表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/32

第四怪 シャイニングボーイと除霊師(その5)

スズメさんの脳裏に過ったのは女に痛めつけられた男が喜ぶという〝あっち〟系のやつだ。

「ちーちゃんのお祓いは霊に〝お仕置き〟をすることだ。あのハリセンは彼女の為に作り上げた特別な物だ。いわば、ちーちゃん専用のリーサルウェポンだな。あのハリセンで悪霊や迷惑行為をする霊を弱らせて叩き痛めつけるんだ。あのハリセンには霊を弱体化させる特別な紙を使用している。彼女に祓われたいと願っている人間は全国いる。それなりにちーちゃんの腕はいろんな人たちに見込まれているってことだ」

そんなすごい子があんな形でお祓いするとは想像はしていなかったというより年齢的にいいのか?と思った。

「まるでお笑いコントのツッコミをやっているみたい」

スズメさんのやり方が(まさ)にお笑い番組にあるボケをした人を思いきりツッコミを入れるお笑い芸人そのものである。霊を祓うには除霊師だけしか持っていない特別な道具でやるのかと思いきやまさかの展開に呆気にとられた。

「まぁな。だけど、あれがあの子の戦闘スタイルなんだ。ほら。大人をお仕置きするといったらスケバン刑事みたいにヨーヨーで悪者をやっつけると似たようなものだ」

「スケバン刑事は聞いたことあるけどやり方は多分、少し違うと思う」

特番で歴代ドラマの紹介でダイジェストとしてチラッとしか見た事はないが明らかに違う気がする。

どちらかといえば、漫才番組に出てくる芸人がやっているようなイメージがある。それにハリセンと名作ドラマと一緒にするのはどうかと思うのだが・・・。

「それに、除霊以外でも彼女にガチのプレイを受けたいという人がけっこういるんだ。実際にわざわざ東京の歌舞伎町へ行ってクラブでM共にハリセン以外の道具でリアル調教したり出張で各地を回りながら全国の変態人間を弄んだりしているらしい。昔聞いた話じゃ全国のM界隈では彼女を『SM界の神童』と呼読んでいるらしい」

それを聞いて俺は耳を疑った。

「中学生がクラブで働いているの?!それって大丈夫なんですか?絶対にアウトなやつでしょ!」

中学生の女の子が除霊師をやりながら東京の風俗店で働いているなんて俺はとても信じられなかった。

そもそも中学生はアルバイト禁止だと制度で決まっている。

「本業は除霊師。サディスト・プレイの方は副業つまりアルバイトだよ。それに、親公認だし本名と素顔は隠しているから問題ない」

いや。除霊師はまだしも調教の方はまだ早いでしょ。中学生がする事じゃない。

「時にはちーちゃんの除霊がきっかけでお相手さんがドMに覚醒してビジネスとは関係なく完全にプライベートでリアルプレイをしてハマる人もたくさんいる。特に男性率が高く中には業界や芸能界にいる有名人が内緒で彼女のお仕置きを受けに行く人もたくさんいる。そして、彼らは彼女の為なら喜んで貢いだりもしている」

「まるでカリスマ調教師じゃん」

スズメさんのストレートな言葉にサエグサさんは頷く。

「何度も言うが彼女は正統な除霊師だ。玖文家(くもんけ)は平安時代から存在する一族で初めは陰陽師で除霊のみならず占いや呪術も扱っていたらしくかの有名な安倍晴明の師匠にあたる加茂忠行(かものただゆき)の弟子だったと聞く。だが元号が明治に変わり明治政府による陰陽寮廃止令と太陽暦採用によって玖文家は地位を失い衰退してしまった。政府による廃止がきっかけで今後の生計を立てる為に転職して陰陽師を辞めた人が大勢いたそうだ。陰陽師を辞めた玖文家の一族はそれぞれ散り散りとなって本拠地だった京都を離れ霊能関係の仕事をする者は少なくなってしまった。でも、ちーちゃん一家だけは違う。培ってきた霊能力を世の為人の為に使いたいという一心で陰陽師から除霊師へと転職したんだ。呪術や星占術が使えなくても除霊だけなら霊に悩む人を助けられると考えたんだろう。それで玖文家の本拠地だった京都を離れ鎌倉に引っ越し今に至るわけだ。世間では玖文家の事なんてあまり知られてはいないが列記とした歴史を持つ名家でもあるんだ」

サエグサさんだからこそ知っている歴史知識。

玖文家なんて聞いた事はなかったがそんな古くから続く一族だったなんて全然知らなかった。今まで陰陽師一筋でやってきた彼らだが時代が変わった事で一時期大ピンチに陥るもなんとかして絶望的などん底から這い上がってきたという一発逆転を起こした。秩子さんのご先祖様は変わりゆく時代の変化に翻弄され路頭に迷いながらも一族の名誉を守る為に抗い波乱万丈な人生を送ったに違いない。

サエグサさんだけしか知らない歴史を知れてなかなか面白い話を聞けたなと思った。

「そんな歴史ある由緒正しい除霊師がSMって・・・」

古い時代から脈々と受け継がれている歴史ある除霊師が今はハリセンで霊にツッコミ叩きをしながら多くの変態共を調教する史上最年少SM界の女王(クイーン)として降臨しているという信じ難き対比の差が大きく感じた。

時代が変われば除霊師もああいう風に変わってしまうのだろうか?

彼女に引っ叩かれている男の霊から叫び声が聞こえる。苦痛の叫びではない。なんか、変なスイッチが入った叫びだ。

「玖文さん。何してるんスか?」

コウから見れば秩子さんがエアーでハリセンを振っているようにしか見えていない。

霊感を持たない人は目の前にいる男の霊は見えないので秩子さんがただの空振りで大幣を振っているように映っている。

「今、君に憑いていた悪霊を祓っているんだよ」

男の霊が見えないコウにサエグサさんは親切に教える。

「桐生くん。痛くなかった?背中」

さっき男の霊とまとめてモロに大幣で強く叩かれていたからすごく痛かったはず。

しかし、コウはものともしなかったような表情で

「特にそんなには。びっくりしてちょっと痛かったけど何ともありません!なんせ俺の背中、厚いので!」

自信満々に背中を見せてくれた。

スズメさんは「触ってみてもいい?」とコウに許可を取り伸ばした手で彼の背中をタッチする。スズメさんが感じた背中の感触は硬くて厚みがあってしなやかさがある。そして、張りもあって広背筋はゴツゴツしていてまるで硬くて重い鉄板を触っているような感じ。そして、何よりも存在感が強い。頼もしさと逞しさがヒシヒシと伝わってくるのだ。

俺も前に触らせてもらったが自分よりも鍛えられていてすごいと思った。

体格も大きいし俺より筋力がある。自分で言うのも何だが俺も筋肉はあるしある程度の重い物なら持ち上げられる。それに、たまに弟をおんぶや肩車したりしているし。

でも、俺よりもコウの方が相当体を鍛えているはずだとバスケの練習試合を見れば分かる。

着替えの時には何度か見かけているが制服や体操着の下はすごいムキムキで筋肉が浮き出て腹筋もくびれもすごかった。ボディビルダーになってもいいぐらいだ。

もしくはケンシロウになれるかもしれない?

そう思っていると隣でコウの背中を触っているスズメさんが妙に嬉しそうな表情を浮かべ興奮している。背中だけじゃなくお腹周りと腕も触り回っているので彼女の行動と喜ぶ顔を見て俺は一瞬思った。

「もしかしてスズメさん。筋肉フェチ?」

あまりにも嬉しそうにコウの上等筋肉を触れていたので訊ねてみるとスズメさんは我に返り咳払いをしていつものクールな雰囲気に戻った。

スズメさんの意外な一面を目撃した。

「女子ってさ。イケメン+筋肉モリモリマッチョマンのイケてる男子を見るとキャッキャウフフするんだよな。僕も昔、女の子にモテたくて体鍛えた事あるんだけどさ。ヘルニア起こるし膝の関節が突然痛むし息が上がって筋肉痛にもなったりも~ほんと大変」

「あんたまだ30代でしょ?」

「30代をなめんなよ!この歳だとなお前らみたいな元気ファイト一発バリバリ10代と違ってだんだん身体にガタが起こりやすくなるんだよ。生活習慣病になったり疲れやすくなったり食欲がなかなか湧かなかったりストレスが異様に出たり体力が劣ったりいろいろあんだよ。40代だと病気しやすくなったりどこからしら関節が痛んだり鬱になったりしてめっちゃ大変なんだぞ?20代は何かと金がかかって生活に余裕を持てなくなったり何かといろいろ面倒なんだよ。それに比べれば30代はデメリットが多くても五分五分で安泰に収まるわけ。君らも大人になって年を取れば嫌というほど分かる」

なんだか、まるで将来の自分を見据えて言っているみたいでなんか嫌だなと思ってしまう。

「不幸体質が原因とかじゃなくて?」

相変わらずスズメさんはクールな態度で話している。

「そりゃそうだけどよ。何も何でもかんでも不幸体質のせいというわけじゃないよ」

「でも、その角灯にある霊丹を飲めば若返るんでしょ?」

俺は彼が腰に付けている角灯に指を指した。

「まあそうだけどね。でも、十五粒だぞ?十五粒って米蔵に米が残っているかないか論争するレベルなんだぞ?このままどんどん年取ってジジイになったとする計九百粒が水に流されるってことになるんだぞ?そんな事があったら俺は一生、生まれ変わられないし天国にも行けない!!」

絶望的な表情で訴えるサエグサさん。

霊丹がどれだけ最重要な物なのかひしひしと伝わってくる。

九百粒も飲んでもしまったらせっかく貯めた霊丹がほぼパァになるだろうね。

「れいたん?生まれ変わり?」

そうだ。コウはまだサエグサさんが地獄から来た煉網警官だっていうことはまだ教えていなかった。

いろいろあって複雑な話だから後で丁寧に説明する必要があるな。

「筋肉ムキムキ男子の話に戻るが、女子から見てモリモリマッチョマンはめっちゃ頼りがいがある存在だと認識するらしい。「筋肉ある=男らしい」というかたちで自分を守ってくれるような男こそが女子にとって最高の理想な人間らしい。筋肉男子から伝わる「安心感」「信頼感」そして「自分にはないもの」。この三拍子が女子の視点からすれば最大の魅力ともいわれているらしい。そして、女子には筋肉男子に対する性意識もあったりする。理想の体を持った相手とやるのが女子の夢でもあって中には妄想する人だっている。女ってのいうは自分が求めている理想と合致している男さえいればいいと考えている生き物だ。『もし、〇〇くんと付き合ったら』なんて推しアイドルとお付き合いしている自分を想像して興奮している人もいるだろうし、好きな人に振り向かせたくてアピールする女もいる。「かっこいい」「男らしい」「タイプ」。そんな男を見かけたら勇気を出してアタックして胸つけて筋肉イケメンを誘ってムラキューチュッチュすれば女の幸せホルモンが体内ビックバンするってわけ」

「そんな淡々と勝手に分析しないでください!それと、後半の言い方を訂正してほしいのと体内ビックバンってなに?!」

鋭く容赦ない強めのツッコミを言い放つスズメさん。

俺もコウもさっきの話を聞いていまいち分からなかった後半辺りはがあんまり想像しない方がよさそうな気もした。

それに、なんでそんなに女子の心理をよく知っているんだ?

「おーい。お喋り中に悪いんやけど終わったぞー」

秩子さんの除霊終了の合図が来た。

振り向くと男の霊は体力や気力が失ってヘナヘナになっている。無気力で全身の力抜けて脱力感に襲われ体が歪んでいる。

「あの世へ送るなら今や」

秩子さんは今のうちにあの世へ強制送還しろとサエグサさんに言っているのだ。

サエグサさんは「サンキュー助かったぜ」と喜びながら懐から鉄製金属の丸い輪っか手錠を霊の男にかけた。すると、手錠をかけた男の霊はシュンっと姿を消した。

「強制送還。完了」

どうやらあの世へ送ることができたみたいだ。

なんか今日はいろいろありすぎて疲れたような。そんな気がした。

「いや~。ちーちゃんがいてくれて本当によかった。次もまた頼むよ」

「次もじゃないやろ。ふざけんな」

すごい嫌々そうに言う秩子さん。

「あんた警官なんだから自分で処分しろや。こちとらこう見えていろいろ忙しいんや」

「なんで?悪霊なんてそうまんざらいないだろ?」

「ここ近年。妙に嫌な霊が増加してるっちゅう噂が出とるらしいんや。鎌倉の方は異常ないらしいが警戒を怠らんようにと霊能力協会から言われとる。さっき、あんたらと遭遇する前に一人依頼が来たがその依頼人に取り憑いていた悪霊は異常の欠片もあらへん普通の悪霊やったわ。まぁ、祓っといたがな」

すると、秩子さんは俺たちの方を見た。

彼女の目は鋭く不機嫌そうに見えてちょっと怖い。

「あんたらも気いつけな。霊感がある人間こそ一番悪霊に憑依されやすい。特にストレスが溜まりやすいあんさん。よう注意してくださんなし」

彼女に指を指されてスズメさんはほんのわずかだけ動揺を見せた。

「悪霊よりヤバそうな奴。もしかして〝アレ〟か?」

「まだ断定はできひんが、〝アレ〟なわけないやろ。さすがに」

「だよな。ならいいけど」

何だか真剣な表情になって話していたサエグサさん。

でも、〝アレ〟とは何か知らないし全然話がついてこれない。ただ、霊絡みの話なんだろうなと一応理解したつもりである。

「そうだそうだ!ちーちゃん。明日の夜、時間空いていたりする?」

真面目そうな話から一転し別の用件を話し始めた。

サエグサさんの誘いを聞いて秩子さんは何だか不機嫌そうな表情を浮かべていた。

「おい。また何かあたしに面倒事の後始末させるつもりか?」

こんなにサエグサさんを嫌がっている様子を見ると過去に何かあったのだろう。

「まぁ、半分そうだがもう半分は違う。実はここにいるジョーくんから頼まれた事があってね」

俺の肩に手を置いてその訳をかくかくしかじかと詳しく話した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ