現実
ファンが全然いなかったことにショックを受けた一宮ゆみは次の日のライブ直前で倒れてしまった。
目が覚めると見知らぬ部屋だった。
「ここはどこ?」そう呟くと「病院ですよ」しょうこが返す。
ステージ袖で倒れてそのまま病院に運ばれことを教えてくれた。
「明日からのライブはしばらく休みましょう」
「心配かけてすみません。でも休みたくないです。また、メンバーに迷惑かけたくないです」そう言ったが「また倒れてしまったらメンバーに迷惑かかります。明日から1週間お休みしましょう」しょうこが言い返す。
しょうこは続けて「しっかり休んで自分と向き合ってください」
「何で向き合わないといけないのですか?ちょっと貧血になっただけなので今日休めば大丈夫です」怒りに任せて言ってしまった。
「私にはわかります。前もゆみさんは同じようなことがありました。」
一宮ゆみは以前にも対バンライブで同じような光景を見て次の日倒れてしまったことがある。
その時は病院行かずに楽屋に寝かせて次の日からライブに復帰した。
「その後からです」しょうこは悲しそうに言った。
その後から一宮ゆみはメンバーへの当たりが強くなった。
レッスンでダンスや歌を間違えたメンバーがいると激怒し、時には怒りが収まらず家に帰ってしまうことも度々あった。
ライブ後は一宮ゆみがメンバーのダメ出しをする説教会が開かれていた。
「ゆみさんが当たりが強くなってしまったのがストレスが原因だと思います。記憶喪失なったのも」しょうこは泣きながら伝える。
「…」何も言えなかった。
「だから休んで欲しいです。1週間自分と向き合って欲しいです。辛いこともたくさんあると思いますでもゆみさんなら乗り越えられると信じています」
「わかりました」そう返すしかなかった。
病院から出てしょうこが車で家まで送ってくれた。何を話したかは覚えてない。しょうこが励まそうとしてくれていたが頭に入ってこなかった。
家に入るとまゆがご飯を買ってきてくれたが食べる気がしなくて「ごめん…寝るね…」それだけを言い残してベットに入った。
頭の中には『アイドルを辞めたい』それでいっぱいだった。
自分の決意はこんなに簡単に揺らぐのかと自分の不甲斐なさに情けなくなった。
一宮ゆみはなぜこんな状況でもアイドルを続けたのか気になった。メンバーに八つ当たりするぐらいまでストレスを溜めてまでなぜアイドルするのか。
俺には到底耐えることのできないストレスだ。
そんなことを考えながら泣いた。気づいたら寝落ちていて起きたらもう昼間だった。
起き上がってリビングに行くとまゆがおにぎりを作ってくれていた。
置き手紙があった。「どんな決断をしても私はゆみさんの味方です」
泣きながらおにぎりを食べた。美味しかった。
自分の部屋に戻ってアイドル以外にしたいことを考えた。
思いつかなかった。
野口勇人の時にやりたかったことを思い出そうとしたが何も思い出せなかった。
一宮ゆみの気持ちも野口勇人のやりたかったこともわからない、思い出せない俺は一体誰なんだ。そう自問自答し続けた。
アイドルはもうやらなくていいやり切った。本気でそう思っていた。本気で他のことをやりたいと思った。
そう思ってベットに寝っ転がりSNSを見ていたら一つの動画が回ってきた。
そこに映っていたのはワンマンライブの時の俺だった。
感動した。この動画を見ている人誰よりも自分がどれだけ努力して、挫折を乗り越えたかを理解しているからだ。
そして思った2週間でこのレベルまで行けたならもっと上達するのでは。そしてもっと大きいステージに立つことができるのでは。
どんだけファンが少なくても挫折しないで自分を信じれるまでパフォーマンスを磨いてもっと見てて感動するパフォーマンスをできるようになりたいと思った。
早速防音室に行って歌って踊った。
うまくできた。そう思ったが撮ってた動画を見ると全然ダメだった。
自分に足りないのは客観視だと痛感した。
もっと上手くならないと状況は打破できないそう思った。
休みをもらった1週間全力でレッスンした。
まゆにも見てもらっていろんなアドバイスをもらった。
今までどこか夢見心地な感じで生きていたがそれを辞めた。
『これは現実で俺はアイドルとして生きて行くと決めた』これを何度も心の中で言い続けた。
踊っている時にふと野口勇人の時の夢を思いし出した。『何者かになる。』だった。
〜ライブ復帰当日〜
休みをもらった1週間の間にメイクも練習した。おかげでまゆが付きっきりじゃなくてもできるようになった。
荷物をまとめてライブハウスに向かう。
楽屋について準備している間に不安な気持ちはなかった。やってやるぞ!その闘志が熱く燃えていた。
「今日いつもと雰囲気違うね」さやかが話しかけてくれた。「久しぶりのライブですからやってやりますよ」そう返すとさやかは笑顔を返してくれた。
ステージ袖で待機する。心臓の心拍数がどんどん上がっていくのがわかる。
深呼吸をして、今までの努力を思い出して心を落ち着かせる。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫」自分に何度も何度も言い聞かせる。
SEがかかる心拍数が一気に上がり意識が飛びそうになった。
その時『パン』まゆがいきなり背中を叩いた。
「最高の景色を会場にいるみんなに見せてあげましょう」笑顔で言う
それを聞いた時に俺は勘違いしていた。そう思った。
今まで自分自身が楽しくて、何者かになりたくて、野口勇人の罪を消したくてアイドルをしていた。でもアイドルは誰かを幸せにする職業だとこの時思った。
「ありがとう」笑顔で言って、ステージに向かって歩き出す。




