第十五章:青年の仲間達
少年が小屋に着くと青年騎士は葉巻を吹かしていた。
ただ辺りを見れば足跡が幾つもあったし、青年の衣服も擦り切れたりしている。
そして血の臭いもしたから・・・・・・・・
「・・・・襲われ、たんですか?」
少年が意を決して問うと青年は葉巻を口から離して頷いた。
「敵じゃなかったが・・・・な」
葉巻を再び銜えながら青年は言い、視線を4人の騎士に向けた。
「遅かったじゃねぇか」
「申し訳ありません。しかし到着予定の内ですから大目に見て頂けると幸いです」
鷲鼻の騎士が青年の言葉に苦笑しながら弁解すると青年は紫煙を吐いた。
「・・・・おい、小娘。包帯を坊主に巻いてやれ」
少年は今更になって額に包帯を巻いていない事に気付いた。
しかし小聖職者は青年の命令に異を唱えた。
「包帯より治癒魔法の方が・・・・・・・・」
「傷痕が残らないってか?“向こう傷は問わない”なんて諺もある」
「そんな諺は詭弁ですっ。神から授けられた体を傷付けたままにするなんて・・・・・・・・」
「坊主の親は死んだ。そして俺等も消えたらまた一人になる。そうなれば・・・・また、あいつ等がちょっかいを出すかも知れねぇ。だが向こう傷を持っていれば一目置くだろう」
青年の言葉に4人は頷くが小聖職者は尚も食い下がる姿勢を見せた。
それを少年は男女の「明確な違い」と見たが、小聖職者の気持ちも解っていたので沈黙を続ける。
しかし・・・・・・・・
「お前は外の世界に出る。そうだろ?」
青年の問いに少年はハッとした。
『そうだ・・・・僕は大きくなったら旅に出るんだ。この騎士のように強くなりたいんだ!!』
「・・・・包帯を巻いて下さい」
少年の言葉に小聖職者は難色を示したが少年は言った。
「僕は、貴女様を護って傷がついたんです。それは僕の“誇り”です」
「・・・・何で男の方は、何でも誇りとか言うのですか?」
小聖職者は青年達を見ながら問い掛けるが、包帯を出す辺り自分の意を汲むつもりのようだと少年は察した。
「漢だからさ。そうだろ?」
ぶっきらぼうに答えた青年だが4人にも問い掛けた。
『御意のままに』
4人は青年の問いに迷わず頷いたが小聖職者は理解できないのだろう。
「まったく・・・・治癒魔法を掛けてもらいたくなったら何時でも言って下さいね?」
嘆息しながら小聖職者は少年の額に包帯を巻き始めた。
それを見てから青年は仲間達と会話を始めた。
「ここで飼われている獣・・・・どう見る?」
「恐らく召喚魔法で異界より呼び寄せ”融合”か”蠱毒“の真似事をさせたのでしょう」
青年の問いに6人の中で最年長に当たる壮年の騎士が答えるのを少年は聞きながら壮年の騎士が村で口にした修道院を思い出した。
『聖ニコラ修道院は確か“槍術“を教えていたっけ』
少年は村の教会に居る修道士が教えてくれた過去を思い出した。
本来、聖職者は血を流すのは御法度とされている。
ところが聖ニコラ修道院は槍術を心体の鍛錬として取り入れている希少な修道院とも思い出した少年は・・・・壮年の騎士を見た。
右手に握られた槍は左右に反りを持たせた刃が取り付けてある。
『突けば槍になり、払えばグレイヴで、引けばサイズになるな』
万能そうに少年は壮年の騎士が持つ十文字槍を見たが並みの槍以上に習得は難しいとも思った瞬間・・・・・・・・
「ホォ・・・・見ただけで能力を察したか」
白髪の騎士が愉快そうに話し掛けてきたので少年は驚愕した。
「そのように驚く程ではない。しかし、その年齢で鋭い眼を持っているな」
大したものと白髪の騎士は褒め言葉を投げてから青年を見た。
「して我等が主人。この村を・・・・如何にするのですか?」
先程とは違い殺気を含んだ白髪の騎士に少年は背筋が寒くなった。
容貌も元々美男なので恐ろしさも際立った感がある。
「獣は殺す。後は、あの腐れ聖職者を叩いて引き上げる」
それで終わりと青年は言うが白髪の騎士は眼を細めた。
「宜しいのですか?下手に慈悲を見せれば村民に“背後”から刺されかねませんよ」
「あの“意気地無し共”に?そんな度胸があるかよ」
こいつに石を影から投げるような奴等だと青年は白髪の騎士が言おうとした言葉を拒絶した。
「しかし兄貴。皆殺しとか焼き討ちにしなくても“釘”は打つべきじゃねぇか?」
白髪の騎士が口を閉じると今度は弓矢を装備した青年が青年に進言した。
「ああいう奴等は新しい“頭”が出来ると直ぐ従うから兄貴が・・・・・・・・」
「そいつは俺も考えてはいるが・・・・俺の“最終目標”は何だ?」
「あ・・・・・・・・」
弓矢を装備した青年は青年の言葉にハッとしたように言葉を閉じた。
「まぁ“一波乱”起こる前だからな・・・・それも悪くはねぇ」
今の内に組んだ足場を「拡大」させたいと青年は語った。
「とはいえ・・・・先ずは寝床の拡大だ。お前等、自分が寝るスペースを確保しろ。倒木の在処は坊主が知っているから案内してもらえ」
「やれやれ、着いた早々に寝床を作れと命じられるとは人使いが荒い方だ」
鷲鼻の騎士は仰々しく肩を落としつつ腰に吊した山刀をポンッと叩いた。
「では行って来ますか。君、倒木まで案内してくれ」
「はいっ」
少年は額に巻かれた包帯が緩むかも知れないのに元気よく立ち上がった。
「まるで“腕白小僧”を連想させるね。いやはや男の事を思い出すとは・・・・彼の婦人も頑張っているのかな?」
鷲鼻の騎士は誰かを思い出したように言うが、3人は「また出た」とばかりに嘆息する。
「不埒な事を教えたりしないで下さいね?」
小聖職者が鷲鼻の騎士に釘を刺すように視線を向けたが青年は「何れ知るから良いだろ」と言った。
その言葉を聞いた瞬間に少年は歩き出し、3人も一緒に付いて来た。
「フフフフッ・・・・早くも悟るとは・・・・やはり大した人物だ」
白髪の騎士が皮肉な笑い声を上げながら少年に言うが、それを壮年の騎士が咎めた。
「皮肉は止せ。とはいえ・・・・このような幼子にも気を遣わせるとは・・・・嘆かわしい」
はぁと壮年の騎士は嘆息した。
その嘆息から直ぐ口喧嘩を始めた2人に少年は何とも言えない気持ちを抱いた。
ただ、2人の口喧嘩は互いに本音をぶつけ合っているのは解っていたから・・・・・・・・
「あの御2人が結婚したら“賑やかな家庭”になりそうですね」
少年は皮肉抜きで言い、それに弓矢を装備した青年が相槌を打った。
「まぁ・・・・賑やかになるのは確実だな。子供の教育方針とかで。とはいえ“武器屋の姉ちゃん”も居るからな。どうなるんだか・・・・・・・・」
「あの騎士様を慕う方は多いですね」
「強引に付き合わされているとも言えるぜ?まぁ実際あの性格だからな。世話焼きをしたくなるってのもあるが」
「誰かが御大将をこう評したな」
弓矢を装備した青年の言葉に白髪の騎士は皮肉そうな笑みを浮かべて呟いた。
「彼の騎士は公私ともに“ガキ大将”であると。そなたはどう思う?」
白髪の騎士は誰かの評価を口にしてから少年に問いを投げてきたが少年は気まずい気持ちを抱きながら答えた。
「ガキ大将と思います・・・・ただ、水の騎士に追い付き、追い越そうという態度は努力家と思います」
少年の言葉に白髪の騎士は「確かに」と相槌を打った。
「だが、そなたも努力をしようとしているのだ・・・・遠い未来かもしれんが・・・・我等の主人の子を護る実力は付けるよう今以上に努力しておけ」
白髪の騎士が呟いた言葉に少年は瞠目し振り返ろうとしたが倒木が置かれた場所から音が聞こえてきて視線を前に向けた。




