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成金伯爵が私を愛する訳  作者: 叶 葉
婚約時代編
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アランは暫く中空を無意味に見つめていた。

熱に浮かされて意識がはっきりとしないのだろう。

クロエは近づくと黙ってアランの横にいた。


雪はいつの間にか止んでいた。

「クロエか……」

アランは掠れた声でぽつりと呟く。

酷く頼りなげな声はいつもの不遜な態度はなりを潜めていた。

「気が付いたのね。アラン様、本当に良かったわ」

クロエがアランの汗で額に張り付いた髪を避けてやる。

「ああ……。世話になったようだな」

まだ熱い額にクロエは冷え切った自分の手を当てて熱を逃がしてやる。

「大丈夫、大丈夫よ。気にしなくていいのよ。それより、気分はどうかしら?」

クロエはアランの様子を具に確認する。

呼吸は一時よりは落ち着き、顔色もマシにはなっていた。

「ああ、悪くないな。君が居て気分が悪かった試しはないがな」

アランのあんまりな言い草にやっとクロエは笑った。

不思議だった。

先程まであんなに恐ろしかった闇が、アランが目覚めると共に、そんな気持ちがあった事が嘘の様に霧散してしまったのだ。

「アラン、雪が止んだわ。きっとこれで大丈夫よ。サイラスが捜しに来てくれるわ」

クロエはアランを安心させるように言い聞かせた。

「ああ、だといいがな。クロエ、君が手当てをしてくれたのだな?君は何でも出来るな」

アランが僅かに視線を動かして足元を見る。

「一応したけど、自信は無いのよ。早くお医者様に見て戴きたいわ」

アランはかぶりを振る。

「いや、限度がある。贅沢は言えないな。しかし、君は寒くないのか?」

アランがドレス一枚の姿のクロエを見る。

「火にずっと当たっていたし、色々それどころでは無かったからかしら。寒さは感じないのよ。寧ろ暑いくらい」

「それはかなり不味いな。体温が下がっているから身体が正常な判断が出来なくなっているのだろう。クロエ、こちらへ」

アランに招かれ、抱きしめられた。

クロエの羽織りの中に抱き締められる。

アランの熱により高い体温がクロエを温めた。

二人で熱を分け合うような行為を暫くしていると、遠くの方で二人を呼ぶ声がした。


「おーーーーいっ!叔父上ーーーーっ!クロエ様ーーーーーっ!!」


「ここだーーーっ!サイラス!」


アランが掠れた声を振り絞り、叫ぶ。

暫く待つと、ミシミシと雪を踏みしめ、いくつかの松明の火に照らされた。


「よくぞ、ご無事で」

サイラスがホッと安堵の息を吐くのが見て取れた。

「手間を掛けた。この通り、私は動けない。クロエは体温が下がっていて危ない状態だ。まずはクロエを頼む」

アランは苦笑する。

「はい、心得ております。担架を一応持ってきました。少し行った所に木こりが冬に使っている山小屋があります。取り敢えずそちらにお運びします」

サイラスは頷くと、連れてきた人足に手配を始めた。


兎に角、クロエは助かったのだ、と安堵した。













山小屋に運ばれた二人を暖炉の火が迎えた。

あらかじめ暖められていた山小屋の内部は、クロエの凍り付いていた身体と気持ちをゆっくりと溶かしていった。

アランの傷口の状態を呼ばれて来ていた医者が処置してくれた。

幸い裂傷は浅いものの、骨にヒビないしは折れている様で副え木を当てられていた。

「早く迎えに行けなくて申し訳ありませんでした」

「良い。あの天候だ。こうして来てくれただけ助かった。サイラス、貸しにしといてくれ」

「叔父上、構いませんよ。それより大変でしたね」

「クロエが良くしてくれた。まあ、あんな経験は金を払っても出来ないからな。ふふ、なかなか楽しめた」

アランがやっといつもの調子を取り戻した様子にサイラスは苦笑する。

「叔父上、安心しました。もう大丈夫そうですね。明朝、邸に向けて出発しましょう」

「サイラス様、重ね重ね申し訳ありませんが、よろしくお願いします」

クロエが頭を深々と下げた。

「破天荒な叔父を持つと、度々ある事です。気にしないでください」

サイラスは優しくクロエの背中をさすってくれた。

「シルヴィアがいるんだろう?最悪だ。怪我とクロエの事が無ければこのまま帰りたいくらいだ」

アランが形容しがたい顔で不快を表した。

「このまま帰ったとしたらルソー邸に押し掛けられますよ。もっと面倒な事になりませんか?」

サイラスの言葉にアランはもっともだ、とアランは笑った。

「少し寝る。クロエも休め」

アランはそのまま目を閉じてしまった。

すぐに規則的な寝息が聞こえる。眠ってしまった様だ。

クロエはアランの側を離れ、狭い小屋の窓際に近づく。

白み始めた空が段々と明るくなって行く様は希望の象徴の様だった。

「叔父上とは和解してしまわれたんですね」

サイラスが背後に立っている。

「ええ。ご心配をおかけしましたが」

「少し、残念です。……この一過性の風邪は一体いつになったら治るのでしょうか。私の胸の痛みが早く和らいでくれるのを待ちます。しかし、最後に一度だけ」


サイラスはそう言って背後からクロエを抱き締めた。


「サイラス様……。貴方の心に早く平穏が訪れる事を祈っております」


クロエは呟いた。

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