100 幼馴染の2人を見て
「今日の晩ご飯楽しみ」
「昨日は海魚と野菜のソテーだっけ。今日は肉が入るって朝、メロディが言ってたな」
「ほんと!? お肉大好き」
「シエラ、本当食べること命だな」
「食事はシエラの人生だよ……」
空を見上げ、長い白髪を揺らしてシエラはゆったりとした笑みを浮かべる。
「それは……素晴らしいな」
ちょっとバカみたいな発言だったが軽くスルーすることにした。
とっても絵になるんだろうけど……シエラの美しさに慣れてきているのでまったく心が揺さぶられなくなってしまったな。
「ねぇ……あれ」
カナデとスティーナが横で喋っていたのが……その喋りを中断して指をさす。
その先には宿の入口の段差に座る。メロディとミュージの姿があった。
声が聞こえてくる。
「……ミュージ、話って何?」
「昨日はその……悪かったよ」
「へぇ……ミュージが素直に謝るなんて珍しい。雨でも振るんじゃないかしら」
「なんだよ! ……いや、ごめん。最近、メロディに当たってばかりだよな」
「もしかして冒険者のおにーさんに何か言われた?」
「うん。いろいろ話を聞いてもらったよ」
「じゃあ……もしかして」
「僕は外の世界に出ようと思う」
「やっぱりこの街から出て行くんだ」
「両親が残してくれたお金で数年は暮らしていけるし、僕を受け入れてくれる国で……」
ミュージとメロディは腹を割って話をしている。
昨日俺と話したことを踏まえてもう一度考えたのだろう。
「やだよ! そうなったら……ミュージ、もう帰ってこなくないんでしょ! そんなの寂しいよ」
「違うよ、ちゃんと帰ってくるって!」
「……グス」
「本当にほんと! メロディやおじさん、おばさんには本当に世話になったし孝行もしたいと思っている。僕はこの街が好きだから……」
「本当に? 信じていいの?」
「うん。何とかして魔法に関する仕事について……軌道に乗ったらこの街に戻ってくるつもりだよ」
「……分かった。昔っからミュージは自分で考えちゃうんだから……そんなミュージを手助けしたかったのになぁ」
「え?」
「なんでもない。でもできれば近場がいいなぁ……。ミュージったら全然家事できないんだし、お世話してあげる」
「ちょ、勘弁してよ!」
うーむ、何だか初々しい雰囲気を誇っている件。
ミュージのやつも街を出ることを決めたっぽいな。
もし王国で働くことができるならそう遠くはないからメロディを招待することも可能だろう。
「ヴィーノ、スティーナ。幼馴染愛ですよ!」
「メロディ、何とか食い止めなさい! 2人で宿を継ごうって言うのよ」
「ん? 君達もあの2人の関係知ってるのか?」
直接メロディとミュージと話した俺は分かっていたがこの2人まで知っているとは思わなかった。
「昨日の夜、コイバナしたんですよ。メロディちゃんの恋路をいっぱい聞いたんです」
ああ、そういえば女4人で話をしたって言ってたっけ。
その時間にミュージと話をしていたことを思い出す。
「楽しかったわね。幼馴染の長年のコイバナはいいものよ」
「ふーん、自分が絡まない恋話は聞いていて楽しい時あるもんな」
「ヴィーノとの結婚生活もたくさんに聞かれちゃいました。恋愛の先輩として力になれたならいいのですが」
「あなた靴下は履いたままがいいだってね」
「おい! 俺の性癖バラすな! 何の話してたんだよ!?」
「今思うと……話しすぎたなって思うのですが。許してください……。ね、きゅい?」
「くそっ、可愛いな。家に帰ったらお仕置きだからな」
「縄で縛って目隠しされるわよ。ところで、そういうのって風俗で覚えるの?」
「カナデ……喋りすぎだ」
「ヴィーノが激しくするのが悪いんですからね!」
だから朝なんかメロディが余所余所しいと思ったらそういうことか!
冒険者のおにーさんって意外にやり手なんですねって言われた時は何かちょっとドキリとしたわ。
ってうん? シエラがとぼとぼと宿の方に向かって行く。
そしてミュージとメロディの前に立った。
「おにく!!」
花より団子、コイバナよりメシって所はシエラらしいな。
この後、俺達にさっきのやりとりを全部聞かれ、恥ずかしそうに顔を赤らめていた若人をからかいつつ、今日のお勤めは終了したであった。
2月20日に発売した【ポーションは160km/hで投げるモノ!】ですが2巻の刊行が決定しました!
2巻は夏頃に発売予定となります。
今回の章も全て掲載予定ですので宜しくお願いします!