128 四日目-終:ロスタリカの夜
ギルドに到着し、斬鬼丸によって馬車から降ろされたナターシャとクレフォリア。
もう夜中の9時を回ろうかという時間帯なので超眠い。というか寝ていた所を起こされた。
棒立ちする二人は眠い目を擦りながら目の前の建物を見る。
ギルドの面構えは石造りの3階建て。全体的に灰色。
玄関は木製の両開きドアで、玄関上部の看板には異世界文字。“冒険者ギルド‐スタッツ国・ロスタリカ支店‐”と書かれている。
一階の窓は木戸で、隙間からは酒場の喧騒や室内の灯。
エンシア王国とはまた違うシックな雰囲気で、本来なら感激の声を出すところなのだろうが、
「ふぁ~あ……」 「はぁふ……」
所詮7歳前後の子供達である。どのような感情を以てしても眠気に勝つ事などできやしないのだ。
ガレットは欠伸をする少女達を速やかにベッドインさせる為、アーデルハイドに断って先にチェックイン。
酒場のバーテンに宿泊料金を支払ってカギを貰い、酒場奥のらせん階段を上がって2階の部屋へと連れて行く。
……そして、それを階段下で見送る斬鬼丸。
主達は風呂に入らず眠るらしく、自身が部屋に居ると戸締りが出来ないのだ。致し方無し。
結果的に自由時間を手に入れた斬鬼丸だが、剣は道中で既に手入れ済み。鎧の汚れ拭きもウィダスティル家の使用人がやってくれた。他に出来る事は素振りくらい。
個人的な感情としては素振りを行いたいが、この街は夜でも人が出歩いている。自身は一応騎士扱いなので、常に規律正しくある事が求められる。つまり、今この時間帯での素振りはしてはいけない行為。
なので、仕方なくロスタリカ支店の中を見て回る。
内装はエンシア王国と大差は無い。ギルドカウンターの左手に酒場があるのは冒険者ギルドの基本的な造りなのだろう。だが、エンシア本店のように段違いにはなっていない。地続きだ。
他には……冒険者や町民が食べている食事には水辺らしく魚が多い。
焼いた切り身や串焼きの上に塩、胡椒などの香辛料、そしてタイムやローズマリーを入れて煮た油を掛けるのがこの街での一般的な食事方法らしい。
他にも変わり種として縦に割った骨のフライや、ミートボール。肉料理にも色々と種類がある様子。
そのまま酒場を通り、ギルドの外に出る斬鬼丸。
外は自身が乗っていた馬車がギルドの二つ隣の倉庫に収納されていく場面で、ギルドの前には親衛隊の副隊長と話し合いをするアーデルハイドの姿があった。
「……では、事前の取り決め通りに。船員の統率はお任せ致します」
「えぇ、お任せを。私達はこれから用意した船と人員の確認に行きますので、また明日の朝此処で落ち合いましょう」
「分かりました。また明日此処で」
「では。……よしっ、行くぞ!」 「「はっ!」」
副隊長は馬に乗り、騎馬兵の部下を連れて港へと向かう。
ひと段落ついたアーデルハイドは肩の力を抜き、ギルド内へと入ろうとした所で斬鬼丸と鉢合わせる。
「……あぁ、斬鬼丸さんですか。お待たせして申し訳ありません。今部屋の手配をさせて頂きますね」
申し訳なさそうに謝罪するアーデルハイド。
斬鬼丸はジェスチャーでそれを止めながら話す。
「否、あまり気にせずとも良いであります。元より睡眠は不要の身。夜間の間、主の為にこの建物を直掩するのもまた乙な物であります」
そしてそこに襲い来る苦難を想像し、ハハハと愉し気に笑う斬鬼丸。
アーデルハイドも真面目な表情を少し崩し、呟く。
「……フフ、変わった精霊ですね斬鬼丸さんは。まるで人間のようです」
「……? 何か言われたでありますか?」
「いえ、何も。……では、今日宿泊する部屋を取りましょうか。明日が最後の山場ですから、風呂と睡眠でしっかりと英気を養いましょう」
「そうですな。拙者も睡眠を取って精神を研ぎ澄ますであります」
「……おや、睡眠は不要なのでは?」
「寝る子は育つのであります。拙者は生後一週間故に」
「おぉ、中々良いジョークですね」
「ハハ――」
二人は楽しく談笑しながら冒険者ギルドへと入る。
アーデルハイドは早速酒場のバーテンに掛け合い、ギルド職員証と護衛クエスト受注書、受注者名簿を見せる。
バーテンは手慣れた様子で受注書の経費欄に値段の記述とサインをして、宿の部屋鍵を複数カウンターに置く。
鍵を受け取ったアーデルハイドは自慢気な顔で斬鬼丸に見せびらかし、そのあまりにも予想外の行動は斬鬼丸をとても驚かせた。
冗談はさておき、と手を握って鍵を纏めるアーデルハイドはテーブル席に座るディビスとオデルを呼び出し、宿の鍵を手渡しながら明日に向けての諸注意を行う。
「明日は朝から3時頃までは船旅。首都近郊の港から降りた後、短時間だけ陸路を通る事になります。……良いですか? 今日はウィダスティル伯爵家の護衛も付いていたので安全でしたが、明日は分かりません。魔物、盗賊、その他アクシデント。目的地が目の前だからと言って気を抜かないように」
「分かってるよ。仕事だからな」 「その通りである」
お小言を軽く受け流す二人。
アーデルハイドは他の冒険者にも注意を促す。
「皆さんも、気を張って護衛して下さい」
「「うーい」」 「はーい」 「はいっ」
テーブル席に座る他の冒険者達も素直に返答し、代表の二人から鍵を貰うと固定メンバーを組んでぞろぞろと自身達の部屋へ向かう。
「では斬鬼丸さん、部屋の鍵をどうぞ」
「感謝であります」
斬鬼丸も鍵を受け取り、バッグに収納しながら発言。
「……拙者はこのまま部屋で待機する故、アーデルハイド殿はご自由に為されよ」
「分かりました。では一旦失礼してお風呂に」
「行ってらっしゃいであります」
「はい。ではまた後で」
二人も解散し、斬鬼丸は二階、アーデルハイドはギルド職員用の風呂場へと向かう。
夜も回って深夜に近付く夜10時。
冒険者ギルドは酒場の営業を終え、酒を飲んで友人と楽しむ人々も自身の家、宿へと帰っていく。
外も静かになり、湖から聞こえる漣の音がロスタリカの街を包む。
旅は明日で最終日。ただ運河を下るだけではあるが、一体どんな景色が待っているのだろうか。
はぁゆるキャン△すき……
2期早く見たい……




