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第四怪 シャイニングボーイと除霊師(その4)

塀と人家が続いていてこの辺に神社なんてあったかな?と思うがここは鎌倉だから至る所に小さな神社ぐらいはあると思う。

神社が見つかるまでこうして逃げ続けなければならないのはなかなかハードできつい。

サエグサさんは意外に足が速いしコウはバスケのトレーニングで何度もランニングしているから大丈夫だとは思うけど特にスズメさんが一番辛そう。

運動部には入っていないし生徒会で書記勤めをしているから運動はちょっと苦手そうだ。

走っている最中、目の前に分かれ道が見えた。

右か?それとも左か?それとも真ん中か?どの道、迷っている暇なんてない。

俺たちは咄嗟に左の道を曲がろうとしたその時だった。

先頭を走っていたサエグサさんが急に立ち止まった。

彼の目の前には制服を着た女学生が立っていた。

「サエグサじゃん」

女学生は偶然にも遭遇した友達を呼ぶかのように抑えをきいた声で言い出した。

「ちーちゃん!」

反応を見る限りどうやら二人は知り合いのようだ。

「こんなとこでなにしてん?」

落ち着きがある冷静な声でこんな所で何しているのか訊ねてきた。

俺から見た彼女は何だか不機嫌そうな顔をしていて全く気力を感じない。猫背で表情が暗くスカートの下にジャージのズボンを履いている。

歳は俺より下で見た目は中学生ぐらいだ。でも、普通の中学生とはどこか違うような気がする。

「丁度よかった!ちーちゃん!あいつを祓ってくれないか?」

知り合いに会えてホッとしたのか早速、悪霊祓いをお願いした。

「ちょい待てい。何が一体どうなってどういう状況か説明せぇや」

女学生は流暢に関西弁で話し悪霊に追われた理由、そして俺たちがいる経緯についてサエグサさんは大まかに教えた。

関西弁の女学生は今の状態と俺たちがどこで出会ったのか詳細を耳に傾けた。

「つまり。あんたはこの人たちと何らかの理由で遭遇した挙句、悪霊に追われてこの人たちを巻き込ませてしまった。ということか?」

大まかに事情を聞いた関西弁の女学生が問うとサエグサさんは明るい声で「正解!」と答えた。

巻き込ませたうえ俺たちに危険な目を遭わせておいてなんで明るい顔をして頷くのか関西弁の女学生は深いため息をつき俺たちを見て哀れむ表情を浮かべながら気の毒そうに言った。

「あんたら可哀想に。こんな疫病神と関りを持ってしもうとは」

「この人と知り合いなんですか?」

相手が年下でも初めて会った人にはちゃんと敬語で話すようにしている俺。

関西弁の女学生は自分の首を摩りながらけったいな顔をした。

「まあ。知り合いっちゃあ知り合いってもんやが、こいつと関わるとろくなことがねえ」

そう言って彼女の親指がサエグサさんの方を指す。

「こいつはな。何かとめんどい事を持ってくるクソ呆れる野郎でさぁ。そのうえ図々しくてデリカシーの欠片も品もない(たかり)りや男なんや。罰食らって地獄へ堕ちたっちゅうおマヌケなところが抜けてねぇトラウマ持ちのポップな皮を被ったおバカなトラブルメーカーや」

「ひっでぇ事を言うな~」

関西弁の女学生は次から次へとズケズケとサエグサさんの悪口を言い放つ。

俺たちより目上の人に向かってなかなかはっきりと言えない独特で容赦ない毒舌口調をマシンガンのように話す彼女にサエグサさんは苦い表情を浮かべた。

「てっきりどっかで野垂れ死んだかと思ったがまだ生きておったとはな。なんで、こいつが地獄へ堕ちたのかは知らんがとっくのとうにくたばったかと思ったんや。堕落した亡者の分際でなぜいきしゃあしゃあとしちょるのかよう分からへん」

どうやら、サエグサさんはもう既に地獄へ帰ったのかと思っていたみたいだ。

話を聞くからにしてサエグサさんと関西弁の女学生はしばらく会っていなかったみたいだ。

それに、サエグサさんがなぜ地獄へ堕ちたのかもその理由も知らないみたい。

「失礼な。今もこうして生かされてるよ。それと僕はもう亡者じゃないぞ?」

「一時的にその身体を借り取るだけやろ」

どうやらサエグサさんの今の身体は他人の物だと知っているようだ。

「おっと。紹介がまだだったな。この子は玖文 秩子(くもん ちつこ)。ちーちゃんと呼んでいる。今は中学生でさっき僕が話したツテのある除霊師だ。この子はまだ修行中の身だが信頼もできるし彼女がいれば一安心だ!修行中だから金を払う必要もない!とーいうことで、ちーちゃん。よろしこー!」

簡潔に紹介をして颯爽と悪霊退治を申し込む調子のいいサエグサさんはトントン拍子で話をまとめたかのような態度を取る彼の姿に秩子さんは不機嫌そうな顔をして指を指した。

「こんな風に勝手に話を進めたがるんや。都合のいい時にだけ顔を出しおってふざけんな」

「固い事言うなよ。ちーちゃんがいると捕まえやすいんだ。どんな時もいつでも喜んで霊を対処しますがモットーの君ならちゃちゃっと問題なく片づけられるだろ?ああいう奴は君がいないとうまく対応ができないからここはどうしても秩子先生のお力で何とかしてくれないか?僕を助けると思ってやってくれよ~」

身勝手な事を言ってお願いしてくるサエグサさんに嫌気を指す秩子さん。

本人の了承も得ないで早速、悪霊を退治してもらいましょうと期待感と信用感が満ち溢れた明るい声で振舞うが遭遇して一秒も経たない内に突然、除霊するよう指示されて勝手に話を進めて本人の返答を待たずに実行させようとする彼のやり方に秩子さんの額に慢符(まんぷ)が浮き出る。

「てめぇが蒔いた種はてめぇでやれ」

中学生とは思えない強めな口ぶりだ。

「そうそう。こっちはジョー。で、スズメちゃんにコウくんだ」

「おい」

秩子さんの言い分を完全に無視して俺たちを紹介したサエグサさん。

「初めまして!桐生─」

コウが自己紹介をしようとした時だ。

「知ってる。うちと同じ学校に通っている1年B組の桐生コウでしょ?顔が濃いで有名の霊に憑かれやすい霊媒体質者」

同じ学校。それを聞いた俺は二人が似た制服を着ている事に気づいた。

「そういえば。二人とも制服の柄が同じだ」

コウと秩子さんが同じ中学校の制服を着ている事を指摘するとスズメさんが「ほんとだ」と今気づいたみたいだ。

「ホントだ!ということは」

自分と同じ中学校に通っている事に気づいたコウは目を輝かせながら言った。

「教科書忘れた時に貸してくれる人が増えた!」

教科書忘れが前提かよ。しかも他の生徒から教科書借りてんのかよ。

「あたしは3年生や。先輩やせ・ん・ぱ・い」

どうやらコウは彼女を同学年の人かと思っていたらしい。

俺も正直、コウと同じ年齢で同じ学年の子なのかなと思ったが彼より先輩だと聞いて人は見かけによらないものだなと思った。

でも、一番の驚きは除霊師が中学生だったということ。自分より年上で年増の人なのかなと勝手に思っていたが俺が想像していたより十分に若すぎる。

そういえば、彼女は修行中だとサエグサさんが言っていたな。

「で、あたしがそこにいる悪霊を祓ってほしいというわけ?」

秩子さんはコウの背後にいる男の霊を見て祓ってほしいのかと訊くと「そ~なんす」と気の抜けた返事を交わすサエグサさん。

手を合わせてお願いポーズをする30代のおっさんを見て秩子さんはやれやれと溜息を出した。まるで、後始末を任されたような気分になったのだろう。

「祓う前にまずは本人に確認を取る。桐生。あんた、霊を祓ってほしいか?」

関西人ならではの独特なニュアンスがある喋り方で直接コウ本人に了承を得ようとしていた。作業を行う前に悪霊を祓って欲しいか本人の確認が必要みたいだ。

しかし、コウは霊媒体質者でも霊感ゼロなので後ろに男の霊がいる事すら全く気づいていないし視えないからちょっと戸惑う表情が見えた。

「えっ?・・・まぁ、はい。祓えるなら祓って欲しいです」

心霊系の話が好きと口実していたがさすがに霊に憑かれるのは嫌なんだね。

「見ればあんたは霊に取り憑かれても平気そうやねんけど参考にまで言うが今、霊はあんたの身体を触りまくって息を荒くしてめっちゃ興奮しとる。あっ。そいつ今、あんたの急所を触った」

俺とスズメさん、サエグサさんもそう視える。

男の霊はコウの身体を好き放題に触りまくっていて顔を近づけ鼻息を荒くしている。コウは霊が視えないから問題ないけど霊感持ちのこちらとしてはあまりにも刺激が強すぎるうえ子供が見るようなものじゃないから俺とスズメさんはゾッとして寒気がするかのようにドン引きしてあまり近づきたくなかった。

霊が視えないコウでも今の状況を聞けばさすがに鳥肌が立って悍ましさが増す。

「わぁっふぅぅぅぅぅ!!!処してくだせい!!」

急所に触られる感覚はないだろうけど、心霊系が好きだとか霊とタイマン張ってみたいとか述べていたからこの子の場合は疑うよりも幽霊を信じるタイプだなと俺は思った。

男の霊はコウだけしか興味がないから周りの様子なんて見ていなかった。

コウに了承を得た秩子さんは何やらスクールバックの中に手を入れてガサゴソと何かを探していた。

「オーケィ。じゃ、後ろ向いてや」

「後ろ?」

「ええから。はよ向きーや」

コウは彼女の言われた通りに後ろを向いた。

今、改めて見るとコウの背中は本当に大きい。週4は筋トレしランニングや格闘技、水泳、拳法もろもろやっていると聞いているがまさかそんなヒーロー漫画の主人公みたいな奴がいる訳ないと思っていたけどはっきり言おう。

この子は紛れもなくヒーロー漫画の主人公そのものだ。

後ろを向くようにと指示した秩子さんの手には白い紙で折り畳んだ小道具が出てきた。

漫才で見るハリセンだ。でも、なんで除霊師の彼女がコントで使うハリセンを持っているのか?

コウの背中に向けて秩子さんは片手だけで合掌して拝みながらハリセンを突き出す。

なんか小言で言っているみたいだけど、もしかして祓う為の呪いでもしているのだろうか?

そんな様子をジッと見守る俺たち三人。

これから何が起こるのかコウはもちろん俺たちも知らない。

すると、秩子さんが大きくハリセンを振りかぶる。

そして、振りかぶると同時にスーッと鼻で息を吸った。

「この─」

秩子さんの口から一声が聞こえた。

何かすごい事が起こりそうな予感。俺もスズメさんも内心ドキドキしながら彼女のすごいお祓いを目の当たりにする。

第一声を出した秩子さんは命一杯勢いよくハリセンを振り下げた。

いよいよ始まる。

「童貞クソ虫がーーーーっ!!」

コウ(男の霊)の背中から叩かれる大きな音が聞こえた。

まるで人の頭を思いっきり強く引っ叩いたような大きな音だ。そして、もう一つハリセンの勢いで相手の身体に強く衝撃を与えた。

それを聞いて、いや突然背中を強く打たれてコウと同時に男の霊もびっくりした。

俺もスズメさんびっくり仰天で目を丸くして驚愕した。

秩子さんは容赦なく二発目を打つと憑いていた男の霊が慌てた様子で飛び上がった。

飛び上がった男の霊はコウの背中を離れて転げ落ち倒れた。起き上がろうとした瞬間、ハリセンを持った秩子さんが土足で男の霊の背中を容赦なく踏みつけた。

「おい。クソ親父。てめぇ、一体誰の許可を得て破廉恥プレイをしてやがる?!」

さっきまでの秩子さんとは違うまるで奴隷を見張る看守みたいに堂々とした態度で男の霊を踏みにじっていた。

「てめぇ。さては男好きだな?生前、ああいう風に別の男とイチャコラしたかったけど誰も相手されない人生を送っていたから死んでまであの子の体を好き放題に触りまくったんやろ?やるなら生きてやれってよ!霊になったからって好き勝手やってんじゃねぇぞ!オラァ!!」

張り詰めた大声を出してハリセンを男の霊の背中に打ち続ける。

鋭くて尖った音が夜の閑静な住宅街に轟く。

今の状況、光景を見て俺とスズメさんは唖然とした。

「これは一体・・・?」

何が起きたのかさっぱり理解できない俺とスズメさんを見て

「あれがちーちゃん流のお祓いだ」

単調に言うサエグサさんはまるでもう見慣れているかのように普通に喋っているし一ミリも驚いていない。

ハリセンで強く打ちつけて霊を虐げる。あれがお祓い??

「お祓いっていうより・・・お笑いコント?」

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