97 温泉郷内の調査
朝霧の温泉郷ではここ一ヶ月、昨晩のような地震が毎日発生しているらしい。
この街に所属する冒険者や地質学者なども調査したようだが原因が分からず途方に暮れていたようだ。
地盤なども問題ないらしく、地震が起こるような要素は一つもないとか。
音は大きいものの地震の揺れも大きくないため、けが人は発生していない。
そのため大規模な事件とは言い難く、帝国も金をかけた調査に乗り気ではないらしい。
まぁ観光地に不安を呼んで客が少なくなる方がリスクだと思ったのだろう。
そんな事前情報を得た上で俺は翌朝、早速温泉郷の冒険者ギルドへ向かった。
「ようこそおいでくださいました! ヴィーノ様!」
「お、おお……」
冒険者ギルドで出迎えてくれたのだが何とギルドマスターにギルド員、冒険者が一同に集まっており、狭いギルド内が完全に密の状態になっていた。
「これはいったい……」
「S級冒険者であるヴィーノ様が来てくださると聞いて集まったのですよ!」
壮年の男性、彼がギルドマスターなのだろう。
しかし、これはちょっと大袈裟すぎじゃないか。
20人近くに注目されて……何だか気恥ずかしい。
王国であればホームグラウンドだが、帝国は他国。ある程度謙虚でないと品格を疑われてしまうのだ。
確かここの規模は工芸が盛んな街と同レベルだったな。
つまりC級以下の冒険者しかいない。小さなギルドである。
「今回の調査、予算が少なくてほとほと困っていたのです! まさか王国からS級冒険者が来てくださるなんて……。王国は何かあると踏んでいるのでしょう。我が帝国は愚かです。地方都市なんてどうでもいいと思っているのですよ。王国を見習って欲しいですね!」
「は、はぁ」
い、言えない。
実際はバカンス9割の気持ちで来ているなんて……。
バリスさんからも本来B級が行くレベルの仕事だって言われていたのだ。
「俺はS級になりたての若造ですよ。そんなに変わりませんって」
「謙遜を……。帝国でもS級は3人しかおらず、厳しい試験を潜り抜けたものしかなれぬのです。ヴィーノ様はその若さでS級なのですから……尊敬なのですよ」
おいおい。王国のS級の試験なんて試験官のさじ加減だぞ。
俺の時はアメリだったけど、そんなすっげー考えているようには見えなかったぞ!?
王国は10人いるけど、俺が言うのもなんだけど増やしすぎなんじゃないだろうか。
「今回は1週間だけの出張ですし、やれるだけやってみます。帝国は不慣れですのでいろいろ教えてもらえると助かります」
「おお!!」
大したこと言ってないのに盛り上がる。
「同じようなことをSS級のペルエスト様が仰って事件を見事解決されていましたからな。これは期待ですぞ!」
ペルエストさん、何やってんの!?
あの人超人だから分かるけど、俺は事件調査とかは常人レベルだから困るっつーの!
やれやれ……。
「この街で一番の冒険者はどなたですか?」
「あ、私になります」
俺より5歳ほど年上の男性冒険者でカリスというらしい。
この街出身で唯一のB級冒険者だとか。
彼のようにB級以上だが地元に残って働く人も多い。
同ランクの冒険者に比べたら経験的に弱いが、下位のクラスとは比較にならないほど強いので重宝される。
「カリスさん、今の状況を教えてくれないだろうか」
「ええ、もちろん」
カリスから聞いた情報は事前情報と損保ないものであった。
別働隊のが手に入れた情報と加えてまとめないといけないなと思う。
「あと最近わかったコトなのですが」
「気になることがあるのか?」
「はい、どうやら地震の範囲が局所的であることが分かったのです」
つまり朝霧の温泉郷全体を揺らしているのではなく、日によって揺れる場所、大きさが違うらしい。
この地区で大きく揺れるのに他の地区では全く揺れないと言うことがよくあるとか。
「これで何かわかりましたか!」
「教えてください!」
「どうですか!」
「……冒険者は探偵じゃないって皆さんも分かるでしょうに」
高位冒険者に寄せる期待ってのも分からなくもない。
俺もそうだったし……。
コミュニケーションの一環でギルドの冒険者達と会話をかわす。
帝国内での力事情や動力バスなどの魔導機械のこと。
帰った時の話のタネにいろんな話を聞くことができた。
そんな矢先にこんなことも言われる。
「ヴィーノさんってもしかして3人の外国の冒険者さんと一緒に来たんですよね」
ほんの先ほど街の巡回から帰ってきた冒険者から質問をされる。
俺は声を出さずに頷いた。
「あの3人の中の特にあの人」
俺は少し身構えた。
だけどその冒険者の表情は明るい。
「あの白髪の女の子。すっごく綺麗な子でしたね! あんな綺麗な白髪見たことないです! 是非とも一緒にお話ししたいです」
「あ、僕も見た! すごいよね! 思わず何度も見返しちゃったよ」
「そうなんだ! 俺も見たいな」
話題はシエラのことで一色となる。
当然だろう。昨日も街中の話題をさらっていたのだから当然だ。
俺は恐る恐る、その冒険者に声をかける。
「その中に黒髪の女の子はいなかったか?」
「黒髪ですか? あー、金髪の子と一緒にいたような……でもあんまり覚えてないです」
そう、これだ。
最近わかったことだが、カナデの黒髪の呪いはシエラが一緒にいることで緩和されるのだ。
おそらくシエラの方が白の巫女として純潔であることが要因だろう。
王国ではカナデの黒髪は呪いの効果で絶大的に嫌われていた。
しかし、S級という権力を得たことで嫌々でも従わせる力を得ることができた。
ただ、王国で通用しても外国では通用しない可能性がある。
今回の仕事はカナデが外国出張が出来るかどうかという点もあった。
結果はシエラを側に置くことによって揉めることなく進めることができると分かったのだ。
なので今回、力配分的に俺とスティーナ、カナデとシエラで組ませるのが理想的だ。
しかしカナデとシエラは絶望的に相性が悪い。
なのでスティーナを間にかませるしか方法がなく、俺が1人。カナデ、スティーナ、シエラの3人で街の中の情報収集をお願いすることにしたのだ。
この辺りはまだまだ前途多難だな思う。
ギルドでの会話は打ち切ることにし、カナデたちと合流した。