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アルタイルの終生 〜 後悔の人生、今世で優しくやり直す~  作者: 葛西 
第二章 学園編

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第十七話 夜に灯る、小さな火


 朝、いつもより少し遅く起きた。

窓の外では何かの虫が鳴いている。セミ?に似ている気がする。


 そんないつも通りの夏の朝だった。



 階段を降りると、キッチンで母さんがパンを焼いていた。

「おはよう、アル。昨日帰ってくるの遅かったじゃん?」


「……うん」

「だから、あんまり遅くならないようにね」

 それだけの会話。


 母さんはもういつも通りで、怒っても泣いてもいない。

 けれど、ほんの少しだけ――


 背中の向こうから“心配”がにじんでいた。

 俺はその背中を見つめて、小さくうなずいた。

(……俺、ちゃんと帰ってきたんだよな)



 学校へ行く道。

 虫の声が遠くで鳴いていた。夏の空気は外に出ると少し重い。


地面の照り返しがやけに白く見えた。

昨日血の色を見たせいだろうか。


普通の朝が、少しだけ違って見える気がした。


学校に着く。すると、廊下の向こうからノエルが手を振った。


「あ、アルー! 昨日どこに行ってたの?」


 少し遠慮してるようで元気な声が、教室中に響く。

「ちょっと用事があって、一人で帰った」

「なーんだ、心配したんだよ?」


 ノエルが笑いながら優しくポンポンと肩を叩く。

 その仕草に、俺は少しだけ安心した。こうして笑い合える時間が、何より楽しかった。


 やがてチャイムが鳴り、教室に静けさが戻る。

 扉が開き、教師――エレナ・フォルティアが入ってきた。


 涼やかな声と、どこか遠い世界を思わせる雰囲気。

 生徒たちは自然と姿勢を正した。

 白いブラウスの袖口を整えながら、教卓に立つ。

 その仕草はいつもと同じ。


 だが、昨日“あの姿”で見た記憶が頭をよぎり、俺は一瞬だけ呼吸を止めた。

「では、今日の授業を始めます。教科書の二十四ページ――“東南大陸戦争とその終結”」


 チョークが黒板を滑る音。

 ページをめくる音。

 ただの歴史の授業。

 けれど、俺の耳には妙に遠く響いた。


これは東の国と南の国が戦争したという”歴史”。

なのに、戦争。守るための戦い。犠牲。

その言葉のひとつひとつが、重い。


ただ、ページ上の戦争はまるで紙の上でしか生きていない。


けど昨日の俺はその匂いに高いものを嗅いだ。


昨夜の記憶が掘り起こされそうだ。


「この戦争では、“勝者”も“敗者”も傷を負いました。争いのあと残ったのは――“自分は何を守ったのか”という問いです」

 黒板の前で話すエレナ先生の声。


 穏やかで、どこか哀しみを含んでいた。

 その一瞬、目が合う。

 俺は思わず視線を逸らした。

(……やべ)


 チョークが止まり、教室が静まり返る。

「では、アルくん。あなたなら――戦争の中で何を守りますか?」


 突然の指名。でもこんなの日常茶飯事だ。

エレナ先生、目があったら指してくるんだよなー。


「え、あ……」

 言葉が出ない。

 

なんて言うのが正解なのかよく分からなかった。

だから、戦争というなかじゃなくて、守りたいもので考えた。その時に出た答えが、

「……家族や友達です」

「家族や友達?」


「はい。自分が守りたいのは、自分にとって失いたくないもの。それが全ての理由です。」

 エレナ先生の目がわずかに細まる。

 どこか微笑んでいるようでもあり、試すようでもあった。


「なるほど……いい答えです」

 その声が、静かに心の奥に落ちた。


 クラスの空気がいつの間にか緩み、またページをめくる音が戻る。

クラスの皆んなは自分じゃなくてよかったーという安心感が残っていたから。

 けれど俺の胸の中だけは、まだ波立っていた。



そこでチャイムが鳴り、みんなは教科書や筆箱をしまい始まる。


みんなはウキウキしている。なぜなら、昼休みだからだ。


みんなが廊下、食堂、で過ごす中、俺たちは屋上いた。屋上の風は、白い雲を切り裂くように吹き抜けている。


前世の学校は屋上に行かなかったから少し新鮮で楽しい。けれど最近は慣れてきてそれも薄れてきてしまった。



そんな昼休み、

俺とノエルはパンをかじっていた。

「今日、暑くない?」


「風はあるけどな」

「こういう日は授業中に寝落ちするんだよね」

 ノエルはあくびをしながら、焼きそばパンを両手で揺らした。


 俺はそれを見ながら、曖昧に笑った。

 昼の光は白く眩しくて、校舎の窓を反射している。

 遠くからワイワイと遊ぶ声とボールの音。

 いつも通りの光景。

(みんな食べ終わるのはやいな)


「アル、さっきの授業……真面目だったね」

「え?」


「いつもは当てられてもぱって答えて余裕ぶるのに、今日はちゃんと答えてたじゃん」

「……たまには」

余裕ぶるって思われたのかよ、恥ずかしいな。

だって余裕ある男ってかっこいいじゃん!


「“家族や友達”とか言ってたよね。やっぱり、大切な人たちだもんね」

 パンをかじる音が止まる。


 風の音だけが残った。

「その中に私も入ってたりして」

「入ってるよ、ちゃんと。ここでの初めての友達だから」

 「私も入ってるよ。アルは大切な人」

ノエルは一瞬何かをいいかけてやめた。


風が吹いて、ノエルの髪が頬に当たった。なぜかその感触だけ覚えている。

「あ、ありがと」

(……こう言われるとちょっと照れるな)

なんだか少し、胸の高鳴りを感じた。


「いいね、どっちも大切に思える仲って」

 ふたりで笑った。

どっちも大切に思える仲か……俺は前の世界でそれを築けていたのだろうか。



夜、窓の外の風が、ゆっくりとカーテンを揺らしていた。

 勉強机の上には、開きかけのノート。

 ペンを持つ手が止まり、俺はつぶやく。

「つかれた」


 そのとき――

 部屋の空気が、ひんやりと変わった。

 影がひとつ、月明かりの中で形を取る。

「疲れたのか?」


 低く、女性らしい穏やかな声。

 虚無の王が、そこにいた。

「……また来たんだ」

「“また”とは、人間らしい言葉だな。私はただ、確認しに来た」

「なにを?」


「お前の心だ。昨日の言葉が、まだ本物かどうか」

 俺は少しだけ目を伏せた。

「本物だよ」

「なぜそう言える?」


「……家に帰ったら、母さんが普通に夜ご飯作ってた。それ見て、ああ、守りたいって思った」

 レイラは黙って俺を見つめる。

 夜の風が二人の間を通り抜ける。


「ふむ。答えは単純だが、悪くない」

短い沈黙のあと、レイラは続けた。


「ならば、私もお前にひとつ言おう。“守る”という言葉は、力を持つ。だがそれは、時に誰かを傷つけてしまう。それでもやりきれるか?」


 俺は息をのんだ。

 レイラの言葉には、どこか遠い哀しみがあった。

「それでも、お前は――守りたいか」


 俺はゆっくりとうなずいた。

「うん。守りたい」


 レイラの口元に、かすかな笑みが浮かんだ。

「……ならば、迷うな」

 その言葉とともに、夜の風が、彼女の気配をさらっていった。


 残されたのは、夜の静けさだけ。

 俺は窓の外を見上げた。

 街の灯りが、遠くでぽつぽつと光っている。

(守りたい……この光を)


 胸の奥に、小さな炎が灯る。

 それはまだ弱く、頼りない。

 けれど確かに――そこに在った。

「おやすみ」

 小さくつぶやき、俺はカーテンを閉じた。


世界がほんの少し、俺に力を与えてくれているような気がした。



どうでしたでしょうか!

人それぞれ感じるのが違うと思います。でもそこが小説の良いところ。是非感想お待ちしております!

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