261 終わりと始まりのプロローグ
ここからは、病院での密会から3カ月経つまでの話だ。
ウィスタリアの預言(という建前)によってスタッツ国は一度解体された。
その後、ガーネット公爵家とスレイト魔導爵家(スタッツ国固有の爵位らしい)が魔導国家【マグナギア】を結成した事で、今までの法律を再編し直す事になった。
一部の地方都市は独立したものの、一ヶ月経てば連合国の傘下に加わっていた。
法律の改正によって税率が下がった事で納得し、合流したらしい。
――裏では、独立派がそもそも元帥の工作員だった、なんてオチもあったらしいけど。
ただ、独立出来るだけの土壌と財力はあったらしく、地方派閥――現代で言う所の政党へと姿を変えて、公爵家一強だった国政に関与していくようだ。
民主主義国家の誕生とも言えよう。
その後は、フミノキースで二人の友達――クレフォリア・エリオリーナと楽しく遊んだり、テスタ村地方でオーク・ハーフエルフ・ハビリス族と、テスタ村の人々との橋渡し役をしたりと、とても忙しい日々を過ごした。
元は社会人だったお陰か、魔王候補だと知られたお陰か、会議のまとめ役として顔を聞かせる事が出来た。超頑張った。
ちなみにリズールは、俺が自宅に帰るまで、という条件付きでエリオリーナの父に貸し出した。
シュトルムがスレイト家の家長、ジークフリート(リインネートさんのお兄ちゃん)と会合した時に分かったんだけど、どうやら昔のフミノキースはもっと魔法都市、って感じだったらしい。
夜間でも出歩けるほどに明るく、全ての人々が魔法を使えて、箒で空を飛びかう都市だ。
そこでリズールの知識が生きた。
彼女に内包されていた数々の魔法理論、魔術(魔法適正が無くても使えるように創られた魔法)理論を開示して、復興の礎にして貰う事にしたのだ。
そこで魔術理論の本質――魔力そのものを物質に変換するのではなく、周辺には微粒子・大気などが存在しているという状態を理解し、魔力の流れで集約して発動する術がようやく理解された事で、異世界に魔術革命が起こった。
一般人向けの魔術講座が流行し、魔術指南書が発売される度にベストセラーを記録。
二ヶ月も立つ頃には、一般人どころか、街中の子供でさえ魔術を使えるようになっていた。
リズールと共に出版した“初心者でも出来る生活魔術集”もめっちゃ売れた。
印税美味しい。
更に、大分前――魔力知覚を教えて貰った時に『色が付いてる』と語った事があったじゃん?
実はあれ、魔法・魔術の適正を判断出来る俺の特殊能力だった。
魔眼、因果観測眼の基礎能力らしい。
しかし俺は、この力を何とか一般に普及出来ないか、と考えた。
そうすればもっと簡単に適正が分かるし、何より魔術の更に上――魔法を目指して貰えるからだ。
そこで生み出されたのが“魔力色眼鏡”という魔道具。
『魔力を強制的に徴収した後、目玉をその人の魔力でコーティングすれば魔眼っぽくならないか』
という雑な思考とアイデアで作り上げられたのだが、これが何と成功した。
まず前提知識として、内包魔力は必ず青色だそうだ。
ただ、放出魔力は微弱な属性転換を起こしているようで、魔法・魔術適正に応じて転換色を発現しているらしい。
なので目を魔力で覆ってしまえば、偏光ガラスのような作用を起こして、微弱な属性転換が見えるようになるんだとさ。
ま、世界がまた成長してしまったという話だ。
これからに期待だね。
後は……うーん……あ、あれ。魔力の増やし方。
今までは、魔力を使い尽くして器(魔力タンクの事らしい)を成長させるのが主流だったらしい。
だけども危険だし、成長していくにつれて時間効率が悪くなる。
そこで、
『逆に溜め込みまくって、その状態を身体に慣らしていく方が楽じゃね?』
という某スタイリッシュバトル漫画方式を提案した。DBね。
すると兄が化けた。
店番している時に永遠とチャージしてたみたいだから、気が付いた時にはMPが十万を超えてた。
まぁ、うん、兄も魔王の系譜だから。うん。
ただ、世間の一般の評価は賛否両論。
魔術・魔法を使い倒して成長を実感したい派が意外と多かった。
ま、こういう方法もあるよ、と提案出来ただけで良しとしよう。
他は……あぁ、運河の行く末について。
埋め立てる事が決まった。
エンシアと地続きにするようだ。
どうやらこれはリズールの提案らしい。
なんでも、
『“鉄道”という、陸地での運輸・人員輸送に特化した異世界の技術があります』
と教えられた事で、男の子――もとい、議員達の何かが燃え上がったらしく、
『エンシア王国やエルフォンス教皇国とは末永い付き合いになるのだから、侵略戦争の事を考えるよりも、まずは協力して産業の発展を目指すべきだ』
との声明と共に草案が出され、数週間にも渡る議論ののちに本案が閣議決定され、産業技術の向上・公共事業の創設も兼ねて、運河を埋め立てる事が満場一致で決まったようだ。
幾ら何でも気が早すぎると思うけど……
うん、寝台列車に乗って旅をしたいなーとは思ってたので、俺は何も言わない。
あ、燃料には石炭の代わりに魔石を利用するらしい。
ダンジョンで獲れるんだってさ。
「はぁふ……暇……」
「ひまだねあるじー」
そんなこんなで俺は、約半年ぶりとなる両親との再会を心待ちにしながら、幌馬車に揺られてユリスタシア領に帰っていた。
荷台には斬鬼丸・ガレットさん・シュトルム・リズール・スラミーが乗っている。
馬車の周囲は、聖剣使いとなったディビスの他に、白金級装備の冒険者が警護中だ。
ウチの馬車の前方には、クレフォリアちゃん含むエンシア王家専用の馬車と、国家騎士団の馬車。
折角なので一緒に帰ろうという事だ。
後方にはエリオリーナちゃんの馬車と、スタッツ――訂正、マグナギア魔導国軍の馬車。
マグナギアは国内再編に向けて荒れるし、エリオリーナちゃんが『友達の二人と離れるのは寂しい……』と言うので、エンシア王国に招待した。
総台数は――三十、いや五十は超えてるんじゃないかな。
いや、もっともっと多いかもしれない。大所帯だ。
でもまぁ、うん、もう細かい事は気にしない。
というかどうでも良い。
「家に帰ってただひたすらに寝たい……」
「ねむいねー」
ナターシャはスラミーを膝に乗せながらぼやいた。
旅の工程も七日目。もう最終日だ。
考えるのが面倒なほどに疲れている。
因みに、この旅の辛さを伝えるために帰宅耐久配信も行っているものの、
[平和過ぎて牛になる]
[丑年だもんな]
「ふへっ」
[笑ったww]
[対あり~w]
「くっそ……」
しょうもないコメントに笑かされるのが悔しい。
まぁ、うん、配信のお陰で正気を保っていられるのかも。
『ユリスタシア家に到着します! 後続の馬車は速度を落として下さい!』
「!」
するとようやく号令が来た。
数分後には実家前を通り過ぎて、更に数分後にはウチの馬車だけがユリスタシア村へと別れた。
クレフォリアちゃんとエリオリーナちゃんはこのまま王都に向かう。
「また会おうね~~!」
ナターシャが荷台から手を振ると、こちらを眺めていたクレフォリア、エリオリーナの二人も窓越しに手を振ってくれた。
二人がこの領地に来るのはまた後日、予定を決めてからだ。
村に入ると、村人の他に、この異世界での父と母――リターリスとガーベリアが待っていた。
二人は、御者台から身を乗り出している成長した娘の姿を見て、とても嬉しそうだった。
馬車が停止して、最後にナターシャが降ろされる。
「「ナターシャ、お帰りなさい!」」
そこで両親が出迎えてくれた。
父は誇らしげに、母は感極まったのか少し涙ぐんでいる。
「うん! ただいま~~っ!」
半年ぶりに両親と再会した少女は、二人に向かって元気よく飛び込んだ。
父と母も少女を受け止めて、三人仲良く抱き合うのだった。
今度こそ完結です。お疲れ様でした。
あ、ポイントを催促しておこう。(唐突)
宜しければ、☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて頂けると嬉しいです!
続編を執筆するためのやる気になります!
よし、これで良いな!




