――――

<名前>タケト=マツモト(M)

<Lv.>1

<ランク>F

<所属パーティ>なし

 ―――――――――――――



「スキルとかは出ないんですね」


「表示されるのは必要最低限の情報のみとなっております」


「なるほど」


 プライバシー管理にも抜かりないとはギルドさん流石です。


「初めてでしたら当ギルドのシステム等についての説明は必要ですか?」


「すみません、お願いします」


  横の部屋に案内され、受付嬢は紅茶を用意してくれた。

  受付嬢の話を簡単にまとめると

 ・ランクはF、E、D、C、B、A、S、SS、SSS、EXの十段階

 ・受ける依頼はランク以下であることが条件

 ・依頼完了はギルドカードに表示される

 ・パーティで依頼を受ける場合、報告者は一名でいい

 ・複数のパーティが同時に依頼を受けるときは、報告時に各パーティから最低一名ずつは必要

 重要なのはこれくらいだろう。


 他にも昇格試験や冒険者としての心構えなども説明されたが、大して重要そうでは無かったために聞き流した。


 ちなみに盗賊は依頼でなくても退治した場合、体の一部を持ち帰ることで魔道具である水晶で確認した後報酬が貰えるらしい。

 ここで盗賊狩りで美味しいのが、物品の所有権は自分のモノになることだ。

 もし強くなったらそっちの道で稼げるかもしれない。


 さらに賞金の出ている盗賊は首をギルドに差し出せば指定された金額を受け取ることができるらしい。

 他の盗賊は一律の金額となっているため、定期的に賞金にかけられた顔を確認しておくことをお薦めされた。


「でも一人の盗賊から二本の指を切り取って二人倒しましたって言われたらどうするんです?」


 疑問を口にすると、受付嬢は笑いながら答えてくれた。なんか笑われてばかりだな。


「ふふっ、その点はご安心を。何せ水晶の光り方は千差万別。同じ光り方の人は居ないとまで言われていますので」


「便利なもんですねぇ」


 科学がなくても生活ができる世界にはやはりそれに代わるほど万能なものが存在するのか。


「ではこれで説明は全てです。他にも分からないことが有れば遠慮なく聞いてくださいね」


「今日はありがとうございました」


 受付嬢に礼を言ってから部屋を出る。

 これで俺も晴れて冒険者となったわけだ。

 気分が昂る。

 やはり“冒険者”という言葉は男心をくすぐるものがある。


  『身分証明書の代わりとなるギルドカードを作る』という兵士さんからのアドバイスを実践しすることもなくなったため、ギルドから出ようとすると、


「おい、ちょっと待てよそこの若いの!」

「そうだそうだ! 先輩に挨拶もないのか?」

「お前みたいなヒョロっちーのがやってけるほど冒険者は甘くねぇえんだよ!」


 おっさん三人組に絡まれた。なんというテンプレ。ここぞとばかりにテンプレ。美しいまでのテンプレをありがとうございます。


 期待しなかったと言えば嘘になるが、ここで格好よく返り討ちにする何処ぞの主人公は初手最強説が有力だ。

 対して俺の実力は固有スキルを持たない凡人より見込みはある程度。

 寧ろ現時点では一般人よりも低いかもしれない。

 とてもじゃないが無双して一目置かれる存在になるなど不可能だ。


 自分で言ってて悲しくなってきた。


「はぁ……なんですか?」


「なんだその態度は!?」

「俺達『鋼鉄のダイアモンド』と知っての狼藉か」

「今なら許してやる、さっさとギルドカードを返却して汗臭い農民や金に汚い商業人としてやっていけよ」


 ――鋼鉄のダイアモンドか。


 ツッコミどころ満載の名前だ。

 ダイアモンドは鋼鉄なのか!? ダイアモンドってハンマーで割れるんだよ!? なんて言いたいけどそんな空気じゃない。


 それに周りもおっさん達の大声に釣られて集まってしまった。

 思ったより大事になってしまったようだ。


「あなた達って有名なんですか?」


「俺達を知らない、だと!?」

「ランクBでこの街なら最高位ランクだぞ!?」

「それを知らないのか!?」


「すみません、田舎者でして」


 こういう偉ぶった態度の冒険者はそんな強くないイメージだったが、そうとは限らないらしい。


 ランクBなら相当強いはず。しかもこの街最高位ときたか。

 さっき受付嬢さんがランクC、B位から実力がないと上がれないって言ってたもん。


 モブキャラ臭が凄いからてっきり雑魚かと。舐めすぎてましたわ。


 まぁ三対一なら各々が俺と同じレベルだとしても余裕で負けるけど。

 そもそも勝負する気ないけど。


「このパーティーのリーダーであるゴードン様が相手してやる。冒険者に足る実力の持ち主かどうか見極めてやる。表に出ろや」


 真ん中のおっさんが一歩前に出て俺を睨みつけてきた。

 え? なんでこんな不利な勝負受けなきゃならないの? 馬鹿なの?


「ごめんなさい。気持ちは嬉しいですけどお断りします。冒険者は自分の実力にあった仕事をするものと聞きました。だからこそのランク制度ですよね? 私はF、あなたはB。どう考えても俺が負けるのでやる意味無いでしょ。あなた方の助言は有難く頂戴して、これからの生活の参考にさせて貰いますね」


 冒険者は甘くない。それは本当のことだろう。

 仕事中に命の危険が伴うこともあるかもしれない。その事実は忘れないよう常に留意しなければならない。


 ここは日本ではないのだから。


 よし、恰好良く決まったな!

 先輩冒険者三人から良い教訓を学び、俺は立ち去ることにした。

 何の違和感もない完璧な避け方。さようなら。


「お前それでも男か!? 逃げるんじゃねぇ! 勝負だ!」


 前言撤回。立ち去りたかったがそれを阻まれてしまった。それは見事なフットワークで。


 こいつらバスケとかやってたんじゃないか?

 周りから「ディーフェンス! ディーフェンス!」と応援が聞こえて来てもおかしくないだろ。


「だからなんで勝負しなくちゃ行けないんですか? 負けるとわかってるのに勝負するのは自分の実力を過信しているゴブリンくらいのものでしょう?」


 “お猿さん”と言いたかったんだけど異世界(こっち)いるかわからないので“ゴブリン”で代用しておいた。

 これで俺はギャラリーからも意気地の無い男と思われ、三人組も興を削がれ自然にお開き、となる筈だった。


「なんだとぉ!? それでもタマ付いてんのか!? 決闘だ!」


 帰ってきた反応は真逆。ゴードンはわなわなと震え始めたかと思うと顔を真っ赤にして食いついてきた。


 まぁ、よくよく考えれば今の言葉は普通に煽りだったな。正に火に油を注いでしまった訳だ。

 しかし何故こんなにつっかかってくるのか。


 俺は新人で奴らはランクB。周りから見ても俺の方が弱いのが分かってるのだ。俺だってわざわざ見せしめにされる程のことをした覚えはない。


 すると何やらギャラリーからボソボソと聞こえてきた。


「あー、一番言っちゃいけない事を(ボソッ」

「どういう意味だ?(ボソッ」

「ゴードンが登録の時にも先輩冒険者に絡まれてな。若さ特有の慢心であいつは大口叩いて勝負に乗ったんだが……ボコボコにやられたんだよ(ボソッ」

「うわぁ、それは大層な黒歴史だな(ボソッ」


 大層な黒歴史どころか大層な八つ当たりじゃないか。そんなつまらない理由でやられるなんてたまったもんじゃない。


 仕方ない。恥ずかしくてみっともないから嫌だったんだが最終手段を使う他ないようだ。

 体を半回転させ受付へと向かう。

 邪魔なギャラリー達は無視だ。


「受付嬢さんすみません。知らないおじさん達が話しかけてきて決闘だと騒ぎ立ててるんですけど。あれってギルド的にはどうなんですか?」


「え!? えーと、そうですねぇ」


 まさかあの流れで自分に矛先が向くと思ってなかったのだろう、驚いて言葉が詰まったようだ。


「ギルド内での暴力行為は禁止されてますので止めようと思えばギルマスを呼んで中断させることはできます。それでも言う事を聞かない場合はギルマスから何らかのペナルティが課されるでしょう」


「なら止めさせてください。迷惑してるので」


「いいんですか?」


 それはどういう意味だ。俺としては朝から歩き続けてたせいで疲れている。この面倒な騒ぎを鎮めて貰って早く寝たいんだが。

 ギルドが注意して万々歳、ではダメなのか。


「俺は痛いのが嫌なだけですから早く止めさせてください」


「しかし新人冒険者が先輩冒険者と勝負して勝つことができればランクが上がることもありますよ。現に王都では頻繁に起こっているそうですよ。それに勝負に乗るのが暗黙の了解とされてます」


 それ他の異世界(ちきゅう)人だろ。これだからチート持ちは。


「構いません。そんな実力は持ち合わせていないので」


「分かりました。少々お待ち下さい」


 受付嬢は奥の部屋へと去っていく。

 数十秒後、ガチムチのおっさんが出てきた。

 ウホッ、いい男♂


「ギルマスのクレージュだ。アイカから話は聞いている。さっさと解散しろ」


 アイカ……あの受付嬢の名前か。呼び捨てとは二人はどういった関係なんだ?


「っち! 甲斐性無しめ」


「「「「「「はぁぁ」」」」」」


 おい、ゴードン一行は良しとしてもギャラリーの反応はどうなんだ? 俺が悪者みたいになってるんだが。


「あの、助けて頂きありがとうございました。クレージュさん」


 俺が哀れに見られてるふうに感じるのは気のせいだろうか? うん、気のせいだろう。そうに違いない。


「まぁ、冒険者は現実的な判断こそ長生きの秘訣だからなっ。気にすることは無いっ。頑張れよルーキー!」


「心を読めるんですか!?」


「ハッハッハ! 思いっ切り顔に書いてあるぞっ」


 明るい人だ。語尾が跳ねやすいのが気になるが、こういう話しやすい人は個人的には大歓迎だ。

 いや、ホモじゃないが。決してホモじゃないが。


「ははは。所でつかぬ事を聞きますが受付嬢……アイカさんとはどういった関係で?」


「夫婦だっ!」


 さいですか。


「ただし周知の事実という訳では無い。そもそも客観的に見てこの肉体とアイカの華奢な体では不釣り合いに見えて想像もできんからな」


「そうだったんですか」


 なんか、少しばかりショックかも。

 クレージュさんはニヤリと俺をみると高らかに笑い出した。


「ハッハッハ! 初対面でこの落ち込み様なら、あいつらに教えるのは控えておいた方が良さそうだな」


 あいつらというのはいつもの冒険者メンバーのことだろう。


「故意的に黙ってるんですか?」


「聞かれないから答えてないだけだっ。隠すつもりは無い」


 そうだろうな。

 綺麗な受付嬢とこんなガチムチのおっさんが結婚してるなんて、ギャップという言葉を使うのも烏滸がましい程の溝がある。


 想像もできないんだから言われた所で理解できない気がする。


「今失礼なことを考えなかったか?」


「ソンナコトアリマセンヨ」


 クレージュさんに怪訝の目を向けられたが誤魔化しておいた。

 そのままいくらかの注意を受けた。先輩方を余り挑発するな、みたいなニュアンスのことだ。


「もう暗くなってきたことだ。そろそろ閉めるぞ」


「え? ギルドって二十四時間営業じゃないんですか?」


「アホかっ! 受付嬢だけでもアイカ含めて二人なんだから無理に決まってんだろっ。王都とかの都会だけだそんなんわ。早く帰れ。ほら、しっしっ」


 俺は餌を狙う野良猫か。人間とすら認識されず酷い扱いをギルドマスター本人から受けて俺の硝子のハートにヒビが入った。


 ギルドはコンビニ感覚だと思っていたがそうでもないらしい。これは将来的に王都に行く線が強くなってきた。

 二十四時間明かりが灯っている街の方が盛り上がれてファンタジーっぽいからな。それに夜の街も楽しめそうだ。


 そんなどうでもいいことを考えながらギルドを後にした。


 そしてもう暗い大通りを歩きさっきの門の所へ戻ると兵士が元気よく話しかけてきた。


「お、兄ちゃんどうしたよ。登録ができたか?」


「はい、お蔭さまで。ところでお願いがあるんですけど」


「ん?」


 俺は一文無しであり寝場所がない。

 断られることはないだろうから、思い切ってお願いしてみることにした。


「宿に泊まろうにも今手持ちのお金がなくてですね」


「みなまで言うな。いくら親切な俺とて初対面の記憶喪失野郎に金は貸さねぇよ」


 いや、流石に初対面の人に借金したくねぇよ。


「いえそうではなくてですね、ここに寝ていいですか?」


「は? 正気か? 地べたで寝るってのか」


「はい、ここなら魔物が出ても兵士たちが守ってくれるし……」


 寝場所がないなら作ればいいだけだ。

 馬小屋は臭いし、ひとりだと危険だ。消去法でここが残った。


「兄ちゃん変わってるよ。こんな所がいいなんて」


「別にここしかないと判断したまでですよ」


 ここを好んで寝場所にするわけないだろう。この兵士から見て俺はどんな人物に見えてるんだ。

 あっ、変な服きた記憶喪失の変態か。


「まぁ、俺達は朝まで仕事でここにいなきゃならねぇから構わねぇけどよ」


「ではおやすみなさい」


「まじでかこいつ。はいはい、おやすみさん」


 呆れる兵士をよそに寝そべる俺。客観的に見てシュールだなこの絵面。

 まだこの世界の常識については早急に調べなけらばいけない。他にも色々やり残したことを考えているうちに目蓋が重くなる。


 思い返せば今日一日一般人としては相当頑張った方だ。あっという間に寝ても不思議ではない。

 こうして俺の異世界召喚一日目はおっさん二人を隣に地べたで寝転ぶ形で幕を閉じた。


誤字脱字の指摘頂けたら嬉しいです。

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