第十四章:四人の騎士達
黒い強風が去った翌日、少年は小聖職者と共に村へ行き情報収集を行った。
青年が「俺が行くより小娘の方が良い」と言ったからだ。
これには小聖職者も正しいとばかりに昨日の留守番を青年に嫌みったらしく頼んでから勇んで村へ行ったが・・・・小聖職者が思い描いていたほど現実は甘くなかった。
『・・・・・・・・』
昨夜の強風に村民達は恐怖を抱いたのだろう。
大抵が家のドアを固く閉じ、一歩も出て来ない。
または修道院に行き、頻りに修道士達に救いの手を求めている。
対して少年と小聖職者には怒りの眼差しを向けている。
「・・・・・・・・」
少年は村民達の気持ちが解る気がした。
青年と小聖職者が来てから魔獣は騒ぎ出し、黒い強風が昨夜は吹いた。
それを考えると・・・・・・・・
『外の世界から来た2人を得体の知れない“余所者”と見ているんだ』
2人さえ来なければと考えて自分達の不安を取り除こうとしている姿勢に少年は怒りを僅かに覚えた。
しかし何かしらに不安や恐怖をぶつけたい気持ちも理解できた。
だが、こういう時だからこそ・・・・・・・・
「・・・・修道女様、歌は歌えますか?出来るなら“賛美歌”が良いんですけど」
少年の言葉に小聖職者は驚いたが周囲の視線を感じ取っていたからだろう。
「任せて下さい。これでも聖歌隊では一番の歌い手と言われていたんです」
小聖職者は少年に優しく微笑み、咳払いすると息を吸った。
そして歌い出した。
『我等が父たる神よ。貴方の大いなる慈悲は天の如く神々しい。
皆、神に祈りを捧げなさい。
神は常に私達の側に居ります。
罪深き者よ。
汝も救いを神に求めて祈りなさい。
神は全ての生きる者に慈愛を見せます。
そして天使は神の使者にして、私達を御守りする騎士です。
天使様。どうか、迷える子羊たる私達を正しき道へ導いて下さい。
私達は何時も貴方達と共に在ります。
だから私達が道を踏み外そうとしていたら天より舞い降りて御助け下さい。
されど私達が自己で生きる為にも過分な救いの手は差し伸べないで下さいますよう願います』
小聖職者の歌声に村民達は静かに耳を傾けているのを少年は見ながら歌詞に注目した。
それはブルクン村で歌われる歌詞とは異なるからだ。
だが聖エルナー修道会は王室と縁が深いと小聖職者から聞いていた少年は・・・・こう解釈した。
『宗教に”依存”するなという忠告でもある』
そして修道士達に救いの手を求める村民達を見て少年は依存する恐ろしさを見て感じた。
「・・・・・・・・」
少年は無言で小聖職者を見たが小聖職者は歌うのに集中している。
対して村民達の大半は小聖職者の歌声に魅了されているが・・・・全員ではない。
現に自分の叔父夫婦などは影でコソコソと見ているし、何人かの村民は家の窓から狙っているように見ていた。
『僕が護らないと・・・・・・・・』
少年は拳を握り締め心中で決意したが・・・・ふと村の入り口から堂々と入って来た4人組みを見つけた。
4人組みは男で年齢はマチマチだが、全員が何かしらの武器を携えている。
『あの方達が騎士様の仲間・・・・だ』
何故か少年は確信できた。
ただし、それより早く村民の一部が小聖職者に何かしそうだったので少年は護るように小聖職者の側に立った。
刹那・・・・・・・・
小聖職者目掛けて石が投げられた。
『修道女様を護るんだ!!』
少年は小聖職者目掛けて飛んで来た石の前に飛び込んだ。
それによって少年は額に石を浴びる形になり地面に吸い込まれるように倒れた。
額から温かい液体が流れるのを少年は感じ、次に痛みを覚えた。
しかし小聖職者は無事だったから良いと少年は安堵の息を吐く。
ところが直ぐ別の方角から石が飛んで来た。
少年は急いで立ち上がろうとしたが・・・・・・・・
『間に合わない!!』
少年は目を閉じようとしたが、飛んで来た石を別の石が弾き落とす様を見た。
「・・・・可愛い婦人が歌を歌っているのに“無粋な真似”は控えるべきだ。おまけに“将来有望”な騎士まで傷付けやがるのも頂けないな」
「賛美歌は嫌いだが・・・・美しい歌声を妨げる行為は、私も容認できん」
少年は眼を自分の直ぐ側に向ける。
そこには2人の騎士が立っていた。
小石を弄んでいる騎士は30代で尖った鷲鼻が特徴だった。
そして抜き身の小刀を手にしているのは白髪で、片方の耳が削がれている。
「あの・・・・痛ッ・・・・・・・・」
「大丈夫か?」
少年は自分を支えるように膝をついた年上の青年を今度は見る。
こちらは狩人のような格好で、弓矢を背負っておりが腰に提げた袋に手を突っ込むと何かを取り出した。
それは薬草だった。
「ちぃっと染みるが男なら我慢しろよ?」
年上の青年は薬草を自分の歯で柔らかくすると、それを少年の額に塗りたぐった。
傷口に塗ったからか、少年は痛みを覚えたがグッと堪える。
「これで血は止まるから安心しろ。よく姉ちゃんを護ったな?助かったぜ」
年上の青年はポンッと肩を叩き、静かに立った壮年の騎士を見る。
それに釣られて少年も壮年の騎士を見上げるが、壮年の騎士は厳しい表情で周囲を見渡している。
しかし、騒ぎを聞き付けたのかフランソワを見るなり一文字に引き結んだ唇を小さく開いた。
「貴殿がフランシス司祭か・・・・・・・・?」
「・・・・何者ですか?」
フランシス修道院長が押されていると少年は長い間で察したが、壮年の騎士は静かに答えた。
「この勇敢な少年の家に厄介している御方に仕える騎士だ」
壮年の騎士の言葉にフランシス修道院長は敵意を向けたが壮年の騎士は静かに怒りの眼でフランシス修道院長を睨むのを少年は見た。
「貴殿は司祭というのに・・・・随分と“肥えた格好”を好むのだな」
フランシス修道院長は壮年の騎士の台詞に悪いかとばかりに一歩前に出たが、それよりも大きく壮年の騎士は前に出た。
「・・・・清貧が聖教の掲げる教えの筈だ。しかし貴殿等を見ると凡そ・・・・体を成していないと解る」
壮年の騎士は静かだが重い口調でフランシス修道院長と、その取り巻きを評した。
「そんな輩に我等が主人が怒らない訳ない。だが・・・・ここには居ないから今回は私が怒る。恥を知れ!この愚か者共がぁっ!!」
グワッと壮年の騎士は怒声を上げたが、その声に周囲がビリビリと震えた。
近くに居た少年は諸に受けたが、その怒声には真摯な気持ちが宿っていたので心地良い面もあった。
壮年の騎士は更に怒声を上げた。
「聖職者とは救いの手を弱者に差し伸べる者。それなのに少年と、娘2人に石を投げるとは何事か!今すぐ石を投げた者は出て参れ!!」
「聖ニコラ」の名の下で修業した私が首を刎ねてやると壮年の騎士は叫んだ。
その怒声に周囲は完全に飲み込まれたのか、沈黙して誰も前に進み出ようとはしなかった。
「・・・・進み出ない者達よ。覚えておけ。今後このような不埒な真似を見たら私はその場で首を刎ねる」
これは宗教云々の前に人として見過ごせないと壮年の騎士は断言すると少年に片膝をついた。
「貴殿の家に我が主人は厄介になっているようだが我等も厄介になるが良いか?」
「は、はい。それは構いません」
少年は壮年の騎士に頷いた。
「では案内を頼む」
「は、はいっ」
壮年の騎士に少年は頷くと歩き出した。
その少年に壮年の騎士が直ぐ横に立って歩き出すが、ふと足を止めてフランシス修道院長を見る。
「フランシス司祭。貴殿に忠告だ。昨夜、獣の雄叫びを聞いたが・・・・もし、貴殿が飼っているなら直ぐ鎖に縛り付けた方が良い」
あの獣は飼い慣らせる生物ではないと壮年の騎士は告げた。
「ただ、それが出来ると思っているなら・・・・食い殺されても文句は言わない事だ」
「それから我等の主人に私兵を殺されても文句は言わないでくれよ?」
壮年の騎士に続いて尖った鷲鼻の騎士が何かを察したように言った。
それを聞いて少年は足を速めようとしたが、それを白髪の騎士が前に出て止める。
「心配いらん。しかし・・・・主人を心より心配する、その気持ちは有り難い」
白髪の騎士は小さく呟くと少年の前を歩き続けるが、その姿を見て少年は何も言わなかった。




