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神代闘師ギルドライバー  作者: 黒羽光一 (旧黒羽光壱)
第1話:葛木葵との遭遇
4/22

スピリット・ビヨンド

第1話 3/3

 

 

 

 

 

 ふとビヨンドは、違和感を覚えた。

 

 マルメガネが言い終えた直後。まず最初に感じたのは、音が消えたこと。そして視線を動かしてみても、マギやマルメガネが全くこちらの動きに反応しなくなったこと。

 そしてよく見れば、爆発したバスの爆炎が、中途半端な位置で「完全に静止していた」ことだろうか。

 

「よくありそうなパターンとしては、時間が止まったとか、そういうあたりかな」

 

『――――正解だ』

 

 と。マルメガネの方を見ると、彼女の様子が先ほどとは明らかに異なる。まず声が違う。いや、それでも少女らしい声には違いないのだが、、マルメガネの先ほどまでの声とは明らかに違う。

 そして――――彼女の頭上に、巨大な、時計のようなものが出現していた。

 

「まぁ、らしいんじゃないかな」

 

 時計の基盤が中央にだけ存在する。長さの異なる針のようなもの、それぞれが六十度の角度の位置で停止している。それがマルメガネの頭上で、角度を固定したままぐるぐると、ゆっくりと回転していた。

 

 と、マルメガネの体が不意に「浮かび上がる」。

 彼女の表情が消える。

 

 伸ばされた手を、ビヨンドはつかみ取る。

 

「何かな? 明らかに尋常ならざる様子で何かしでかしてくれそうなところ悪いけど、何をされるかの説明くらいは欲しいところだね」

『解放するまで』

「解放?」

 

 そうだ、と。マルメガネ「ではないだろう」何者かは、彼女の体を介して、言葉を続ける。

 

『人間が人間であるために背負いし、罪。咎。なさねば「ヒトの形を保てず」という、そういった制約。制限。ゆえに我らは、それを断層が依然より観測し――――』

「ん、長くなりそうなら早くしてくれないかな。理系って訳じゃないけど、そういう話に理解があるわけじゃないんだ」

『そういうとは?』

「電波な話ってこと」

 

 人格破綻者ってお墨付きはあるけど最低限社会生活を営める程度には常識をもってるんだ、と薄く笑うビヨンドに、仕方ないとばかりにマルメガネは頭を左右に振った。

 

『俗な表現をすれば、君に、あのクモ男同様、戦うための力を与えるということだ』

「ああ、それならわかりやすいね。で、具体的にどうするんだい?」

『手を、君の胸にうずめて、処置する』

「うん、説明を端折れって言った手前悪いけど、逆に理解を拒む形の表現になっちゃったかな?」

 

 ごめん何て? と聞きなおすビヨンドに、胸に手をうずめる、と繰り返すマルメガネを介した誰か。

 

『案ずるな。痛みはない』

「痛みはないといわれても」

『もとより量子的(ヽヽヽ)な接触になるから、見た目にはホログラフィック的なこの手が君の胸を貫通するという絵面になるだろう』

「うーん……。まぁ血みどろになることがないなら別にいいけど」

 

 仕方ないとばかりに手を放して、両手を上げるビヨンド。

 

『なんだかんだ言いながら、表情も態度も全く変わらないあたり君はなかなか変わってるね』

 

 そしてそういいながら、マルメガネの手は、先ほどの言葉通り、なんら違和感も何もなく葵の胸部を「貫通した」。

 

 と、そこでいぶかし気な表情になる。マルメガネ。そしてしばらく、彼の内側で「何かをいじりながら」、納得した表情になった。

 

『――――なるほど。だからビヨンド、か』

「……ん、何を見たのかな?」

『はは、そう怖い顔をするな。量子的な接触になってしまうから、どうしてもそこは視えてしまうというだけだ。このマルメガネはそのことを知りえない。安心しているがいいよ、ビヨンド』

 

 くつくつと笑いながら、彼の体内より手を引き抜くマルメガネ。そして――――そこには、どこかで見た、手のひら大のエンブレム。

 が、ビヨンドは初見である。自分より引き抜かれたその謎の物体を見て。

 

「なんだろう。コンビニの丸いおにぎりみたいだね」

 

 あんまりな感想であるが、サイズ感はそんなものである。そしてマルメガネを介した何者かはそれにさえ突っ込みを入れない。

 

『能力は、君に合わせて調整してある』

「使い方って教えてもらえるの?」

『細かくはおのずとわかるよ。ただ、起動方法だけ。

 ――――ギルドライブ、とだけ。エンブレムから20センチ以内の距離で、そう言えば音声認証が起動して、変身、する』

「変身、ねぇ……」

『ギルドライバー。神に代わりて闘う(みやこ)。それを使うことで、君は『それ』に成る』

「さしずめ、神代闘師ギルドライバーってところかな? ……売れない子供向け特撮番組じみてきたな」

 

 言いながら、やはり涼しい微笑みのビヨンド。

 彼と距離をとり、マルメガネを介した何者かは笑った。

 

 

『――――ただ注意するべきだ。君がもし本当の意味で、君の成そうとすることを成すのならば。君自身が忘れている障害が、必ず君の背中に存在している』

 

 それを聞き、ビヨンドは涼しい微笑みのまま。

 

「そんなもの、とうの昔に置き去りにしたはずですよ」

 

 

 

 ――――――そして、時は動き出す。

 

 

 

 空中に浮かんでいたマルメガネが地面に落下。尻もちをついたと思えば、彼女の頭上の時計は消失。

 

「契約はしたみたいですね」

 

 マギの言葉を聞き、ビヨンドもそちらのほうを向いた。手にしたエンブレムをもてあそぶ様子に、マギは満足そうに頷いた。

 

「ええ。これで目的の一つは完遂しました。ありがとうございますね? ビヨンド」

「目的?」

 

 マルメガネの反芻に、「いずれわかりますから」と楽し気に笑うマギ。ビヨンドは得に面白みもなさそうに、自分の顔の高さ程度までエンブレムを放り――――。

 

 

 

「ギルドライブ?」

 

 

 

 次の瞬間、彼の体は光に包まれた。

 

 

 

   ※

 

 

 

 全身が光に包まれるさまが、スローモーションのごとくビヨンドの目に映る。

 と同時に、視覚情報と一緒に、脳裏に情報が流れてくる。

 

 見えたのは拳銃のような何か。ハンマーの個所が大型の分厚いギアのようになっている。それを手に取るイメージ。グリップを握る手に親指を引っかけ、そのまま上に回転させるイメージ。狙撃するイメージ。連続でギアを回転させるイメージ。狙撃が変化するイメージ。そして銃身を伸ばしてギアを回転させるイメージと――――。

 

「―――なるほど。大体わかったかな」

 

 猛烈な勢いでなにがしかの情報が脳に流れ込んできている。が全くもって涼し気な微笑みを崩すことのないビヨンド。そのまま全身に光が及ぶと、いかなる感覚の変化も衝撃もないかのような薄い微笑みのまま、全身が転換する。

 変身、というよりも、別空間にある何かが自分の体の代わりにこの空間に形成されているというのが正解のようだ、と判断。判断している内容の意味がさっぱり理解不能だが、そういうものだという謎の納得がビヨンドの認識を埋め尽くしている。まぁ死ぬわけではないと、彼はやはり涼やかなままだ。

 もっとも薄い微笑みを浮かべてはいるが、すでに表情はそこにない。

 黒いバイザーがやはり顔を覆っているが、しかし目元はまだ発光していない。全身はやはり金属質なパーツで覆われているが、しかし、足元から徐々に色が変化していく。ガンメタ、光を反射しない類の色に変化。首元はライダージャケットか何かのように開き、内側は赤い筋肉質なものを連想させるプレート。

 と、上下からバイザーの上からさらにパーツが形成される。口元あたりでパーツが閉じる感覚があった。さらに目元を覆うように、肩のあたりまで適当な長さの髪のようなファイバーが、頭部から延びる。

 

 光が消し飛ぶと、その場に現れたのはドクロ男と呼ぶのが正しい何かだった。

 銀色の髪。それにさえぎられた目元のドクロのようなパーツ。首から下はライダースーツのごとき形状。投げられていたエンブレムは左肩に装着されている。

 

 ぎらり、と。髪のようなパーツにさえぎられた両目が、光る。

 

『……スピリット』

「……は?」

 

 ビヨンドのつぶやきに、マルメガネが疑問符を返す。それに、やはり声でわかる涼やかな微笑みで、ビヨンドは答えた。

 

『どうやらそういう名前の能力らしい。

 ということで、この姿の時はスピリット・ビヨンドと呼ぶのが正解だね』

「いや、そこまでしてビヨンドって呼び名を主張したいのかい」

『アイデンティティ』

 

 マルメガネの突っ込みを、ビヨンドは涼やかに流した。

 

『さてと――――』

 

「やりなさい――――スタンネット!」

 

 彼女の言葉に呼応するように、ビヨンドたちの方へ急接近してくる怪人。スタンネット、というのが呼び名だろうと判断した上で、ビヨンドはマルメガネの首根っこを掴んで、肩に乗せた。肩車態勢で『しっかり捕まりな、うん』とかいう彼に「はぁ!?」と叫びながらも、しかし咄嗟に猛烈な勢いで走り出したビヨンドであるからして、彼女に選択権はない。そしてあろうことか、ビヨンドはスタンネット目掛けて走っていく。

 スタンネットの背後から、例のごとくワイヤーの弾丸めいたものが射出。だがビヨンド、放たれた四発の高さを無視しスライディング。ぎゃりぎゃりぎゃり、と地面とコンクリートがケンカする音が鳴り響くのと同時に、振り回されるマルメガネの悲鳴が響く。

 

 予想外の動きで掻い潜られたこともあってか、一瞬反応が遅れるスタンネット。ビヨンドはそれを見逃さず、起き上がり様にドロップキック。人間でいうみぞおちのあたりに蹴りを入れると、相手からうめき声が上がった。

 

『どうやら、一応痛覚も実際の肉体とは共有されるみたいだね』

「っていうか、何、私ごと危ないことしてんのよ! 頭上何センチって位置、かすりかけたわよ!

 このやろ、はげちゃえ! はげちゃえ! はげちゃ――――か、硬い、抜けないわコレ!」

 

 怒りに任せてスピリットビヨンドの頭部の毛髪状の何かを引きちぎろうとするマルメガネだったが、しかし残念ながら目論見は成功せず。流石に変身した結果形成されているだけあって、そのファイバー状の白だか銀色だかの髪は、しなやかさ軟らかさに反してやはり特殊合金めいた強度を誇っていた。

 

 そんなしまりのない酷い体勢のまま、ビヨンドは刀を引き抜くかのごとく、左腰に手を構える。

 

『ワンソード――――』

 

 彼のその一言と同時に、左腰に大型拳銃めいた何かが出現。漆黒の銃身、ハンマーのあたりが分厚いギアになっているあたりは、変身時にビヨンドの脳裏に流れ込んできた映像にあったそれ。

 ソードという割には、完全に火器である。

 

『じ、銃じゃないか!』

『まぁ、ネーミングは僕のセンスではないということで』

 

 引き抜くと、彼はギアを一度回転させる。

 

『ソロゥ・ドロー』

 

 警察官とかがやりそうな、両手で拳銃を構える姿勢をとるビヨンド。そのまま何ら躊躇いなく引き金を引く。と、ショットガンのような思い発砲音と共に、赤いエネルギー光弾のようなものが発射される。実銃よりも速度は遅いが、プロ野球の剛速球ほどの速度はある。

 ハンマー部分を一切操作せず、連続で引き金を引くビヨンド。と、全く弾丸を装填する動作なく、連続で同様の弾丸が放たれる。速度については悪いが、連射性能は高いらしい。

 

 たまらず背後からワイヤーネットを弾丸のように放つスタンネットだったが、しかしそもそも威力が勝負になっていない。ワイヤーネット一発につき、ビヨンドの弾丸は四発ほど。放たれる弾数自体にまずそれほどの差があり、なおかつ一発の威力は互角か、わずかにビヨンドの弾丸が上。

 結果的に足と腕に数箇所、そしてマニュピレータに一発被弾するスタンネット。苦悶の声を上げながら膝を付く。

 

 この戦闘において、どこら辺がスピリットっていう能力なのよ、と思いはしたが、守って貰っている立場なのでマルメガネは頭上で大人しくしていた。

 

「中々やりますね。えっと……、スピリットビヨンドさん?」

『ご丁寧にありがとう、かな。さて、続けるかい? こちらとしては「けが人」を病院に連れて行きたいところなんだけどね。うん』

 

 ビヨンドの言葉に、マギは鼻で笑う。笑止千万とでもいう意思表示なのだろうが、しかし、ビヨンドが「ギアを二連続で」回転させた瞬間、表情が変わった。

 そしてそれは、マルメガネも同様。

 

『どうしたんだい?』

 

 なおも涼しげな声のビヨンドに、マギは納得したように頷いた。

 

「…………いえ、なるほど。だから『スピリット』ですか。

 ネット、立てます?」

『あの…………、俺、「ビデオを撮りに来た」だけであって、ここまで真面目に殴りあいっぽいことするつもりじゃなかったんですが……』

「立てるか立てないか聞いてます」

『だから、あの、あんまりやりたくないっていうか……』

「そうですか。

 ――――――もしここで私が、続けない、と言ったらどうなります?」

 

 はぁ!? と、ビヨンドの頭上でマルメガネが叫ぶ。それを軽く無視し、ビヨンドは続けた。

 

『止めるよ。

 そこのスタンネットさんがやらかした分については、きちんと救助なりなんなりしてから帰るっていうなら、が条件だけれどもね』

「? なんでそんなことをしないといけないんです?」

 

 マギは心底、不思議そうに頭を傾げる。と、スタンネットの背部から、ワイヤーネットが再び射出された。

 拳銃(ワンソード)を再び構えるビヨンド。だがそれよりも早く、スタンネットは「飛び上がる」。後方に射出されたワイヤーで、自らの身体を引き上げたらしい。そのまま逃走を計る算段のようだ。

 そちらに拳銃を向けるビヨンドだったが、しかし、マギは続ける。

 

「――――あら、私達にかまけていていいんですか? 妹。

 ネットが起こした事態は、まだ解決さえしていませんよ?」

 

 ごうごうと、未だ燃え盛る市営バスを指差し、けらけら笑うマギ。

 ビヨンドの頭上で、マルメガネが呻く。その一瞬、足を止めた一瞬で、既にスタンネットの姿はこの場から確認できない位置まで遠ざかった。

 

 だが、それを受けてもなおビヨンドは涼しい声だ。

 

『じゃあ仕方ないね。――――ストーカー・ドロー』

 

 そして上空に弾丸を放つ。今度の発砲音はやや軽めだ。

 と、それが何処かへと、まるで未確認飛行物体がごとき怪しげな軌道を描きながら飛ぶ。右へ、左へ、非情にもはや弾丸のだの字すら忘れ去るような奇妙な動作だ。 

 流石にあっけにとられるマギだったが。

 

『早くいきな。――――変身解除してたら、重症だと思うけれど』

「!? まさか、追尾弾ですかッ」

 

 と、その特性に思い至った。まぁ名前からして、目標をどこまでも追跡しそうなものであるし、おまけにあの理不尽極まりない動きだ。両手を広げると、そのまま「微動だにせず」空中に飛び上がった。おそらく弾丸の後、というよりもスタンネットの後を追うつもりだろう。

 

 ビヨンドはそれを見送りながら、頭上の少女に聞く。

 

『さて、どうしようか』

「…………ものすごく不本意だけど。でも、放って置けないでしょ?」

 

 野次馬も警察官も見て居ないこと確認したうえで、ビヨンドは左肩からエンブレムを取り外す。と、体色がグレーアウトし、再び閃光に包まれる。いかなる理由か風圧が発生し、彼の髪やらトレンチコートやらがはためいた。

 

 ビヨンドは涼しい顔のまま。

 

「でも、適材適所だとは思うんだよね」

 

 探偵の出番はないよ、と。携帯電話を取り出し、再度、警察、消防、救急へと連絡をかけた。

 

 

 

 

 

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