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164 新魔法創造と、新企業設立計画?

 再びリズールと色々なやり取りをしたナターシャは、ご褒美と称してナデナデされながら、


“森羅万象、生々流転を書き記す世界の真理書よ。全てを白日の下に晒し出し、我が名の下に求めし個の情報を暴き出せ。“森羅万象鑑定術オールマイティ・アプレイザル””


 という詳細鑑定魔法を創り、更に前世の知識を生かして、


全自動洗濯乾燥術式ランドリーマシン

毛髪乾燥機ヘアドライヤー

衣服皺取機アイロン

蒸気式衣服皺取機スチームアイロン

熱源式整髪機ヘアアイロン

塵芥清掃術スウィーパー

暖房術ヒーター

暖房機具化コタツ


 という単語魔法群を作製した。


 ランドリーマシンは言わずもがなの洗濯・乾燥魔法。

 ヘアドライヤーは手から指向性を持った熱風を出す魔法。

 アイロン系統は手に魔力を纏い、高熱や蒸気を発生させてコテ代わりに使う魔法で、ヒーターは常夏魔法の劣化版。

 スウィーパーは自動で床掃除してくれる小さな風の渦を発生させる魔法で、コタツは供給魔力量で温度が変化する魔力熱源を物体に付けて暖房器具に変える魔法だ。

 コタツ生成はどうしても詠唱が必要になるから、今回は短縮。今は利便性とコスパを重視だ。


「……よし。一旦休憩かな」


 そう言って日記帳を閉じたナターシャは、大きな伸びを決める。


「はぁ~……っ」


 デスクワークは身体にクるよねホント。ちょっと疲れた。

 隣のリズールも本体を閉じ、ナターシャを労う。


『お疲れ様です我が盟主マイロード。異世界の装置の名を魔法に冠する事でそれを詠唱とし、複雑で難解な過程を単語魔法一つに凝縮するとは流石の一言です』


「いやぁそれほどでも。えへへ」


 褒められて照れるナターシャ。いやはや素晴らしきかな現代知識。

 閃きの過程はリズールの言った通りだけど、物は試しと創ってみたら大成功だ。

 これでこの世界に、生活魔法を使った新たな暮らしが浸透していくだろう。


「そのついでに、生活魔法の手数料マージンとか貰えたら良いのになぁ……」


 そしたら大金持ちになれるのに。

 ナターシャが残念そうに両手を後頭部に回すと、リズールが一つの提案を持ち掛ける。


『では、冒険者ギルドに掛け合ってみますか?』


「ギルドに?」


『はい。冒険者ギルドは昔から国民の魔法教育に力を入れていて、魔法教室の卒業生であったり、独学でも優秀だと認められた魔法使いには任意で認可証を出しています。彼らは宮廷魔術師が創った新たな魔法を真っ先に習得出来る代わりに、年に一度、冒険者ギルドに認可税を支払う契約を結んでいます。生活魔法の特許料を徴収する事は不可能ではありません。……まぁ、生活魔法が大衆化した場合の特許料回収は不可能ですが』


 楽してお金を稼ぐならば魅力的な提案なのだが、ナターシャは首を左右に振って拒否を示す。


「……いや、自由に使って欲しいからそういうのはしないよ」


『そうなのですか?』


「うん。だって生活魔法が広まれば主婦層が雑務から解放されて、働き手や趣味人に変わって、皆の生活レベルが向上する。そしたら文化レベルも向上して、旅行客や商人が増えて、めぐめぐってユリスタシア領の税収が増えるかもしれないじゃん?」


『随分と遠い道のりですね?』


「これも全部根回しだって根回し。ウチの領地が成長していく土壌を整える為さ。それに、今の私がいっぱい儲けちゃうとチート持ちだって間違いなくバレる。それだけは気を付けなきゃいけないからね。うん」


 先人達が目先の欲に眩んで散っていった事を忘れるべからず、ですよ。

 そう結論付けていると、リズールは別の案を出してきた。


『でしたら生活魔法は冒険者ギルドに売らず、領主である両親の手を借り、人々の日常生活を助ける企業を運営しながら広めていけば問題ないかと存じ上げます。折角便利な魔法を創ったのですから、もっと貪欲にお金を稼ぎに行きませんか?』


 その手があったか。


「リズールって天才なの?」


『天才ではありませんが、汝が為の魔導書リズールアージェントです。どんな事でもサポートします』


 感謝するように軽く会釈するリズール。

 ナターシャは従者の方を向いて姿勢を正すと、今後の方向性を聞く。


「じゃあ……テント魔法と詳細鑑定は冒険者ギルドに売るとして、生活魔法はお父さんとお母さんに教えて色々やって貰う方向で?」


 リズールは考える仕草をしながら、事業計画を話す。


『そう……ですね。まずは成人した領民の中から魔法を使える方を1人選んで、専門職として働いてもらう事から始めるのが一番かと。最初の職務は洗濯・乾燥のみで十分だと提案します。最初から手を広げ過ぎると失敗するのは目に見えていますので、他の生活魔法はまだ秘匿すべきです。この時点では料金や収税は決めず、領民同士の物々交換などに任せると良いでしょう。もし専門職の方のやる気が出ないようなら、何かしらの報酬を与える方向性も視野に入れます』


「うん」


『そうして領民達に利便性を実感させ、客商売を行う為に必要な売り文句などを軽く話せるようになってから次のステップ、近場の街への出店を目指すべきです。一般市民の平均月収は銀貨10枚程なので……気軽さや人件費を鑑みて、洗濯1回ごとに小銀貨2枚から1枚の間で始めるべきですね。更に、多量の洗濯物を持ち込む人間が居る事も予測して、最初から重量制限を設けるべきです。洗濯魔法の最大容量の8割程でしょうか。ただ厳密には決めずに“この籠に乗せられれば合格”程度で。容量や洗濯1回に掛かる消費魔力は詳細鑑定を行えば判明すると思われます』


「なるほど?」


『もし出店が成功し、洗濯事業が広く認知されるようになってきたら街に支店を開設して、少しづつ従業員を雇い入れてサービスを拡充させていきます。最終的には古株である領民に支店を任せ、売り上げの一部を受け取る方式にすべき、だと考えます。そうした方が領民や従業員に上昇志向が生まれますし、他の街への支店開設も容易になります』


「ほぉ」


『懸念すべき点は魔法が盗まれる事ですが、それも含めて商売認知と割り切り、広告費に予算を割き、自社名をブランド化すれば会社として生き残れると推測できます。他社と違い、我が盟主マイロードが生活魔法を創る度に成長し続ける企業となるので、簡単に倒産する事はありません』


「なるほどー……」


 リズールの話を聞き終わって、考えるように腕組みをするナターシャ。

 一つ気になる事があったので聞いておく。


「でもさ、この街にはもう洗濯業をやってる人達が居るじゃん? 私達はただ魔法で洗濯・乾燥するだけだし、色んな服の扱いに慣れてる専業の人達には負けるんじゃないかな?」


 その質問に対し、リズールは首を左右に振った。


『いいえ。私達の勝利条件は企業の発展では無く、生活魔法の普及。それは達成されるので問題ありません。それに、他社と競合する場面まで行けば企業もそれなりに成長していますし、領地に私達の独占市場が出来ているハズです。後は他所に負けないように宣伝を打って戦いつつお金を稼ぎ、領地と共に成長する方針に舵を切れば、他の街の洗濯組合を追い抜く程の成長を遂げる事も可能。ですので、私達の企業は結果的に全てにおいて勝利しているのです』


「おぉー……経済って奥が深いねぇ……」


 腕組みしてうんうん頷くナターシャ。

 会社の重役になったような気分だ。楽しい。


『これも全て、我が盟主マイロードが領地持ちの貴族令嬢だからこそ出来る一手ですね。一般の方ではこうは行きません。資金繰りや部下の育成で何度か躓くでしょうし、洗濯組合との会合では後ろ盾の無さから発言力が減り、苦労すると推測します』


「へぇー……」


 では、私からの発言は以上となります、と言ってリズールは静かになる。出来る秘書だ。

 その隣に座る、齢8歳の社長となる予定のナターシャはちょっとワクワクしていて、とても張り切っていた。


「ふふ、よーし何だかお金稼げる気になってきた。とっても楽しみ。夕方にはお父さんに相談しよっと」


『でしたらまずは事業計画書の作製ですね。早急に取り掛かりましょう』


 リズールは本体である魔導書をパラパラと開き、新たな機能を解放。

 事業計画が記述された羊皮紙が魔導書から生み出され、枚数にして20枚程が机に纏められた。


「おぉー……」


 あっという間に一仕事終えたリズール。ナターシャも驚きの声。

 リズールは本体を閉じると書類の束を手に取り、内容を確認しながら呟き始めた。


『詳細鑑定で判明した洗濯魔法の内部情報に記入漏れや間違いは……無し。その他……は、……おおむね良し。後はこれを郵送しなければなりませんが、これが届くのはいつになる事か。早ければ早い程良いのですが……』


「あ、それならいい手段があるよ」


『?』


 主と視線を合わせてコテンと首を傾げるリズール。可愛い。

 ナターシャは気恥ずかしさでつい視線を逸らしつつも、自慢げに話し始める。


「わ、私の収納魔法って実家に居る天使ちゃんの収納魔法と繋がってるみたい。だから、それを使えば今日中に届くよ」


『しかし今、彼女は眠っているのでは? それでは日中に届くかどうか……』


「そ、そこまで急がなくても良いんじゃないかな? お父さん達もスグに行動出来る訳じゃ無いだろうし、もう少しゆっくりやっていこう?」


『……それもそうですね。人間が職務に従事しているという前提を失念していました。失礼しました』


 ナターシャの言葉で考えを改め、本を脇に抱えて頭を下げた青髪の従者。


『では早速収納魔法を利用して、人に依存しない情報伝達手段を作らなくては……』


「えぇ……」


 すぐさま自身の知識を参照し、情報伝達にマンパワーが介在しない方法を模索し始めた。

 余りの仕事人っぷりに流石のナターシャも少し引き気味である。

 まぁ、うん。とっても出来る従者だから嬉しいけど、取り合えず。


「じゃ、じゃあ私、ベッドで休憩するね?」


 頭を使う作業で結構疲れているので、休憩の許可を求めていくナターシャ。

 それを受け、リズールは二つ返事で了承。


『えぇ、はい。私の事は気にせずお休み下さい。あぁ、休憩後には追加でご褒美を差し上げますのでお楽しみを』


「ホント!?」


『本当ですよ』


「やったー!」


追加でご褒美が貰えると聞いて喜んだナターシャ。


「るんるんるん♪ 楽しみにする~っと♪ とぉーうっ!」


 元気よく立ち上がってベッドに駆け寄り、そのままダイブした。

 ぽふん、とマットレスがたわみ、少女の身体が布団に埋もれる。気持ちぃ。


「はふぅー……」


 大きく深呼吸をして、楽しい休憩時間を堪能し始める。

 そしてこの少女は、自分が思っているより頑張ったのだろう。


「のうみそ休めるめるー……Zzz」


 最後に謎の言葉を呟いて、すやすやと寝息を立て始めた。

 その事に気付いたリズールは、深い眠りに付いたナターシャに布団を被せ、


『お休みなさい我が盟主マイロード


 次に目を覚ます時まで、優しく頭を撫で続けた。

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