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つりみこ3 ~LINDORM~  作者: 島風あさみ
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第五章・磯鶴神社・その四

「いらっしゃあぁい。待ち遠しかったわぁ」

「ほらみんなどんどん食べて」

 あゆむの両親はどちらも碧眼へきがんでした。

「ごめんこれうちの両親」

 お母さんは赤毛で歩よりさらに長身で、ちょっと太め。

 お父さんは金髪で歩よりちょっと小柄のせ気味。

 そしてご馳走ちそうを用意していました。

「歩さんってクォーターじゃなかったっけ?」

 八尋やひろは当然の疑問を口にします。

「どっちもハーフなんだ。母ちゃんがドイツ系で、父ちゃんがドイツ系アメリカ人ハーフ」

 どちらが日暮坂ひぐれざか家の出身かわかりませんが、もうどっちでもいい感じです。

「あと俺たちゃ夕食済んでるぞ。朝に散々いったじゃん」

「育ちざかりなんでしょ? まだまだ食べられるわよ」

 見た目は西洋人でも中身はオバチャンでした。

「いやもう食えねぇから」

「もうちょっとしないと無理だね~」

「ぼくもうお腹いっぱい」

「ゴンズイが嫌になるくらい食べたよっ!」

 目の前にあるのはゴンズイ汁が入った寸胴鍋ずんどうなべと、ゴンズイのお刺身を盛った大皿。

 塩焼きや煮つけもありますが、どれもこれもゴンズイです。

「どんだけ取れたんだゴンズイ」

沿岸漁家えんがんぎょかはみんなやられたみたいねぇ」

 裏口の窓からトラックの光が。

 きっとご近所の漁師さんがゴンズイのお裾分すそわけをしにきたに違いありません。

「相楽くんのお父さんが知り合いを集めてるんだけど、どんどん入荷するからさばききれなくてねえ……」

 金髪お父さんはちょっと困った顔をしています。

「高校生を集めれば食べきれると思ったんだけど、すでにゴンズイを食べたあとだったんだ」

 莞子かんこたち船釣り部員たちもゴンズイを釣りまくった模様。

「お祭りは明日なのにぃ、もう始まっちゃった感じよねぇ」

 境内けいだいはすでに酒盛り状態。

 おつまみはもちろんゴンズイ料理。

 ゴンスイのゴンスイによるゴンズイ祭りでした。

「まさか、うちまで……?」

 小夜理さよりの家は船宿です。

渕沼ふちぬまさんとこは大丈夫だったみたい」

「船長の腕だね。さっきワラサ(ブリの若魚)をいっぱい持ってきてくれたよ」

「よかった……」

 青物あおもの船でお客さんにゴンズイなんか釣らせたら、釣り船【いさば丸】の沽券こけんに関わります。

「いやよくねぇだろ」

 これで磯鶴いそづる神社の生鮮食料は飽和ほうわ状態に。

「歩―っ! 夕食済んでるなら、こっち手伝いなさいよ!」

 縁側の障子しょうじを開けて、莞子が顔を出しました。

「わかったわかった。母ちゃん、この料理は外のオッサンたちに食わせてくれ」

「あららぁ、お夜食に残しておかなくていいのぉ?」

「材料はいくらでもある。あとでどうにでもするさぁ」

 そんなこんなでゴンズイ料理はすべて移動、おぜんも立てられ、お手伝いの準備が始まります。

「みんなお仕事の時間だぜぇ!」

「昼間に歩さんがいってた労働って、この事だったんですね」

 藍子あおこは覚えていた模様。

悪樓あくる釣りの事じゃなかったんだ……」

 八尋も覚えていましたが、その悪樓釣りも難破船なんぱせんやロウニンアジ悪樓のさわぎで一尾も釣っていません。

「本当は明日の夜に手伝ってもらうつもりだったんだがなぁ。でもまあ今日からって事で頼むぜ」

「着換えお待ち~!」

 風子ふっこ百華ももかと一緒に巫女服の山を持ち込みました。

「ちょっとぼく男だよなんでみんな躊躇ちゅうちょなく服脱ぐの⁉」

 小夜理にいたってはすでに下着姿で、汗でベトベトになった体をボディーペーパーでぬぐっています。

「それはなぁ、これから巫女服の着つけ教室が始まるからだぁ!」

「ぼく帰るー‼」

「逃がさん! あと八尋は誰も男子たぁ思っちゃいねぇ!」

「だからヤなんだよう!」

 八尋は逃げようとしましたがダメでした。

 いつもの事です。

「いいか八尋、仕事の着換えに男も女もねぇ」

「あると思うよ」

「父ちゃんがいそがしいから、いま着つけを教えられる男はいねぇ。どっちにしろ八尋は女子がいねぇと巫女服を着られねぇんだ」

「……うん、それはわかった。でもなんで全員いるところで着換えなきゃいけないの?」

「この部屋以外は雪見障子なんだ」

「なにそれ?」

「下半分がガラスになってる障子だぁ」

「それは着換えられないね」

 体育の時間で同性に見られながらの着換えすら苦手な八尋には、見知らぬ他人からのぞかれる可能性のある部屋での着つけなんて、考えたくもありません。

「召喚されるたびに、タモさんに着つけてもらうのも嫌だろ? そろそろ自分で着られるようにならねぇとなぁ」

「……うん、わかった。ぼく覚えるよ」

「そうかそうか。じいい心がけだぁ」

 歩は制服をババッと脱いで、下着姿で肌襦袢はだじゅばん羽織はおりました。

「一発で覚えられるように、みんなよぉく見とけよ!」

 目の前にババーンと巨大なブラジャーが。

「見られないよ! ちょっとは恥ずかしがってよ!」

「恥ずかしがったらエロくなっちまうだろぉがぁ!」

 だんだん歩のほおが赤く染まってきます。

「俺の羞恥心しゅうちしんは最大五分、全開で一分しかもたねぇ!」

 どこぞの人造人間みたいです。

「だからさっさと覚えろ!」

「藍子さん、百華さん、お願いします」

 小夜理が指示すると、八尋の両脇がガッチリつかまれました。

「わ――――っ⁉」

「目もつぶっちゃダメだよ~」

 風子に顔面を固定されます。

「ごめんね八尋くん、実はさっき歩さんと約束しちゃったの」

「あたしはこーゆーの大好きだけどねっ!」

 裏から手を回されていた模様。

「さぁて八尋、しっかり目に焼きつけるんだぞぉ!」

 歩は肌襦袢のひもを結び、白衣びゃくえを着て帯を回します。

「……よかった、もうエッチじゃなくなった」

 白衣でエロを感じなくなる八尋の基準も大概たいがいです。

「帯の結びは覚えたな?」

 誰でも知ってる蝶々《ちょうちょう》結びでした。

「は~い」

「うん、わかった」

 そこが罠でした。

 次回から八尋の浴衣ゆかたは女結び決定です。

「じゃあ次ははかまだぁ」

 歩の着つけ講座はまだまだ続く。

 袴は割と簡単に着られるので、不器用な八尋でもあっさり覚えられました。

「できた! ぼく一人でもできた!」

 最後でしたが、どうにか着つけを覚えて巫女服姿になった八尋。

 異世界で着慣れているので転んだりましません。

「外に出るぞぉ! 莞子たちが待ってるぜぇ!」

「は~い」

「急ぎましょう」

「お手伝い頑張がんばるぞっ!」

「この服装で料理するんですか……?」

「こう見えても作業着だからなぁ。遠慮なく汚していいぞぉ!」

 縁側で草履ぞうりいて出撃する一同。

 しかし、ここにも罠が張られていたのです。

 八尋と風子が着ている巫女服は、歩や由宇ゆうのお下がり。

 つまり女性用の緋袴ひはかまだったのです。

「おおっ、綺麗どころの追加だあ!」

「みんな初々《ういうい》しくて可愛いねえ」

 オッサンたちは大喜び。

「なんだ、やっぱりあの子も女の子だったんじゃないか」

 八尋は漁協や商店会のみなさんに、女子として認識されました。

「…………あっ」

「どうした藍子?」

「スマホに通知が……」

「遠慮すんな。あっちでじっくりやってくれ」

「はい」

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