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王の子供たち  作者: 真那川菜々


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第一話

「人気女優、黄瀬愛美(きせまなみ)(二十三歳)急死」

 

 良く晴れた日の、月曜日の午前七時。新聞記者の赤西京(あかにしきょう)は、何気なくつけていた朝のニュースのテレビ番組で、その一報を目にする。

 赤西は一人暮らし用のワンルームに備え付けられた、小ぶりな液晶画面を食い入るように見つめてしまっていた。

 画面には金髪のショートカットが印象的な、凛々しい女性。そういえば黄瀬愛美は、モデルとしても活躍していたな、なんて赤西はぼんやりと思った。

 テレビ画面の女性アナウンサーは淡々と、かつての黄瀬の活躍を背景にしながら、次のように伝えた。仕事の時間に連絡もなしに現れず、不審に思ったマネージャーが、黄瀬の家を訪問したようだ。

 それ以上の情報はまだないらしい。

 

「詳しいことが分かり次第、お伝えします」

 

 画面の向こうの女性アナウンサーは、こう述べて終わった。テレビ画面はもう、別のニュースを伝えている。赤西の胸がざわつく。この胸のざわつきはきっと、偶然ではないはずだ。

 赤西は動悸が止まらず、テレビを食い入るように見つめていた。しかしキッチンから聞こえてくるトースターの音で、正気に戻る。

 今日は出勤日だ。急いで準備をして、会社に向かわなければ。寝ぐせのついた短い黒髪を手櫛で整えながら、赤西はキッチンへ向かう。

 トースターから取り出した六枚切りの食パンを、雑に口の中へ突っ込み、コップに注いだ牛乳で流し込む。

 黄瀬のニュースに気を取られていた分、急がなければ。洗面所に置かれている髭剃りを雑に取って、鏡の前へ向かう。


「先輩って黙ってれば正統派のイケメンなのに、抜けてるところあるから、素直にかっこいいって言いにくいんですよねー」


 昔、大学時代に同じサークルだった、女性の後輩から、そんな人聞きの悪いことを、言われたのを思い出す。確かに今の寝起きの赤西を見て、イケメンなんていう方がおかしいだろう。

 今朝のニュースは、会社に行ってから続報を確認しよう。赤西の職場は報道機関だから、この件の最新情報はすぐに入ってくるに違いない。

 赤西は外に出るために身支度を急いで整え、背広を着て慌ただしく家を出た。




 赤西が出勤すると、新聞社のオフィス内は普段よりも、慌ただしいのが見てとれた。特に芸能部門のある階に出入りする、記者やカメラマンが多い。

 赤西が自分のデスクへと向かうと、フロアに置かれているテレビに、人だかりができていた。皆、黄瀬のニュースの続報が気になるのだろう。

 勤続二年目、まだまだ新米記者の赤西は、警察関係の取材を主な仕事にしている。これは新米記者が誰もが通る道で、新聞社の慣例となっていた。

 赤西は東京都内の本社勤務だ。黄瀬の件の警察の発表には、自分が取材に行くのだろう。赤西にはその確信があった。

 赤西は黄瀬愛美について、今売り出し中の若手女優で、モデル業もやっておりスタイル抜群。若者を中心に人気者だった、という世間一般程度の認識しか持ち合わせていない。そもそも赤西は芸能人に対して、特別入れ込んで気に入ることもなかった。

 だが、今朝のニュースを見てから、赤西の胸のざわつきが収まらない。実のところ赤西は大学生のころに、女手一つで育ててくれた母を事故で亡くしている。ちょうど黄瀬の件と同じく、ある日突然に。

 唯一の身内である母の死は、赤西の心に深く刺さって抜けていない。それから赤西は、人が前触れもなく突然亡くなる出来事に、敏感になってしまった。嫌が応にも母の死を思い出すから。

 仕事の支度を自分のデスクでしながら、赤西が黄瀬の件と母の死に、思いを巡らせていた時だった。


「よう、また例の癖か? お前の母親の件から結構経つのに、また考え事するなんて、お前ってマザコン体質が抜けないよなー」


 隣にいた同期から、軽い調子で揶揄われる。赤西は自分のこの母への感情がマザコン、と片付けられるのをひどく嫌っていた。赤西が同期を睨む。


「そう睨むなって、冗談だから! それよりも今日のミーティング始まるぞ。遅れたら上司に、なんて言われるかわかんないぜ?」


 なんて同期は、全く気にしてなさそうに赤西の元を離れて、ミーティングへと向かう。ふと腕時計を見れば、そろそろ始業の時間だ。黄瀬の件に気を取られて、全く気付いていなかった。

 今の自分は社会人なのだから、多少嫌なことがあっても表に出さず、仕事をこなさなければならない。赤西は慌てて椅子から立ち上がり、同僚たちが集まっている、フロアの中央に向かった。


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