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よくある悪役令嬢だったはずなのに  作者: 白井夢子


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50/53

50.姿なき悪役王女


学園の門の前で、ちょうど王家の馬車とすれ違う。


窓越しに一瞬だけ目が合ったベアトリス王女が、勝ち誇った笑みを浮かべていた。

フェリクスたちをオレーリアに会わせないことが嬉しいのだろう。


(ほんとつまらないわね。せっかくこの指輪を見せてあげようと思ったのに)


オレーリアは、指先で輝く石を見つめながら、ふう……とため息をつく。


指先には、父に頼んで取り寄せてもらった希少な石の指輪が、豪奢な輝きを放っていた。

先日、『一千年ぶりの奇跡の目覚め』と題された新聞記事で、大きく報じられたばかりの希少石だ。


淡い光を閉じ込めたような石は、角度を変えるたびに色を変える。透明な奥底では、虹色の光がゆらゆらと揺らめいている。


この石が地中から姿を現したこと自体が奇跡とされ、市場に出回ることなどまずない。

小ぶりとはいえ、これほどの石を使った指輪なら、その価値は一国の王女であっても気づくはずだった。


オレーリアに激甘な父が、娘にねだられて嬉々として買ってくれた指輪だ。さりげなく自慢したかったのに。


(ちょっとくらい残ってくれててもいいじゃない)


オレーリアは、とても残念な気持ちで指輪を眺めた。




昨日よりも早く来たというのに、すでにセドリックは階段の下に立っていた。


「あら?セドリック様。お時間にはまだ早いですよ」


「そうやってオレーリア嬢が、少しずつ来る時間を早めるからでしょう?残念ながらベアトリス王女は、すでに退室されましたよ」


目を瞬かせたオレーリアに、セドリックはため息をつきながら答えた。


「そうみたいですね。さっき門の前で、王家の馬車とすれ違いました」


オレーリアも指先の指輪に目を落としながら、ため息をつく。


「……ほんと、つまらない自慢なんかのために、予定を変えるなんてどうかしてるわ。全然指輪を見せられないじゃない」


「確かに、つまらない自慢なんかのために予定を変えるなど、どうかしてるとしか言えませんね。呆れるばかりです」


つい呟いた愚痴に、セドリックも呆れたように言葉を返した。


「そうですよね!本当に呆れるばかりですよね。明日こそは会えるように、もっと早く来なくっちゃ!」


(わかってるじゃない!)


オレーリアが笑顔を向けると、セドリックはもう何も言わずに、腕を差し出した。






生徒会室に入ると、セドリックが引き出しから一枚の手紙を取り出した。


「フェリクス様からです。宛名は書いていませんが」


差し出されたのは、涼しげなアイスペパーミント・カラーの封筒だった。

表面には、王家の紋章を思わせる繊細な唐草模様が浮かんでいる。

確かに王家のものだ。


(ベアトリス王女様に見られるとうるさいから、セディ様に渡した、ってとこかしら?)


席について早速封を開けたところに、セドリックの声がかかる。


「屋敷に帰ってから、ゆっくり読まれてはどうですか」


「え?フェリクス様ですよ?急ぎの用件以外、ないじゃないですか」


(ゆっくり読んでいいような話じゃないでしょ?)


フェリクスが、用もないのにオレーリアに手紙を書くわけがない。

婚約解消後に初めて受け取った手紙も、生徒会長として必要に駆られて送られたものだった。

その後に届いた手紙も同じだ。

緊急の用件ではなくても、いつだって生徒会長としての立場からの連絡ばかりだった。


微妙な顔をしたセドリックを気にせず、オレーリアは手紙に目を走らせた。



「……あら」


(急ぎじゃなかったみたいね)


オレーリアが毎日生徒会室に足を運んでくれていることへの感謝と、ろくに顔を合わせることもできず、仕事まで任せてしまっていることへの謝罪。

そして、ベアトリス王女のことを止められずにいる事情と、メルバ国とグラン国の条約が無事締結された暁には、改めて説明したいという言葉。


手紙には、そんな感謝と謝罪が長く丁寧に綴られていた。



「そんなこと気にしなくていいのに」


手紙を見つめながら呟く。


仕事の手伝いだけであれば面倒くさいだけだが、ある程度仕事さえこなせば、あとは楽しいことばかりだ。

屋台のお菓子だって買ってきてもらい放題だし、学園帰りにたまに寄るグランディエ侯爵家の訪問も、面白い。


毎日テオドールから聞かされるベアトリス王女の暴言には、ときおり悪役令嬢としての闘争心を掻き立てられるが、会えさえすれば返り討ちにする自信はある。


「セドリック様。フェリクス様に、『お気になさらず』とお伝えください。……あ」


(そうだわ)


ふと指輪の存在を思い出す。


「それと、『もう少しだけ、お帰りを待っていただけると嬉しいです』とお伝え願えますか?」


「フェリクス様への返事は、オレーリア嬢自身がお伝えください。それと……ベアトリス王女に伝えたい言葉も、ぜひご本人にお伝えください」


頼んだ伝言に、冷ややかな声を返される。


(セディ様は相変わらずフェリクス様に誠実な側近ね。でも、まあ……確かにそうかも)



「カミラ。カバンから便箋を取ってちょうだい」


そう言いつけると、カミラがすぐに便箋とペンを用意してくれた。

ペンを手に取ると、また声がかけられる。


「今ここで返事を書くのですか?屋敷に戻られてからゆっくり書かれてはどうですか?」


「え?どこで書いても一緒じゃないですか?」


(ここで書いたからといって、不敬ってわけじゃないでしょう?)


心の中の反論が伝わったのか、セドリックはそれ以上何も言わなかった。

静かになった部屋で、サラサラと文字を走らせる。


『丁寧なご説明ありがとうございます。グラン国にとって大切な時期であることは理解しておりますので、どうぞお気になさらず』


(完成ね)


ペンを置いて、読み返す。


(……さすがにちょっと短かすぎるかしら?)


受け取った何枚もの手紙に対して、ほぼ余白の一枚は、どこか失礼に思えた。

もう少し書き足そうと再びペンを取って――手が止まる。


(フェリクス様がますますピリついてるって、テオ話してたわね)


テオドールの話では、ベアトリス王女に振り回されるフェリクスの機嫌が、過去最高に悪いらしい。


『王女がリアの悪口言うたびに、部屋の温度が下がってくんだよ』


疲れた声でそう話すテオドールを思い出す。


(テオも私の悪口には怒ってるみたいだけど、フェリクス様がいたら冷ましてくれそうね)


そんなフェリクスに、『昨日はグランディエ宰相夫人から、楽しいお話を聞きまして』などと呑気な事を書けば、極寒の苛立ちがオレーリアに向けられるかもしれない。


(有意義な何かを……)


そんなことを考えながら、サラサラとペンを走らせる。




「……終わったわ。ニナ、飛び切り甘いものが食べたいわ。カミラ、肩のマッサージをお願い。……あら。失礼しました」


どれくらい時間が経っただろうか。

ペンを置き、ぐっと腕を伸ばしながら声をかけ、ここが自分の部屋ではないことに気づく。


目が合ったセドリックに、オレーリアは微笑んだ。


「セドリック様。お手紙を箱に入れておきますから。明日フェリクス様にお伝えくださいね」


「……箱?」


セドリックが訝しげに眉を寄せた。


「あそこの、いつもの手紙箱ですよ。今日は予算表のまとめではなく、生徒会長にご確認いただきたい案件を、手紙を兼ねて、フェリクス様に提出しておきますね」


「……提出?」


「真面目なお手紙ですから。ちゃんと目を通してもらってくださいね」


セドリックにそう声をかけ、まとめた手紙を折ると、かなり分厚かった。


「一枚の便箋に入るかしら?――ガゼル、この折り目をしっかり押さえてちょうだい。厚みをなんとかできる?手紙を二通に分けると、集計表が伸びて、ベアトリス王女を調子に乗らせることになるから」


言いつけられたガゼルが、手紙の折り目に沿って指を滑らせると、手紙は一瞬で厚みをなくした。

手渡された手紙を封筒に差し込むと、難なくすっと収まった。


「さすがガゼルね。私の護衛はやっぱり素晴らしいわね。もう……ベアトリス王女様は、なんでこういうところを見てくれないのかしら」


今日も指輪自慢も、護衛自慢もできなかった。

ベアトリス王女が一瞬頭をよぎり、また残念な気持ちになる。



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― 新着の感想 ―
オーレリアは、鈍感と言われても仕方ないかなぁ。 テオ初め生徒会メンバー全員に好意を持たれてることに 全く気が付かないのですもの。 最終的に誰と結ばれるのか楽しみです。 早く王女に鉄槌が下ると良いのに…
作者様が良しとする話のテンポと読者が求めてる話のテンポが噛み合ってないのか、ただ単にネタ切れだから展開を引き延ばしてるのか…。 セルフィ編はさくっと読めて楽しかったし、キャラ同士のやり取りも面白くて…
あー(・o・)…オモシロイけれど! そろそろ進展?欲しいっす♡
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