185 ゴブリン村捜索終了、次なる目的地へ。
偽蛇竜の丘の北西でゴブリン村を二つ発見した。
この地域周辺は雑木林が多い関係もあって、ゴブリンが集結しやすいらしい。
ようは餌が豊富なのだ。特定の地域に魔物が集まる一番の要因である。
そして、座標石設置には先ほど仲間になったオークさんが活躍してくれた。
彼が村の傍まで接近しても、ゴブリン達は恐怖するだけで抗戦せず、設置した魔導石に近付こうともしなかったからだ。
魔法にまで長けているのは予想外だったが、先祖帰りした妹に教える為、オークドルイドから魔法の手ほどきを受けていたらしい。
妹の為にそこまで頑張るとは凄い人だ。いや、オークだ。
「座標石ヲ設置シテキタ。コレデ最後ダナ」
「ありがとうオークさん。凄いね」
「ソレホドデモナイ」
そして謙虚。人間ならモテるだろう。
ただ、オークのセンスが人間と同じかどうかは分からないので、同種族内でモテるかは分からない。
クエスト終了を理解したリズールは、手を合わせながらまとめ役を買って出た。
『ではこれで、私達の用事は終わりですね』
「そうだね。でも、案内して貰う前に……」
『やはりそうなりますよね』
ナターシャとリズールが遠くを見ると、3人組のオークがキョロキョロと周囲を探していた。
その顔には怒りの形相が見えるので、餌を探しているような雰囲気では無い。
気付いたオークも、斧の柄を両手で握って身構えた。
「ググ……アレハ、里の捜索隊……」
「表情を見るに、相当憎まれているようでありますな」
「だねー」
それだけオーク族は、力の象徴である長を崇拝しているんだろうね。
まぁでも、俺に掛かればこの程度のピンチ、切り抜ける事など造作もない。
「じゃ、魔法で姿を消して、ゴブリンの隠れ里に急ごうか」
『はい。お願いします我が盟主』
「オッケー任せてー。えっとねー……」
今から使うのは隠密魔法。
それを軽くリメイクして、効果を全体化するのだ。
だからー……
「――“無貌の王の真髄を視よ。彼の王は、名は有にして無形。その姿、盟友を除き一切知らず。その理に従い、我らの全てを晦まし、有形世界に融解させよ。“無貌王・夢幻抱影””!」
超ノリノリで創った魔法が発動し、ナターシャ達の姿は空気に溶けるようにして消えた。
二つ名が付いたお陰で性能も向上しており、元の効果が全体化しただけでなく足跡も残らないのだ。
仲間の姿も半透明だけどちゃんと見えるし、我ながら完璧な隠密魔法を創った気がする。
オークも驚いているようで、透けている自分の身体を見ながら呟いた。
「コレガ人間ノ魔法カ……凄イナ……」
『いえ、この魔法は我が盟主の特別製ですね』
「ソウナノカ。ナターシャハ凄イナ」
「ふふ、まぁね。じゃ、オークさん。隠れ里への案内を宜しくっ」
「アァ分カッタ。コッチダ」
ナターシャ達は、オークの道案内に従って南西へ向かう。
もっと分かりやすく言うと、テスタ村方面に帰っている形だ。
◇
オークはテスタ村を視認すると、真っ直ぐ北に向かって進み始めた。
その方角には鬱蒼とした森が存在していて、奥には山々が控えている。
「これから山を越えるのでありますか?」
進む方角を理解した斬鬼丸が、素朴な疑問を投げかけた。
オークは頷き、今からどういうルートを辿るのか、分かりやすく話してくれた。
「アァソウダ。今カラアノ森ヲ抜ケ、山ノ境ヲ通ッテ、ソノ裏手ニアル盆地ヘ向カウ。ソコニ隠レ里ガアルンダ」
「ほう? ナターシャ殿、そこにゴブリン達が居るのでありますか?」
「ん、ちょっと調べる」
試しに魔力を広げ、山の裏手を索敵範囲に入れてみた所、ゴブリンらしき生体反応が複数あった。
その地域は索敵の感知外に設定していたので、隠れ里の存在に気付けなかったのも頷ける。
ただ……おかしな点が一つあった。
「ねぇリズール、この魔力反応ってホントにゴブリン?」
『……判断が難しいですね。どちらかと言うと人間寄りです』
「だよねぇ」
隠れ里のゴブリン達を感知したナターシャとリズールが困惑していると、オークが答えを教えてくれた。
「……アァ、言イ忘レテイタ。隠れ里ニ住ムゴブリン達モ、先祖返りヲ起コシテイル。トテモ小サイガ、人間ラシイ見タ目ダゾ」
「えぇっ!?」
「おぉ」
『驚きですね』
衝撃の発言に、ナターシャ達は驚きの声を上げざるを得なかった。
だが、今は時間が惜しい。オークの捜索隊が近くまで来ているからだ。
詳しい話は後で聞くとして、急いで隠れ里に向かう。
◇
森の中にはブラッディデスベアーや、レッサーサーペントの超上位個体、ブラックサーペントの縄張りがあったりと世紀末級の恐ろしさだったが、彼らの縄張りに入らない安全なルートを通ったのと、隠密魔法を使用していたお陰で気付かれる事は無かった。
まぁ、仮に襲ってきた所で撃退出来るが。
そして森を抜けると、清らかな泉があった。
山から流れ出る清水が地下に染み込んでいく場所だ。
ここからは渓流を上りながら山の裏手に向かうのだが、7歳女児のナターシャにそんな体力は無い。
なのでリズールが、チートスキル“重力操作”を使って主を運搬する事になった。
「わーい!」
『マイロード、空を飛ぶ感覚はどうですか?』
「たのしー!」
川沿いでふわふわと浮かび、空中浮遊を楽しむナターシャ。
娯楽が圧倒的に少ない中世風の異世界。
このような不思議体験は、ナターシャのテンションを最高潮にするのに十分だった。
「見て斬鬼丸! 空中を泳いでるよ!」
「おぉ、凄いでありますなぁ」
一応ナターシャには索敵の仕事があるのだが、魔法を仲介解析しているリズールが居るので、完全に一任してしまっている。
まぁそれもこれも、まだ7歳の子供なので仕方ないとも言える。
……そして道中では、隠れ里に住むゴブリン達の話になった。
リズールが語った歴史的背景も交えつつ、出来るだけ簡単に説明しようと思う。
まずは昔、この地域で起こった悲劇について。
隠れ里のゴブリン達は、“ゴブリンコマンダー”という特殊個体が指揮する、ゴブリン軍団によって引き起こされた“ムーア村大惨禍”によって攫われ、繁殖に利用された犠牲者達の末裔。
ゴブリンコマンダーやゴブリン軍団は、フミノキースから派遣された正規軍と、テスタ村を含む他の農村の勇士達によって殲滅されたらしいが、運良く生き残ったゴブリン達が彼らの先祖となったらしい。
正規軍が万全を期す為、今は亡きムーア村への遠征準備に時間を掛けてしまった事が、人の血が混ざるに至った一番の要因なのかもしれない、とリズールは結論付けた。
ここからは、オークさんが知っているゴブリンの歴史だ。
最初期の子孫はゴブリンと謙遜無い見た目だったようだが、ゴブリン達が近親交配をしていくにつれて、先祖返りを起こす個体が増えた。
そして先祖返りを起こした個体は、生まれ持った知能の高さから人間らしい道徳観を持ってしまい、蛮族と相違ない思考回路を持つ仲間と相容れられず、迫害され、最後は追放されてしまった。
コミュニティを追い出された彼らは、何とか生き抜く為、同じく先祖返りを起こした同胞と群れを造り、何とか定住場所を見つけ出して、長い年月を掛けて隠れ里を造り上げるに至ったようだ。
『やはり、争いは悲しみしか生みませんね』
「……そうだね」
とても悲しい目をするナターシャ。
戦争による被害者は、どんな世界でも居るのだ。
それが例え、加害者であるゴブリン側であろうとも。
そういった重い話をしている内に、ナターシャ達は山間を登り切っていた。
オークが言っていた通り、山の裏側は盆地になっていて、簡素な家々や畑がはっきりと見える。
かなり文化的な生活を送っているらしい。
ナタ―シャ達は足元に気を付けながら山を下って、隠れ里の入口へと向かった。




