天才科学者(1):Yside
今回は短め?かもしれないです。
「君が異世界から来たという人間か?」
「……はい?」
私がミストへやって来てはや1週間が経とうとしていた。その間、軍の人やシティで大手企業を営む社長さんが私のところへ訪ねてきた。他人と接する機会といえば、ジークさんを初めアサギさんやルディックさんに会うくらいだったのに、4日目くらいから急に増えた。 ちなみに、シティというのは言葉通り、都市を指す。ただ、軍事区画と一般区画を分別するための言い方で、シティは広範囲に及ぶ。まだ行ったことはないから実際どれだけ広いかは判らない。
話がズレてしまったけれど、私が言いたかったのは、今日まであなたがシャーマンか、と言われながらの訪問ばかりで、異世界人か、何て聞いてくる人あんまり居なかったということだ。
やって来たその人はスーツの上から白衣を来ている。もしかしたらアサギさんとは別のお医者さんかと思ったが、別段2人からそれらしい人の話は聞いてない。
「…異世界人かと聞いている。」
「えと、はい。そうです…」
「そうか。ここ数週間研究室に籠もりっぱなしだったから全く気が付かなかったが…やはりジークが嘘をついていたか。けしからん!」
私の返事を聞くなりその人は、1人で話を進め自己完結させたらしい。私にはよく事情が呑め込めていない。
「あの、あなたは?」
「どうせ奴のことだ、ろくに君を外へも出してないのだろう。全く呆れて文句も言えん!」
いや、さっきから文句言いまくってるじゃないですか、と内心で突っ込んだ。というか、この人は他人の話を聞かないのだろうか。私の言葉に対して応えてくれない。
「あの、外って……この部屋から出ることって可能なんですか?」
「君は今何をしているんだ?」
駄目だ、全く聞いてない。わざとなのだろうか。それとも本当に偶々だったのか。どちらにせよ、私はいい気分ではない。
「ほお、文字の練習か……?にしては随分汚いな。」
「ちょ、勝手に見ないで下さい!」
「恥じることはない。力に頼らず文字を学ぶというのは素晴らしいことだ!」
私は今すぐこの人を追い出したい衝動に駆られた。一体何者かは知らないが、失礼極まりない。
能力を使わないのは素晴らしいと褒めてくれるのはありがたいが、正直嬉しくはない。私が字を必死に覚えているのは偏にルディックさんの所為だ。こちらの世界へ来た時に話し言葉だけは通じなければ不便ということで、私が眠っている間にルディックさんが能力を使って補整したらしい。ただ、書き言葉は含まれておらず、後日どうするかという話になった時に、ルディックさんがニヤリと笑ってどーせ嬢ちゃん暇なんだから、これを機に勉強してろ、なんて言うものだから今こうしてコツコツ勉強しているのだ。
「君は外に出たことがないみたいだし…丁度いい、今から私の研究室へ行こうか。」
「ええっ!?……でも、ジークさん達の許可貰ってないですし…」
「何を言っている。君はシャーマンなんだから、何を言っても許される立場だぞ。軍の許可など必要ない。」
「そうなんですか!?…全然知りませんでした。でも…皆さんに迷惑を掛けるのは…」
「そんなことを言っていては、ただの飼い慣らされた動物だぞ。」
「飼い慣らされたなんてっ……そんな言い方!」
その表現の仕方が嫌な言い回しだったから、私は思わず声を荒げてしまった。
「君が何を思って軍を信用しているのか、僕には理解しかねるな。一番信用ならないのは、寧ろ軍だと思うけどね。」
「え…?」
この人は一体何を言っているのだろうか。軍の人達が信用に足らないだなんて、そんな筈はない。だって、私はこんなによくして貰っている。いきなり見知らぬ世界へと連れてこられたけれど、ちゃんと衣食住は保証されている。身の危険もなかった。
勉強だって、能力の使い方だって教えて貰っているのに…軍を信用しないだなんて。そんな事あるわけがない。
「君はどうやら知らない事が多いみたいだ。外に出るのは君にとって悪くないと思うよ。」
「あ、あのっ…ちょっと!私はまだ行くなんて一言も!」
私はその人に体を引き寄せられた。この体勢には覚えがある。この世界へ来たばかりの頃、ルディックさんにもやられた。テレポートをする前の体勢だ。
「…さぁ、到着だ。」
私の静止の言葉も儚く散ってしまい、一瞬の内に目の前の光景が変わった。
人が行き交い、活気に溢れていた。ビルだって建ち並んでいるし、空中にある透明なチューブの中は車のような乗り物が走っている。少々違いはあるけれど、日本の都市圏と似ていた。
「誰かに見つかりません?」
「ここはシティの歓楽街。商業区画とは距離があるし、軍とは正反対だ。」
「…でも、」
「君は心配性だな。万が一見つかっても、誰も咎めはしない。それに僕だっている。僕がいれば、先達て話しかけてくる者はいないだろう。」
「どうして?」
「僕がエヴァンジェリン・ゾルトーだからさ。」
白衣を翻しながらその人はポーズを決めている。学者らしいメガネを持ち上げ、胸を張っていた。彼には申し訳ないけれど、その名に聞き覚えはない。
「私、あなたの名前知りません。」
「だろうね!軍は僕を毛嫌いしているから、教えたくなかったんだろう!」
「…今ものすごく他人のフリをしたいです。」
「失敬だな。僕はミスト一の天才科学者だぞ!」
自分で自分を天才だと名乗る人にろくな人はいない気がしてならない。天才肌は何処かが一枚違うのだ。今だって、周りの視線がとてもいたい。この人が有名なのは違いないんだろうけれど、果たして良い事で有名なのかは怪しい。
通行人がチラチラこちらを見ていた。悪目立ちしてしまっている。
「それでは行こうか、ユティ。」
「………」
どうしてこうなった、と深いため息をついた。
名前は前に一度愛称で出ているエヴァンジェリンさん登場




