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59 新たな力

 ふぅ……何とか上手くいった。


 即席で演じた怪盗ポーション。結構上手くいったんじゃないだろうか。

 俺、演技の才能があるのかも。


 今回作ったジェット・ポーションは怪鳥の時のようにトップスピードを重視した仕様ではなく、速度を落として飛距離を伸ばす仕様で作っている。


 実際に空を飛べるわけじゃないのでグライダーと似たようなもんだろうか。

 基本放物線上を描くため、王都を少し通り過ぎた平原で降り立った。


 早く帰りたそうな女性陣を宥めて協力者を待つ。


 スティーナのマントの下は下着一丁だし、カナディアはドスケベなレオタード姿である。

 2人体を寄せ合い隠すようにしている。


 写真とか撮って永久保存したい。


「うまくいったよーだな!」


 S級冒険者アメリと……もう1人姿を現した。


「……なるほどね。あの甘いにおいのしたケムリはこの人か」


 スティーナは納得したように言葉を出す。

 アメリの横には怪しげな魔導着と杖を持つ片目を隠した男性……。

 S級冒険者【幻魔人(ファントムリッチ)】の二つ名を持つシィンさんだ。


 王国で最高の魔法職であるシィンさんは当然幻影魔法も使用できる。

 スティーナのような独自に派生した魔法ではない正攻法のもので……その力は柔な魔法障壁など通用しない。

 転送魔法ってのもすごい。俺とカナディアをあの部屋まで送り届けたのもこの人のおかげだ。


「言われたとおり商会の近くいたやつらの記憶は消滅させた……。今日の件は何も覚えていないだろう」


「ありがとうございます。シィンさん!」


「ヴィーノ、おまえのためではない、勘違いするな」


 ギリっと強い目で睨み付けられる。

 正直な所、俺はシィンさんにものすごく嫌われている。

 その原因はただ1つ。


「シィンさん、お手伝いいただきありがとうございました!」


「カカカ、カナディア……。そ、その格好……ぶほっ!」


 シィンさんがカナディアのドスケベなレオタード姿を見て鼻血を出し倒れかける。

 このとおりシィンさんはカナディアのことが好きなのだ。

 今、カナディアが王国軍事演習をシィンさんと一緒にやっているのが大きい。


 俺はシィンさんに近づき、小声で話す。


「言っておきますけど俺が……カナディアを説得してあの服着せたんですからね。シィンさんの持ち物であるあの服をね!」


「わ、分かっている!」


 強力な魔法使いに大規模な魔法を使ってもらうためにいろんな工作が必要だったのだ。

 実はあのレオタードはシィンさんの持ち物である。

 好きな人にあのレオタードを着てほしいという35歳独身魔法使いの願いを叶えてあげたんだ。


 ……正直俺も見たかったから強いことは言えない。

 アメリが呆れた顔で俺とシィンさんを見ていることから……いろいろバレているのかもしれない。


「あたしがギルドに話を通しておいたし、このムッツリも魔法だけは完璧だから安心していいぜ」


 アメリとシィンさんの2人はA級以下の時にパーティを組んでいた仲間だ。

 腐れ縁というかお互いを信頼し合っている。


 今回、スティーナ救出作戦では本当にアメリとシィンさんにはお世話になった。

 シィンさんの幻術魔法で明日の朝まで目を覚さないだろうから、怪盗ポーション、ポーションレディの記憶は完全に消え去ることになる。

 あの場にいた全員、お宝の飛行青石は盗まれているから怪盗ティーナにしてやられたと思うだけだろう。


「あ、あの……」


 スティーナが声をあげた。


「どうしてみんな、冒険者が……それもS級4人も使ってあたしを助けてくれたの? あなた達には……何の得もない。冒険者は正義の味方じゃないんでしょ?」


 冒険者の役目はあくまで冒険と魔獣の退治だ。

 お貴族様がどんなあくどいことをしていたとしてもそれに対して動くことはできない。


 でも……。


「正義の味方ではないけど、正義の味方は好きなんだよ」


「えっ」


 スティーナは呟く


「冒険者は一部を除けば底辺から成り上がった人ばかりだ。俺とカナディアは知ってのとおりはみ出し者」


「あたしとシィンも冒険者になるまではスラムで生きてきたんだ」


「だから悪徳貴族や弱者から金を奪う悪者に楯突く義賊が大好きなんだよ。特にS級は護衛のクエストでむかつく貴族の護衛とかも多くてストレスたまるんだ」


 そんなこともありギルドは怪盗ティーナに対して深入りをまったくしなかった。

 もしスティーナが何も考えず善者の持ち物を盗んで返さず、売り捌こうとしたら悪とみなして王国軍に協力したことだろう。


 冒険者は情の力も大きいのだ。


「でも……義賊は程々にしておいた方がいい。次に今回のような危機があった時助けてあげられるかどうかわからん」


「うん、わかった」


 スティーナは満足そうに頷いた。



 ◇◇◇




 これで魔獣から取り返したモノを盗まれたことで始まる危機を脱することができた。


 スティーナが持っていた悪者の情報をギルドに送ることで俺の懲罰はなんとか帳消しとなった。

 その情報がどうなるかはギルドの上層部が判断することだろう。


 俺とカナディアに日常が戻った。


 ただ1つだけ違うことがある。……それは。







「えっと……あたしの名はスティーナ。今日からD級冒険者としてお世話になるわ」


 新しい道を見事見つけたスティーナはS級である俺達の傘下に入り訓練することになる。


「あたし、世界を見たくなった。空を飛んだ時に見えたたくさんの星のように……世界中をまわりたいの!」


 無邪気に笑うスティーナはとても冒険者らしい目をしていた。


「これからもよろしくね、ヴィーノ、カナディア」

2章メインのお話はこれで完結です。あと2話、3章に繋がるお話となります。

新キャラシインさんは貴重な男性キャラ。アメリと同じで先輩として手助けしてくれる役目となります。

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書籍版ポーション160km/hで投げるモノ! ~アイテム係の俺が万能回復薬を投擲することで最強の冒険者に成り上がる!?~』
第2巻が7月20日 より発売予定です! 応援よろしくお願いします!

表紙イラスト
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