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000 異世界旅は突然に

処女作です。最初はまとめて書いたので長くなってます。

お見苦しい点が多くあると思いますが少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。

「まずは……君からかな!」


 不思議な部屋で不思議な少年に不思議な状況で指名された俺は戸惑っていた。一体これからどうなってしまうのか。

 情報の処理が追いつかないまま、扉の奥へと消えた少年の後を追う。指名を拒否しようとは思わなかった。


 ギィィィ


 扉を開けると学校の二者面談だったかと疑う程の、それだった。少年の座った椅子と向かい合わせに椅子が用意されている。教室ほどの大きさの部屋に二つの椅子。つまりは座れということだろう。


  ――何が起こるっていうんだよ……。


 事の発端は少し前。何の変哲もない日常から始まった。




 ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎





  朝、いつもの時間に起きて登校。

  本当に、いつも通りだ。


  教室につくとクラスの女子が俺を見ながらヒソヒソと何やら話している。この光景にも随分と慣れたものだ。


  モテる男は辛いぜ、などと脳内で現実逃避しつつ、なるべく視線を合わせないように席に着く。


「おい、武人(たけと)くぅん~、今日はどの娘にするぅ~?」

「年中発情期だもんなぁ」

「まじ兎かよ! 俺の女以外で頼むわぁ」

「あ、二次元にしか興味無いんだったっけ?安心安心」


  男子数名がニヤニヤしながら教室に響くボリュームで話しかけてくる。

  ため息はつかない。そこに食いついて来るのは分かっているからだ。ただ反応せずやり過ごせば良いだけだ。


「お前等も、武人君と話してると変な勘違い起こされて痴漢されちゃうかもよ~」

「授業中も気を抜かない方がいいぜ」

「「「あははははは」」」


 数ヶ月前に巻き込まれたとある事件。

 未だ腑に落ちないいくつかの疑問点を残したまま終わってしまったあれは、クラスメイトにとっては保存料、着色料たっぷりのネタであったようだ。


 今回のこの弄りについてはひたすらに長い。

 そして今、ほぼクラス全体にそのネタで色々言われてるという訳だ。


  元々友達は少なく、これといった特技もないため目立たないまま過ごしてきた。

  虐められている……訳では無いのだが、惨めな学校生活であることは認めよう。


  とはいえ友人と言える関係すら皆無だった俺は何とか今まで平穏に過ごせてきた。

  色々なことが要因で。


  あまり会話をしない。取っ付き難い奴だ。関わるのもめんどくさい。面白くない。時間の無駄。色んな理由はあるだろうが一番の要因はやはり――


「おい! 聞いてのんか⁈」

「無視してんじゃねぇよ!」

「痴漢なんてしてよくそんな平然と学校に来れるな。犯罪者が」

「「「痴漢とかサイテー」」」


  おいおい、野郎どもに言われる分にはいいが女子勢からのその目線と言葉責めは……来るものがあるな。いろんな意味で。


 危ない、新たな道を切り開いてしまいそうだった。


 ただ、“痴漢”というワードには心当たりがある。


 とある事件とやらが原因なのは明らかだ。


  そう、数ヶ月前にバスで痴漢呼ばわりされ、なんとか冤罪を奇跡的に証明し逃れることが出来た強者がこの教室にいる。


 それが俺こと松山武人(まつもとたけと)である。


 つまり現環境は奴らが“痴漢をしたクラスメイト”として数ヶ月間俺のことを面白おかしく弄ってきている、という状況だ。


  冤罪に巻き込まれる前も、多少は絡まれたりはしていた。ただここまで露骨なものではなくクラスに一人はいる地味な奴。そんな認識で佇んでいたのに……はぁ。


 とはいえ一度疑われると人生終了とまで言われる痴漢から如何にして逃れたのか。

 それは冤罪の証拠に二次元にしか興味が無いと訴えたのだ。


 俺のパソコン、スマホ、ゲーム、音楽プレーヤーに内蔵された嫁たちの秘蔵メモリを恥を捨てて見せた結果相手の女はドン引き、逆に他の人と間違えたと謝られる始末。


『マジで勘違いですよ。俺、三次元は対象外なんで』


  ドヤ顔で決めた名台詞は今思い出すと頭を掻き毟りたくなる衝動に駆られる。俺はとんでもない黒歴史製造機だよコンチキショー。


  いや、三次元の女の子に興味はあるよ? 健全な男子高校生としての最低限必要な性欲の標準は満たしていると思う。

  あくまであの状況下での適切な言葉のチョイスであって、そこは誤解されると困る。


 まぁここまでは良かったんだが、問題はこの一部始終をクラスメイトが知っていることだ。


  何故かは分からない。分からないが、窮地を脱したかと思えば何処からかこの情報は漏洩。

  二次元ネタのみでいじられるのはまだしも、痴漢ネタとのダブルパンチは流石にきついものがある。


 いや、だってそうでしょ?


 ヲタクとして弄られるのは構わない。だが無実で犯罪者扱いとか気分も悪くなるってものだ。


 この場合は疑われてすらいない、と言った方が正しいか。


 だが彼女はどうして俺なんかを嵌めようとしたんだろうか。


 考えても考えても結論がでない。


 俺はごく普通と断言できなくもない(ヲタクであることを除けばだが)、そこそこまともに生きている高校生だ。


 恨みを買うような行動に覚えはないし、ましてや金持ちでもない。


 嵌めるならば俺である必要性が皆無だ。


 彼女は一体俺に何をさせたかったのだろうか。


 本当に痴漢されていて、勘違いされたとも考えた。しかし記憶を辿ってもあの場で犯行に及べるであろう範囲には、女性しかいなかった。


 彼女が仮に本当に被害にあっていたら。俺は本当にただの勘違いで巻き込まれたとしたら。


 まさか……あそこにいたのはレズビ――


 そこまで考えて俺は思考を停止した。これ以上考えても意味がない。そう判断した、うん。それにもう昔のことだ。


 ガラガラッ


 教室の扉が勢い良く開くと、聞き慣れた声が耳に届いた。


「松山君、おはよっ」


「あ、ああ。おはよう」


 この学年の中でも三本の指に入るほどの美貌の持ち主である斎藤晴香(さいとうはるか)である。スラリとした華奢な体、絹のように滑らかなセミロングの黒髪、そして万人に愛されるであろう可愛らしい顔立ち。更には性格まで良いときている。


 彼女に関しては『非の打ち所のない』という言葉がしっくりくるほどの完成された存在だ。


 そんな彼女はなぜか毎朝俺への挨拶を欠かさない。事案(いつもの)だ。


  瞬間周りの空気が凍る。


  人気が高い彼女の日課であるこの行為は他の男子からは面白くないのだろう。

  皆俺に殺気を飛ばしてしている。

  法律が存在しないなら俺はここで確実に殺されていただろう。法律万歳。


「あの、斉藤さん。俺には話しかけない方がいいよ」


「え、どうしたの?」


「いや、やっぱなんでもないや」


 俺は幾度となく話しかけないでアピールを仕掛けたが一向に効果を示さない斎藤さんに最近では直接的に話しかけるなというようになった。


 それなのにこの天然ぶりである。


 優しさは同時に棘を持つ。そんなことは知らないままこの純情少女は生きていくのだろうか。その優しさの恩恵を受けている身としてはあまり否定的なことは言えないが。


 まぁ、こんな天然純情っ娘全開斎藤さんこそ俺が平穏な日々を送れる最も強固な要因であった。


 性別問わず人気の高い彼女は何故か俺にコンタクトを取ってくる。しかもある時期から急に。


 それが影響して俺への態度によって斎藤さんの評価が下がる、とクラスの奴らは判断を下したらしい。そういうことで表面上はクラスの奴らと上手くやってくれていた。


  勿論、斎藤さんがいる状況であれば友好的な関係は今も健在だ。


 つまり、今の学生生活の状況を一言で表すと『嫌われてはいるがいじめられてはいない』だ。


 自分でまとめてなんだが、不憫だな。

 やめやめ、どうしようもないことは考えないことにしよう。


  さて、一限目は何だったか。そんな考えにふけっているとチャイムがなる。


  HR(ホームルーム)が始まる時間だ。


 とはいえ、うちの担任はいつも少し遅れてくるためまだカップ麺を作る位の時間はあるはずだ。


  疑問だった一限目の教科も思い出せない。もちろん、聞く友達なんていない。後で時間割を確認するとしよう。


 俺はすることもないし、仕方なくぼんやりと黒板を見ていた。


 キュウィィィィィィィン!!


  唐突に聞いたこともない不快音が教室に鳴り響く。同時に床が眩い光を放ち出した。


  比喩ではなく物理的に輝いている。


  誰かのドッキリかと周りを見渡すと誰も理解出来ていない状況だ。皆驚きの表情を浮かべているのが確認できた。


 ただそんな中、細めた目で見た。正確には床が光っているのではなく、光り輝く線で構築された複雑な紋様が床に浮かび上がっている事を。


「なんだこれ」


  状況理解もできないままに体から力が抜けていき……そのまま頽れる。


「は?」


  そして視界はまるで今朝のテレビ画面のようにプツンと途絶え、暗闇に飲まれた。




 ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎ ◎◎◎




  暗く何も見えない。ただ、周りから聞きなれたクラスメートの声が聞こえる。

  その声のほとんどが戸惑い狼狽えた弱々しいものだ。中には学校の行事か何かだと勘違いしたのか楽しそうに騒いでいる者も若干名。


  そんな中、時間が経つにつれて視界が戻ってきた。暗闇に目が慣れたようだ。


「ん?」


  そこは四角い簡素な長方形の部屋だった。部屋だったとは言っても学校のクラス一組が丸々入ることの出来るだけの大きさがあり、家具も窓もないために大きな違和感があった。


  その違和感をより際立たせているのが目の前にある扉である。


  この部屋にはそこからしか出入りできない構造であり、いつの間にかここにいるこの状況の異常さがより鮮明に理解できる。


「これって集団誘拐なんじゃ……」

「ええっ?! それやばくない?」


  誰かの呟きが聞こえた。

  ただ俺には集団誘拐には思えなかった。

  これだけの人数をあの短時間でこの空間に閉じ込めるなど、常人の範疇を凌駕していると思えたからだ。


  誰かに超常現象ですと言われた方が納得できるというものだ。


 ギィィィ


 すると突然扉が開く。中からは小学生低学年ほどの可愛らしい少年が満面の笑みでこちらに歩いてくる。


「いやいやみなさん、お疲れ様。まずは第一段階クリアと言ったところかな? 凄いと思うよ?」


  面倒くさそうにパチパチと数回手を叩いたその少年は話を進める。


「いやほんと。後は皆一人ひとりとお話して送るだけだもんね。いや、優秀な子達が集まってて良かったよぉ~。長かったわぁ~」


  自然体で話すその少年に状況の飲み込み切れてないクラスメートは唖然としている。そんな中、一人が前に出て少年に話しかける。


  我らが学級委員長、田中賢一(たなかけんいち)である。


「ちょっといいかな、僕? まず君のこと教えてくれるかな? それから、急にわけわからない事言われてもこっちも困るっいうか...」


 田中は笑顔で返答をまっている。流石学級委員長だ。

 まず優先すべき情報収集を躊躇いなく始め、交渉相手に笑顔を絶やさない辺り、流石としか言いようがない。


 いや、感服致してしまう。同時に苦手なタイプでもあるが。僻みじゃないぞ?


「ああ、確かにそうだね! うん、ごめんごめん。じゃぁ簡潔に言うね! 僕はエール。それ以上でもそれ以下でもないただの神様です。皆をここに連れてきました。そしてこれから君たちを見極めるための試験監督です。それでは、面接の始まり始まり♪」


 エールって酒の名前か? それに神だとか、ここに連れてきたとか平然と口にしたが。


 仮に今の言葉が事実だったとして、これだけの事をしておいて平然と軽口を叩く少年は極めて異質に感じられた。


 それに説明にしては簡略化しすぎだろ。もっとわかりやすく説明した上で早く教室に戻してくれ。


 そう感じたのは俺だけではなかったのだろう。ヒソヒソと周りで話が始まった。


  次第にその声量は上がっていき、部屋の中は暴言とブーイングの嵐となる。


「はぁ? わけわかんね」

「どうでもいいから早く帰ろ。え、帰り方わかんね」

「はよかえせや!」

「おい帰れんとかオワタ\(^o^)/」

「この話の流れから察するに異世界召喚キタコレ!」


  何か違う趣旨の言葉も混じっていた気がするが、こんなところの内容の言葉を目の前の少年に浴びせかける。


  客観的に見ると集団虐めにしか見えない。


  ただ、虐める側が焦りを感じさせる必死の形相であること。虐められる側が余裕を感じさせる微笑を浮かべているということからこの状況の異常さが如実に現れている。


 刹那、エールと名乗った神(自称)の「黙れ」と低い声が発せられた瞬間、少し前まで叫びに叫んでいた者だけが全員倒れ込む。

  加えて白目を向いている。


  しかし俺のような黙って大人しくしていた者には被害は無いらしい。数人は立ったままだ。


  まぁ、流石にこれには動揺を隠せなかった。


  さっきまではどこか気持ちに余裕があったがそんなものは俺の中にはもう無い。


  死んでるのか?


  別にこいつらはどうなろうと構わない。ただこんなあっさりと死んでしまうのは……さすがに俺より不憫すぎやしないか。


  死んでいるとすると黙っていた俺たち数人の生殺与奪の権も奴に握られているのか。

  そうだとすればこんな思考すら無駄になってしまうかもしれないのか。


  ここはとりあえず、黙っておいてよかったと先程までの自分自身に感謝した。それと同時に『人間誰しも自分が一番可愛い』という言葉は真であったと理解した。


「殺しはしてないよ。寝てもらっただけ。んじゃ、面接始めようか」


 驚く俺たち数名の疑問に答えようとしたのか神(自称)は何が起こったのか説明してくれた。


  “寝ているだけ”……説明になっていないとか言っても通じる相手ではなさそうので、分かりやすい説明ありがとうございますと心の中で感謝の言葉を述べた。


 次は何をするつもりか見当もつかない。

 エールとやらを観察して可能な限り機嫌を損ねない最良の行動を取らなければ。


  性格は、見た目上であれば温厚そうなのだ。外見は完全に無垢な少年のそれでその笑顔はこちらまで朗らかにしてしまう雰囲気を持つために。


  見た目上、は。


  いや、この状況を作り出した主犯である可能性が高い以上その判断は間違っているのは確実だが。


  彼は立ったままの数名を見回した。目が合った気がしたが気のせいだろう。

  次はなんだと身構える。


「なるほど、うんうん、そうかそうか」


 少年は何やら納得がいったようにうなずきぶつぶつ呟いている。そして下げていた右手を上げ、人差し指を前方に突き出しにっこり微笑んだ。


「まずは……君からかな!」


 どうやら先程感じた視線は気のせいではなかった様だった。

 何故なら元気よく指した方角の先は俺だった。嫌な予感しかしない。

読書感想文より長い文を初めて書きました。

長くなってしまい申し訳ありません。

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