61 望んだ先に待ち受けること
「よし……そろそろいいだろ」
俺はここ数日……本当に考えた。
カナディアは俺のことを夫と思い込んでいる。
今まではのらりくらりとやってきたが……そろそろ次のステップに進むべきなんだ。
この現状維持に終止符を打とうと思っている。
俺もカナディアも完全に休みであれば夕日が綺麗な丘で愛を語りかけることもできるけど、何分S級冒険者は忙しい。
じゃあどうするか。
押し倒して俺の想いを心と体で伝えつくすんだ。
もちろんその責任は取る。
カナディアの思い込みを正しい物にするんだ。
寝る準備も終え、普段であれば別々の部屋で寝る。
そこでカナディアがまくらを持って俺の部屋に来るのだ。
だけど……今回は俺から行く。
「カナディア、今日一緒に寝ないか?」
「あ、はい……。いいんですけど……その」
いつもと違って、歯切れが悪い。
止めた方いいか? いや、そんなこと言って今まで生きてきた。今日こそ押し倒して本懐を遂げる!
俺は無理やり、カナディアを部屋まで引っ張り込む。
正直後悔の面が芽生えてきているが……もう止めるわけにはいかない。
カナディアはベッドに入って2分で寝てしまうため速攻勝負をしかけないといけない。
「なら……いいじゃないか」
「きゃっ!」
俺はカナディアを自分のベッドに引きずり込んで押し倒す。
ベッドの上にカナディアの黒髪が揺れ、その色っぽい体を抱きしめたいという衝動にかられる。
起きないように両手でカナディアの腕をおさえた。
「今日のヴィーノは積極的ですね……」
「そろそろ先に進みたいと思ったんだよ」
「……本来こういうことは結婚した後の初夜にやるものなんですよ」
「ごめんな。俺は悪いオオカミなんだ。ルールってやつを守れないんだよ」
この感じ……いけるかもしれん。
カナディアは妻は夫にされるがままなのですとしおらしく言っている。
風俗街に近づくと大太刀持って追ってくるのにどの口がと思うが……やはり強気でいくべきなんだ。
さて……さっそく……服を脱がさせてもらおう。
だけど、カナディアはどこか抵抗が強い。
何となく受け入れてくれそうなのになぜだ……?
カナディアの口が動く。
「あの、今日は……その」
「なに……女の子の日とか?」
「そうではないんです」
「だったらいいじゃないか!」
「でも……実は今日スティーナが泊まりに来る予定だったんです……。言い忘れてたけど」
「え」
嫌な予感がして……俺は後ろを振り向いた。
「はわわわわわわわわわわ」
顔を真っ赤にさせたスティーナが人形のように口をパクパクさせていた。
俺は再び視線をカナディアに戻す。
「……きゅん?」
このあざとい顔に俺はいつも騙されてしまう。
でもさすがに今回は許せなかったので俺はカナディアの脇腹をぐにぐに揉むことにした。
カナディアへのお仕置きはこれが一番効く。
「カナディアちゃん!! そういうことはね! もっと早く言おうね!」
「にゃはははははは! ごめんなさい! ごめんなさい! ヴィーノが真剣な顔してたから言えなくてぇぇ、あひゃひゃひゃ、許してぇ!」
◇◇◇
一度気をそがれると……なかなか次のチャンスは巡ってこないもの。
1週間経ち俺は未だ行動を起こせずにいた。
「ぐぅ……」
なのにカナディアは変わらず俺と寝ようとする。
あんなことがあったんだからカナディアから迫ってほしかったよ!
カナディアが下着姿で迫ってくるだけで俺はもう一気に頑張れるというのに!
今日はすでに眠ってしまったため手を出すことはできない。
いつも通り……過ごすとしよう。
「……」
ただ、何だろう。ここ数日何か違和感があって落ち着かない。
何だろう。2人だけしかいないはずなのに……異物を感じるというか。
昨日と一昨日は気のせいとしたがやはり今日もその違和感は消えなかった。
朝には違和感がなくなっているのも気になる。
俺はベッドから飛び起きポーションを手に取る。
余談だが俺は朝起きてポーション。寝る前にポーションを飲むので部屋に100本以上常備している。
そのポーションを最も違和感のある場所に振りかけてみた。
「ちゅべたい!」
何もない所から声が出たぞ。
流したポーションはまっすぐ落ちずに人間の形をかたどる
とりあえず……部屋に侵入していた金髪怪盗さんを捕まえることにした。
逃げようとするが、上から飛び乗り、体を地面に押しつける。
お得意の幻影魔法で潜んでいやがったか。
お宝はここにはないんだぞ
「ねぇ……スティーナちゃん、何でここにいるの」
「……」
ぷいっと黙り込んでしまう。
仕方ない。こういう時の吐かせ方をアメリに教わっておいてよかった。
カナディアもそうだが手っ取り早く吐かせるのにこれが一番有効である。
スティーナの馬乗りになって組み伏せる。
スティーナの両腋の下に手を入れ、こりこりとくすぐる。
「ひゃあうぅぅ! それ反則! いやぁ、やめ! やめ! へんたいぃぃl、へんたい」
「人の部屋に侵入しておいて何言ってやがる。しかも魔法で姿を消しやがって」
「あひゃひゃひゃ! だめ、だめぇ! 言うから、言うからぁ」
脇腹も合わせて攻めまくっていたらすぐに屈服した。
てっとり早くて助かる。
「はぁ……はぁ……。あ……あなた達が……夜な夜なえっちなことをしてるって聞いたから」
ゆっくりと息を吐きながらもスティーナは告げる。
「誰から? カナディア?」
「たまに一緒に寝てるって聞いたから。カナディアは何もされてないって言ってたけど、どうせえっちなことしてるんでしょ」
「そそそそそんなことねーし!」
くそっ、カナディアには口止めしておかないと……。
アメリはまだしもカナディアに好意のあるシィンさんにバレるとめんどくさい。
「この前だってカナディアを押し倒そうとしてたじゃない! だ、だから……監視のために来たのよ」
俺はスティーナの脇腹を乱暴に揉みまくる。
「本当は?」
「きゃははははは、あ、あたしそういう経験ないから、気になって気になって夜も眠れなくて、疼いて、だからぁ!」
何か言わせてはいけなかったような気もするが、正直な所、女性の体に触れていることが別の意味で楽しくて止められない。
もう少し吐かせてみるか。
指を動かし、スティーナの弱い所を攻めまくる。左脇腹からお腹にかかるところ攻めるととても良い声で鳴いてくれる。
「スティーナは欲求不満のドスケベ女ってことか」
「だって、だってぇ! にゃははははあ! 怪盗家業ばっかで、うひひひ! 恋とかしたことなかったし、あひゃひゃ、うらやましかったの!」
スティーナの肌ってまた違った弾力があるんだよな。カナディアは肉付きが良い方、でもスティーナも決して悪くはない。これはこれで良き。
「君くらい可愛けりゃすぐに男なんて見つかるだろ。スラムでもギルドでも声かけりゃ」
「ひゃははは、そういうのじゃなくて! あ、あたしは甘い恋とかしたいの! あひゃっ! お姫様だっこして頭撫でてくれるような、あぁん、力強い男の人が好き!」
スティーナは少女願望が強いようだ。スケベな妄想好きなのにこだわるということか。
お姫様だっこで頭撫で撫でってそんなバカなことする奴いるのかよ。
「……あははは! も、もういいでしょ! うひひ、くすぐったいの本当ダメなのぅ! 力入らなくなるの!」
カナディア同様アメリの攻撃で笑い死になりかけてたもんな……これぐらいにしておこう。
「も、もうやだぁ」
さすがに可哀そうなので解放してあげることにした。
「ちなみに次に侵入してきたら縛って動けなくして思いっきりくすぐるからな。あまりにひどい時はアメリを呼んで2人で気絶するまで笑わせてやる」
「とんでもないこと言うわね!?」
これだけ脅しておけば大丈夫だろう。
「……でも、侵入したらもっと構ってもらえる?」
「今、なんつった」
「何でもないし!」
どうしてこうカナディアもスティーナもぶっ飛んだ行動をとってくるのか。
クエスト中は真面目ですごく頼りになるんだけど!
スティーナは顔を紅くして立ち上がる。
乱れた服を直しながらこちらを見てくる。
「もう一個聞きたいんだけど……」
「なんだよ」
「カナディアと夫婦関係って……本当なの?」
ドキリとする。
おそらくスティーナはカナディアからいろいろ吹き込まれているに違いない。
カナディアは事実上の夫婦と思い込んでいるからな。俺もあえて否定はしなかったし……。
しかし、ここでうんというのも違う。まだ俺はカナディアを押し倒せていないのだ。
スティーナには真実を言ってもいいか。
「いや、違うな。国に届けも出していないし、俺とカナディアはそういう関係ではない。恋人関係ですらない。あくまで仕事上でのパートナーだ」
「そ、そうなんだ。じゃあカナディアが言ってたことは」
「ああ、全てカナディアの思い込みだよ。出会った時の俺の発言を誤解してしまっただけなんだ。いやーそれに気付いたのは王都に来た後でな。どうごまかそうか焦ったもんだよ、ははは」
「ヒィ!」
「でもな……俺はもうすっかりカナディアのことを……ん? スティーナ」
スティーナの表情がまるで……悪魔、いやそれ以上の存在を見たかのように表情を青くさせる。
俺は恐る恐る後ろを向く。
「あばばばばばば」
その姿から来る恐怖に俺の口は塞がらない。
カナディアがその美しい黒髪をまるでメデューサの広がらせていた。
瞳孔が開ききり、激情と気迫に俺のベッドにヒビが入る。
「ヴィーノ……?」
なななな、何で起きてるの……?
今まで一度も途中で起きたことなかったのに!
どうして……。
「メス猫が発情してるにおいを感じたので何かと思えば……」
スティーナのにおいを嗅ぎ取って起きてしまったのか。
何ということだ。ど、どうすれば!
「……ひっく」
「え……」
カナディアはベッドの上にへたりこんでしまった。
そして大粒の涙を流す。
「全部……全部……思い込みだったんですか? 今までの暮らし全部、私の思い込み!」
「あっ! そういうことじゃ」
「うわあああああああん! ヴィーノのこと大好きだったのに! 全部、全部嘘だったんだ! 私の勘違い!」
「違うって、俺は本当にカナディアのこと」
「もうやだあああああああ!」
カナディアは大泣きし、側に置いてある大太刀を持った。
「わああああん、七の太刀【絶壊】!」
カナディアは大太刀をベッドを通して地面に思いっきり突き付ける。
そこから流れ出す魔力が家全体を震わせた。
「ちょ、俺の話を聞いてくれ! 全部誤解なんだ!」
魔力は暴発してこの家の全ては崩壊してしまった。
かすれゆく意識の中、聞こえた言葉は……1つ。
「実家に帰らせて頂きます」
ただ……その言葉だけだった。
それから1週間が経つ。
カナディアは戻ってこなかった。
現状維持という中途半端な俺の態度が……カナディアを大きく傷つけてしまったのだった。
2章 ~完~
3章 ~ポーション使い、黒の民の里へ行く~ に続く
ここまで読了ありがとうございます。
今回の話が2章最終話となります。
そして……本作の書籍化が決定致しました!!
読者のみなさんの応援のおかげです。本当にありがとうございます!
詳細は活動報告の方で話させて頂きます。
3章は王都から離れたカナディアの実家にて怒り狂ったカナディアパパと戦う章です!
次から3章と言いたい所ですが
王都でのお話をまだ十分に書けていないと思っています。
そのため60話から61話までのお話をこれから週1で投稿していきます。
3章執筆及び書籍化作業をメインとしますのでのんびり続報をお待ち頂けると幸いです。
それではこれからも本作を宜しくお願いします。
更新は基本土曜日か日曜日のお昼を考えております。
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