99 帝国時報の女
声がデカい。
帝国時報。この国で最も大きな新聞社だっけ。
王国のキングダムタイムズよりも国際的な記事を取り扱っていると聞いたことがある。
「えっと……あなたは」
「ああ、ごめんなさいね! 私は記者のレリー。こっちはカメラマンのマイケスよ! で、インタビューさせてもらうわね!」
「いいって言ってないんだけど」
「固いこと言わないでよ。イケメンが台無しだゾ」
「え、そう?」
そんな風なこと言われると悪い気はしない。
「ヴィーノ」
後ろからカナデが釘を刺すように俺の名を呼ぶ。
いや、いかん……。危うく絆される所だった。
「遠慮させて欲しい」
「悪いことなんて書かないから! いい記事になると思うの。帝国時報は偏向しない主義だし」
「でもなぁ」
「王国から来た若手のS級冒険者。【ポーション狂】に【堕天使】でしょ。S級はなかなか会えないし、話を聞きたいの」
「な、なんで……俺達のことを」
「冒険者ギルドとは懇意にしてるから……すぐ分かっちゃうわよ~」
昨日来たばかりなのにもう情報がまわっているのか。
冒険者ギルドも嬉しそうに話してたんだろうなと思う。
「噂の投げるポーション使いも気になるんだけど……一番はやっぱりねぇ」
記者レリーの目線が俺ではなく後ろの方へと行く。やっぱり狙いはカナデか。
俺は守るようにカナデの前に手を翳す。
「悪いが俺の妻に興味本位で近づかないでくれるか」
「へぇ……本当に黒髪の子と結婚してるんだね。ポーション狂って変わった趣味してんのね」
カナデを悪く言われてカチンとくる。
キングダムタイムズの方は冒険者ギルドから圧力をかけてるから変な記事が出ることはないが、帝国時報まではさすがにできない。
「ああ、ごめんなさい。さすがに失礼だったわ。ただ……純粋に黒髪の冒険者の話を聞きたいと思ったの。それは黒髪を侮辱するわけではなく、知るため」
「それは本当ですか?」
「お、おいカナデ」
「ええ、さっきも言ったでしょ。帝国時報は偏向の記事は出さない。正式に取材させてもらえないかしら」
カナデの耳元で小声で話す。
「いいのかよ。信用はできないぞ。キングダムタイムズだって取材なんてしてこなかったことだぞ」
「だからこそですよ。黒髪冒険者へ取材したいなんて奇特な方、今までいなかったじゃないですか。帝国中に私の活動を知らしめるチャンスとも言えます」
言いたいことは分かる。
すでに好感度最低な状態から始まっているので悪く書かれた所でこれ以上下がりようもない。
王国新聞のキングダムタイムズは黒髪のカナデのことは完全に無視している。
本来であれば16歳でS級という至上最年少での栄誉に取材が殺到するように思えたが今の今まで……1つもない。
ちなみに俺はいくつかあった。まぁペルエストさんとかバリスさんに比べたらごくわずかだが。
「私は帝国以外の国、もちろん王国も含めて何回も出張したんだけど……黒髪の冒険者は1人として見たことはかったわ。だからすごく興味があるのよ。
呪われた逸話を持ち、人々から忌み嫌われる黒髪の少女がS級冒険者に成り上がり……何をしたいのか」
「……」
「そんな黒髪の子を嫁にもらおうとしたら【ポーション狂】の性癖にも興味あるケド」
「性癖って言うなよ……」
「分かりました。歪めて、人々に伝えないのであれば取材をお受けしましょう」
「やったー!」
まぁ、仕方ないか。
明日のお昼間に抜け出してカナデはレリー記者から取材を受けることになった。
俺も付きそった方がいいかと聞くとS級が2人サボるのは良くないって説き伏せられてしまう。
仕方ないがカナデも確たる意志でこの仕事をやってんだ。信じてみるしかないか。
「個人的に……そこの白髪の子も興味あるんだけどね」
今度はシエラの方に目を付け始める。
「シエラはちょっと勘弁してくれ」
いきなり白の巫女とか言い出す可能性もあるし、変に騒がれてしまう可能性がある。
メシで速攻で釣られそうなのも問題だ。
「その髪と瞳。……彼女は白の国出身なんでしょ」
「白の国を知っているのか?」
「行ったことはないけどね。ただあの国が絡むと帝国政府から怒られちゃうからやめとくわ。見た目の良さから芸能系としてでっち上げてもいいけど……私の得意ジャンルじゃないしねぇ」
やはり白の国は影響力が強いのだと思う。
帝国の帝都は白の国から近い所にあるし、国家間の問題があるのかもしれないな。
「それにしても黒髪、白髪の子なんてよりどりみどりよね。【ポーション狂】ヴィーノは女をはべらかす好色冒険者でいいのかしら。記事にしようかな」
「おい、偏向記事はやめろ」
「間違ってないわよね」
「そうですね。妻を良く泣かせまてすもんね」
「胸ばっか見てる」
「ちょっと君達、黙ってくれない?」
「それじゃ【堕天使】カナディアさん。明日宜しくね~。行くわよ、マイケス」
「ウッス」
「喋った!?」
カメラ持ってまったく動いていなかったから石像かと思ったぞ。
記者レリーとカメラマンは早々に立ち去っていく。
「あたしには何もなかった……」
記者達が去り、1人話題にされなかったスティーナが呟く。
「いや、それが普通だと思うぞ」
「怪盗ティーナであることを伝えれば取材される?」
「おい、胃痛になるからやめろって」
三者三様でネタにされたらもうわけわかんなくなるっつーの。
ぞっと疲れが出てしまったので宿へと戻ることにした。






