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アルタイルの終生 〜 後悔の人生、今世で優しくやり直す~  作者: 葛西 
第一章 ルーヴァ村

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第一話 もう一つの家族

少し長いかもしれませんが、お付き合いいただけると嬉しいです!


その時、キーン!と頭にまた激しい痛みが走った。

まるで耳鳴りのような雑音――


だが、痛みは数秒で消え、代わりに耳に聞き慣れない言葉が響いた。

「ビコーニエナー!」


目を開けると、天井…ではなく、木で編まれた天幕。

草と土の匂い。

男と女が嬉しそうに抱き合っている。


「べりい、」

なんだ、そういうの、見せないでくれよ。

ははっ……俺の走馬灯、どんだけスケベなんだよ。


多分これは地獄だ。童貞で死んだ俺を後悔させるための。

悪神め。ふざけるな。


前に手を伸ばして男を殴ろうとした――

だが、手がない。死んでしまったのだから当然だ。


それでも、なぜか手が少し動いたような気がした。



「……あいー?」

声を出したつもりなのに、

喉から漏れたのは知らない音。


違和感に押されて横を見ると……

そこに、小さな手。

(……誰のだ?)


震える視線で手首へ、腕へと辿っていくと――

その腕はなんとなんと!

俺自身の胴体へと繋がっているではありませんか!


頭が真っ白になる。



俺は泣いた。

涙が勝手に溢れた。

そう、驚きのあまり勝手に体が泣いた。

「あびーあびーあびー」


女が嬉しそうにしている。

もう一度自分の手を見る。小さいな。

なんとか体全体を見ようとすると、「サリ?ターマガラ?」と言い、俺の気持ちに気付いたのか鏡を持ってきた。


俺の気持ちに気づいたのか。役に立つ女の人だ。

女は鏡を俺に当て、「ばあ~」と言い、俺の姿を見せた。


鏡に映っていたのは、赤ん坊の姿だった。

思考が停止するような感覚。

……マジかよ。俺、生まれ変わったのか…...?


腕を上げようとしても、プルプルと震えてすぐに落ちる。


そしてまた泣いた。この体は驚きも涙に変わるらしい。

ちゃんと目も機能しているし、耳もちゃんと聞こえている。俺生きてる…...いやこれは人生のやり直し。


意識だけははっきりしていた。

母親らしき人が、布にくるまれた俺を抱き上げる。窓の外に向けると、山々が見えた。空は二色に分かれていた。淡い青と、うっすら紫。


ーーその景色に、強い既視感を覚える。

(……あれ?この空、見たことがあるような)


頭の奥で何かがざわついた。

女の人が「ばりい、すぎ」とにこにこしながら見せてくる。ありがとうね。持ってきてくれて。


だが、その思考はすぐに変わる。

この男と女がハグしたからだ。「ハリー」

言語が分からなくても、今愛し合っていることだけはわかる。嫌気がさした。


そんな幸せそうなその光景が、なんか胸に刺さった。


俺は女とハグした経験なんてないんだぞ!

でも、ちょっと待て……


もし、この男が俺の父親で、女が母親だとすると……もしかして、この人たち、俺の親……?

もう眠くなってきた。


考えすぎたんだ、きっと。

この一年、ろくに勉強もしないでゴロゴロして飯食ってただけの俺が、こんなに頭を使ったんだ。そりゃ疲れる。


おやすみしますか。お子ちゃまである俺は。

いや、待て。その前に一つ、心に刻まなければならないことがある。


……俺は、もう一度チャンスをもらえたんだな。

後悔を胸に進んでみよう。


生きる意味は、楽しい人生を送ること。

ただそれだけでいい。けれど努力しないと取り返しのつかないような後悔がやってくる事を俺は知っている。だからこそ全力で生きてやる。


そして、彼女を作って充実した人生を送ってやるんだ!

やってやるさ、今度こそ、生きてやるよ。


誰に笑われてもいい。この人生は、俺のもんだ。


…...それにしても、腹が減った。

やっぱ、赤ちゃんって不便だな……


でも、まぁ……最初の人生よりはマシか。

俺は眠い目をゆっくり閉じてまぶたの裏で”色々”考えていた。




*****


勇者と魔王の逸話


昔々――若くして勇敢な少年がいました。

人々は彼を“勇者”と呼んでいました。


ある朝。勇者テアイルは目を覚ます。


外が騒がしい。何事かと思えば、魔王の軍勢――魔族が攻めてきていた。

すでに村の外では交戦状態。


眠気を振り払いながら、テアイルは考える。

「今日は豊作の日だぞ……。わざと狙ってきたのか?」


太陽は雨雲にのまれかけていた。嫌な予感がする。

そのとき、宿屋のドアが叩かれた。

「勇者様! 魔族が攻めてきています!」

「……やるしかないな」

勇者テアイルは果敢に外へと飛び出していった。


――だが、彼がどう戦ったのかを見た者はいない。

村には戦える者など一人も残っていなかったから。


皆、魔王討伐のために北の大陸へ向かっていた。

体調を崩していた勇者だけが後れを取り、ひとり村に残っていたのだ。

しかし、その状態でも彼は強かった。


水属性の彗星級魔法グラゾーノを放ち、ただひとりで魔族を押し返した。

村人たちは涙を流して勇者テアイルに感謝した。


その日は“豊作の日”。収穫は減っていたものの、村は宝物庫のように実りであふれた。


やがて勇者テアイルは怒りを胸に北へ向かう。

道中で二人の勇者と出会い、嵐が吹き荒れる海を越え、ついに魔王城へ。

そこにいたのは、巨大な体躯と禍々しいオーラを纏う魔王。


戦いが始まると、大地は揺れ、町では地震が起き、人々は恐れた。

それでも三人の勇者は退かなかった。

苦戦の末、放たれた大魔法が魔王を貫き、ついに討伐を果たす。


人々は歓喜した。彼らは「三大英雄」と呼ばれ、村では毎日のように宴が続いたという。

――おしまい。


おぉ〜……すごいな。この世界には魔王がいるのか

……ところで、なんで俺言葉を分かるのかって?


寝て起きたら、自然に理解できるようになっていた。

もしかしたら前世の記憶があるからなのかもしれない。いや、でも言語は全く違う。聞いたこともない言葉だ。


それなのに頭の中で勝手に変換される――。

不思議すぎる。

……まぁ、でもいいか。分からないもんは分からないもん!


そんなことを考えていると、父親が呟いた。

「何回俺は、この話を読み聞かされたことか」

母が微笑みながら言う。

「それだけ有名な話ですから」


父は少し真顔になる。

「……まぁな。けどこれは、一人の英雄が酒を飲みながら語った話らしい。誰かが美談に仕立て直した可能性もある」

まぁある?のかもしれない、そんなの日本の歴史では沢山それで溢れかえっているだろう。



そう感じた瞬間――ズキッ、と頭痛が走った。

強い痛みではない。けれど、ひっかかるような違和感。

痛みはすぐに消えた。気のせいだろうか。


あ、そういえば自己紹介をしていなかったな。


この大きな体の父親と、優しい笑顔の母親。

父の名前はプロキオ。母の名前はアルシラ。

そして俺の名前は――アルタイル。

呼び名は“アル”。

家名は「アステル」。

だから、アステル・プロキオ、アステル・アルシラ、アステル・アルタイル。


……うん、現代日本だったら完全にキラキラネーム扱いだろう。


前世の俺の名前は、おがみ 貴志たかし

もう必要のない名前だ。

けれど、忘れたくはない。

あの世界での努力を無駄にしたくないから。


誰にも褒められなかったからこそ、自分で覚えておかないといけない。

今の俺には――アステル家として生きていく使命がある。


これは当たり前のことじゃない。


もしかすると、死んだ人間はみんなこうやって転生しているのかもしれない。


……でも、俺だけ特別、そう考えた方が都合がいい。

そう思うと頑張れる。

本当なら死んでいたはずの俺。

けれど今、ここにいる。

与えられた“特別な時間”。


これを大切にしよう。

だから俺は、必死に生きてみるんだ。

他の人は“本当の0”からやり直すことなんてできない。

でも俺は、“完全な0”からやり直せる。


奇跡みたいな話だ。

不公平で理不尽だって分かってる。

それでも。

俺はもう一度、生き直してみる。


夜。

眠っているはずの脳がざわめきはじめた。


――剣を握る三人の影。

――炎に焼かれる空。

――輝く魔法陣。

どれも断片的で意味を成さない。


だが“感情”だけは、鮮烈に流れ込んでくる。

恐怖、怒り、焦り、絶望。

そして、ほんのわずかな希望。


俺は飛び起きる。あれは夢だったのか?

分かるのは、頬に涙が伝わっていたということ。


理由は分からない、けれど確かに思った。

(…..なにかがあった)

その確信だけが胸を締めつける。


――だが、今の俺は赤子。

言葉も、歩くこともできない。

けれど心だけは叫んでいた。

(また始まる……)


柔らかな温もりに包まれている。

近くに響く心音、小さな揺れ。

……母の腕の中だろうな

「ねぇ、この子はどんな能力を持っていると思う?」


アルシラ――母が、目を輝かせて言った。

「それはまだ分からんさ」

父、プロキオが肩をすくめる。


「ふふっ、もしかしたら勇者になるかもしれないわよ」

嬉しそうに笑う母。


その笑顔は、見ているだけで胸があたたかくなる。

「……まぁな。でも逆に“呪い”ってのもあるだろ? もし嫌な運命が定まっていたら……」


プロキオは目を伏せた。

ほんの一瞬の沈黙。


「やめてよ! 縁起でもない!」


俺は強く抱きしめられた。

(いってぇ……赤子相手に容赦ないな、母さん)

「でもな。呪いも悪いもんばかりじゃない。剣聖なんてのは“呪い持ち”だって噂だ」

……呪い。


どうやらこの世界には「定められた運命」というものが存在するらしい。

剣聖のように、必ずその運命に従って成り上がる者もいる。

(なるほどな……。この“呪い”ってやつ、ただの遺伝や才能って話じゃなさそうだ)


父は落ち込んだように呟く。

「……俺はアステル家の落ちこぼれだ。だから俺達の子にまで期待は背負わせたくない」


落ちこぼれ。

その言葉に、胸の奥がちくりと痛んだ。

理由は分からない。でも妙に共鳴してしまう。


数日が過ぎた。

俺はただの赤子。

でも、胸の中はワクワクでいっぱいだった。


なぜかって?

(この世界には、本当に魔法がある!それに剣も!!)

母さんが料理する時指から火を、父さんは剣で素振りをしていた。そして俺は見た父さんの剣技を!!早かった。あれを俺ももしかしたら使えるのかもしれない。


死ぬ前に買いに行ったラノベだって、勇者が剣と魔法を駆使して仲間と共に魔王を倒す話だった。

憧れていた。夢に見ていた。


そして今、その舞台に俺はいる。

(いいじゃないか……! だったら、やってやろうじゃないか!!)


転生した理由なんて分からない。


不公平で理不尽だってことは分かってる。

それでも――胸の奥がじんじんと熱くなる。


俺はもう一度、動き出せる。

その事実だけで、心が勝手に走り出していた。



本当は、あの時ちゃんと立ち上がるべきだった。

それでも俺にはできなかった。


……不登校のあの期間。

あれは必要な時間だったのかもしれない。




もし高校という別の入り口に立てていたら、また歩き出せたのかもしれない。


でもそれはもう確かめられない。

ただの“もしも”だ。


そう、俺はあそこで死んだ。そして俺は0から変われたんだ。

だったら、迷う理由なんてないだろ。

俺はこの世界で、

楽しく生きたい!でも絶対辛い事が待っている。だから”本気で生きてみよう”



諦めたくなる日もきっと来る。

それでも弱音は吐くな。

弱音を吐いたら、その言葉に縋ってしまうから……


ここまで読んでくださりありがとうございます!

感想待ってます!!

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― 新着の感想 ―
呪い……まぁ、勇者も呪いと言えば呪いかも知れませんね。 戦うのを強要されるような呪いは、個人的にはちょっと遠慮したいなぁw (´ε`)
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