60 冒険者スティーナ
「カナディナ、頼む!」
「任せてください、二の太刀【神速】」
鋭さの増したカナディアの神速の一撃が討伐対象の足を砕き、歩みを止めさせる。
海へ逃がすわけにはいかない。
俺はホルダーからポーションを抜き取り、速投げで討伐対象の甲殻を砕いて撃沈させる。
まずは一体。
「ヴィーノ、討伐対象が海へ向かっていきます!」
「ちっ! この短時間でで30体無理か……せめて半分だけでも!」
「大丈夫」
ふわりと空を舞い、凛と砂浜へ降り立つ少女。
白のホットパンツとショートベスト、r両手のダガーで走り抜ける様は彼女の身軽さを表していた。
金のツインテールは彼女が駆けるたびに揺れる。
「ヴィーノ、ポーションを投げて」
「あぁ、分かった!」
紅の瞳に言われるまま、俺は討伐対象に向けてポーションをぶん投げた。
「行くよ、【ミラージョ・シャドゥ】」
彼女のお得意の幻影魔法が発動し、1本のポーションが10いや20本飛んでいるように見える。
俺の投げた一本が討伐対象を命中し破壊したことで他の討伐対象の動きが止まったのだ。
幻影を本物と思ったのだろう。
「今、だったら倒せるはず!」
「ナイスだスティーナ! カナディア!」
足止めできるなら全部討伐できる。
俺とカナディアで手分けして討伐する。
今回の標的はS級冒険者の俺とカナディアならたやすく倒せる相手だ。
残る1体が全力で海へと逃げ出す。
だけど……目的地へは進めない。
「悪いけど、さよなら!」
スティーナは幻影移動【ミラージュ・クリア】を使用し、討伐対象の後ろにまわりこんだ。
そのままダガーで急所を一突きし、絶命をさせたのであった。
◇◇◇
「あ、このカニ美味しい」
浜辺、近くで野営をし晩メシとして今日討伐した甲殻獣の身を頂くことにする。
今日は俺が作った特製カニ鍋だ。
スティーナもカナディアも美味そうに頬張る。
今回のクエストは大量発生した甲殻獣を討伐することである。
この動きが速くて、固くて、大量発生して、危機に陥るとすぐ逃げるのが面倒なクエストであった。
「冒険者って忙しないわね。こんなに忙しいなんて知らなかったわ」
「冒険者は本来未開拓の土地を探検するのが本分なんだけど、そっちに人を回せなくなってしまったからな」
魔獣の討伐などは王国軍が行い、冒険者は名前の通り冒険するのが普通だと思うんだけど、世の中のシステムはそううまくはいかないということだ。
だが今のシステムだと飢える冒険者が少なくなるので仕方ないといえば仕方ない。
「スティーナも慣れてきましたよね。得意な相手だったらB級、いやA級並じゃないですか?」
「買いかぶりすぎよ」
怪盗ティーナを休業したスティーナは冒険者への道を進み始めた。
いろんな縁で俺とカナディアのパーティに入れて面倒を見ているのだが……スティーナの能力の高さに驚かされる。
ちなみにスティーナからの要望でカナディアもさん付けなしで呼ぶようになった。
「スティーナはE級冒険者になれるよな」
「何でランクダウンすんのよ」
「違う、違う」
S級のSがスペシャルのならE級のEはエキスパートである。
戦闘能力は低いものの、その専門性が高く評価された冒険者を指す。
例えばマッピングや物の目利きなんかそうだな。戦闘メインの冒険者には難しいことをE級冒険者はこなすことができる。
俺も自分の力をもう少し理解していれば現地でポーションを合成するE級冒険者への道も可能性があった。
スティーナは得意な幻影魔法のおかげで俺のポーション支援とはまた違った形で戦闘補助が上手い。
あと怪盗で培った目利きや盗賊職【シーフ】でのスキル、解錠や罠回避など便利な能力が備わっている。
近距離のカナディア。遠距離の俺で大半の敵はラクラク討伐できる。そういう意味でスティーナの技能はありがたい。
「ふーん、無理にS級を目指す必要はないってことね」
「今のS級は戦闘至上の考え方だしな。いつかは別の形のS級が生まれると思う」
支援職でS級になるのはほぼ不可能に近い。
スティーナも戦えないわけではないが搦め手無しでの純戦闘力は高くない。
前も話したが王都で支援職でS級は俺ともう一人だけだ。俺も言わずもがな。もう一人は回復しながら敵を撲殺できるメイス使いである。
「カナディア、使ってたバンドがボロボロになってさ。今回の報奨金で買おうと思ってるの。一緒に見立ててくれない?」
「いいですよ! 今度のお休みは2人で楽しみましょう!」
カナディアにスティーナ。
同性で年も近いし仲良くやれていて本当に良かった。
カナディアにとっても大きい存在となるだろう。
「ははっ」
「何よ、気持ち悪い顔して笑って。あたしとカナディアに見惚れてるのかしらね」
うーん。
でもその言葉どおりかもしれない。
カナディアはもう何度も話したが凜々しく美しい顔立ちと日常の思い込みの激しさから来るギャップがたまらない。
スティーナは顔立ちは幼さを残しつつも可愛らしいし、ツインデールもばっちり似合っている。
「君達2人は本当に華やかでかわいいからな。そういう意味では俺は役得かもしれない」
「もうヴィーノったら」
「か、かわ……、ふん、嬉しくなんてないし!」
嬉しそうにくねらせるカナディアと頬を紅くして憎まれ口を叩くスティーナ。
こうやって2人違う反応を見せてくれるのは楽しいよな。
「か、勘違いしないでよね。別にあたしは冒険者として頼ってるだけで気を許してるわけじゃないんだから!」
このツンツンも照れ隠しなんだろうなと思うと可愛らしく感じてしまう。
「ま、あなたが頭を下げるっていうなら……2人で遊びにいくとか……気を許してやってもいいのよ」
「あははスティーナ。でも」
カナディアがスティーナの肩に触れる。
「泥棒ネコはいけませんよ」
「ひっ!」
でもカナディアの方が1枚上手な気がする……。






