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この世界(4):Yside

「……戻ったか」



私が体を起こすとすぐ隣にジークさんが立っていた。彼は確か、休憩時間を告げると同時に部屋を出て行った。私もすぐに幽体離脱(バイロケーション)をしたから、どれくらい時間が経ったかは感覚で判る。



「ジークさん、ちゃんと休憩しました?」



「……自分の心配をしていろ。」



「私は大丈夫です。」



「………」



ジークさんは、こちらの世界について話す時は口数が多いけれど、今のようにそれ以外の事では余り会話をしない。説明を聞いているとアサギさんに言われた言葉は嘘だと思っていたが、休憩時間に入ってから彼女の言いたいことが解った。



私がこの世界へと攫った男…ルディックさんのところへ行きたいという願いはすぐに許可してくれた。でもそのあとで、私がジークさんも休憩するのかと問えば、あぁ、とただ一言しか返ってこなかった。



表情も変化が全くといってよいほどないから、彼が何を考えているのかは判断し辛い。



「少し早いが夕食を用意した。ユイ医師から、君はこちらへ来てから食事を取っていないと聞いていた。口に合うかは私にもわからない。」



「…食べる前から怖いこと言わないで下さい。」



「そうだな、すまない。」



ジークさんに言われて思い出したけど、言われてみれば朝から何も食べていない。目的の村へ行くために、朝5時くらいのバスに乗って移動していた。皆朝が早かったからと爆睡し、気が付いた時には既に11時になっていた。そこからこの世界へ来てしまったから、何も口にしていないことになる。言われてみればお腹も空いている気がした。



「では、お言葉に甘えて頂きますね。」



渡されたプレートをテーブルに置き椅子に腰掛けるといただきます、と挨拶をしてから食器に手を伸ばした。いざ食べようとすると、私の方をじっと見ているジークさんが目に入る。



食べる様子をそうまじまじと見られては、何だか食べにくい。



「あの、ジークさん……そんなに見られると食べにくいです。」 



「…さっきのは何だ。」



「はい?」



「両手を合わせて礼をしただろう。」 



「あぁ、いただきますのことですか?」



私の言葉にジークさんは頷いた。ということは、もしかしたらこちらの世界には食べる前に挨拶をするという習慣がないということだろうか。そもそもこの挨拶は、日本独特の習慣だ。私がいた世界でも外国に行けば珍しいもの。異世界ならばは尚更だろう。



「私のいた世界…というよりは、私の故郷独自の風趣なんですけど…。食事をするときに、食事を作ってくれた人や、食料となる植物や動物に感謝の念を示す挨拶です。食べ始める前にはいただきます、食べ終えるとご馳走さま、と言います。」



「…そんな習慣があるのか。君がいた世界は立派だな。」



「そう言われると、なんだか照れ臭いです。」



別に私が考えたわけでもなんでもないが、故郷を褒められるとむず痒くなる。 思わずありがとうございます、と言いたくなり言ってしまった。するとジークさんが、唇を吊り上げて微かだが笑った。



「……ジークさんが、笑った。」



「私も嬉しいことがあれば笑いもする。」



「…だって、まだ出会って少ししか経っていないけれど、ジークさんずっと無表情でしたから。」



「…長く軍人をしていればそうなる。」



「そういうものなんですか?でもルディックさんは寧ろ軍人には見えないです。ただのオヤジでした。」



「………あの人は例外だ。」



ルディックさんは焦臭いというか、軍人の割に妙に飄々としているというか。多分、最初に彼が戦う姿を見ていなければ軍人とは思えなかったと思う。



「アレですね、ジークさんが誤解されがちなはのはその刺青の所為かもですよ。」



「……!」



「…ジークさん?」



いつの間にか話が見た時の印象になっていたから、ずっと気になっていた顔の刺青について尋ねてみたら、ジークさんは固まってしまった。




もしかしたら、ジークさん自身も刺青を気にしていたのだろうか。顔に入れてしまったのは失敗だった、とか思っていたのかもしれない。



そうだったら私は墓穴を掘ってしまった。



「この刺青は…そう仕向ける為のものだからな。…君が私を冷たいと感じたのなら、それに間違いはない。」



「……えと、ごめんなさい。気にしてたなら謝ります。」



「……いや、」



何だか、急に空気が重くなってしまった。せっかくいい感じに話がスムーズに進んでいたのに、と内心反省の意を込めてため息を付いた。



何か明るい話題に転換させようにも、こんな時に限って何も思い浮かばないものだ。



「…君はこの刺青をどう思う?」



「え?」



1人で葛藤していた私に、ジークさんがそう切り出してきた。自分の左頬にある刺青を触りながら。



「この刺青は、何だと思う?」



「…それは、何か意味があるものと言うことですよね。」



「いい、聞かなかったことにしてくれ。…やはり私が君の教育係というのは駄目だ。今日中にボルラロッサ元帥に進言してくる。」



「ちょ、ちょっと待って下さい!何で急にそんな話に!?」



話が思わぬ方向へ進み始めてしまった。どうやらジークさんにとってこの刺青に触れる話はタブーだったらしい。一体何が彼にこんな発言をさせるのかは解らないけれど、仲良くなれるかもしれないのに教育係が変わってしまっては意味がない。



「あのっ!今日ここに来たばかりだから、事情は解りませんけど…私はそれでいいと思います!!ジークさんが顔に刺青を入れたのだってちゃんと何か思うことがあってのことでしょうし…というか、急に教育係が変わったら困ります!せっかく仲良くなれるかもって……思ったばかりなんですよ。だから、ジークさん…私の教育係でいてください。」



私は思わず立ち上がって熱弁してしまった。普通に説得するつもりだったのに、最後の方なんて、まるで口説いているみたいでならない。言った後で恥ずかしくなった。



目の前のジークさんだって、目を丸くさせている。



何だか居たたまれなくて、恐縮した。



「……ありがとう、ユティ。」



「いえっ!その…私は…」



「かなり熱烈だったな」



「っつ~…こんな時だけ笑わなくていいです!」




まぁ、何はともあれ、彼を引き留めることは出来たみたいだ。



 

次回は時が流れて1週間後。一日だけで8話もつかってしまった(´・ω・`)

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