出現(3)
今回は短めです。
「ルディ様、この方が…?」
「あぁ、新しいシャーマンさ。って、いてっ、イテテ!おい、もうちょっと優しくしろ!」
「あぁ、申し訳ありません。まさか、あのルディ様が女性を肩担ぎにして振り回しているとは思わなかったので。」
「おまえなぁ、俺じゃなかったら首飛ばされてるぞ?」
「うふふ」
一同はヘリーの中でつかの間の休息についていた。つかの間というのは、彼らが自分たちの住む場所へと戻ったら、また忙しくなるのは目に見えているからだ。
アサギは怪我を止血しただけの男、本名をルディックというが、彼の手当てをしている。今は気を失っている少女が、ルディックの肩に担がれているのを見たときには驚きの余りルディックを蹴飛ばしていた。その時は流石に操縦士のスイもルディック自信も目を丸めていた。
本来ならばルディックはアサギの上司にあたり、蹴り飛ばしなどしたら不敬罪だが、本人達はあまり気にしていないようだ。
「名はなんとおっしゃるので?」
「ユティに決まっているだろ。シャーマンなんだから。」
「ですが、真名をお持ちなのでは?」
「名乗るなと言ってある。帰れなくなっちまうからな、元の世界に…。」
「元の世界ってどういう…あ、すみません!割って入ってしまいました…」
眠る少女を見ながら会話をしていたルディックとアサギの間に、操縦していたスイが割って入る。本人は心の中で呟いたつもりらしかったが、口に出してしまったのに気がつき、慌てて謝った。
「そういやこいつ誰だ?見かけない顔だな。」
「あぁ、彼はルディ様が知らなくても何の差し支えもない下っ端ですわ。」
「ひどい…ひどいですよ、アサギさん!」
「あだ名は“スイちゃん”です。」
「それ言わなくていいです!もっと他の事を言ってくださいよ~」
「スイちゃんな。宜しく」
スイは操縦中のため後ろやり取りは声しかわからななかったが、アサギがどういう表情で自分をからかっているか何となく想像出来るから、それなりにふざけて抵抗してみたが、案の定アサギにからかわれて終わるのだ。
しかもルディックもアサギの悪ふざけに乗って多きく笑ったものだから、スイは1人うなだれたのだった。
「そう言えばルディ様、先程の戦闘で能力使ってませんでした?」
「あ、それ僕も気になっていました。プラネット内では能力使用不可ですよね?」
「あぁ、使ったな。だがルール無視したのはあっちだ。最初は能力なしで頑張ってたんだがなぁ……。敵さんが能力ブースターやらレーザー銃使ってきたもんだから俺も使ってやった。大丈夫だろ、証拠も記録してある。」
「なるほど……。にしても、不可侵協定を定めたプラネット側が破るなんて、完全になめられてますよ。」
アサギはルディックの話を繋げながら終わりましたよ、とルディックの背中を叩く。ありがとな、と軽く返事をしながらルディックは上着を着直した。
ルディックはアサギの言葉を聞き、確かに最近のプラネットは前より自分たち能力者に対して手段を選ばなくなってきたな、と思っていた。今回は彼女をシャーマンだと判っての明らかな対応を見せていた。プラネットの住人達の中にはシャーマンを毛嫌いする者も多いが、今回のように明らかすぎると、戦争になりかねない。
「どうした?アサギ。さっきからえらく嬢ちゃんを眺めてるな。」
「いえ、この方は本当にシャーマンなのだと実感していたのです。力が思うように扱えなかったので…。」
「あぁ、そうか。俺はあんまり違和感感じなかったが…お前は感じたのか。」
「ルディ様はAランクですもの。Dランクの私とお比べにならないでください。」
「俺だって普段よりはやりにくかったさ。」
アサギに言われルディックはやれやれといった風に肩を竦める。実際彼とて普段より力を使いにくいと感じていたし、もしかすると無防備に眠るユティに遠慮して無意識下で力を抑えていたのかもしれないが、新しいシャーマンを迎えるということは、今までとは違う規制が能力者に働くのは必至だ。それはきちんとルディックも解っていた。
「ルディ様、なんだか姪っ子を見るような目をなさってますよ。」
「姪っ子って、お前なぁ……」
「それって、ルディ様がユティ様にデレデレってことですか?」
「スイちゃんにしてはいい突っ込みね。」
「デレデレなんてしてねぇ。ただ嬢ちゃんの行く末を思うと心配なだけだよ?」
「「いや、そんな説得力のない顔でいわれても…」」
否定するルディックの発言に、アサギとスイの2人は声を揃えた。そんな2人に自分は一体どんな顔をしているのかと、首を傾げたルディックに2人はクスリ、と笑ったのだった。
「俺は責任感じてるんだって!……嬢ちゃんは今まで争いとは無縁な環境で生きてたんだ。それを半ば強引に連れて来ちまったからな。」
「…ルディック様。…ですが、きっと理解して下さいますわ。」
「ならいいんたがな。」
おそらく自分は憎まれているだろう、と思うルディックは今は穏やかな表情で眠るユティを見つめた。8万の代価に命の危機を伴わせるのは失敗だったか、と今更後悔している。バスの中でたまたま話を聞いてしまったから彼はあの手段に出たが、他にも方法はいくつか考えていたのだ。
だが何故か、金で吊ってしまった。
何故だかはルディック自身もよく解っていない。よくある、その場限りの衝動に駆られたというやつだ、と勝手に納得させた。
「ルディ様……?ぼんやりして、考え事ですか?」
「ん?あぁ、そうだな。嬢ちゃんの教育係にブレット大佐を付けようかと思って……」
「ええっ!?……それは、ちょっと…賛成しかねます。それに、総帥だっていらっしゃいますし。」
「……………また忙しくなるな。」
「ルディ様、ほとんどサボっておいででしょう。少しは元帥というお立場を理解してください!」
「面倒なんだよなぁ、そういうの。」
ようやく見えてきた自分たちの住処を視界にいれながら、ルディックは深いため息をつくのだった。
ヒロイン眠ったままで序章がおわる(´・ω・` ; )
次回からようやく世界観等の説明いれられます。




