70 返されるポーション
「はぁーー?」
なんだそれ!?
お祖父さんはバットと呼ばれる木の棒を振り回していた。
ヤキュウってなんだ。何の遊びだ。
戸惑っているとお祖父さんが説明してくれた。
どうやら俺がコンテナに山積みとなっているボールを掴んでぶん投げる。これを投手という役割らしい。
そのボールをお祖父さんが打ったら俺の負け。バットを空振りさせたら俺の勝ちということらしい。
ボールを触らせてもらったが思った以上に硬い。
うーん投げられはするだろうけど……やり慣れてそうなお祖父さん相手に空振りとか取れる気がしない。どうしたら……。
戸惑ってる俺にシュウザさんが近づいてきた。
「若造。貴様、ポーションを投げるそうだな」
シュウザさんに言われて俺は掴んでいたポーションを取り出す。
「真剣勝負でなければ意味がない。ボールではなくポーションを義父上に投げるといい」
「いいんですか? 勝ってしまいますよ」
「ふん、やれるもんならな」
シュウザさんもお祖父さんも俺の投擲を甘く見ている。
カナディアからポーション投擲を聴いているのだろうが実際に知識で知るのと見るとでは全然違う。
伊達でS級やっているわけじゃない。
それに人間に当てる必要がないのであれば本気でぶん投げることができる。
「スティーナ、俺にポーションを渡してくれ」
「うん」
全力投球ならホルダーを外して置いた方が投げやすい。
スティーナに補助をお願いした。
そしてシュウザさんが何故か後ろに来る。
俺の送る不安感を混ぜた視線に気づいた。
「せこいマネしないように監視する必要があるからの!」
「さぁ婿殿! 来るがいい!」
「胸を借りさせて頂きます!!」
一回で決めてやる。
こんな茶番を終わらせてカナディアを迎えに行き、想いを告げるんだ。
俺はポーションは右手で掴み、大きく足を上げ、腕を大きく回した。
全力のポーション投擲。
S級魔獣のタイラントドラゴンの首ですらぶち折ったこの技をあんな柔な木のバットで打てるハズがない。
「ストレート・ポーション。ブチ抜けえぇぇぇっ!!」
紛れもなく全力の投擲だった。
威力を高めて相手にねじ込む撃墜するジャイロ・ポーションではなく、スピード重視のストレートだ。
その豪速とも言える弾は速度以上の威圧感を与えると他のS級冒険者から言われている。
まっすぐど真ん中、これが当てられはずがない。
そう思っていた。
「ハッハァッ! 絶好球じゃあのおぅぅぅぅぅ!」
お祖父さんがとてつもない速度で両腕を動かしバットを振る。
それはまさに一瞬とも言える速度の一振りだった。
アッパースイング気味だったその一振りは……。
俺の投げた最速のポーションを打ち返し、俺の頭上遥か彼方へ飛んで言ってしまった。
「打たれた……だと」
避けられたことやカットされたことは今までも何回かあった。
もしそれだったら悔しいという気持ちが先行しただろう。
でもあのような形で打ち返されたことは今までなかった。
完全な敗北は……初めてだったかもしれない。
思わず膝をつきそうになる。
「ヴィーノ! まだ終わってないでしょ!」
「あっ……」
スティーナの声につきそうになった膝はすんでの所で止まる。
そうだ。この試験は1回勝負じゃない。
お祖父さんは再びバットを構えている。
俺の心が折れるまで相手をしてくれるのか。
「カナディアのために来たんでしょ! たった1回くらいで落ち込むな!」
「ああ!」
「あなたにはジャイロも変化弾もあるじゃない。全部やりきってから落ち込みなさい!」
スティーナの叱咤激励に腕に力が入ってくる。
そうだ。最近はご無沙汰だったけどパーティを追放されるまではずっと負け続けだったじゃないか。
少しでも仲間のために強くなるためポーション投擲を学びまくったんだ。
俺のこれまでに覚えた、力全てを使い切ってやる。
「お祖父さん! やらせてもらいます!」
「おぅよ、婿殿!! 何発でも相手になってるわい!」
全力速弾は通用しなかった。
お祖父さんは恐ろしく目が良いんだと思う。
だったら……あれしかない。
俺は足を上げ、腕を回す。
握りはそう……ジャイロ・ポーション。
1日数回しか投げられないこの投擲でお祖父さんを打ち崩す。
「ジャイロ・ポーション!」
回転の増すポーションは圧倒的な貫通力を持つ。
いくらお祖父さんのスイングが見事でもこの貫通力の前には成す術も無い。
ポーションはまっすぐ突き進み、予想通り振り抜かれたバットを押し続ける。
「ぬうううううううううう!」
さっきは一気に振り抜かれたけど、今回はそれが出来ていない。
このままバットを貫いて空振りさせてやる!
行け!
「良い弾じゃ! だが……まだ若い!」
「なっ!」
一瞬バットがブレたように見えた。
その瞬間押しに押していたポーションが軽やかに俺の頭上の後方、遥か彼方へ飛んで行ってしまった。
ジャイロ・ポーションも打ち崩されてしまった。
「何でポーションが打ち返されるの……? 当てたら割れるでしょ」
その質問はごもっともだ。ただ打つだけならポーションの瓶は軽やかに割れてしまう。
「スティーナさん、簡単なことだ。義父上はヒッティングの瞬間にバットを回転させ空気の流れを生み出しているのだ。その空気の流れにポーションが飲まれ、逆へと向きを変える。その後はただ押し出すだけでポーションは若造の方へと向かっていくのだ」
言葉ではたやすいがやってることは無茶苦茶だ。
だがその方法を使えばジャイロの貫通力も無意味となる。
やはり当てずに空振りさせるしかないか。
「おじさま、よく……カナディアのお祖父さんから空振りさせることができたわね。おじさまもこの婚姻試験をやったのよね?」
「今ほどとんでもないわけでもなかったがワシも空振りさせるのに10年以上かかったのだ。未だ9割は打たれてしまう」
「え、じゃあどうやって結婚認められたの?」
「あ、その……スイが妊娠したので特別に」
「おじさま……正直、引く」
「うぐっ!」
何か気の抜けそうな会話をするが何とか空振りを取るしかない。
俺の持つ変化弾で全てを使ってやる!
「フォーク・ポーション!」
「スライダー・ポーション!」
「シンカー・ポーション!」
「スプリット・ポーション!」
「ツーシーム・ポーション!」
「ライズ・ポーション!」
軌道を変えるポーションを何発も投げてみるが全て適応し、打ち返してくる。
しかしやはりまっすぐ投げるよりはジャストミートされていない。
変化弾が弱点と見える。
どうする……どうする。
相手のバット目がけてポーションを投げて、跳ね返ったものをキャッチする。
だめだ、今回の条件は空振りさせること。
だったらこれでどうだ!
俺はポーションを握って、オーバースローで投げる。
「むっ!」
この変化は見破れまい!上下とまるでWを描くようにポーションを変化させぶん投げた。
「W・ポーション!」
「ちょこざいなぁ!」
お祖父さんは強くバットを振る。
他の変化弾を撃つよりも当たりは弱い。
しかし……空振りさせられていないという意味では俺の敗北である。
「その年でこれだけの変化球を投げるとは大したもんじゃ。ボールに慣れたらヤキュウができるぞ! 婿殿、はよー、婿になれぇ」
何だかよく分からないことを言っているが……正直手が無くなってきた。
ジャンプして縦方向のW・ポーションも撃てるがこれも打たれてしまうような気がする。
どうする……どうする。
こんな時どうするのが一番なんだ。
いろいろ思うがどう変化させても打たれてしまう。
俺の頭だけでは限界だった。
でも、……1つだけ思い浮かぶことがあったんだ。
それは俺がパーティを指揮をしている時にカナディアとスティーナの姿だった。
俺は2人を指揮して、2人の良さを最大限にまで発揮させられる。
だったら……。
「スティーナ、手がない。案をくれ」
仲間を頼るんだ。俺は1人じゃない。
さてさてお祖父さんとの勝負の行方は!?
W・ポーションの詳細を知りたい場合ドラベースを読んでみてください。名作です。
あんな感じの軌道をとります。