001 始まりの始まり
エールと共に扉に入ると向かい合わせになった椅子に座る。距離は近い。鼻息とかかかってないよな?
エールは何処からか紙を取り出し、やる気無さそうに口を開いた。
「じゃあ早速始めたいんだけど良いかな? えっといちいちするの嫌だなぁ、はぁ」
「とりあえず始めろよ。最初からそんなんで大丈夫か……まだまだいるのに」
「うるさいなぁ、神に対してその態度? 何様なの?」
「……」
お前が何様だよ、とツッコミたかったが平然と「神。我神ぞ?」とか言ってくるのが容易に想像できたので堪えることにした。
「ええと、長くなるから覚悟してね! まずは……」
「長くなるならまとめて話せば?」
「口挟まないでよ。こっちにも事情とかあるわけだから」
「わかった。悪かったよ」
確かに露骨に嫌々オーラ発してるあたり、本当になにか事情はあるのだろう。神ならやりたくないことをしなくとも多少融通がきくはずだ。
まぁそんなことはどうでもいい。そんなことが分かったところで俺にはどうしようもないのだから。
「ほいっ。その紙の質問に記入して貰っていいかな? その後に面接だね」
「分かった」
「まぁ君のは必要ないんだけど(ボソッ」
「ん?」
「何でもないよ。ほらっ、これがペンだよ」
紙に記入し終わり、面接が始まった。結論から言うと面接と言っても特に何をするわけでもなく趣味、好きな本、好きな動物などの簡単な質問に答えるだけだった。
「以上で質問は全部だね。では次にこれからのことについて話そうか。まず単刀直入に言うけど君らで言うとこの異世界に行ってもらうことになりました。おめでとう!」
「……は?」
「うん、僕が言うのもなんだけどこの状況で異世界に行けって言われても不思議ではないよね?」
まぁ……一理あるかも……って何納得しかけてんだ俺。
ないから、そんな厨二設定みたいなこと現実でないから。
「とりま話進めるよ?」
「ああ、頼む」
エールの話を大雑把にまとめるとその 異世界の特徴は
・エルフ、ドワーフなどの様々な種族からなる世界
・ゲームのような魔法あり、物理法則無視もあり
・魔王もいるにはいるが特に争いの無い平和が続いている
・勇者として召喚される訳でもなくほのぼの生活ライフしてOK
というところか。
「まあ、君らが選ばれたのは僕が指名したわけでもないし。向こうについた後で説明があるかも知れないしね」
「戻してくれるって選択肢は?」
「無いね。まぁ、行くことが可能なら帰ることも可能なんじゃない? 多分だけど」
「そうか……」
この状況で多分という言葉使われるとか不安要素でしかない。
ここで悩んでも仕方ないので続きを聞く。
「んで、君らに固有スキルってのをプレゼントするよ。一人ひとつなんだけど……よいしょっと」
エールは何処からかクジ引きを取り出す。どっから出てきてんだ。
「えと、この中には固有スキルが入ってるんだけどSが二枚、Aが三枚、Bが十枚、Cが十六枚、Eが一枚入ってるんだ」
「Dは」
「無いね」
凄く気になる。
「理由を聞いても?」
「って言われても用意されてた時から無かったし」
うん、凄く気になるけどそれならと諦めた。
「まあいいか」
良くないが引かなきゃ始まらない。俺は迷わず箱の穴に手を入れる。中には手で触る限り木製の札が沢山入っているようだ。
この場合、一番最初に選んだ物から変えると大体痛い目をるのが世の常だ。
不安など捨て置け。
「君に……決めたッ!!」
有りがちな台詞を吐きながら掴み取ってやったぜ!
「あらら、君とことんついてないねぇ。ププッ」
手にしたのは何となく予感はしていたE。札に大きくネームペンでEと書かれている。
エールを見ると俺の顔が酷いのだろうか腹を抱えて笑っていた。その笑顔は神ではなく完全に悪魔であり……殴りたい。
「あはははっ、いっちばん最初がEとかぁっ、あははは」
泣きたい。いや、泣いた。
「いやぁ、ごめんごめん。最高だよ君。向こうに着いてから最初の十分間だけだれがどのランクの固有スキルを取得したか確認できるらしいから、っぷ。ただでさえ嫌われてるのにEとか皆笑えて緊張もほぐれるだろうね、あははは!」
腸が煮えくり返る思いだがこれだけは何も言えないので黙っておく。しかしこの固有スキルがどんなのか判明しない今ですら確実に分かるたった一つの事実がある。
このままでは向こうに着いて即死だろう。
ヤバいよ、ヤバいよとダミ声で言いたくなるレベルだ。
「面接兼説明は以上をもって終了。お疲れ様。そこの扉から出れば即到着だから安心して。ああ、後場所はランダム時間は他の皆と同時になるから」
「ちょっと待ってくれ」
まずい、非常にまずい。少しでも向こうでの生存率を上げておきたい。何か自分に優位になることは無いか。
「なぁ。確かにEを引いたのは俺の悪運かもしれないが、Dが有れば俺はまだ向こうで楽できたかもしれないだろう?」
一言一言を慎重に選びながら、このどん底から少しでも助けになる案を模索する。
「だからさぁ、これは僕じゃなくて」
「それでもだ。お前等側でのあからさまなミスだろ?しかもランク一つ下がるのは相当大きい事ぐらい俺でもわかる」
「まぁ、ランクの差は小さくはないね。よくわからないけど」
そんな適当でもやってける神様って一体。
「そんなことはどうでもいいや。ほらさっさと向こうに出発しなよ。僕は無駄で退屈な時間は嫌いなんだ」
「……なら楽しい賭けでもするか? 何にせよ一人で残りの人数また面接だろ? 息抜きしようぜ」
「ふーん。それで君が勝てばこちらにお役立ちアイテムをよこせ、なんていうんでしょ? でもでも、息抜きにしては早くないかい? まだ一人目だよ」
ニタァと悪い笑顔を浮かべるエール。
全部お見通しかよ。まぁ、エールが本当に神様なら人間風情の思考回路を読み解くなど赤子の手をひねるよりもたやすいことだろうからな。
大体、神様相手に人間である俺が勝負ごとで勝てる程現実は甘くない気がする。
今“ここ”が現実なのかどうかすら怪しいが。
「そういうことさ。理解が早くて助かるよ、松本武人君」
思考が読めるとかなにそれこわい。もうやだ。つらたん。
「ところで最低ランクの君にはもれなく僕の加護がついてくるよ。やったね! パチパチ」
エールは口で拍手して、何でもないことのように平然と言った。
それは俺の欲していたお役立ちアイテムの上位互換なのではないか?
「その通りさ。可哀想な君にだけ特別に付与しちゃうよ。そんなわけだから神様から何か貰おうなんて考えはしないようにね」
しかしいくら最低ランクのスキル持ちだから可哀想なんて理由で、仮にも神が直接手を施すとは何事だ。
きっと力の代わりに代償を求められたり、世界を救えなんて大層な使命を任命されたり、神々の争いに巻き込まれるに違いない。十中八九そうだ。
「全く君というやつはライトノベルの読みすぎだよ。これは単に約束し……げふんげふん! 気が向いたからに過ぎないよ」
ん? 今何か重要なことを言わなかったか?
いやそれよりも……。
「俺の脳内で自然に会話するんじゃない」
「ははは、ごめんごめん。君が余りにも虐め甲斐があるからね。クラスのみんなが寄って集って君に目を向けるのもわかる気がするよ」
そんなのはわからなくていい。
「どうやら聞かれてなかったようだしセーフかな♪」
エールが小声でなにか呟いて、安堵したような表情を浮かべた。説明してこないということは重要なことではないのかもしれないが。
「俺の脳内を覗いたり、話しかけるの禁止な」
「ぶー、わっかたよ。わかりましたよーだ」
ぶーって、子供かよ。マジで神様こんなんばっかりじゃないだろうな。
「てか君人間のくせにいつの間に僕となれなれしく話すようになったんだい?」
ゾクッと背骨に冷水を注射されたような不快感が走った。
目の前にいるのは子供のようにみえて一応現段階では神様であると考えるのが妥当。会話が通じることに安堵し気を許してしまっていたのか、友達に話す感覚で言葉を交わしていた。
そのことが彼を不機嫌にさせてしまったのか。
天罰(物理攻撃)なんてされた日には、現実に死んでしまうぞ。
今“ここ”が現実かどうか(ry
「悪かった。もっと敬意を払わないといけないよな。神様なんだから」
「え? いいよいいよこのままで。ただこんな風に話せる相手ほ久々だったからね。つい嬉しくて」
どうやら逆鱗に触れたわけではなく寧ろ喜んでいるようだ。命拾いしたな。
「話は変わるが加護について聞いてもいいか?」
「そうだね、説明しようか。君とのおしゃべりは楽しいけど脱線してしまうのが惜しいところだね」
エールは雰囲気を切り替えるためか、コホンと咳払い一つを前置きに説明を始めた。
「面倒だし簡略化して説明するね。僕の与える【神の加護】は君が困った時に僕が援助して上げるってものさ。はははっ、嬉しすぎて言葉も出ないんじゃないのかい?」
満面の笑みでこちらを伺ってくるエール。
「嬉しすぎてと言うか、抽象的過ぎていまいちピンとこないんだが」
「えっとねぇ、そうだなぁ。困った時に僕が夢に出てきて相談相手になって上げるよ。君らのとこで言うカウンセリングってやつ?」
「え、なにそれ……」
いらねぇ。
「今何の能力も使ってないけど分かったよ。心の中でいらねぇって呟いたでしょ?」
「おいっ! だから俺の脳内を……」
「覗いてませんーだ! はぁ、もっと喜ぶべきでしょ……。むー、折角世話焼いてあげるって言っている相手にとる態度なのかなそれは」
むーってやっぱり子供にし見えないな。しかし実年齢は分からないがこう見ると年相応の行動に見えて微笑ましいというか和むというか。
……っは! 浸ってる場合じゃない。
「ごめんって。そんな言い方じゃメリットが特に感じられなかったもんだからさ」
「確かにザックリと説明し過ぎた感は否めないね。改めて利点を教えてあげよう」
一息置いて、
「どうしょうもない時にはお役立ちアイテムを夢の中で譲渡することが可能です」
急に事務口調になったとかそんなことよりも、身体中から湧き上がってきたのは圧倒的歓喜。
これって安全レベルがグーンとあがるんじゃね?
「つまり夢の中で相談相手になってくれるし、無理難題には対処するための道具をくれるってことか?」
無言は肯定と受け取ろう。
「……よっしゃあああああああああああ!!」
きた! 俺の時代が!
これで楽に安全に異世界で過ごせるじゃないか!
「あー、盛り上がってるとこ悪いんだけど」
「なんだよ! 俺は今どん底から這い上がって来たんだ。余韻に浸らせろ」
「そんなには助けられないよ? 一人に肩入れしてるなんてバレたら僕の立場が怪しくなるし。偶にだよ?」
「えー、まぁそれなら仕方ないか」
またまたそんなこと言っちゃってー。
こういうのは何だかんだ助けてくれるんだよなぁ。
ツンデレとか俺得かよ。
「はぁ、なんか独り合点してるっぽいけどいいよね……後加護の事はバレないように隠して付与しておくから誰にも知られないはずだよ♪」
「ん? へぇそうなんだ」
「もうちょっとリアクションして欲しいところではあるけど……そろそろ持ち時間だから出発して貰うよ! 楽しんできてね」
「おい、最後にもう一度加護の件を確認したいんだが。向こうでやっぱ無理でした、とかないだろうな?」
「そりゃ大丈夫さ! 今は監視もあるかもだし、厳しいからちょっと先になりそうだけどね。後からのお楽しみさ」
神様が監視されてんのかと疑問に思いつつ、しばらく貰えないとすると結局初手死亡の確率は変わらないことに気づく。
でもここで他に強請るのもなぁ。なんか説明終わった雰囲気醸し出してるし気が引けるなぁ。
仕方が無いので最初は慎重に生きようと心に刻んだ。
唐突にエールが手から光を発する。眩しさに目を伏せたが再び見ると俺の数メートル先に新たな扉が佇んでいた。
この光は見覚えがある。恐らく教室での光と同じだ。今更驚きはない。
「何も無いようなら出発して貰うけど大丈夫かい?」
「ああ、ひとつ聞いてもいいか?」
「うん、どうぞ」
せっかくの機会だし、気になってたことの一つくらい聞いてもいいだろう。こんな理解不能な状況に巻き込まれたんだし。
「神がいるってことは人の生死っていうのは神が管理してるわけ?」
エールはニヤリとして頷いた。
「ならどういう基準で生命を生み出したり消したりしてるんだ?」
「僕は管轄外だから詳しくないけど、基本的に生み出す時はみんな平等さ。地球上での生命の創造に必要な魂は再活用されたものなんだけど初期化されてて優劣はないからね」
「死んでいった人々の補充って考え方であってるか?」
「概ねそうだね」
「なるほど、なら殺すときは?」
「神様を人殺し呼ばわりしないでくれよー!」
「悪かったよ」
そこは素直に謝る。確かにそうしないと世界は成り立たないなら神様とやらの仕事に人間如きがどうこういうのもおかしな話だ。それにそうなことを言われて嫌な気分になるのも当たり前だ。
「まぁいいけど。確か善良な魂ほど良い待遇にしてるとは聞いたね。徳を積んでいた者には安らかな死をって所かな」
「そっか、まぁそうだわな。徳を積む意味ってのもあるんだな」
まぁ、彼等にはちゃんと規則のようなものがあってそれに従い世界を構築してるってところか。
それは何とも――
「大雑把なもんだな」
「まぁそんなもんだよ。世の中って」
神様が口にしてはいけない言葉な気がするが、反論は呑み込んで置くことにしよう。
「質問は以上かな」
「そうだな。他にはもう何もないし、行くか」
「ではでは、今度こそそちらの扉からどうぞ。いってらー♪」
扉を開くと俺の視界はプツンとチャンネルを変えた。
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「君がその質問をしてくるってことは、彼女の計画は順調と考えていいのかな」
ふと誰もいなくなった部屋で呟いてしまう。
僕は次なる面接のため残りの人間の待つ部屋へと歩きながら、苦笑してしまう。
「でも邂逅を果たすのはまだまだ先になりそうだね」
僕は彼の去っていった扉に一瞥して、仕事に戻る。皆不安げな表情でこちらを見ている。やりにくいなぁ。
「ねぇ、松本くんはどうなったの⁈」
焦った様子で質問をぶつけてくる人物……斎藤春香だったっけ? 確か彼女のリストに入っていたね。まずは安心させないと。
「大丈夫、君の愛しの王子様は安全だよ」
「っな! 別にそんなんじゃ」
そうだね。知ってるよ。君も彼女の約束に縛られた一人だもんね。
「わかった、わかった。じゃ、次からは出席番号でじゃんじゃん面接終わらしていくから。一番の人はついてきて!」
でも何よりも今は、この人数を送り出さないと。
さっき眠って貰った人間達も目を覚まして、騒ぎ立てている。
「はぁ、めんどくさいなぁ」
本音が出てしまうくらい、僕はこの仕事が面倒で仕方がなかった。




