第1話 魔王を倒してほしい? いいですわよ♡
異世界に行ってチンポを食べる。
以上!!
「やはりチンポは下の口より上の口で味わうにかぎりますわ〜!♡」
私は今、人生最高の幸せを噛みしめていた。
目の前にあるのは、ラクダさんのチンポを使った珍味料理。
「んん〜っ♡ この歯応え! 素晴らしいですわぁ……!」
改めて自己紹介をしよう。
私の名前は綾小路美食。
二十九歳、独身。
職業は珍味ハンター。
世界中の珍しい食材を探し、その味を確かめることを生きがいとしている。
中でも私が愛してやまない食材が、動物の生殖器。
つまり、チンポである。
誤解のないように申し上げておくが、私は決して変態ではない。
ただ少々、人より食への探究心が強いだけだ。
「さて、もう一口……♡」
私は大きな一切れを口に運んだ。
その瞬間だった。
「……んぐっ!?」
喉に詰まった。
「んぐぐっ!? んん~~っ!?」
く、苦しい!
お水! お水はどこですの!?
慌てて手を伸ばすも、グラスは床へ落下。
ガシャン!
ま、まずいですわ!
私にはまだ、食べたいものが山ほど……!
世界には、未知のチンポがまだまだ……!
そこで、私の意識は途絶えた。
享年二十九歳。
死因――ラクダのチンポによる窒息。
珍味ハンターとして、あまりにも不本意な最期であった。
◆
「……目覚めましたか?」
「……んん?」
目を開けると、そこは真っ白な空間だった。
目の前には、金髪に白い衣をまとった美しい女性が立っている。
「はじめまして。私は女神です。残念ですが、あなたは先ほど命を落としました」
「…………」
私はしばらく考え込んだ。
「……ラクダさんのお料理は、どうなりましたの?」
「そこですか!?」
「あんな貴重な珍味、もう二度と食べられないかもしれませんもの……」
女神様は、なぜか可哀想なものを見るような目をしていた。
「実は、あなたに特別なお願いがあります。別の世界へ転生していただきたいのです」
「異世界転生……ですの?」
「はい。剣と魔法が存在し、エルフや獣人、そして数多くの魔物が暮らす世界です」
「魔物……?」
「ドラゴンやオーク、ゴブリンなど、あなたの世界には存在しなかった生物たちです」
「…………!」
私の知らない生き物。
ということは、私の知らない食材!
そして当然――私の知らないチンポ!!
「ぜひお願いしますわ!!」
「即答ですね!?」
「ええ! 願ってもないことですもの!」
「ただし、一つ条件があります。その世界を脅かす魔王を討伐していただきたいのです」
「魔王……? ちなみに、その魔王様というのは、オスですの?」
「……オス? 男性ですよ。それが何か?」
「…………!」
魔王。
魔族の王。
しかもオス!
果たしてどんな身体構造なのか。
どのような肉質をしているのか。
想像するだけで胸が高鳴る。
「やりますわ!! 魔王討伐、喜んでお引き受けいたします!」
「な、なんと……! 危険な使命だというのに、なんと勇敢な方なのでしょう!」
「いえいえ、そんな♡」
魔王様。
いつか必ず、お会いしましょうね♡
「あ、それと女神様。あなたよりも上の存在はいらっしゃるんですか?」
「ええ。私たち神々を統べる、最高神様がいらっしゃいます」
「まあ! ちなみに、その方は男性ですの?」
「男性というより、雄性の存在ですね。人間とは根本的に異なる御方です」
「…………!」
人間とも違う。
地球の生物とも違う。
それでいて雄性の存在……!
「女神様! その最高神様にはどうすればお会いできますの!?」
「魔王を討伐するほどの偉業を成し遂げれば、謁見の機会が与えられることもあるでしょう」
なるほど。
つまり、魔王様の先には、さらなる究極の珍味が……!
「絶対に魔王を倒しますわ!!」
「なんという使命感……! あなたは本当に信仰心の厚い方なのですね!」
「うふふふ♡」
人の夢を否定しない。
素晴らしい女神様である。
◆
「では、魔王討伐のため、あなたに三つの能力を授けましょう」
女神様が手をかざすと、三つの光が現れた。
「一つ目は《時間停止》。周囲の時間を止められます」
「まあ!」
「二つ目は《絶対切断》。どんなに硬い相手でも切り裂くことができます」
「まあまあ!」
「三つ目は《オール・バイト》。どんなに硬いものでも噛み砕くことができます」
「まあまあまあ!!!」
す、素晴らしい!
じっくり観察して、食材を傷めずに仕留め、どんな硬いものでも味わえる。
まさに珍味ハンターのための能力ではありませんか!
「ありがとうございます! 大切に使わせていただきますわ!」
「ふふっ。どうかその力で世界を救ってくださいね」
「もちろんです!」
足元に光の魔法陣が広がった。
「では、よい旅を。勇者様」
こうして、私の第二の人生が始まった。
◆
「おおっ! 勇者様!」
転生先は立派なお城の大広間だった。
玉座から立ち上がった王様が、私を歓迎してくれる。
「女神様よりお告げを受けております! どうか魔王を討伐し、我が国をお救いください!」
「もちろんですわ!」
「今宵は歓迎の宴を催させていただきたい」
「まあ! ありがとうございます♡」
◆
その夜。
王宮の大広間には、色とりどりの料理が並んでいた。
「勇者様、お好きな食べ物はございますか?」
給仕の女性が尋ねてきた。
「…………!」
私は思わず固まった。
ど、どうしましょう。
日本では、好きな食べ物を正直に答えるたび、散々な目に遭ってきた。
気持ち悪い。
頭がおかしい。
変態。
そんな心ない言葉を何度浴びせられたことか。
でも……。
ここは異世界!
エルフや獣人が暮らし、ドラゴンまで存在する世界!
ここでなら、私の食文化も理解していただけるかもしれません!
「……あの、実は私……」
「はい?」
私は勇気を振り絞った。
「お、おちんちんが大好きなんですの!♡」
「…………」
「…………」
給仕の女性が固まった。
近くの貴族も、グラスを口元に運んだまま動きを止めている。
「……あら?」
給仕の女性が恐る恐る尋ねてきた。
「あの……食べ物のお話、ですよね?」
「もちろんですわ! 特に珍しい生き物のものが大好きで……♡」
「…………」
あっ。
この反応。
知っていますわ。
日本でも何度も見たことがありますもの。
(異世界でもダメでしたのねぇぇぇぇ!!!)
どうやら食文化への理解というものは、世界が変わった程度では進歩しないらしい。
実に残念である。
◆
翌朝。
私は王様から、村を襲うオークの討伐依頼を受けた。
「オーク……ですの?」
「はい。豚に似た顔を持つ屈強な魔物です。三体ほどの群れが確認されております」
「豚さんに……!? ぜひ討伐させてくださいませ!」
「おお! なんと頼もしい!」
こうして私は、護衛の兵士二人とともに村へ向かった。
ただ、兵士さんたちは昨夜の宴のことを聞いているらしく、私が微笑みかけるたびに妙に緊張した顔をするのだった。
◆
「勇者様、この付近にオークの群れが潜んでいるはずです」
村外れの森。
地面には大きな足跡がいくつも残されていた。
「まあ……ずいぶんと大きな足跡ですこと。相当な筋肉量がありそうですわ♡」
「……魔物の強さを推測しているのですか?」
「ええ、まあ。そんなところですわ♡」
その時だった。
ガサガサッ!
「ブゴオオオオッ!!」
茂みから巨大な魔物が姿を現した。
一体、二体……五体!
身長はいずれも二メートル前後。
豚に似た鼻と、突き出した牙。
丸太のような腕には巨大な棍棒が握られている。
「オークの群れだ!!」
「勇者様! お下がりください!!」
兵士さんたちが剣を抜く。
しかし、私は感嘆の声を漏らしていた。
「まあ……!」
本当に豚さんそっくり!
それでいて、一体ごとに体格が違う。
なんて興味深いのでしょう!
「ブゴオオオッ!!」
五体のオークさんが一斉に突進してきた。
「勇者様ッ!!」
「ご安心くださいませ」
私は静かに右手を上げた。
「《時間停止》」
カチンッ。
世界が止まった。
棍棒も、木の葉も、兵士さんたちも。
すべてが静止している。
「……さて♡」
私はオークさんたちに歩み寄った。
「初めまして。少々お身体を拝見させていただきますわね」
一体目は筋肉質。
二体目は小柄で引き締まっている。
三体目は腹回りに脂肪が多そうだ。
「ふむふむ……同じオークさんでも随分と違いますのね」
私は手帳を取り出し、それぞれの特徴を書き込んだ。
そして、最も気になっていた部位へ目を向ける。
「まあ……!」
地球の豚さんの生殖器に見られる独特の螺旋状の構造が、オークさんには見当たらない。
しかも、形状や大きさにも個体差がある。
「これは食べ比べてみたいですわね♡」
私はさらに顔を近づけ、香りを確かめた。
「くんくん……」
「…………」
「くっさぁ……♡」
強烈な獣臭。
十年以上はちんぽを洗ってなさそうな匂いですわ。
「でもそれも嫌いじゃなくてよ♡」
私は観察結果を手帳に書き込んだ。
「……ちょっと生でも齧ってみたいですけれど……異世界の病気にでもかかったら大変ですし、今回は我慢しますわ♡」
前世では食べ物を喉に詰まらせて死んでしまった。
同じ失敗は繰り返せない。
「やはり食の安全は大切ですものね」
さて。
観察はこのくらいにしておこう。
私はオークさんたちの顔を見上げ、静かに両手を合わせた。
「オークさんたち。あなた方の命、ありがたくいただきますわ」
食材の命をいただく以上、無用な苦痛を与えることは私の信条に反する。
「《絶対切断》」
◆
「ブゴッ!?」
ドサァッ!!
時間が動き出した瞬間、五体のオークさんが一斉に倒れた。
「…………え?」
「オークがすべて……一瞬で……!?」
兵士さんたちが呆然としている。
「ふふっ。ちょっと特別な能力を使いましたの♡」
「す、すごい……!」
しかし、私にとってはここからが本番だ。
「では、村へ戻りましょうか。せっかくですから、皆様にもお肉をお分けしたいですわね♡」
◆
夕方。
村の広場では、オークさんたちのお肉を使った料理が振る舞われていた。
私は村人の皆様から鍋や香草をお借りし、特別な一皿を作ることにした。
「勇者様、何を作っていらっしゃるのですか?」
「オークさんの香草煮込みですわ♡」
まずは流水で洗い、血や汚れを取り除く。
余分な脂や筋を切り落とし、塩で臭みを抜いたら、香草とともに下茹で。
アクをすくい、湯を替えてじっくり煮込む。
「下処理こそ、美味しいチン味への第一歩ですわ♡」
今回は体格の異なる四体を選び、同じ条件で調理してみた。
果たして、味にも個体差はあるのだろうか?
「さあ……いただきましょう♡」
私は両手を合わせた。
「オークさん。あなたの命、大切にいただきます」
そして、一切れを口に運んだ。
「んんん~~~~っ♡」
歯を立てた瞬間、コリッと小気味よい弾力が返ってくる。
「こ、このカリコリとした歯応え……! なんて素晴らしいんでしょう!」
噛むたびに濃厚な旨味が染み出してくる。
しかし、次の瞬間。
「くっさぁ……♡ しかも、なんてえぐみ……!」
強烈な獣臭が鼻を抜けた。
決して万人受けする味ではない。
しかし――。
「んん……っ♡ このえぐみが、たまりませんわぁ……!」
野性的な風味が、噛み続けるうちに癖になってくる。
香草の爽やかさと脂の甘みが混ざり、複雑な後味を生み出していた。
「この下品なまでの濃厚さ! なんとも味わい深いですわぁ……♡」
一口食べれば、もう一口。
「これぞ珍味の醍醐味ですわね……♡」
続いて、別のオークさんのものを味わってみる。
「…………!」
こちらは先ほどより柔らかく、香りも穏やかだ。
「やはり! オークさんにも、個体ごとの味があるんですのね!」
これは大きな発見だ。
今後は産地や年齢、食生活の違いまで確かめる必要がありそうだ。
「なんて奥深いのでしょう……♡ 異世界に来て、本当によかったですわぁ……♡」
頬を一筋の涙が伝う。
最後の一切れを噛みしめ、私は皿を置いた。
「ごちそうさまでした」
深く頭を下げる。
「オークさんたち。本当に、ありがとうございました♡」
◆
「……勇者様」
後ろで見ていた兵士さんが呟いた。
「あなたは、本当に食べ物がお好きなんですね」
「ええ。食べることは生きることですもの♡」
「……なんだか深いお言葉ですね」
「命をいただく以上、食材には最大限の敬意を払わなければなりませんわ。必要以上に苦しめたり、面白半分に命を奪ったりすることは許されません」
「……勇者様」
兵士さんの目が潤んでいた。
「最初は変わった方だと思っておりましたが……あなたは本当に立派な方なのですね!」
「まあ。ありがとうございます♡」
「命を粗末にせず、食材に感謝する……俺も見習いたいと思います!」
「うふふ。嬉しいですわ♡」
私はにっこり微笑んだ。
そして、鍋に残っている料理を見つめる。
「……そうですわ! せっかくですから、あなたにも食べていただきたいですわ♡」
「えっ? よろしいのですか?」
「もちろんです!」
私はフォークに一切れを刺した。
「はい♡ あーんして♡ あーんして♡」
「えっ!? ゆ、勇者様!? 自分で食べられますので!」
「まあまあ、そう遠慮なさらず♡」
私はにっこり微笑んだ。
「大丈夫、怖くないから♡」
「い、いえ、その……!」
「一度口に入れたら病みつきだから♡」
「…………」
兵士さんの表情が引きつっていく。
「……ちなみに勇者様」
「はい?」
「そのお肉って……どこの部位なんです?」
「オークさんの、おちんぽですわ♡」
「…………」
「…………」
「ち、ちんぽォォォォォォ!?」
兵士さんが飛び上がった。
「そ、そんなもの食わせようとしてたんですか!?」
「まあ! そんなものだなんて失礼ですわ! オークさんが大切に育んできた、立派な食材ですのよ!」
「そ、そういう問題じゃ……!」
「とっても美味しいのに……」
「俺にはまだ、口にする勇気がありません!!」
「まあ……残念」
とはいえ、食事を無理強いするのはよくない。
「では、また食べたくなったらおっしゃってくださいませ♡」
「一生ないと思います!!」
なんとも頑固な方である。
「それでは……」
私は傍らにあった、もう一つの包みを持ち上げた。
「今度はこちらを試してみましょうか♡」
「……まだあるんですか?」
「ええ。先ほどとは少し条件を変えて、食べ比べてみたいんですの」
「……条件?」
私は満面の笑顔で包みを開いた。
「じゃあ今度は、こちらの血抜きしてないおちんぽを調理いたしますわよ♡」
「…………」
「…………」
兵士さんが固まった。
「先ほどのものと、香りや食感がどの程度違うのか確かめてみたいんですの♡」
「…………」
「もちろん、下処理はきちんと行いますわよ♡」
「……あら? どうなさいました?」
兵士さんは震える手で頭を抱えた。
「さっきまで感動してた俺の気持ちを……」
「はい?」
「返せェェェェェェ!!!」
その絶叫は、村の広場中に響き渡った。
◆
その夜。
宿屋の窓から、私は満天の星空を眺めていた。
今日いただいたオークさんの珍味。
地球の豚さんとは似て非なる、まったく新しい味だった。
この世界には、どれほどの未知の味が眠っているのだろう?
「……素晴らしい世界ですわね」
ゴブリンさん。
ミノタウロスさん。
ドラゴンさん。
そして――魔王様。
さらには、女神様がおっしゃっていた最高神様。
想像するだけで胸が高鳴る。
「……とはいえ、焦りは禁物ですわね」
まずは目の前の珍味を、一つ一つ確かめていくことが大切だ。
「千里の道もチンポから、ですわ♡」
私は夜空に向かって拳を握りしめた。
「いつか必ず、この世界の珍味をすべて味わってみせますわ!」
魔王様も。
ドラゴンさんも。
そして、神様だって。
食への探究心に限界などないのだから!
「チン味王に、私はなりますわ!!」
こうして、異世界史上最も恐ろしい美食家の冒険が幕を開けた。
なお、この日から王都近郊の魔物たちの間では、奇妙な噂が広まることとなる。
『人間の女にだけは、絶対に捕まるな』
『特に、笑顔で近づいてくる女には気をつけろ』
『あの女は……』
『――食うぞ』
その噂が、やがて魔王城にまで届くことになるのだが……。
それはまた、別のお話。
そして、その夜。
美食が見上げる満天の星空には、不思議な星座があった。
二つの丸い星と、その上に細長く連なる星々。
どう見ても、おちんちんの形をしている。
その先端から――
キラリッ☆
まるで彼女の旅立ちを祝福するかのように、一際強い輝きを放つ彗星が流れた。
――第1話 完――
補足情報
美食は下の口で一度だけ彼氏のちんぽを味わったことがあるが「上の口でも食べてみたい…」という呪われた思考を振り払えず、彼氏に自ら別れを切り出した事がある




