183 次の日の出来事
昨日の夜の内に撮影・配信して、次の日になった。
動画の伸びがちょっと気になったナターシャは、今日の朝の支度を整えてから確認した。
「どうなってるかな?」
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異世界からの「初めまして!」
~証拠として魔法をお披露目します!~
46,780 回視聴 グッド510 バッド6
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「おぉー」
配信した動画はかなり伸びていた。めっちゃ嬉しい。
コメント欄はとても純粋で、『マジで異世界からの配信者!?』や、『魔法すげー!』という驚きの声が多かった。
1コメは当然のように天使ちゃんが奪取していて、『これからもいっぱい応援するからねー!』と激励の声を掛けてくれた。
モチベーションが上がるね。
『マイロード、そろそろ出発のお時間です』
「分かった。今行く」
リズールに呼ばれたナターシャはテントを出て、ゴブリン村捜索に出向いた。
捜索風景は少々ショッキングな絵面になってしまうかもしれないので、今の所は動画のネタにしない方向だ。
◇◇◇
テントの外は雨が止み、地面の水たまりが青と白のマーブル模様で彩られる晴れの日。
ただ、雲はひっきりなしに風上から下ってきていて怪しい空模様だ。
「今日の天気も怪しいなぁ……」
『通り雨は降るかもしれませんが、昨日のような大降りにはならないと思います』
「ならマシかな?」
昨日は南東に進んだが、今回進む方向は北東。
だけども、著名な魔導士に関する情報が欲しいので、テスタ村に寄った。
『マイロード、今日も雨天中止にしますか?』
「んー……その時次第で」
『分かりました。臨機応変に対応します』
「ふむ、俄雨の中で戦うのも乙な物でありますな」
「あーカッコいいよね。雨降る中での殺陣って」
「おぉ、ナターシャ殿も理解してくれるでありますか」
「何となくだけどねー」
二人と会話しながら村を歩いていると、また冒険者三人組と出会った。
「おぉっ! おーい! 斬鬼丸さーん!」
「昨日はありがとー!」
「これも神の思し召しだな」
「元気だねぇ」
『そうですね』
「そうでありますなぁ」
今日も会話し、情報を共有しあった。
草原で自分達の実力を確かめた彼らは、もう少し上のランクの魔物に挑戦したいようだった。
「フッ、スカベンジャー程度、相手にならなかったぜ」
「それそれー。クランクが一人で倒しちゃうんだもん」
「そういう訳だ。お嬢さん、良い狩場を知らないか?」
「良い場所ねぇ……」
ナターシャは索敵をしながら考えた。
眠らずの森は真っ先に思い浮かんだが、あそこは強すぎる。
ブロンズランクにはちょっと荷が重い。
なので次点の狩場を教える事にした。
それは、ナターシャ達が向かう方角と同じ位置にある、草原と林。
小動物系の他に、アイアンランクの魔物が存在していて、それを狩って食すオークと、その上にレッサーサーペントという蛇竜崩れの魔物達が頂点に君臨している地域。
命名するなら……偽蛇竜の丘だな。我ながらカッコいい。
ナターシャはその情報を教える代わりに、対価を求めた。
そうしたら冒険者から、魔導士に関する詳細な情報が聞けた。
「宿の店主から買い取った情報だが――例の著名な魔導士は、今から行く北東の林付近に住んでいたらしい」
「なんだか幸運過ぎてちょっとびっくりだよね?」
「俺は“ついに一攫千金のチャンスが来たな!”って思ったぜ!」
前向きだなぁ。
まぁ、コチラも欲しい情報が聞けたので満足だ。
そしてどうせなら、という事で、冒険者三人組と行動を共にする事になった。
魔導士の家を見つけたら、宝は全員で山分けにするつもりだ。
何か良い物がゲット出来ると良いけど。
◇◇◇
偽蛇竜の丘に着いた。
到着直後、ナターシャが『魔導士の家見つけた』と宣言した事で、冒険者組は虚をつかれた。
リズールの仲介解析があっての賜物だが、一々説明をするのが面倒だったので適当に誤魔化した。
魔導士の家は、林の淵を暫く歩いて行った場所にあった。
かなり古い赤レンガの家だが、崩壊はしていない程度のレベル。
家の中の様子も、少々古ぼけていて埃っぽい。
置いてある物はそれなりに良い物な気がするけども、売って稼げるほどではない。
取り合えず全員で家探ししてみたら、リズールが色々と発見していった。
『麻痺防御の指輪(低位)を見つけました』
「おぉ」
『100年前の魔導書を見つけました』
「おぉー」
『鍵を見つけました』
「おぉ?」
『秘密の地下室を見つけました』
「「「おぉーっ!」」」
秘密の部屋が見つかった事で、一旦全員集まり、部屋に入る算段を立てた。
個人的には、淡々と報告するリズールの声が〇ンハンの採取ログっぽくて面白かったので、もう少し聞いていたい所だけど。
捜索隊の先頭はリズールが務めて、後ろにナターシャ達が続く形になった。
リズールは防御結界を全員に掛けてくれたので、何があってもほぼ無敵である。
『では、先ほど見つけた鍵で扉を解錠します』
ガチャ、とロックを外し、全員で中に入った。
秘密の地下室には――中央には何かの魔法陣と、端にある研究机の上には何かの機具、その横には魔導書が詰まった本棚が設置されていた。
「これは……研究室だよね?」
ナターシャの呟きに、全員が同意の頷きを返した。
そして再び、金目の物の捜索を行った。またリズールが見つけていった。
『机の下から魔法強化の指輪《中位》を発見しました』
「わー! すごーい!」
『本棚の奥に物理強化の指輪《中位》を発見しました』
「すげー!」
『魔導書の中がくり抜かれていて、その中に思考力向上の指輪《中位》を見つけました』
「素晴らしいな!」
『床下のタイルを剥がした所、防毒の指輪《中位》を3つ見つけました』
「「「大当たりだーっ!」」」
大喜びする冒険者組。
ナターシャは魔導書を読んで勉強していたし、斬鬼丸はそもそもあまり興味が無いので、探しているフリをしていたようだ。
その後地下室から出て、地上部分をもう一度捜索した。
だが、睡眠耐性の指輪と、水属性の魔導書以外の金目の物は見つけられなかった。
強いていうなら、金属だけどもふにゃっとする柔らかい素材で出来た双剣を見つけた。
『この家にあった物は、これくらいですね』
部屋の中央に、今回の戦利品を並べて見せびらかすリズール。
それを見つめる皆の目は、とても輝いている。
「こ、これを山分けするんだよな!?」
「うんっ! と、とってもわくわくする!」
「ぼ、僕は緊張で手が震えてきた……」
冒険者組はかなり緊張しているようだった。
リズールはナターシャにアイコンタクトを取り、ナターシャは分からないけど、コクン、と頷いて肯定した。
するとリズールは、各人に必要そうな物を選択して、分配し始めた。
まずは冒険者組。
クランクには物理強化の指輪《中位》と身体強化魔法の魔導書。
レンカには魔法強化の指輪《中位》と、火属性魔法のスキル本、回復魔法について書かれている魔導書。
フィズには思考力向上の指輪《中位》と、ホーリースマイトというとても有名な聖属性魔法が書かれた魔導書を贈呈した。
あと、彼らがこれから送るであろう冒険の事も考えて、防麻痺の指輪と防毒の指輪3つも贈呈しておいた。
「こ、こんなに貰っても良いのか!? ホーリースマイトのスキル本とは、金貨にして30枚は下らないぞ!?」
「そ、そうだぜ? 指輪なんて金貨何枚になるか分からないし、斬鬼丸さん達ももっと欲張っても……」
「そうだよ! そっちの利益ってかなり少ないんじゃない? それで良いの?」
彼らは貰い過ぎた事で遠慮し始めたが、リズールは正直に話した。
『実はですね。この家は私の前の主、そのご友人様が終生の住まいとして選んだ家なのです。ですので、ここを発見出来ただけでも御の字なのですよ。軽く見まわった所、楽しく暮らしていたようなので』
「そ、そうだったのか……」
「びっくりー……。世界って狭いね」
「あぁ、驚かされるな」
納得した冒険者達は今回の報酬を受け入れ、換金用の魔導書を追加で幾つか貰ったあと、村に帰っていった。
この大荷物ではまともに狩りは出来ないし、宿に荷物を預けてからまた来ようと考えたらしい。
しかしだ。
この世界でもっとも恐ろしいのは、タダで何かを貰う事。
このメイドの真意を確かめるべく、ナターシャは説明を求めた。
「ねぇリズール」
『なんですか?』
「あんなに大盤振る舞いした理由って何?」
『簡単です。実は――――
リズールは被っている黒いフードを降ろして、とても嬉しそうに語った。
――この家は大賢者ウィスタリアの友人の一人、稀代の付与職人であるウェスカ・スタンリー様の秘密工房。地下室の設備さえ手に入れられれば、金貨数百枚程度の損は一週間で取り戻せますよ』
「なるほどねぇ……」
狙いは初めから、地下室の設備だったという事だ。
しかしリズールは、そこで何を造り出していくのだろうか。
それがとても気になるな、とナターシャは思った。
『あぁ、思い出しました。地下の魔法陣は転移機能も組み込まれていますので、早速ナターシャ様の魔力を登録し、魔法陣を使用出来るようにしましょう。フミノキースからこの地域まで一瞬で来れるようになりますよ?』
「ここってそういう機能もあるんだね……」
スタッツ国の偉人や英雄達は、色んな事が出来るんだなぁ。




