桃太郎ファミリー永久カオス宣言
ついに『桃太郎~西洋妖怪編~』も第28話です!
メデューサ復活という大きな目的を果たし、桃太郎一行はようやく平和な日常を取り戻しました。……とはいえ、このメンバーが集まって“普通の日常”になるはずもありません。
桃太郎をめぐって暴走する雪女。
それを止めようとして怒鳴り散らすかぐや姫。
面白がって煽る玉藻の前。
赤面して倒れるメデューサ。
責任を押し付けられて震える犬。
もはや収拾がつくのかどうかすら怪しい状態ですが、それでもどこか幸せそうな桃太郎一家の日常を、ぜひ最後まで楽しんでいただければ幸いです!
今回はお盆ということで、お爺さんとお婆さんも久々に登場。
果たして二人は、現在の桃太郎ファミリーを見て何を思うのでしょうか――。
無事にメデューサを人間の姿へ戻すことができた桃太郎一行は、再び備前へと帰ってきていた。
長い旅を終え、久しぶりの日常。
……のはずだった。
しかし。
「なあ、桃太郎、早く子を設けよう!」
朝っぱらから、その日常は盛大にぶっ壊れていた。
布団の中。
雪女が桃太郎に抱きついている。
しかもかなり密着している。
「物語の雪女は人間の男と十人も子を設けておるのじゃ! わたしたちもその記録を抜かねばならぬ!」
「抜かなくていい!」
桃太郎は必死だった。
「ちょ、待って! まだ朝! しかも今お盆の時期だから!」
「盆?」
「死んだお爺さんとお婆さんの魂が帰って来る時期なの!」
「よいではないか!」
雪女はまるで気にしていない。
「見せつけてやればよい! きっと安心するぞ!」
「育ての親に何を安心させる気だよ!」
桃太郎は布団から逃げようとする。
だが雪女は離さない。
むしろ抱きつく力が強くなる。
「むう、観念せい」
「なんで力まで強いんだ!」
「雪山で熊と戦っておったからな」
「聞きたくなかった!」
そんな騒動を、障子の隙間から見てしまった者がいた。
メデューサである。
「…………」
メデューサは固まっていた。
眼鏡の奥で瞳が震えている。
「ゆ……雪女さん……?」
声が震えている。
「桃太郎さんと……何を……」
次の瞬間。
メデューサはぷるぷる震えながら眼鏡へ手を伸ばした。
「ちょ、待って!」
真っ先に飛び出したのはかぐや姫だった。
「メデューサちゃん落ち着いて! ここで眼鏡外したら全滅する!」
「で、でも……!」
「あとでちゃんと説教するから!」
かぐや姫は慌てて雪女の頭を扇子で叩いた。
ゴンッ。
「痛っ」
「朝から何やってんのよ!」
かぐや姫は完全にブチ切れていた。
「桃太郎も! メデューサちゃんの前で何やってるの!」
「いや俺被害者!」
「童話の最終回で寝取られ展開とか聞いたことないわよ!」
「寝取られじゃないって!」
すると雪女が不思議そうに首を傾げた。
「なんじゃ」
「なんじゃじゃない!」
「かぐや姫もメデューサも、一緒に交わればよかろう?」
「…………は?」
一瞬、空気が止まる。
雪女は平然としていた。
「わたしは構わぬぞ」
「いやいやいやいや!」
桃太郎が真っ赤になる。
メデューサは顔を真っ赤にした。
「い、一緒って……」
そのまま、ふらりと倒れる。
「メデューサちゃん!?」
かぐや姫が慌てて駆け寄る。
「サル君! 水で濡らした手拭い!」
「は、はい!」
サルが大慌てで走る。
キジも羽をばたつかせた。
「扇ぎます!」
バサバサバサ!
「うるさい!」
かぐや姫が怒鳴る。
部屋の中は大混乱だった。
そんな騒動を、少し離れた場所から楽しそうに眺めている者がいる。
玉藻の前である。
扇子を揺らしながら、実に愉快そうに笑っていた。
「ふふふ……」
「笑ってないで止めなさいよ!」
かぐや姫が怒鳴る。
だが玉藻の前は涼しい顔だ。
「何を怒っておる」
「怒るわよ!」
「皇帝にでもなれば、後宮やハーレムくらい当たり前じゃ」
「当たり前じゃない!」
「お前もメデューサも雪女と一緒に桃太郎に抱かれれば済む話」
「済まないわよ!」
かぐや姫は頭を抱えた。
「早く堕落した桃太郎が見たいものじゃ」
「この妖狐、本当に腐ってる!」
そして、かぐや姫は気付く。
――元凶。
この状況を作った存在。
ゆっくり視線を向ける。
そこにいたのは犬だった。
「…………」
「…………」
犬はそっと目を逸らした。
だが遅い。
かぐや姫は無言で犬の首に腕を回した。
「犬ぅ?」
「はい」
耳元で囁く。
「この物語の責任、取れよ?」
「はい」
「でなきゃ潰す」
「怖っ」
犬の顔が真っ青になる。
生存本能が警鐘を鳴らした。
「だ、旦那!」
「ん?」
「旅に出ましょう!」
「急だな!」
「西洋です! 人魚姫です!」
「また!?」
犬は必死だった。
「新章開幕です! 海です! 恋愛です! ビキニです!」
「最後絶対いらないだろ!」
しかし犬には狙いがあった。
とにかく雪女の興味を別方向へ逸らしたい。
このままでは桃太郎家が崩壊する。
「人魚姫……?」
雪女が少し反応する。
「海の妖怪か?」
「そうです!」
「魚は美味いのか?」
「食うな!」
桃太郎が突っ込む。
だが雪女はまだ桃太郎から離れない。
「旅先でも一緒に寝るぞ」
「確定事項みたいに言うな!」
かぐや姫は頭痛を覚えた。
メデューサはまだ顔を真っ赤にしている。
玉藻の前は面白そうに笑っている。
サルとキジは完全に巻き込まれ役だった。
家の中は、もはや戦場である。
そんな賑やかな光景を、少し離れた場所から見守る二つの影があった。
桃太郎のお爺さんとお婆さんである。
お盆の時期。
二人は魂となって、久しぶりに家へ帰って来ていた。
「お爺さん」
「うむ」
「桃太郎、一人で寂しくしているかと思いましたが……」
お婆さんは嬉しそうに笑う。
「こんなに賑やかで安心しました」
「…………」
お爺さんは複雑だった。
確かに賑やかだ。
だが。
これは本当に“安心”なのか。
桃太郎は雪女に押し倒されかけている。
かぐや姫は犬を脅している。
メデューサは倒れている。
玉藻の前は笑っている。
キジは扇いでいる。
サルは走り回っている。
「……お婆さん」
「なんです?」
「なんか、思ってた賑やかさと違わんか?」
「でも楽しそうですよ?」
「まあ……そうじゃな」
お爺さんは少し苦笑した。
確かに桃太郎は笑っている。
昔、一人で鬼退治へ向かったあの頃より、ずっと賑やかで、ずっと騒がしい。
面倒事だらけだ。
だが、仲間がいる。
「来年のお盆には、孫の姿が見られるかもしれませんねぇ」
「それはちょっと早い気もするが……」
お爺さんは遠い目をした。
しかしもう、ここまで来ると細かいことを考えるのも馬鹿らしい。
「……まあ、元気ならよいか」
「ええ」
二人は顔を見合わせ、静かに笑う。
そして。
賑やかな桃太郎の家を最後にもう一度眺めながら、天へと帰っていった。
一方その頃。
「逃がさんぞ桃太郎!」
「だから朝からやめろって!」
「犬ぅぅぅ! 次の旅先で絶対海に沈めるからな!」
「理不尽!」
「わらわは堕落した桃太郎が見たいぞ!」
「お前は黙ってろ!」
「め、メデューサちゃん大丈夫!?」
「は、はい……でもちょっと刺激が強すぎて……」
今日も桃太郎家は騒がしい。
鬼退治から始まったこの物語は、気付けば妖怪も姫も西洋怪物も入り乱れる、とんでもない大所帯になっていた。
だが。
それでも彼らは仲間だった。
笑って、騒いで、旅をして。
これからも、きっと馬鹿みたいな騒動を続けていくのだろう。
それはそれで、悪くない。
――めでたし、めでたし。




