九年差の同じ別れ あらすじ
【起】手紙から始まった関係(思春期/非対面)
中学三年の秋、教室で配られた一通の手紙がすべての始まりだった。本来は一方的な広報で終わるはずのものだったが、なぜか封を閉じることができず、私は返信を書いて送る。やがて返事が届き、そこから三年間の文通が始まった。
彼との関係は手紙だけで続き、小説を送ると返ってくるのは感想ではなく構造や視点への指摘だった。私はそれを課題のように受け取り、物語は一冊で終わるものから続きが前提のものへと変わっていく。扱うテーマも広がり、世界や社会へと向かっていった。
彼は答えを与える人ではなく、どこまで考えるかを示す人だった。その関係は、上京前の三年間、言葉の中だけで続いていた。
【承】対面で続いた日常(成人期/対面)
上京後、百貨店で口紅を探していたときに出会った美容部員の彼女との関係は、本来その場で終わるはずだった。しかし会話は続き、やがて通う時間と場所が固定されていく。
椅子に座り、鏡の前で色を試しながら話す時間は、次第に日常の一部になっていった。何かを買うためというより、その場所に行くことで整う感覚が残る。大学生活や節目の出来事を伝えるたびに言葉が返り、その関係は八年間続いた。
彼女は何かを進める人ではなく、そのままでいられる時間を与える人だった。対面で続くその関係は、上京後の生活そのものに組み込まれていった。
【転】同じ転勤による終わりとフラッシュバック
二つの関係は、どちらも転勤という同じ形で終わる。
二〇一六年、彼からの手紙で突然の転勤を知らされると、文字より先に場所が浮かび、その一帯の景色すべてが見られなくなった。建物、通り、桜並木、城と記憶は広がり、九年経っても消えなかった。
そして二〇二五年一月十八日、今度は彼女の転勤を売り場で知らされる。同じ言葉で終わる関係に、九年前の感覚が重なり、その場で泣き、過去と現在が混ざり合う。
八年続いた日常が失われたことで、売り場に入ることができなくなりかけたが、以前の経験から広がりを止める。フラッシュバックは百貨店のその場所に留まり、代わりに関係の入口で止めるように行動が変わっていった。
【結】折り鶴と残ったもの
別れの際、私はどちらにも折り鶴と手紙を送った。
九年前、彼に送った折り鶴には明確な返事が返ってきた。「持っていく」と書かれたその言葉によって、関係は区切られた。
九年後、彼女にも同じように折り鶴を渡したが、返事はなかった。届いたのかどうかも分からないまま、行為だけが残り、終わりは閉じなかった。
それでも手紙の中で、私は彼の最後の言葉をそのまま書き写していた。「感謝を忘れずに新しい場所へ」という言葉だけが、形を変えずに次へ渡されていく。
振り返ると、彼は法王のように思考を外へ向ける時間を与え、彼女は女帝のように日常の中で整える時間を与えていた。非対面と対面、三年と八年、平成と令和。あまりに対になりすぎていて、偶然とも必然とも言い切ることはできない。
ただ、二人とも転勤でいなくなり、九年の差で同じ形で終わったという事実だけが残る。




