128 ヴィーノパーティVS巨大魔獣④ スティーナ視点
「……」
カナディアは何も言わない。
だけど目で分かる。この女むかつくーーー! って思っている。
カナディアはかつてのまじないの影響で迫害を受けていた影響からか、嫌なことを言われても我慢しがちである。
シエラに対してはお互い様だったので言いやすかったっぽいけど、今回のような決定的な差が見せつけられるとさすがにカナディアも何も言えない。
「黒狐が首を斬れないなら、シエラが斬る。それを黒狐の成果にしてやってもいい」
「なっ! ふざけてるんですか!?」
「ふざけてはない。できないならシエラがやるしかないし」
「ちょっと、2人とも! 一応戦闘中だから!」
ヴィーノが向こうにいるからあたしが2人のケンカを止めないと……。
って【岩砕龍】がまたこっちを睨んでいるじゃない! ケンカなんてせずに攻めれば倒せたのに!
【岩砕龍】があたし達に向けて強い咆吼を打つために大きく口を開く。
耳を壊してしまうような攻撃、だけど……そのモーションは分かっていた。
ヴィーノからもらったアブソーブポーションを投げて音による攻撃を吸収する。
咆吼が効かないことを知ると、今度は身を震わせた。
この攻撃は恐らく噴出孔から蒸気を吹き出して熱によるダメージを与えてくる。
あたしはバリアポーションを使って険悪な2人まとめて蒸気から身を守った。
「2人ともしっかりして!」
【岩砕龍】の放つ岩石のつぶてをディフェンスポーションで防いでいく。
双銃剣で受けると刃こぼれするから余裕があるときはこれで防ぐ。
あたしはシャインポーションをぶん投げた。閃光弾の代わりだ。効果はあるようで【岩砕龍】は怯む。
「おー、スティーナ、ヴィーノみたい」
やばい……ヴィーノのポーションが支援技として便利なのでいつのまにかあたしが世界第二位のポーション使いになってしまってる。
この前、いつでも俺の跡を継げるなって言い出した時は張り倒してやろうかと思ったわ。
カナディアは大太刀を握って考えこんでいる。
シエラに言われた黒の力、それについて考えているんじゃないかと思う。
「シエラ! その力ってのコツとかないの!?」
「あるよ」
あるんかい!
カナディアの方を向く。
そうよね、教えを乞うなんてプライドが許さないわよね。
そのプライドは絶対に持っておいた方がいい。
多分白の巫女と黒の巫女は対等でいた方がいい。
ああ、もうあたしって性格良すぎ!!
「シエラ、白の力はどういう風に使うの? 教えてよ」
「……んと、術者の感情が大きく影響してる。シエラの場合は幸せな気持ちを思い浮かべると心が凄く熱くなる」
なるほど、それが白の力の原点ってわけね。
シエラにとって幸せな時、飯食べているイメージしかないわ。
「シエラは何をした時、一番幸せになる?」
「んー」
シエラは考え込む。
「ヴィーノに頭を撫でてもらった時……」
「へ?」
「っ!?」
「ヴィーノの腕の中でおしゃべりする時」
「ヴィーノの胸の中で眠る時」
「ヴィーノに肩や胸を触れた時
「……ヴィーノにずっと側で支えてあげたいって言われた時」
シエラの頬がほんのりと赤く染まっていく。
あれ、予想と違わなくない? あの男、いつの間にシエラまで口説き落としてたの!?
出会った時ヴィーノと結婚するとか言っていた。
あれは多分も意味分からず言ってたと思うしカナディアへの対抗心だったと思う。
だけど……シエラは今、明確な好意を示している。
「シエラはヴィーノのこと好きなの?」
「え? あ、分かんない。好きってよく分かんない。でもヴィーノと一緒にいると胸がポカポカする」
あぁ、かわいいなぁ。
恋の自覚はまだしてないけど……女の子としての感情がシエラに芽生え始めているんだ。
何だか嬉しいな。
シエラを妹みたいに思っていたから……何だか感慨深い。
カナディアはどう思って……顔を向けるとぞっとした。
「あの……」
カナディア顔を下に向けてぶつぶつと言っていた。
「あの……浮気男ぉぉぉぉっ!」
◇◇◇
「ひょえっ!?」
「ヴィーノ、どうしたの。いきなりびびって」
「何かすごく恐ろしいことが俺に待っているような気がして……」
「おにいしゃま、何があったですの?」
「どうせ、また女がらみでしょ。最近シエラがよくベタベタしてくるじゃん」
「そうなんだよ。何か無性に一緒にいたがるんだよな……おかげでカナデの目が怖い」
「とか言って肩揉みしつつ、胸を揉んでるくせに。ポー、ヴィーノに近づいちゃ駄目だよ」
「違うんだよ! 揉みたかったわけじゃなくて、たまたま手が当たっただけなんだって! 誤解なんだ!」
「分かったですの! つまり、おにいしゃまはクズってことですの!」
「違うんだよおおおおっ!」
◇◇◇
カナディアから黒いオーラが出始める。
さきほどの白の力とは真逆の黒の力。
「なるほど……黒の力。見えてきた気がしました」
これはまさか嫉妬の力が黒の力に変換されている!?
カナディアは大太刀を1度鞘に戻し、いつもは背負うのに腰へ大太刀を差し込んでしまった。
カナディアの体から纏う黒のオーラが大太刀にも伝わってきた。
「はあぁぁぁぁぁ!」
カナディアは走り、飛び上がる。
閃光弾の効果が切れた【岩砕龍】が目を開く
長くて硬い首がうねり、【岩砕龍】はこちらを見つめている。
だけどカナディアの方が一歩早かった。
「黒皇の太刀 -流星-」
次の瞬間、【岩砕龍】の首は綺麗にずり落ちてしまっていた。
巨大で太い首が本当に綺麗に斬れてしまったのだ。
後ろへ飛ぶ鞘が【岩砕龍】の背中にぱらりと転がる。
大太刀の抜刀術って……できるんだ。
斬撃がまったく見えなかった。あまりの速度に【岩砕龍】もきっと気付いたら斬られていた……そう思っていただろう。
「ふぅ……」
カナディアは大太刀に付着した魔獣の体液を振って飛ばし、鞘の方までゆっくりと歩いて行く。
さきほどまでいた黒のオーラはもう出ていない。
「カナディア……大丈夫なの?」
カナディアがあたしの方を向く。
「ええ、スッキリしました」
そのすっきりはどっちだろうか……。まぁいいや。
「ただやっぱりかなり体力を使いますね……。体中が痛いです」
あれだけの一撃だ。かなり体に負荷がかかっているのだろう。
シエラの方は何も感じてなさそうなので慣れかもしれない。
カナディアはゆっくりとシエラに近づく。
「不本意ですが……あなたのおかげでとっかかりを掴むことができました」
「……」
「だけど完成形にはほど遠い。まだあなたのようにはいきませんね」
「ふーん、やるじゃん」
ちょっとだけお互い歩みよった感じかな。
シエラもあたし経由だったけどヒントも出していたし……。
「ちょっと大変だったけど……何とかなったわね。シエラもわざわざ、カナディアに花をもたすなんてやるじゃない」
「違うよ」
シエラはそっけなく言う。
「黒狐なんてどうでもいい。でもヴィーノが喜んでくれるならそっちの方がいいって思った。褒めてもらお」
「びしっ」
カナディアからまた黒のオーラが出始めたんだけど……まったくもう!
ぐらりと足場が揺れ始める。
当然、【岩砕龍】の首が斬れたんなら絶命してしまっている。
四足歩行の足が砕けてしまい、維持できなくなるのは当然。
あたしはシエラとカナディアを抱えた。
そのまま【岩砕龍】の顔面をフックショットで突き刺して、魔獣の背中から離脱する。
宙に浮いたままの一部のポーションにもう一方のフックショットを引っかけて、空中を飛び続ける。
「スティーナすご~い」
「やっぱり身軽ですね」
破滅級の首を斬れるあなた達ほどじゃないっての。
「ん?」
あと一個ポーションに引っかけたら終わりってタイミングであたし達は違和感を覚える。
「ミュージはいるけど、ヴィーノがいない?」
「本当ですね……どこに? いやその前にアレなんですか」
「……ヴィーノはあの側にいる。」
シエラが見た方向に視線を向けると……。
とんでもない光景がそこには広がっていた。