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137 五日目:オールステータスオープン

 ナターシャの対面に座るエメリアはまず、テーブルの上に瓶を置く。

 そして瓶の周囲を軽くなぞりながら説明。


「はい。この瓶が中央広場ね。私の居る方が北。で、この街にある公園はこの中央と、北東に小さなのが一つ、南東にももう一つ」


 トン、トンとテーブルを指差す。

 ナターシャも返事。


「はい」


「でも、北と南は遊具が少ないから集合場所くらいの扱いなんだ。メインはやっぱり中央公園。皆そこに集まるよ」


「そうなんですか」


「うん。だからそこに行けば、ナターシャちゃんにもいっぱいお友達が出来ると思うなっ」


 言い終わり、満足そうに微笑むエメリア。

 ナターシャはそれを受け、礼儀正しく感謝の意を告げる。


「ありがとうございますエメリアさん。私の困り事が解決しました。明日にでも公園に行ってみようと思います」


「どういたしましてー。……んへへ」


 エメリアはとても嬉しそうにはにかむと、また瓶を持って水を飲み始める。

 うん、参考になった。また今度公園に行こう。


 でそれは良いとして、ステータスの詠唱だ。何て言おうか……


 静かに考え込むナターシャ。そして10秒後。


 ……そうか。“オール”か。その手があったな。

 早速組み替えて詠唱する。


「“オールステータスオープン”」


 魔法が発動し、再び新たなステータスウィンドウが表示される。



 ―――――――――――――――――――――――


 Lv8/99   名:ユリスタシア・ナターシャ      

 年齢:7歳   職業:一般人(冒険者登録済)

 称号:なし   47/768exp   利き手:両手

   

 HP49/49   MP121/121(Ex)

 (HP245/245) (MP12100/12100)


 ATK:10(40)  VIT:49(245) 

 STR:5     DEF:7(21) 

 INT:70    RES:51 

 DEX:3     AGI:25(50)

 SPD:75    LUK:190+5


 武器1(左):なし  武器2(右):なし

 頭:なし         体:厚手の服 

 左腕:なし       右腕:なし

 腰:革のベルト      脚:厚手の服 

 足:革のブーツ    アクセ:なし


 ????(???)


 ?3(??0) ?5(5??? ?4??0?) ?3(????

 ?3????? ?2????? ?1????? ?5?????


 ―――――――――――――――――――――――


 所持スキル一覧


 剣術Lv0 魔法適正Lv3 会話術Lv1

 神の加護(魔法)Lv3:Unique(LUK+10.)

 熾天使の紋章:Unique(MP*100 LUK+5)

 ????:Passive


 ???の血筋Lv5:Unique


 ―――――――――――――――――――――――



 んー……?

 自分のステータスの横に付いている、カッコ内の数字を見て首を傾げるナターシャ。

 見た感じ俺の本来のステータスと一致するけど、何がこの倍率を付けてるんだ? MPを見た感じ、天使ちゃんの紋章がMP爆上げしてるし何かしらのスキルが犯人か?


 カッコの数字を突けば内訳が表示されるかと思ったがそうでは無く、何も反応しない。

 その後目ぼしい所を色々と突き、最後にたまたま神の加護(魔法)のLUK+10横にある小さな「.(コンマ)」をクリックすると隠しウィンドウが表示された。

 それを見てナターシャは納得する。



 ―――――――――――――――――――――――――


 神の加護(魔法) Lv別発動アビリティ


 Lv1:LUK+10 ????*1??

 Lv2:ATK*4 VIT*5 DEF*3 AGI*2

 Lv5:INT*9

 Lv7:????*??0

 LvEx:ALL*10


 ―――――――――――――――――――――――――



 ……成程、コイツか。チートスキルらしくステータスアップするようにもなってるのか。

 一目で効果が分からないようになっているとは神様も考えてる。流石神様。感心するナターシャ。


 ……正直な所を言うと、死の淵から蘇る度にステータスが急上昇する方式だと思ってた。

 だって筋肉痛地獄から復帰した後、ステータスを確認したら攻撃力とかがかなり上昇してたし。

 まさかこのスキルがLv2になったお陰だったとは。

 でもまぁこれで、父との訓練の後ステータスの変動が起きなかった理由も分かった。うん。

 ただ……能力が上がらなかった一番の原因は、魔法でチートしてたからだろうけどね。よし問題解決!


 カッコ内の数字についてはよく分かったので説明画面を消し、他を調べる事にする……が、その前に。

 ナターシャは念のため、対面に座っているエメリアやガレット達の様子を観察。俺のステータスを見られると面倒だ。


 ガレットと斬鬼丸は白黒を入れ替えて二戦目に突入しており、エメリアは仕事で疲れているのか、瓶を抱えたままテーブルに突っ伏して眠っている。


「むにゃ……ちゃんとしてるよぉ……」


 小さく寝言を漏らしているのが何というか、可愛いかも?

 見た感じ大丈夫そうなので、ナターシャは再度ステータスの確認作業に入る。


 えっとー……じゃあまずはー……やっぱ称号だよな!なんか持ってるかなっ?

 ウキウキとしながら称号の文字をタッチするナターシャ。



 ―――――――――――――――――――――――――


 称号一覧


 なし


 ―――――――――――――――――――――――――



 ……やっぱ無いかー。まぁしょうがないよな。まだ7歳だもの。これからこれから。

 少し気分を沈ませながらも称号一覧を消し、他の文字も反応するか確かめたが音沙汰無し。(魔法)はノーカン。

 うーん、詳しく調べるにはどーしても“鑑定”が必要っぽいな。


 ……そうだな。時間はあるし、鑑定魔法の詠唱を本格的に考えよう。

 ナターシャはステータスウィンドウを消し、次なる魔法の開発作業に入る。


 詠唱の元になりそうなのは……あれ。精神鑑定サイキアトリィ。でもちょっと記憶があやふや。どんなんだっけ。


 ナターシャが眉を互い違いにして思い出す作業をしていると、兄のマルスが帰って来る。白のTシャツにトランクス。肩にはタオルを掛けている。


「ただいまー……あっ、エメリアさんまーたここで寝てる……」


 マルスは困ったように濡れた頭を掻くと、机に突っ伏して眠るエメリアを起こしにかかる。

 肩に手を当て、揺さぶって呼び掛ける。


「エメリアさん起きて下さい。このままだと風邪引きますよ」


「ひかないもん……むにゃぁ……」


「……エメリアさん」


「んー……」


 いくら揺らされてもエメリアが起きる事は無く、マルスは困ったようにため息をつく。


「あーもう……どーしたもんか……」


 ナターシャはそんな兄に対し、一つ提案を持ち掛ける。


「……お兄ちゃん。ほら。そこに力持ちが一人居るよ?」


 ナターシャはそう言って斬鬼丸を指差す。

 流されるまま確認したマルスも、ふと良い事を思いついた様子。オセロ中の斬鬼丸の肩を叩き、勝負を一度中断して貰う。

 斬鬼丸はそのまま、マルスから教わった通りに行動。

 エメリアの膝裏と背中に腕を当て、眠りから目覚めないお姫様を抱え上げるように持ち上げる。


「……うひゃあっ!? な、なんですかぁっ!? ……ざっ、斬鬼丸さんっ、何してるんですかぁっ!?」


 突然の衝撃に流石のエメリアも目覚め、状況を察知して顔を赤面させながら斬鬼丸に理由わけを問う。

 斬鬼丸は考えるように少し顔を背けた後、再びエメリアに目線を合わせて軽く言ってのける。


「……いえ何、眠り姫を目覚めさせるのは必ず騎士の役目なのであります。では、このまま部屋まで送り届けましょうぞ」


「えっ!? ちょ、ちょっと待って下さい! そんな事して頂かなくても大丈夫ですからっ!」


「お気に為さらず。一宿一飯の礼として毎日でもして差し上げよう。ではいざ」


「えぇぇーーーっ!? 待ってぇーーーーっ!」


 斬鬼丸に抱えられたまま、三階の自室へと運ばれていくエメリア。

 マルスはとってもにこやかな笑顔で斬鬼丸を案内する。


「あ、斬鬼丸さん案内します。こっちですこっち」


「感謝であります」


「恥ずかしいからやめてぇぇーーーーーっ!」


 赤面して顔を隠すエメリア、その彼女をお姫様抱っこする斬鬼丸、マルスの3名はテンポ良く階段を上り、エメリアの可愛い悲鳴は次第に遠くなっていく。

 ……これでエメリアさんも、お風呂上りにうたた寝しないよう気を付けるだろう。


 そして、二階に残されたナターシャとガレット。

 ふと二人の目が合うと、ガレットが一言告げる。


「……ナターシャ。今回はエメリアさんに少し非があるので強くは言いませんが、ああいう風に大人をからかってはいけませんよ。程々にしなさい」


「はーい」


 気を付けまーす。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 その後ナターシャはガレットさんと共に一階に降り、兄マルスに風呂とトイレの場所を教えて貰った。

 小さな脱衣所付きの風呂場は前面タイル張りで、風呂の形は大きめの五右衛門風呂。大体実家と同じ。

 魔導石でお湯を入れた後、薪では無く炭を燃やして温度を保つ方式らしい。上がった後はかまどに炭を追加するのを忘れずに、と言われた。


 タイル張りの床には排水溝があり、釜の底にある木栓を抜くとそこに中の湯が流れ込むようだ。

 兄に魔導石の使い方を聞いたが、扱いが割と難しいからまだ使うなと言われた。お湯が減ったら俺を呼べとの事らしい。なら仕方ない。


 他にもタオルがある場所、脱衣した服を置く場所などの色々な説明を受け、ナターシャは二人と別れてそのまま風呂に入る事にする。

 のんびりと湯に浸かりながら、サイキアトリィの詠唱でも思い出そう。

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