EX3 冒険者の休日③
「ギリギリギリギリ……」
【幻魔人】の二つ名を持つシィンさん。
俺とカナディアはS級になってからの付き合いだが、スティーナにとっては怪盗ティーナの事件の時が初対面である。
王国最高の魔法使いと呼ばれ、あの事件でもアメリと並んで様々なフォローをしてくれた。
だけど今、シィンさんが歯ぎしりしながら俺を睨んでいる。
この人は元々カナディアに好意を持っており、俺のことを敵視していた。
人から敵意を向かれたらその人に悪感情を抱いてしまうが……どうにも俺はそんなに悪い感情が湧かない。
彼が王国の冒険者で最高の魔法使いであり尊敬できること1、もう一つは。
「そのクレープ美味そうですね」
「生クリームマシマシバナナカスタードクリームクレープ……だ!」
「めちゃくちゃ甘そう」
この人、35歳の割に子供っぽいのだ。
「魔法の研究に糖分は必要となる。外への気晴らしも……重要だ」
「だからこんな所にいるんですね」
シィンさんは日夜新しい魔法を研究している。
誰も見たことがない術式を披露してくるのだから相当な研究熱心なのだろう。
「そして不愉快なものを見てしまう……」
再びギリっと睨まれてしまう。
瞳が隠れてしまうほど前髪が長く、黒のローブと血色の良くない顔立ち、シィンさんを子供が見ると恐怖で泣いてしまうほどだ。
「それって」
「おまえのことだ……ヴィーノ」
髪で隠れていない方の瞳でギリっとにらみつけられた。
【幻魔人】は本当に相応しい二つ名だ。
「かわいい女の子3人とデートとはハーレム主人公と勘違いしてるのか」
「ハーレムって……何言ってるんですか」
「カナディアはまだいい。だが最近、冒険者入りした中でベスト1位と噂のスティーナちゃんと仲が良いのがにくいいいいいい!」
こんな姿だけどこの人相当女好きである。
男として正常ではあるのだけど。
「スティーナは怪盗騒動でシィンさんとも会ったじゃないですか」
「カナディアのレオタード姿しか見てなかった」
「それはよく理解できます」
スティーナは確かに可愛く人気が高い。俺にはツンツンしてるが普段はそこそこクールでかっこいいので女性人気もあるようだ。
パーティの誘いが後を絶たないらしいがS級である俺達と組むことが多いので断ることも多い。
「でもシィンさんはS級だし怪盗騒動にも関わったからスティーナと話せるでしょ」
「だめだ。私のような男が近づけば権力で押し通したと思われてしまうだろう。スティーナちゃんに嫌な顔をされたら私は死ぬ」
「話すの恥ずかしいだけじゃないですか」
カナディアと打ち解けるのも少し時間がかかったらしい。
「そして次は最近、転勤してきたミルヴァちゃん」
「次はそっちですか」
「誰にも優しく、笑顔が魅力的なミルヴァちゃんと仲が良いのがにくいいいいいい!」
ミルヴァは工芸が盛んな街の時から人気の受付情だった。
成人したての元気いっぱいの女の子で見た目も良ければそりゃ人気が出るだろう。
王都の受付係は俺よりも年上がほとんどだったので突如現れた15歳の女の子の存在に冒険者達は沸いた。
「だったらさっきミルヴァが絡まれていたのをシィンさんが助ければよかったじゃないですか」
「助けるつもりだったがおまえ達の方が早かった。それに私が助けにいったら男達と一緒にミルヴァちゃんも逃げそうだ。そしたら私は死ぬ」
それはありそうだ。
見た目からして怖いもんなこの人。
カナディアよりよっぽど死神だぞ。
実は常時魔法の鎧を着ており、近接戦闘もそれなりにこなせるらしい。街のゴロツキなどあっと言う間だろう。
「カナディアと一緒に仕事する時も話題はいつもヴィーノの話ばかりぃぃぃ、やっぱりおまえがにくいいいいいい」
「それはすんません」
「なぜ……おまえのような男にばかり女の子が集まるんだ……」
「いや、俺はそんなモテないですよ。交易の街の時は無能なアイテム係ってバカにされてましたし」
「モテるやつに限ってそんなこと言うううううぅぅぅぅ」
もう面倒くさくなってきた。
「じゃあ、アメリなんてどうですか。シィンさんだってアメリなら気兼ねなく話せるんでしょ?」
「あいつを女と思ったことはない」
「ひでぇ」
25歳の合法ロリって言われてるんだっけ。
確かアメリとシィンさんは古くからパーティを組んでいたと言っていた。
そういう意味でいろいろとあるんだろうな……。
俺も正直パーティとして所属していた【アサルト】のメンバーであるルネとアミナに恋愛感情を抱いたことを一切なかった。
特にルネなんてA級で顔もスタイルもそこそこ良かったがこんな性格の悪い女、誰が欲しがるんだよって常々思ってた。
「きっとおまえは今後もかわいい女の子が出現したら関わっていくのだろう」
何だか遠い目で見られてしまった。
正直、カナディアと出会ってからいろんな面で上向きになっている。
でもあんまり女の子と仲良くなりすぎるとカナディアに嫉妬されるんだよな……。
「ふぅ……だったらシィンさんも一緒に買い物行きませんか?」
「ファッ!?」
何だその叫び声。
シィンさんはクレープを落っことしてしまう。
俺はシィンさんの手を引っ張ることにする。
「ま、ま、待て。あの女の子達の中に私を連れていくというのか!」
「俺も男1人で気まずいので俺の相手をしてください」
「だ、だ、だがヴィーノハーレムに入れられて女の子から嫌な目で見られたら私は!」
「だからハーレムじゃないって。俺の仲間を信じてください。俺の仲間に性格悪いやつはいません。悪く言わないでください」
「うっ……」
こういう言い方ならシィンさんもこれ以上は拒否できないだろう。
俺は元よりS級のシィンさんは戦闘では本当に有能な人だ。
スティーナもミルヴァもコネを作っておいて損はないはず。絶対この人から話かけないだろうから、仲介してやるのが一番だ。
「私、変な顔してないだろうか……。服装とかも大丈夫だろうか」
「子供か!? もう手遅れですけどね!」
顔の怖い子供を引っ張ってるようだった。
シィンさんをカナディア達の前に連れていくことにする。
 






