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出現(1)

「うっ……」



彼女は次第にはっきりとしてくる視界とは裏腹に、ぼんやりとする頭と重たい体に呻き声を上げた。強く頭を打ったのか、後頭部がやけに痛み、無意識のうちに痛む箇所を押さえていた。その状態のまま、彼女はゆっくりと体を起こし、当たりを見渡す。周囲は高層ビルに囲まれている所為で薄暗く、おまけに雨が降っているからか、その場所はやけに陰々としている。



先程までと打って変わった景色に彼女は表情を暗くする。いくらリーダーシップでしっかりしているとは雖も、彼女とてまだ19だ。状況が呑めないこともある。そして今がまさにその時だ。



「……目、覚めたかぁ?嬢ちゃん」



「…っ!?」



突如耳に入った聞き覚えのある声に、彼女は驚きの余り肩を上げた。恐る恐る声のした方へ目をやれば、あの怪しい男が壁に背を預けながら地面に腰を下ろしていた。



全く気配がなかったからか、彼女はたじろいだ。



「おぉ、すまねぇな。……驚かせちまったか?」



「……あ、あなた…なぜ、」



「おっと、嬢ちゃん、あんまデカい声出すなよ?一応俺たちは身を隠してるんだからな。」



「……どういう意味ですか?それより、ここは何処?あなた、一体何者なんですか!」



「気持ちは解るが、静かにしろって……」



はっきりとしない男の返答に彼女は思わず力が入る。そうでなくとも今の状況についていけてないのだ。そう静かにしろと言われ、大人しく出来るものではない。それに彼女には、男の声にまるでやる気がないのが不快だった。見知らぬ場所に原因がこの男であるのは間違い筈だが、責任を全く感じていない風な口調に怒りが沸いた。



「あなたね、聞いていればさっきからっ!」



彼女はまだ重たい体を男の目前まで四つん這いになって行くと、彼と視線を交えて意見する。



「いい子だから、静かにしてくれ…」



「なっ、子供扱いをっ…!」



男の言葉が癪に障り彼女はグイと身を男に寄せた。がしかし、地についた手の平に違和感を感じ視線を落とした。



「…なに、これ…」 



「…………」



男が座っている場所には赤黒い色が混じった水たまりが出来ていた。はっと自分の手のひらを見てみると彼女は信じられないといった風に目を丸め、小刻みに震え始める。自分の手のひらについたソレが何か、判ってしまったからだ。



「……血……?」



「止血はしているから問題ない。嬢ちゃん、血なんて見慣れないだろ?あんま見るな。」 



「……なに、なんなの…ここ、なに?」



「……すまねぇな。カラダで払えとは言ったが、こうなるとは予測してなかったんでね。」


 

自分の手のひらについた血を見つめながら震える彼女を落ち着かせようと、男はその血のついた手を自分の手で握った。呆然とする彼女を見て、少々申し訳ないといった表情を見せるが、今はそんな悠長なことを思っている暇はあまりない。むしろ、危険な状況だ。



「…ちゃんと後で説明する。だが今は、静かにしてくれ。…でないと見つかる。」



「……なにに?」



「敵」



「……てき…?」



「生憎俺はほぼ丸腰でね、隠れるしか出来ねぇんだ。応援が来るんだが、合流地点まで距離がある。ここで時間を作って、敵を撒いてから移動する。」



「…あなた、怪我をしてるわ。」



「んなもん気にするな。あんたはとにかく捕まらないことだけを考えてろ。」



何もかもがわからない彼女だったが、危険な状況だというのは解った。目の前にいるこの男を信用しているわけではない。何しろ代価を体で払えなどと口にした男だ。警戒するに越したことはない。



だが、今頼れるのがこの男しかいないというのもまた事実だ。



「……ったく、このプラネットはクソだな。他を選ぶべきだった。こうもシャーマンにうるさいとは傷み入るぜ。」



「………あの、」



「何だ?」



ぶつぶつと独り言を口にする男に彼女は躊躇いながらも話しかけた。



「あなたの、名前は?」



「……んなもん聞いてどうする。」



「不便だもの。呼ぶときに」



「………」



「私の名前は…「言うな。」



静かにしろと言われてもなんだか落ち着かなかった彼女が男に名を訪ねたが、男は答えなかった。ならば自分から名乗ろうとすれば、遮られる。理不尽すぎると思い、彼女はむっとして男を睨みつけた。



「真名を名乗らない方がいい。帰れなくなるからな、あっちへ」



「…帰れない?」



「今日からはユティと名乗るんだ。」



「意味がわかりません。きちんと説明してください。」



「するさ、後で。さっきから言ってるだろ?混乱するんなら何も考えんな、静かにしろ。」



彼女を納得させる程十分な回答もしないまま、男は目を閉じながらぐったりとした様子で言った。そう言えばこの男は怪我人だったことを彼女は思い出し、また不満を口にしようとした言葉を飲み込む。



混乱の所為で騒ぎ立て男曰く敵というものに見つかり、命を落とすようなことになってしまうのは彼女とて避けたい。目を閉じた男を一瞥すると、彼女は男の向かい側で壁に背を預けた。



雨に打たれながら、一体これからどうなるのかと、不安に駆られる彼女だった。




なろうさんはページの長さの感覚がイマイチ掴めません。今は1ページ短いでしょうか(´・ω・`)

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