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125 四日目:昼食はお日様を浴びながら。

 再び客間で待っていると執事さんが呼びに来た。昼食を取る為に早速食堂へ……では無く。


 何やら俺の両親が普段着ているような服に着替えた(と言っても何処となく高級そうな服)伯爵夫婦と合流し、玉座の間の裏手に向かう。

 裏手の廊下には城の外に出る為の扉があり、隙間から眩い光が差し込んでいる。

 三名を先導している執事がその扉を開いて先を譲り、ナターシャも扉を潜る伯爵夫婦に続く。


 扉の外に出ると、冬が近いにも関わらず強く差し込む日光で目が眩む。

 俺は手で日差しを遮りながら外の景色を確認する。


 扉の外は緑の芝生が生えた大きな広場になっていて、バーベキューコンロが複数設置されている。

 広場の背景には白いお屋敷があり、まるで〇衆国のホワイ〇ハウスのような見た目だ。

 芝の広場では既に調理が開始されているらしく、複数の使用人さんが慌ただしく働き、数人のコックさんがコンロで魚介類を焼いていてその傍には調理待ちの人影……あれ、なんか見慣れた顔が……


『あっ! ナターシャ様ーっ! コッチ! コッチですよーっ!』


 とあるバーベキューコンロの前に居る、マント姿の少女がぴょんぴょん飛びながら俺の名を呼ぶ。

 黒や茶系統の髪色が多い中、とっても目立つウェーブ掛かった金色の髪に遠目でも分かる青く澄んだ瞳。あの容姿、見間違えようがない……


「……く、クレフォリアちゃん?」


 ナターシャは引っ張られるように金髪の少女の傍へと近付いていく。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 2人の少女が芝生の上に座り込み、お皿に乗せた魚介類をフォークで食べている。

 その後ろではナターシャと共に旅をしてきた仲間達が、領主夫妻、タリスタン、ヨステス村で救出した親衛隊達を交えて歓談しながらバーベキューパーティーを楽しんでいる。

 斬鬼丸も今ばかりは護衛の事を忘れてその話の輪の中に混ざっている。食事出来ない分、他人との会話で息抜きしないとね。


 ナターシャは状況を理解する為、隣に座るクレフォリアに質問する。


「……つまり私がお城に入った後、兵士さん達に此処へ案内されたって事?」


「そうなんです。お城のお堀をぐるりと回って、裏手にある鉄門を潜って、馬車で山を登ってここまで」


「そのままこのお庭で立ちんぼう?」


「いえ、昼食が始まるまではお屋敷の中に皆で居たんです。ほら、あのお屋敷です」


 クレフォリアが指差す先には、某合衆国の大統領府のような建物が建っている。

 とても白くて、中世には似つかわしくない建物。まさか城の裏にこんな場所があったとは。


「……そっか。あのお家、どうやって建てたんだろうねぇ」


 そう呟きながら焼いたエビを頬張るナターシャ。バジルソースがとってもイタリアンでボーノ。

 もぐもぐと食べているとクレフォリアちゃんが豆知識を披露してくれる。


「ふふ、簡単です。ここセルカムが、ロスタリカという街に近いのはご存じですよね?」


「うん」


 知ったの今朝方だけど。


「ロスタリカにはエルフォンス教皇国から川を下り、海を経由して教会や神殿用の石材が輸入されて来るんです。その石材を建材にして、後は魔法で整形して組み立ててドン! 簡単ですねっ!」


「へぇー……」


 まるで一般人には真似出来ないお絵描き講座みたいな説明を軽く聞き入れつつ、サイズが通常の倍くらいあるホタテの貝柱をむしゃる。

 うん、海産物が新鮮で美味しい。これもロスタリカという街が近いお陰なのだろう。


 あ、そうだ。LINEで天使ちゃんにこのパーティーの様子を送ろ……と、いつもの気分で手を後ろに回した時にナターシャは気付く。


「うわ……荷物全部、客間に置いてきてる……」


「あら、それではお父様達に連絡できないですね……」


「うん……」


 せめてスマホだけでもアイテムボックスに入れておくべきだった……

 ナターシャは残念そうに手を皿の所まで戻し、フォークを持とうとすると横から伸びて来た手に掻っ攫われる。

 おまけのように皿に乗せていたエビも奪われ、……何なの?と思いながら右を向くと、ピンクお団子ヘアーの少女がしゃがみ込んでナターシャのエビを食べていた。


「はむっ……うぅんっ♪ やっぱり炭火で焼いた魚介類は美味しいね♪」


「……天使ちゃん!?」


 目を丸くするナターシャ。

 突然の来訪者に驚き、口元に手を当てるクレフォリア。

 そんな二人の様子を見ながら天使ちゃんは挨拶する。


「はろー☆ 天界一位の天使ちゃんっ♪ 貴方の願いを聞いて届けて即参上!」


 エビを食べているのにカニのように指をチョキチョキと。

 ニッコリ笑顔がとても眩しいので少し思考が止まってしまうが、ナターシャは心を冷静にする。

 ……何の願いを聞き届けたのかは分からないが、何か理由があって来たのかも知れない。

 もしかしたら、これからマズイ事が起きるのかも。とにかく話を聞かないと。


「……天使ちゃんどうしたの? わざわざ来るって事は、何かヤバい事でも起きるの?」


 ナターシャは少し不安そうな顔をしながら天使ちゃんに質問する。

 天使ちゃんはというと朗らかな笑顔でこう言う。


「ううん? バーベキューに混ざりに来ただけだよ? 天界のウォッチング機能って便利☆」


「またそんな事言って……何か用事あるんでしょ?」


 エンシアで俺の感情を弄んだ時のように。

 童貞の心は繊細だから、飴細工ぐらい丁寧に扱わないといけないんだぞ?


「フフフッ、なっちゃんってば疑心暗鬼~♪ えいえいっ♪」


 天使ちゃんはナターシャの懐疑の視線を受け流すように笑う。ついでに俺の鼻先を突くのは止めなさいこそばゆいから。

 3人が楽しそうに話し込んでいると、給仕姿の女性がドリンクを運んできてくれる。

 この世界では珍しい褐色肌。黒髪を後ろで括ってポニーテールにしている女性だ。アジアンビューティーな感じ。


「お客様、お飲み物は如何ですか? シードルをお持ちしました」


「……だってさ。どうする?」


 ナターシャの問いに対して速攻返答するのは我らが呑兵衛こと天使ちゃん。

 元気よく手を挙げてアピールする。


「欲しい!!!!!!」


 欲望に正直で宜しい。給仕さんは天使ちゃんにシードルを渡す。


「美味しい!!!!!!」


 そしてすぐさま飲んで味を確かめている。せめて乾杯くらいしようぜ。

 ……まぁ天使ちゃんは天使ちゃんだからしょうがないと流し、クレフォリアちゃんにも尋ねてみる。


「クレフォリアちゃんは?」


「私は…………いえ、物は試しですっ。一つ下さいっ!」


 クレフォリアは何やら少し考えた様子だが、勇気を出して一つ貰う。

 やっぱり、ウィスキーを飲んでダウンした時の事を考えてしまったのだろうか。

 いやいやクレフォリアちゃん、あれはお酒の度数が強すぎたせいだから……とは前世の知識に関する事なので言えず、ワイングラスに注がれたシードルをまじまじと見つめる少女の様子を微笑ましく見守る。


「お客様も如何ですか?」


 ナターシャは給仕さんに再度問いかけられ、じゃあ一つ……と愛想笑いを浮かべながら手に取る。

 所持しているドリンクを全て捌けた給仕さんは丸いトレーを両腿に当てて一礼。

 再度飲み物を補充する為なのか白い屋敷の方へと向かって急ぎ足で歩き、十秒ほどで屋敷の中に入ってしまった。やはり給仕は時間との勝負なのだろう。

 天使ちゃんはそれと同タイミングでシードルを飲み干し、グラスを天に掲げて力強く叫ぶ。


「天使ちゃんお代わり欲しいです!!!!!!」


 それはもう素晴らしいとしか言いようがない程の満面の笑みである。

 しかしこの場にはもう給仕さんが居ない為、澄み渡る青い空にピンク髪の少女の声が虚しく響くのみ。

 ナターシャは若干呆れながらも給仕さんの向かった場所を教えてあげる。


「給仕さんならあの屋敷に戻っていったよ」


「分かったボトルごと貰ってくる!」


 天使ちゃんは立ち上がるとグラスを持ったままダッシュで給仕さんを追いかける。元気だなぁ……


「熾天使様はお酒がお好きなんですねぇ……」


「みたいだねぇ……」


 天真爛漫な天使ちゃんを見て、しみじみとした雰囲気になる少女2人。そのままのんびりとしようとした所でガレットさんに呼び出される。


「ナターシャ。クレフォリアさん。そろそろ領主様方とお話ししましょう」


「はーい。じゃあクレフォリアちゃん、移動しよっか」


「はいっ」


 ナターシャとクレフォリアの2人は、タリスタン親衛隊に労いの言葉を掛けるウィダスティル伯爵夫妻の下へと移動する。

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