第10話 自分のおちんぽ、いただきますわ♡
「食べるべきか、食べざるべきか。それが問題ですわ♡」
「生きるか死ぬかを先に考えてください!!」
リーンさんの悲鳴が、魔王軍の秘密研究所に響き渡った。
目の前には、研究所長が解き放った巨大魔獣。牛とも獅子ともつかない頭部に、岩のような四肢。背中から突き出た無数の棘が、薄暗い廊下の天井を削っている。
「グオオオオオッ!!」
咆哮だけで壁に亀裂が走った。
「師匠! こいつが暴れたら建物が崩れます!」
アリシアさんが剣を抜く。背後には、研究所から救出した村人たち。逃げ道となる搬入口は開いたが、全員が抜けるまでには時間がかかる。
「お、お姉さんたちは逃げないのか?」
救出した木こりさんが、不安そうに振り返った。
「ご安心くださいませ。ここを通すつもりはありませんわ♡」
そう答えたものの、崩れかけた壁を見れば油断はできない。倒すだけでなく、村人さんたちを一人残らず逃がさなくては。
「リーンさん、メルティアさん。皆様を外へお願いしますわ」
「美食さんは!?」
「もちろん、魔物さんのお相手ですわ♡」
私は右手をかざした。
「《時間停止》」
カチンッ。
世界から音が消えた。魔獣さんも、仲間たちも、見事に静止している。
「……うふふ。犬さんには効きませんでしたけれど、今回は大丈夫そうですわね」
第七話のヘルハウンドさんとの戦いでは、とんだ目に遭った。今回は最初から切断の射程内にいる。およそ二十メートル。外す心配もない。
「それでは、失礼いたしますわ♡」
「《絶対切断》」
すぱんっ!
巨体の胴に、一直線の切れ目が走った。私は壁際へ移動してから時間を戻す。
ずるり。
上半身がずれ落ち、床が激しく揺れた。
「ば、馬鹿な! 一撃で!?」
研究所長が目を剥く。
「まあ。これで皆様も安心ですわね♡」
ところが。
ぐにゅり。
「……あら?」
切断面から新しい肉が伸び、離れた身体同士をつなぎ始めた。見る見るうちに傷が塞がり、魔獣さんがむくりと起き上がる。
「グオオオッ!!」
「師匠! 再生しています!」
「まあ! なんて往生際の悪い魔物さんでしょう!?」
今度は首を切った。頭が床に落ちる。しかし、たちまち元通り。
続けて脚を切り落としても、そこから新しい脚が生えてしまう。
「……まあまあまあ!?」
確かに切れる。けれど、倒せない。
私は手帳を開きかけて、すぐ閉じた。生態を観察する時間が欲しいところだけれど、目の前の魔物さんは待ってくださらない。
いくら《時間停止》があっても、それだけで勝てるわけではないのだ。
魔獣さんが前脚を振り上げた。
「師匠、危ない!」
アリシアさんが私の肩をつかんで飛び退いた。直後、爪が床を砕く。飛んできた石片が頬をかすめ、ひりりと痛んだ。
私の身体は、ごく普通の二十九歳の女性と変わらない。一撃でもまともに受ければ、ひとたまりもない。
「師匠! 弱点は!?」
「……困りましたわね。これでは、いつまで経ってもお料理にできませんわ♡」
「献立より勝ち方を考えてください!!」
◆
「ふはははは!!」
研究所長が高笑いした。
「どうだ! 私の研究の最高傑作は!」
「研究所長さん。あの再生には、何か仕掛けがあるんですの?」
「当然だ! 我が特製の《再生促進薬》を投与してある!」
「……お薬?」
「そうだ! 肉体の修復速度を極限まで高める究極の薬! 体内に成分が残る限り、どんな傷も瞬時に治る!」
男は勝ち誇って両手を広げた。
「貴様の切断など無意味! 何度でも再生してやるわ!」
「……なるほど。生まれつきの能力ではありませんのね」
それなら薬の効果が切れるまで待てばいいのかもしれない。けれど、いつまで続くか分からない上、追加の薬がある可能性もある。
魔獣さんが壁に体当たりした。天井が軋み、出口へ向かう村人たちから悲鳴が上がる。
「時間がありませんわ……!」
いっそ建物の柱を切り倒して生き埋めに――とも考えた。けれど、それでは村人さんたちまで巻き込んでしまう。
切れることと、切ってよいことは違う。こんなところでも、私の得意技が歯がゆい。
「……薬?」
その時、背後から声がした。
振り返ると、避難の誘導をメルティアさんに任せたリーンさんが、杖を握りしめていた。
「リーンさん! ここは危険ですわ!」
「美食さん、私、思い出したんです。さっき救出した村人たちのこと!」
眠り薬を飲まされ、意識を失っていた人々。
リーンさんは《体内浄化》で、全員を目覚めさせた。
「あの魔法、もともとは毒を取り除くために覚えたものです。でも、眠り薬まで消せたんですよね」
「……ええ!」
「毒と薬って、実は表裏一体なんじゃないでしょうか。どちらも身体の中に入って、何かしらの作用を起こすものですから」
私は目を見開いた。
「……ということは!」
「《体内浄化》なら、再生促進薬まで取り除けるかもしれません!」
「ですが……普通の治療中に使ったら、必要なお薬まで消してしまう可能性もあるんですね」
リーンさんは自分の杖を見つめた。
「便利だからって何にでも使うのは、危険なのかもしれません。でも、今の相手には……!」
「ええ。まさに、うってつけですわ♡」
「まあああっ! 素晴らしい発想ですわぁ♡」
私は思わず拍手した。
船上でアビスシャークさんの毒に倒れた私を、リーンさんが救ってくれた。その時に覚えた魔法が、今度は敵の再生を止めるかもしれないのだ。
「ただ……あの大きな身体に魔法を行き渡らせるには、近づいて集中し続けないと……」
リーンさんは魔獣さんを見上げた。指先がわずかに震えている。
「怖くありませんの?」
「……怖いです。でも、私だって勇者パーティーの一員です!」
彼女は杖を握り直した。
「守られるばかりじゃ、いられません!」
「……うふふ。頼もしいですわね♡」
私はアリシアさんへ向き直る。
「リーンさんが魔法を使う間、私たちでお守りしましょう」
「はい、師匠!」
◆
「アリシアさん、右側からお願いします!」
「承知!」
「《飛翔斬》!」
光の斬撃が魔獣さんの肩を裂いた。すぐに傷は塞がるが、巨体がアリシアさんの方を向く。
「こちらもお忘れなく♡」
私は反対側で手を振った。
「グルルル……!」
巨大な爪が迫る。
「《時間停止》!」
カチンッ。
私は側面へ移動し、時間を戻した。
「まあ! こちらですわ♡」
「グオッ!?」
魔獣さんが戸惑った隙に、リーンさんが背後へ走り込む。
「《体内浄化》!!」
淡い緑色の光が巨体を包んだ。
「くっ……!」
リーンさんの額に汗が浮かぶ。
「薬の成分が……多すぎる……! でも、少しずつなら……!」
魔獣さんが異変に気づき、振り返ろうとした。
その時、研究所長が懐から細長い薬瓶を取り出した。
「ええい、薬効が足りんのなら追加すればいい!」
「まあ。おかわりは困りますわね」
私は瓶を持つ手に狙いを定めた。距離は十五メートル。射程内ですわ。
「《絶対切断》!」
ぱきんっ。
薬瓶だけが割れ、中身が石床に散った。
「な、何をする! 私の貴重な薬が!」
「お薬は用法用量を守ってお使いくださいませ♡」
「魔物に処方箋なんてあるわけないでしょう!!」
リーンさんのツッコミが飛んできた。そんな余裕がおありなら、あと一息ですわね。
「させません!」
アリシアさんがその前に飛び込み、剣を叩きつける。
「グオオオッ!!」
怒った魔獣さんの尾が、石壁を粉々にした。砕けた破片がリーンさんの目前を横切る。
「きゃあっ!」
私は思わず《時間停止》を唱えかけ――やめた。
時間を止めれば、リーンさんの魔法まで止まってしまう。
今必要なのは、私一人が強いことではない。
「アリシアさん、もう一度注意を引いてくださいませ!」
「はいっ!」
私は魔獣さんの前脚を狙った。
「《絶対切断》!」
すぱんっ!
脚が落ち、巨体が傾く。
……ところが。
「……あら?」
切断面から肉は盛り上がるものの、新しい脚がなかなか完成しない。先ほどまでとは、明らかに再生が遅い。
「リーンさん、効いていますわ!」
「はい! もう少しです!」
「何をした!?」
研究所長が叫んだ。
「なぜ再生能力が弱まっている!?」
「お薬を取り除いているだけですわ♡」
「薬を……取り除く!?」
「どんなに素晴らしい薬でも、なくなれば効きませんもの」
「そ、そんな馬鹿な……!」
研究所長が青ざめる。
リーンさんの杖が一段と強く輝いた。
「《体内浄化》!!」
ぱあああっ!
魔獣さんの身体から不気味な紋様の光が消える。
「終わりました! 薬の反応は、もうありません!」
「……お見事ですわ♡」
私は右手をかざした。
魔獣さんが最後の力で咆哮する。
「グオオオオッ!!」
「それでは、失礼いたしますわね」
「《絶対切断》!!」
すぱあんっ!!
巨体が床に崩れ落ちた。
今度は、再生しない。
「……やりました!!」
リーンさんが歓声を上げ、アリシアさんも笑顔で駆け寄った。
「師匠! 勝ちました!」
「ええ。皆様のおかげですわ♡」
私は二人を抱きしめた。
「アリシアさんも、リーンさんも、本当にお見事でしたわ」
「えへへ……今回は私の魔法が役立ちましたね!」
「ええ。リーンさんがいなければ、勝てませんでした」
私を毒から救った魔法が、今度は私たち全員の命を救った。
「さすが、私の自慢の仲間ですわ♡」
「美食さん……!」
リーンさんが目を潤ませる。
……ですが、もう一つ大事な確認が残っている。
「ところで、こちらの魔物さんのおちんぽは――」
「余韻を台無しにしないでください!!」
◆
研究所長は逃げようとしたところをアリシアさんに捕らえられた。残る捕虜や魔物も解放し、危険な研究設備は停止。研究所で見つけた地図から、魔王城へ向かう道筋まで判明した。
ちなみに、巨大魔獣さんの珍味は諦めた。正体不明の薬が全身に投与されていたのだ。《体内浄化》で薬を除いたとしても、食材として安全かどうかは別問題である。
「……残念ですわ」
「美食さんが安全を優先するなんて……私、嬉しいです!」
「まあ。そんなに感動なさらなくても♡」
翌日、村では救出された人々を迎える宴が催された。三人の行方不明者が家族と抱き合う姿に、私も胸が温かくなる。
メルティアさんが村の家畜に魔法をかけ直すと、性別の変わっていた牛さんも鶏さんも元通り。
「これで乳牛さんも、またお乳を出せますわね♡」
「ええ。村の暮らしが戻ります!」
「これで村も安心ですね!」
「ええ。よかったですわ♡」
村長さんからも、何度もお礼をいただいた。美味しいお料理と温かな笑顔。これこそ、旅をしていてよかったと思える瞬間である。
……そして。
実は私には、もう一つだけ、どうしても叶えたい夢があった。
◆
「美食さん。本当にありがとうございました」
宴の席で、メルティアさんが頭を下げた。
「命を救っていただいて、研究所からも解放していただいて……何か私にできることがあれば、何でもおっしゃってください」
「……まあ! 本当ですの?♡」
「はい。私にできることなら!」
私はにっこり微笑んだ。
「でしたら、私を一度、男性にしていただけませんこと?♡」
「…………は?」
リーンさんとアリシアさんの声が重なった。
「し、師匠!? なぜ男性に!?」
「実は、まだ味わったことのない珍味がございますの」
オークさん、バジリスクさん、グリフォンさん、アビスシャークさん、ヘルハウンドさん。
多くの魔物さんを味わってきた私にも、未踏の領域がある。
「……人間のおちんぽですわ♡」
「……嫌な予感しかしません」
リーンさんが額を押さえた。
「もちろん、他人様のお身体を傷つけるわけにはまいりません。そこで思いつきましたの♡」
「ま、まさか……!」
「自分自身のものなら、誰にも犠牲を強いずに済みますでしょう?♡」
「私たちの精神に大きな犠牲が出ますよ!!」
「まあ。純粋な学術研究ですのに」
「学術の看板が可哀想です!!」
メルティアさんは目を白黒させていた。
「私の魔法で男性にはできますし、元の姿にも戻せますけど……そこまでお考えだったなんて……」
「うふふ。世界とは、探究心を持つ者に開かれるものですわ♡」
「初めてそんな使い方を頼まれました……」
リーンさんが私の前に立つ。
「待ってください。船で死にかけたこと、忘れたんですか!?」
「忘れておりません。ですから、今回は魔法の条件をきちんと確認いたしますわ」
「そういう問題じゃないんですよ!!」
私はメルティアさんに、元の身体へ戻せる範囲や、身体に異常が残らないかを尋ねた。
彼女によれば、《雄性変換》を解除すると、変化前の身体の状態が復元されるという。ただし無理をすれば何が起きるか分からないため、慎重な確認は必要だった。
「リーンさんにも、確認をお願いできますかしら?」
「……私は賛成してませんからね!」
「ええ。承知しておりますわ♡」
まず身体の変化と復元が問題なく行われるかを確かめることになった。
メルティアさんは何度も「本当にいいんですね?」と尋ね、リーンさんは何度も「よくありません!」と答えた。
私としても、自分の好奇心のために誰かへ無理を強いるつもりはない。最終的には、魔法の仕組みを確かめるだけならと、皆様にも見守っていただくことになった。
「それでは……《雄性変換》!」
メルティアさんの杖から、紫色の光が溢れる。
「……まあ!?」
視線が高くなり、肩幅が広がっていく。手足は逞しく、声も低くなった。
「おおっ……なんて低い声でしょう!」
「ほ、本当に男性になってしまった……!」
アリシアさんが絶句する。
「美食さん……見た目まで別人みたい……!」
私は自分の身体を確かめた。骨格も筋肉のつき方も違う。なんと貴重な経験でしょう。
そして。
「……まああああ♡」
私は感動に打ち震えた。
「ついに私にも、おちんぽが生えましたわぁぁぁ!!♡」
「大声で報告しないでください!!」
◆
「……まあ。これが私のおちんぽですのねぇ♡」
私は鏡の前で、初めて手にした自分の男性器を観察した。
「ふむふむ……」
指先で軽く触れ、角度を変えて眺めてみる。
「ところで、勃起させた状態と通常の状態では、お味に違いがあるのかしら?」
「そ、そんなことまで考えてるんですか!?」
リーンさんが悲鳴を上げた。
「血流によって組織の状態も変わりますもの。食感に影響する可能性がありますわね……」
私はしばらく考え込んだ。
「ですが、比較対象は一つだけ。まずは通常の状態を基準にいたしましょう♡」
「基準って何ですか!?」
手帳に観察結果を書き込み、メルティアさんに復元魔法の条件を再確認する。
「それでは……いよいよですわね♡」
私は右手をかざした。
「《絶対切断》!」
「師匠ぉぉぉぉ!?」
アリシアさんの絶叫が、部屋中に響き渡った。
――しばらく後。
私は元の女性の姿へ戻り、食卓に座っていた。
メルティアさんの復元魔法は成功。リーンさんの確認でも、身体に異常は見られなかった。
メルティアさんの魔法によって、私は再び女性の身体へと戻った。
「……あら?」
傷一つなく、身体は完全に元通り。
……のはずなのに。
「……なんだか、まだ痛みますわね」
つい先ほどまで存在していた部分に、じんじんとした痛みを感じる。
しかし、そこにはもう何もない。
「……まあ! これが噂に聞く幻肢痛というものですのね!」
「げ、幻肢痛!?」
「いえ、この場合は幻ちん痛と呼ぶべきかしら♡」
「新しい病名を作らないでください!!」
私は感慨深く、かつての自分の身体を思い返した。
「失って初めて分かる存在の大きさ……おちんぽとは、かくも偉大なものだっ
たんですのねぇ……♡」
「たった数分しか持ってなかったでしょうが!!」
私はそっと食卓へ腰を下ろした。
「……さて。今は亡き私のおちんぽ、せめて美味しくいただいて差し上げましょう♡」
目の前には一皿の料理。
「……まさか、本当に……」
「……師匠……」
二人とも、魂が抜けたような顔をしている。
「そんなお顔をなさらないでくださいませ。ここからが研究の本番ですわ♡」
「本番って……!」
私は手帳を開いた。
『食材:人間・綾小路美食』
『年齢:二十九歳』
『性別:男性(一時的)』
『採取条件:魔法による身体変化』
地球では決して叶わなかった、夢のような実験。
数々の魔物さんを食べ歩いた私が、ついに自分自身を食材にする日が来るなんて。
「……いただきます♡」
私はそっと手を合わせた。
そして、一口。
「…………!」
口の中に広がる、独特の風味。思ったほど濃厚ではなく、むしろ淡白な味わいだった。
「……まあ」
私は目頭を押さえた。
「これが……私自身のお味なんですのねぇ……♡」
「……美食さん、泣いてる……」
「師匠。それほど美味しいのですか……?」
「ええ。ですが、美味しさ以上に感動しているんですの」
魔物さんの命をいただくたび、私はその命への感謝を手帳に書き込んできた。けれど今日ばかりは、食材を育んだのも私自身。不思議な気恥ずかしさまで込み上げてくる。
世界の果てにあると思っていた未知の珍味が、こんなにも身近な場所にあった。
なんと皮肉で、なんと素晴らしい発見でしょう。
私は手帳に感想を書き込んだ。
『味:淡白』
『希少性:世界に一つ』
『素材への愛着:世界一』
『総合評価:測定不能♡』
「……うふふ。素晴らしいですわぁ♡」
「……もう何も言えません」
リーンさんが机に突っ伏した。
◆
「さて。これで夢が一つ叶いましたわ♡」
「よかったですね……もう満足しましたよね?」
「ええ。ですが、一つ問題が残っておりますの」
「問題、ですか?」
アリシアさんが首を傾げた。
「自分自身のおちんぽを食べてしまった今、果たしてこの世にそれ以上の珍味が存在するのでしょうか?」
「……もう、それが一番でいいんじゃないですか?」
「いいえ!」
私は窓の外を見つめた。
遥か彼方には、魔王様の治める土地が広がっている。
私には、まだ果たすべき使命がある。
「……そうですわ!」
私は両手を合わせた。
「次は魔王様のおちんぽと、食べ比べをすればよろしいんですわぁ♡」
「まだ食べるんですかぁぁぁ!!」
リーンさんの絶叫が響き渡った。
「さすが師匠! 魔王討伐の使命を忘れていなかったのですね!」
アリシアさんが感心している。
「ええ、もちろんですわ♡」
「アリシアさん! 絶対に意味が違いますから!!」
異世界へ来てから、多くの出会いがあった。
死にかけたことも、恐ろしい魔物さんから逃げたこともある。それでも、そのたびに仲間が助けてくれた。
リーンさんとアリシアさんがいてくださるなら、これから先もきっと大丈夫。
それに、世界にはまだ見ぬ珍味がいくらでも待っているのだから。
「さあ、皆様!」
私は晴れやかな笑顔で宣言した。
「魔王様のおちんぽを目指して、いざ出発ですわぁ♡」
「だから目的は魔王討伐ですってばぁぁぁ!!」
青空の下、リーンさんの叫び声が響き渡った。
こうして、私たちの珍味を巡る冒険は――。
まだ、始まったばかりなのである。
――第10話・第一部完――




