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この世界(2):Sside

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「お前にシャーマンの教育係を頼みたいんたが、いいか?勿論世話も兼ねてだ。」



ボルラロッサ元帥が新しいシャーマンを連れ帰ったという噂は、1時間もしない内に市民の間へ広まっていた。軍に所属している私は元帥が帰還したという噂と共に聞いていたが、まさか本人の口から確定情報を得るとは思っていなかった。



「何の冗談ですか。」



「俺は至って真面目な話しかしねぇよ?」



「総帥に話されました?」



「………」



「お断りします。」



総帥の名を持ち出した途端口を閉じた元帥を見て、私は透かさず断りを入れた。この人が総帥の許可を得ていないのは予測していたが、たとえ許可を得ていても私は断っただろう。



私がシャーマンの教育係など、当人が不憫だ。



「……たが俺は、適任者はお前しかいないと思っている。」



「その根拠は?」



「嬢ちゃんは…新しいシャーマンは異世界から来た。それくらいの情報はお前も知ってるな?…だからきっと、初めはこの世界を拒絶するだろう。そして万が一能力を暴走させたら、抑え込むのはお前が適任だと思ってな。」



「……あなたでも務まるでしょう。」



「俺よりも、お前の方がいい。…お前なら、嬢ちゃんの心境を一番理解出来る。」



「…………」



元帥は私の目をじっと見ていた。私もまた、目を反らさなかった。彼の言い分は解る。しかし、だからといって私に務まるのかどうかは別問題だ。



「ま、心配なこと言えば寧ろお前のコミュニケーション力の無さだな。もうちょっと他人と付き合うことが出来ればなぁ。お前がどうしても嫌ってんなら、エヴァにでも頼むよ。」



「……解りました、引き受けます。」


 

「お、やってくれるか!頼んだぞ、ジーク」



完全に元帥に乗せられた。たが、エヴァの名を出されたら引き受けるしかない。シャーマンの教育係がエヴァになってしまえば、このアガルタは滅んでしまいそうだ。



それならば、まだ私の方がいい。シャーマンへの負担も、エヴァよりは私の方が軽い筈だ。





***




「ブレット大佐?ユティ様に何を、」



「……眠らせただけだ。」



ボルラロッサ元帥に言われたとおりシャーマンの住居区にある最深部の部屋へ来た時には、シャーマンはまだ眠っていた。



元帥が嬢ちゃんと呼称していたように、まだ幼さの残る少女。彼女が目を覚ましてユイ医師から色々説明を受けていたら、混乱したのか能力を暴走させた。



間一髪のところで私が抑え込んだが、少し遅れていたらユイ医師が危険だっただろう。



シャーマンは今青い球体の中で気を失い、まるで水の中にいるように浮いていた。



「ユイ医師、少し外してもらって構わないだろうか。」



「それはユティ様を任せろと、そういいたいの?」



「そうです。」



「ですが、あなた1人に任せるわけには…」



「……それ程不安なら、セイフティをレベルマックスにしておけばいい。」



「!……いえ、そうではないの。わかりました、許可します。ユティ様が落ち着かれたら、知らせて下さい。」



私の言葉にユイ医師は戸惑った様子だったがここは空気を読んで許可をくれた。そしてすぐに彼女は部屋から出て行った。



彼女が出て行った後、私は再び球体へ目を向ける。膝を抱えて眠るシャーマンは、母胎にいる赤子のようだ。私が彼女に使ったのは只の催眠を促すもので、このように浮かせる作用はない。ならば考えられるのは、シャーマン自身の能力で浮いて居ることになる。



話を聞いた後、かなり混乱していた。これから目を覚ました後、必要以上に刺激してはならない。かといって此方の事情を述べずに説明するのも難しい。



ユイ医師を追い出してはみたがそれなりの秘策があったわけでもなく、途方に暮れた。



「…んん、」



どうやら気が付いたらしく、彼女は身じろいだ。思ったより早いが、やはりシャーマンだからか、束縛効果が緩いようだった。



「……気が付いたか?」



「………あなたは…っそれよりコレは何?私を閉じ込めたの!?」

 


「今すぐ解除する。」



また暴れられてはかなわない為、私はすぐに催眠壁を解除した。すると球体は跡形もなく消える。だが彼女は宙に浮いたままだった。



「…浮いてる……これも、あなたが?」



「いや…おそらくそれは、君自身の能力だ。」



「え?」



「君をこの世界へ連れてきた人…ルディック・ボルラロッサ元帥というが、彼も君の能力を感知していた。そして私も、今し方確認した。君自身が能力者であると気づかなかったのは、君が今まで生きてきた環境に能力者がいなかったからだ。…言うなれば、君の能力は“能力を無にする”能力だ。」



混乱する程までには至ってないが、急に能力について述べられたからか困惑しているらしい。彼女は眉間に皺を寄せていた。若干首も傾いている。



私なりに解りやすく説明したつもりだが、能力を知らない人間に能力を理解させるのはこれほど難しいことなのかと、少し参った。



「でも…その、私が能力者だとして…浮くことは関係あるの?あなたが言った能力なら、浮けないでしょう?」



「そもそもこの世界というのは人によって創られ、均衡が保たれている。アガルタは今では世界中に無数存在する、能力者の為の大移動型移住船の通称だ。その動力源となるシャーマンは人の頂点に立つ者。即ち世界は、シャーマンひとりひとりの能力により存在する。」



「あの、…難しくて解りません。」



「つまりは火を主とするシャーマンが在るから世界に火が存在する、ということだ。…君が今浮いてるのは、重力を主とするシャーマンの能力を無意識に打ち消していると考えられる。」



「………何だか、とても物騒な能力に聞こえます。」



私はその言葉を否定しなかった。強ち間違っていない。確かに悪く考えたらかなり危険な能力だ。 ありとあらゆるものを拒絶する能力。彼女が情緒不安定になれば、少なくともこのアガルタの市民には影響が出るだろう。



我々にとって新たなシャーマンを迎えて一番困難となるなのは、このアガルタの主となる能力が変わることだ。



先代のシャーマンの主となる能力はステルスだった。市民達の誰しもがステルス能力だけは他のアガルタよりも勝っていた。



彼女の能力はステルス能力と懸け離れすぎている。



市民への影響を考慮するならば、一刻も早く彼女に理解してもらわなければならない。この世界を。



「…あの、シャーマンがいなくなったらどうなりますか?」



「そのシャーマンにより動いていたアガルタは墜落する。」



「え?……でも、私が来る前は居なかったんですよね!?」



「…………あぁ。」



「じゃあ、」



「シャーマンが不在となれば、アガルタは墜落するが、完全に機能しなくなるまで10年の猶予がある。君が今日来てくれたのは、我々とって幸福なことだ。8年もの長い間、ミストにはシャーマンが不在だった。すぐにとは言わない、だが理解してほしい。」



彼女は返事をしなかった。でも最初のように混乱は見受けられない。第一難関は突破出来ただろうか。



「…帰れますか、絶対。」



「真名を名乗らなければ。」



「……私、たたかえませんよ…」



「戦う必要などない。周りがうるさくなることもあるだろうが、君は普通に生活していればいい。」



私は、いつか自分が言われた言葉を彼女に言った。ボルラロッサ元帥が私に教育係を任せた理由を改めて理解する。結局はそうなのか、と。彼が言った、彼女の心境を理解出来るのは私だけだというのは正論だ。だがその正論は彼女を苦しめる。私も共に苦しめられる。あの男はあんな性格だが、やはり元帥なのだ。



「…あの、大佐さん?」



「ジークでいい、ユティ。」



シャーマンは世界で誰もが憧れる地位だ。

だがそれと同じくらいに残酷でもある。それを彼女に教えていかなければならないのかと思うと、私は道化師になる他ない。



「……次の話をする。」



「はい」



私は重々しく口を開いた。

  


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