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“界”の残響(リフレイン)−断章編−  作者: 黒っぽい猫


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不器用な優しさと少女

本編とはあまり関係ない時間軸であまり書かれない肥后くん視点です。高校1年の時同じクラスだったのですがそれほど関わりがなく、部活で話すようになった時、 肥后くんから見た優奈はどんな風に見えていたのかを書きました。

 俺から見た月田優奈という奴は、なんというか……


 小さいし。


 臆病で。


 少し目を離したらどこかへ消えてしまいそうな———子うさぎみたいな奴だった。


 同じクラスだったから顔ぐらいは知っていた。


 だがちゃんと話したことはなかった。


 そもそも月田は目立たない。


 休み時間も本を読んでいるかスマホをいじるか。


 大人数の輪に入るタイプでもない。


 だから最初はただのクラスメイトだった。


 理科部に入るまでは。


 ⸻


「あー……同じクラスの月田……さんだよね?」

「うん」


 沈黙。


 気まずい。


 めちゃくちゃ気まずい。


 理科部の部室。


 同じテーブルに座ったはいいが会話が続かない。


「俺も同じクラスなんだけど……誰かわかる?」

「……」


 一瞬考えて。


「肥后くん?」

「あ、うん。当たり」

「……よかった」


 月田は本当に安心したように息を吐いた。


 なんなんだこいつ。


 変な奴だな。


 それが第一印象だった。


 ⸻


 そんな感じで適当に過ごしているうちに夏になった。


 理科部では毎年恒例の野外調査があるらしい。


 近くの山へ行き、生き物や植物を観察し、その内容を秋の発表会でまとめる。


 俺と熊川先輩。


 阿道先輩と月田。


 二組に分かれて調査していた。


 ⸻


「いやー今日は暑いな」

「暑すぎますね」

「地球温暖化がすごい」


 適当に話しながら歩く。


 すると遠くから声が聞こえた。


「熊川さーん!」


 阿道先輩だ。


 珍しく慌てている。


「どうしたの?そんな慌てて」

「優奈ちゃんが足滑らせて捻挫しちゃって!」

「え?」

「私じゃ体力なくて運べないの!」


 嫌な予感がした。


 案内された先にはベンチがあった。


 そこに月田が座っていた。


 右足を押さえている。


 顔色も悪い。


 いや、それはいつも通りか。


「大丈夫?」

「んー歩けないことはないですよ」

「いや絶対無理だろ」

「……」


 そっぽを向いた。


 図星らしい。


「ほら」


 俺はしゃがみ込む。


 背中を向けた。


「……?」

「おんぶしてやるから」

「え」


「早くしろ」

「いいの?」

「いいから」


 しばらくして背中に重みが乗る。


 軽っ


 思わず声が出そうになった。


 軽すぎる。


 マジで軽い。


 ⸻


「ごめんね、捻挫しちゃって」

「別に怒ってない」

「でも重いでしょ?」

「全然」


 本当に全然だった。


 むしろ心配になるレベルだ。


 前から思っていた。


 月田は痩せすぎている。


 顔色もあまり良くない。


 昼飯も少ない。


 ぶっちゃっけおにぎり数個しか食べてるところを見ない。


 大丈夫なのかこいつ。


「いやぁ体力あるねぇ」

「ボーイスカウトやってるからな」

「なるほどねー」


 のんびりした声が返ってくる。


 少し安心した。


 休憩所へ着く。


 顧問と先輩達が待っていた。


「そろそろ下ろすぞ」

「うん」


 ベンチへ座らせる。


 阿道先輩が応急処置を始めた。


「ありがとうね、肥后くん」

「お、おう」

「肥后くんって優しいよね」

「は?」


 思わず変な声が出た。


「優しいよ」


 月田は当たり前のように言う。


「俺が?」

「うん」


 意味が分からない。


 むしろ冷たいと言われることの方が多い。


 それを伝えると月田は少し考えた。


「うちね」


 ゆっくり話し始める。


「人と話すの苦手なんだ」

「そうなのか」

「うん」


 知っていた。


 見れば分かる。


「だから言葉出てくるの遅いし」

「うん」

「よく親に早くしてって言われる」

「……」


「クラスでもみんな待ってくれるし『ゆっくりでいいよ』とか言ってくれるんだけど」

「うん」

「早く話した方がいいのかなって焦っちゃう」


 少しだけ笑った。


「でも肥后くんは無表情で黙って聞いてくれるから」

「……」

「それが嬉しい」


 そう言って笑った。


 あまり表情の変わらない奴なのに。


 その時だけは少し柔らかく見えた。


 なんだろうな。


 変な気分だった。


「……もう少し飯食え」

「んぇ?」

「痩せすぎ」


 すると阿道先輩が即座に反応した。


「それ私も思ってた!」

「もっと食べなさい!!」

「えぇ……」


「俺も賛成だ」


 熊川先輩まで参戦する。


「なんでそんな食べないんだ?」


 月田は少し考えて。


「小さい頃ね」

「うん」

「よく家にミルクティーが置いてあったんだ」

「ミルクティー?」


「牛乳パックのやつ」

「1ℓぐらいのやつ?」

「うん、それ。よくストロー刺さってた」


 嫌な予感がした。


「お腹空いたらそれ飲んで空腹を誤魔化してたの」

「うん」

「なんか食欲なくなっちゃった」


 全員固まった。


「不健康すぎるだろ!?」

「うへへ」


 今度はちゃんと笑った。


 さっきよりずっと自然な笑顔だった。


 結局、その後も散々怒られながら手当は終わった。


 俺は家まで送ることになった。


 背中の月田は相変わらず軽かった。


 チビだし。


 痩せすぎだし。


 髪ボサボサだし。


 顔色も悪い。


 不健康そのものだ。


 だけど———


 笑えばちゃんと年相応の少女の顔をする。


 その時初めて———


 月田優奈という人間を少し知れた気がした。


後日、みんなでご飯に誘われ、お腹いっぱい食べた優奈をみて先輩達や肥后くんがめちゃくちゃ安心したというのはまた別の話……

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