徳川埋蔵金 作戦会議
翌朝、探偵チームの作戦会議朝食の席で、安藤が地図を広げた。
「昨日のセダンだが、竹林の入口付近に停まっていた、ということは、あの周辺を見張っていた可能性が高い」「祠を、見張っていたということですか」江戸川が言った。
「あるいは、俺たちの動きそのものをな」秋月が言った。
「元刑事の勘だが、ああいう手合いは、素人じゃない。何かの訓練を受けている動きだった」工藤が言った。
「ナンバーは確認できませんでしたが、レンタカーの可能性が高いと思います。
この辺りで白いセダンを借りられる店は、そう多くない」「調べてみる価値はあるな」安藤が言った。「工藤、秋月さんと一緒に、レンタカー屋を当たってくれ。俺と江戸川は、もう一度祠の周辺を調べる」
竹林、祠のさらに奥金田一、山田、佐藤、横溝、そしてラッシングは、絵図の三角形の中心――祠よりもさらに奥まった竹林の一角へと足を進めていた。
「地図上の計算だと、この辺りのはずだ」金田一が、手帖に書き写した三角形の図面と、GPSの表示を見比べながら言った。
竹林が途切れた先、小さな空き地に、苔むした平たい石が一枚、地面に埋まるように置かれていた。
「これは……」佐藤が石に近づいた。「わざと置かれたもののように見える」横溝が石の縁を指でなぞった。
「掘り出せるかもしれん。周りの土を除けてみよう」一同がスコップと手で慎重に土を掘り進めると、石は思ったより大きく、四角い形をしていることが分かってきた。
まるで、蓋のようだった。「石室か、何かの入口かもしれません」ラッシングが言った。
彼の声には、緊張と、抑えきれない好奇心が混ざっていた。金田一が、石の表面についた苔を払った。うっすらと、文字のようなものが刻まれているのが見えた。
「これは――」金田一が目を凝らした。「梵字のようだ。それと……」
彼が指したのは、文字の脇に彫られた、あの見慣れた渦巻きの紋様だった。
「間違いない」金田一は言った。「ここが、目的地だ」
石を完全に持ち上げるには、もっと人手が必要だった。山田が言った。
「今日は、これ以上進めない方がいい。人を集めて、慎重に開けよう」
横溝が頷いた。「それに――これを開けるなら、小栗さんにも立ち会ってもらうべきだろう。彼の先祖の話だ」
一同は、石の位置を写真に収め、慎重に土を戻して、その日は撤収することにした。
同じ頃、レンタカー屋にて
工藤と秋月は、町に数軒あるレンタカー店を回っていた。
三軒目で、ようやく手掛かりを得た。
「白いセダンですか……」店員が台帳を確認しながら言った。「三日前に、お一人、借りていかれた方がいます」
「名前は分かりますか」秋月が身を乗り出した。
店員が台帳を見せた。そこには、外国人らしきローマ字の名前が記されていた??「D. Fenwick」。
「フェンウィック……」工藤が呟いた。「国籍は?」
「パスポートのコピーを取っています」店員は言い、控えを見せた。
「イギリス国籍の方です」
秋月が眉をひそめた。「イギリス、か。何をしに、こんな田舎町に」
「宿泊先は分かりますか」工藤が聞いた。
店員は少し躊躇したが、規則に反しない範囲でと前置きし、答えた。
「町内の、大きなホテルではなく、山手にある小さな民宿に泊まっている、と聞いた覚えがあります」
工藤と秋月は、顔を見合わせた。
「行ってみるか」秋月が言った。
「もちろん」工藤は、すでに立ち上がっていた。
山手の民宿??Fenwickとの接触
工藤と秋月が訪ねた民宿は、竹林からほど近い、古い日本家屋を改装した宿だった。
女将に部屋番号を尋ね、ノックすると、しばらくして扉が開いた。
現れたのは、四十代半ばと見える、痩身の白人男性だった。眼鏡の奥の目が、一瞬だけ鋭く二人を捉え、すぐに愛想笑いに変わった。
「何か、ご用でしょうか」流暢だが、わずかに硬さのある日本語だった。
「探偵をしています」秋月が、あえて単刀直入に切り出した。
「あなたが借りている白いセダンを、竹林の近くで何度か見かけましてね」
Fenwickの表情が、一瞬だけ強張った。「……観光をしていただけですが」
「観光にしては、随分と同じ場所に長くいらっしゃる」工藤が言った。
「失礼ですが、お名前と、ご滞在の目的をお伺いしても?」
男は少し間を置いて、名刺を差し出した。
「デイヴィッド・フェンウィックです。大学で、東アジアの民俗信仰を研究しています」
名刺には、イギリスの大学名と、「客員研究員」という肩書きが記されていた。
「民俗信仰の研究、ですか」秋月が名刺を見ながら言った。
「この辺りに、何か興味深い対象でも?」
フェンウィックは、しばらく二人を観察するように見つめた。それから、静かに言った。
「単刀直入に伺いますが――あなた方は、小栗家の依頼で動いている方々ですね」
工藤と秋月は、顔を見合わせた。「なぜ、それを」
「この町で、あなた方以外に、あの竹林に興味を持つ人間はいませんから」フェンウィックは薄く笑った。「私も、同じものに興味があります。ただ、目的は少し違うかもしれません」
「目的というのは」
フェンウィックは、少し考えてから答えた。
「幕末期、日本各地に散らばった、ある種の『印』のついた品々を追っています」彼は言った。
「学術的には、まだ誰も体系立てて研究していない分野です。ヨーロッパの、いくつかの秘密結社の記録に、よく似た紋様が残されているんです」
秋月の目が細くなった。「ヨーロッパの秘密結社、ですか」
「ええ」フェンウィックは言った。
「フリーメーソンや薔薇十字団といった、よく知られた組織とは、また別の系統です。名前は――今は、まだ申し上げられません」
工藤が言った。「それを調べに、わざわざ日本の田舎町まで?」
「私にとっては、田舎町ではなく、重要な調査地です」フェンウィックは静かに言った。
「ただ、正直に言うと――私も、少々、慎重にならざるを得ない事情があります。以前、同じ調査をしていた同僚が、消息を絶っていますので」
その一言に、工藤と秋月の表情が、同時に強張
「消息を絶った、というのは」
フェンウィックは、それ以上は語らなかった。
「今日のところは、これで。もし、あなた方が何かを見つけたなら――情報交換をさせていただければ、幸いです」
彼はそう言って、静かにドアを閉めた。
その夜、小栗家??石室を開ける
一行は、小栗惟継を伴って、再び竹林の空き地へ向かった。夜、懐中電灯の明かりだけを頼りに、慎重に蓋石の周囲を掘り進める。
「本当に、開けるんですね」小栗の声は、震えていた。
「日記には、『語るべからず』と……」
「もう、後戻りはできないところまで来ている」山田が静かに言った。
「開けないままでは、あなた自身も、ずっと不安を抱えたままになる」
小栗は、しばらく黙っていたが、やがて頷いた。「……分かりました。立ち会います」
金田一、安藤、横溝、佐藤が力を合わせ、蓋石を慎重に持ち上げた。石の下から、湿った土の匂いと共に、暗い空洞が姿を現した。
懐中電灯で照らすと、そこには、朽ちかけた木箱がいくつか、整然と並んでいるのが見えた。
「これは……」小栗が、震える声で言った。
金田一が慎重に、一番手前の木箱の蓋を開けた。
中には、油紙に包まれた、書物のようなものが入っていた。
慎重に開くと、そこには、見慣れた渦巻きの紋様と共に、びっしりと文字が書き込まれたページが現れた。
「――記録だ」金田一が言った。「何かの、記録が残されている」
一同が身を寄せ合い、その最初のページを覗き込んだ。
そこに書かれていたのは、金銀財宝の在り処ではなく――一つの、組織の名前だった。
「――『環座衆』」
誰も、その名を知らなかった。
だが、その文字を見た瞬間、全員が、この話がもう、単純な埋蔵金探しではないことを、はっきりと悟った。
竹林の外、夜風が、不意に強く吹き抜けていった。




