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エピソード1:共依存

 「ヘッタクソね、魔法」

 「え」


 魔法学園への入学試験にて、凛とした声でそう呟かれた


 「あら、聞こえてた?ごめんね」


 美を表すならこの人自身、不覚にもそう思ってしまうくらい整った顔立ちの女の人がそこにいた

 真紅に染まったシンプルなドレス、陶器のように白く滑らかな肌、見る角度によって黒色にも、深緑にも見える光沢のある髪、切長な目に猫のような金の瞳、この女の人を形取る全ての要素が美を纏って構成されている


 「クスクス…レディバ嬢に怖気付いて何も言えないんじゃないの?」

 「クスクス…きっとそうだわ、だってあの女が今年の"落第者"でしょう?」


 落第者、言い方こそ違和感はあるが簡単に言えば入試テストで落ちてしまいそうな人を指す言葉だ

 魔法学園『ガルバトス』は来るもの拒まずというスタンスで有名であり、どんな人でも基本的には受け入れて育て上げるのが普通なのだが


 「クスクス…まともに魔法も使えないんじゃ無駄死にするだけよ」

 「クスクス…もう辞めて仕舞えばいいのに」


 学園側が『才能なし』と見極めた場合のみその者を落第者として試験不合格にしている。これは学園側の優しさだ

 才能がない人が何年間も魔法学園に居たって期待は持てないし、その人に他の才があった場合はその目を摘むことになってしまうから…………らしい。


 「貴女、杖の持ち方からおかしいわ」

 「え」


 レディバ嬢と呼ばれるその人はヒールを心地よく鳴らしながらこちらへ近づいてきた


 「そんな力任せに杖を握ったって意味ないわ、もっと肩の力を抜いて……そう、あとは杖の角度も低すぎるわね、あと五ミリ上に………行きすぎよもっと下げなさい………そう……そうよ……………それで魔法を使ってみなさい」


 レディバ嬢が私の肩を持ってあれやこれやと駄目なところを修正してくれる

 不思議と先程よりも杖と自分の魔力の一体感を感じる気がする

 さっき失敗した魔法をその調子で撃ってみると、遠くにあった的に見事的中させることが出来た


 「すっすごい……!!」

 「あの!レディバ嬢…でしたっけ……ありがとうございます!」


 私が深く頭を下げてお礼をするとレディバ嬢はふふんと鼻を鳴らした


 「そのくらいで満足だなんて言わせない事ね、精々頑張りなさい」


 そう言ってレディバ嬢は取り巻きを連れて何処かへ行ってしまった



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 「それじゃあ行ってきます」

 「たまには帰ってきてね」

 「…………寂しくなるな」

 「もう、ちゃんと帰ってくるから安心してよ」

 「…行ってきます!!」

 「頑張ってね」


 屋敷の門前で父と母に手を振って別れを告げる

 私はこの春、『ガルバトス魔法学園』へ合格し新たな人生を歩む事になった。それもこれもレディバ嬢のお陰だ。また会うことが出来たら今度はもう一回しっかりとお礼をしなくては


 馬車に乗り日を跨ぎ、街を跨いでまた日を跨ぐ、そうして見えてきたのは何度見ても目を奪われる荘厳なお城

 これから五年間暮らす事になる新しい環境だ

 

 暫く眺めていると五年間住む事になる寮が見えてきた

 古い作りだが綺麗に保たれて嫌悪感を湧かせない凄さに目が眩む

 私は馬車を降りて一直線に自分の部屋へ向かった。門を潜って庭を抜けて廊下にでた時に、ふと目が留まった


 中庭のベンチに見たことのある黒髪の女の人がいた

 私は迷うことなく中庭へ向かいその人の所へ駆けつける


 「あの!」


 勇気を振り絞って声をかけると本を読んでいたらしい人が振り返る


 「まぁ、合格したのね」

 

 あの日見た記憶の中で輝くレディバ嬢が、そこに居た


 「レディバ嬢!私ずっと言いたい事があって!」

 「レディバ嬢のおかげでわたs……「クスクス……『レディバ』がよくわからない低級貴族と話しているわ」

 「クスクス……しょうがないもの、その程度の人間しか相手にしてくれないのよ」

 「クスクス」


 私がお礼をしようとした瞬間、遠くからレディバ嬢に対する悪意が聞こえた


 「クスクス……誰だって近づきたくないわ」

 「クスクス……そうね、婚約破棄された女なんか碌でもないもの」

 「クスクス……平民に横取りされる程度だもの」

 「クスクス……裏では相当な性悪らしいわ」


 レディバ嬢へ目を向けると、拳を握りしめてグッと何かを堪えているようだった


 「貴女……私に用があるらしいけれど無理に話しかけなくていいわ」

 「それに、内心……貴女もどうせそうおもっているのでしょう。性悪のレディバと」


 そう呟いたレディバ嬢は、どこか寂しそうに見えた


 「レディバ嬢……私はそんな事気にしませんし何があったのかよく分かりません!」

 「……………は?」

 「なので、ただあの日のお礼をしたいだけなんです!あの時…レディバ嬢が私に魔法の使い方を教えてくれたので今日、ここに私はいる事が出来ます」

 「本当に、ありがとうございました!!」


 「……………大したことはしてないのに、ふふ」

 「貴女、名前は?」

 

 凛とした声が脳を駆け巡った。耳が熱を発した。一瞬呼吸が止まった気がした。


 「エカテリーナ・シュメーシュツ、子爵家の出です」

 「そう……エカテリーナ………これからはリーナって呼べば良いかしら」

 

 思わぬレディバ嬢からの提案に体が跳ねる


 「そういえば私の事もよく知らなそうだし自己紹介でもしましょうか」

 「私はレディバ・アムス・ジュピタルよ、一応公爵家なのだけれど……まぁ色々あって周りからは煙たがられてるわ」


 あ……また寂しそうな顔をした


 「……何があったんですか?」

 「言いたくないわ、言ってしまったら貴女にも愛想を尽かされそうだし……ここで暮らせばじきに嫌でも耳に入ると思うから」

 「ここで平和に暮らしたいならもう私に話しかけない方がいいわ、それじゃあ私は部屋に戻るわね」


 レディバ嬢はそういうとそそくさと荷物を纏めてどこかへ行ってしまった


   

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 レディバ嬢の勝手な態度に少し苛立ちつつ自分の部屋へ向かう

 そういえば部屋は学園側が決めた2人一部屋らしい。優しそうな人だと良いなと思い扉を開ける


 「し、失礼しま〜す」


 扉を開けるとふわふわしたブロンドヘアが特徴的な可愛らしい女の子がいた


 「えと、これからよろしくね」

 「貴女………もしかして」


 その子はゆったりと起き上がると一歩一歩近づき私の肩を勢いよく掴んでバッと顔を上げた


 「同室の子!?荷解き手伝って!!」


━━━━━━━

━━━━

━━


 「ふぅ〜ありがとね!あっ私はエミリ!エミリ・ラングナ!よろしくね!」

 「私はエカテリーナ・シュメーシュツ、よろしく」


 同室の子は見た目からは想像できない活発な子で、意外とすぐに打ち解けあう事が出来た

 出身地はどこかとか、何の科目が得意だとか、たわいも無い話をして暫く立った頃


 「……ねぇ」


 私はふとレディバ嬢について聞いて見る事にした


 「レディバ・アムス・ジュピタルについて何か知ってる?」


 私がレディバ嬢について聞いた瞬間、部屋の空気が二、三度低くなるのを感じた


 「レディバねレディバ………あ〜なに、エカテリーナ知らない感じ?まぁシュメーシュツ領って結構遠いし行き渡って無かったのかな」

 「レディバはね、人殺しだよ」


 血の気が引いた気がした


 「レディバの婚約者も多分知らないでしょ、レディバの婚約者ね…この国の第二王子だったんだよ。で、レディバがなにしたっていうと厳密には人は殺してないよ、ただ殺人未遂をやったの」

 「レディバは親友のソフィニアに魔法を撃って大怪我させたの…………まぁソフィニアと第二王子が裏で繋がってたなんて噂もあるから真相は知らないけどさ、それでも魔法を撃って殺しかけたのは本当」


 耳を塞ぎたくなるような事実が次々と流れてくる


 「まぁ極めつけは侯爵系以上のパーティーの場で婚約破棄されたのが原因かな、相当酷かったみたいだよ?嫌味」

 「それで皆んなの前でそれまでの悪逆非道を晒し上げられて、家を半ば追い出される形でここにきた……て感じ?」

 「いくら公爵家と言えども殺人犯と一緒には痛くないもんね〜エカテリーナも下手げに近づかない方がいいよ」


 その後のことはよく覚えていない。あのレディバ嬢が人に魔法を撃った?晒し上げられるような酷い人なの?

 その日は荷解きを終わらせて2人で大浴場へ行き、ご飯を食べて寝て終わった。明日の入学式へ向けて体を休め始める時が来た



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 「んんぅ」

 

 時計は4:45分を示している。まだ慣れない環境で早く起きてしまった

 エミリはまだ寝ているらしく剥がれた布団をかけ直してあげる

 制服に着替え、歯を磨いて顔を洗う。まだまだ入学式までの時間はあるが私は荷物を持って寮を出て見る事にした


 「眩しい」


 まだ朝も早いというのに朝日は容赦を知らずに日を照らしている

 廊下を渡って中庭のベンチに目をやると、忘れもしないレディバ嬢が静かに座っていた


 「おはようございます」


 声をかけると驚いたように振り返る


 「えっあっ?あぁリーナ…おはよう」

 「はい!隣失礼しても良いですか?」

 「………良いけれど、同室の子に何も聞いてないの?」


 まだ少し眠そうな舌ったらずな声が愛らしい


 「全部聴きました、レディバ嬢が殺人未遂をして婚約破棄された事も」

 「……そう、それじゃあ私は行くわね」

 

 立ち上がってどこかへ行きそうなレディバ嬢を引き止める


 「何をするの」

 「なんで行っちゃうんですか」

 「………貴女だって殺人犯の隣にはいたくないでしょう」


 私は胸が締め付けられた。この人はこれからずっと1人なのかもしれないと思うと、何故だかいても立ってもいられなくなった


 「だからなんですか、私はこれからもレディバ嬢の隣にいたいです……少なくとも私の知ってるレディバ嬢は優しくて、聡明で、どこか寂しそうな人だから」


 自分で言っていて不敬で訴えられないから怖くなりながらそっと掴んでいたレディバ嬢の裾を離す

 するとレディバ嬢はどこへも行かずにその場でコチラへ振り返った


 「………聞いてくれる?」


 レディバ嬢は私の腕を掴むと寮を抜けて街を抜けてひっそりと佇んだ滑り台とベンチのみの公園にたどり着いた


 「ちょ…レディバ嬢?」

 「リーナ…私の全部を聞いて…貴女に聞いて欲しいの」

 「………」


 レディバ嬢がそうして話し始めた内容はこうだった


 レディバ嬢はわずか5歳にして第二王子との婚約が決まりそれからは王政に携わるための勉強しかしてこなかったそうだ

 遊びたい事も欲しい事もやりたい事も全て王政の勉強の妨げになるからとやらせて貰えなかったらしい

 そして……そんな我慢を積み重ねた中にある事が起きた

 親友のソフィニアと第二王子が愛し合っている場面を見てしまったらしい


 「王子ったら、レディバほっといてこんなことしていいの?」

 「アイツガード高くてヤれないし、どうせ結婚したらヤりまくれんだから良いんだよ。それよりも今は自由に君みたいな可愛らしい子を抱きたいな………ほら、アイツって妙に大人びてるからさ」

 「やんっ♡どこさわって、あん!気持ちいい」


 我慢の限界だったらしい

 人が5歳から、5歳というあまりにも幼過ぎる頃合いから必死に勉強し、努力し、国の為にと頑張ってきたのにコイツらは甘え、遊んで、だらけている

 レディバ嬢はそんな2人を見てこれまで我慢していた事が爆発して魔法を2人に向けて撃ってしまったらしい

 幸いなのか残念なのかは知らないがレディバ嬢の撃った魔法はソフィニアだけに命中した。

 その後は城の警備がレディバ嬢を捕まえて、第二王子がありもしないレディバ嬢の性悪情報を撒いて例のパーティーで見せつけかのように晒し上げた

 というのが本人による事実らしい


 話し終えたレディバ嬢は静かに啜り泣いていた


 「私だって……頑張ってたの……に…ひっく、なんで……あんな仕打ち……ぐすっ」

 「レディバ嬢……」

 

 私はレディバ嬢をそっと抱きしめて背中をさすってあげることしかできなかった。私が何かを発するには余りにも重過ぎる内容だからだ


 「りー……な」

 「はい、何ですか」

 

 レディバ嬢はぎゅっと私の背中に手を回して私をベンチに押し倒す


 「少し……このままで…」

 「はい」


 レディバ嬢の背中に回す手の強さで、どれだけの悔しさを、侮辱を味わったのかを少し感じる事ができる

 自分には全く関係のない場所でのいざこざだが何故だか無性に腹が立つ


 「ん……」


 思わず強く抱きしめ返してしまうがレディバ嬢は何も言わずに抱きしめる力を強めてくれた



━━━━━━━━

━━━━━

━━━



 「もういいわ、ありがとう」

 「はい!……………レディバ嬢、その話みんなにはしないんですか?」

 「第二王子はね、世間では品行方正文武両道の完璧人間で通っているの、だから私が何か言ったところで意味ないのよ」

 「それよりもリーナはこんな話を信じるの」

 「前も言ったと思うんですけど私は落第者一歩手前だったのをレディバ嬢に救われてここに居るんです」

 「だから、私は何があってもレディバ嬢の味方です!貴女に救われたこの学園生活、全部レディバ嬢に差し上げます!」



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━━━━━

━━



 不思議な子だな……そう思った

 この国では珍しい銀色の髪、エメラルドのように光り輝く綺麗な瞳、私よりも少し背の低い女の子、そして何より、入試試験で少し魔法を教えてあげただけなのにこんなに私を慕ってくれているところ

 その全てが、何故だが目を離せない


 「レディバ嬢?」


 極東の島国で聞いたことのある風鈴のような音色の声が体の奥へ浸透していく


 「学園生活を私にくれるなら……多少のお願いもして良いのかしら」


 この子を離したくない、もう以前のようにはなりたくない


 「リーナ、貴女のこれからの五年間を全部私にくれないかしら」

 

 リーナは光り輝やいた目でズイっと私に跪き、私の手の甲にキスをした


 






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