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123 四日目:セルカム。

 斬鬼丸が食事出来るようになったか確かめたり(出来ませんでした)、斬鬼丸が道中討伐したブラッディデスベアーを親衛隊達が討伐した事にすり替えたり、話し合いを終えたガレットさんに斬鬼丸共々正座させられ、こっぴどく叱られて泣いたりと色々な事があった一日だが風呂入ってベッドに入って眠ってしまえばもう昨日の出来事。


 朝起きて着替えてクレフォリアちゃんの寝癖を直して、朝食を食べて歯磨きして洗顔すればもう準備万端。

 どっかの戦車撃破王は一日3食食べて牛乳飲んで戦闘機に乗って出撃するのが日課だったらしいのでなら俺も実質撃破王なのでは?と謎の思考に至りつつも手に持つリバーシの黒い駒を盤面の角に突き刺しクレフォリアちゃんの横一列に並ぶ白い駒を黒へと塗り替えて、


「はぁぅっ、私の勝ちだァ……ッ!」


「あ゛あ゛ぁ゛ーーーーっ!」


 オセロの勝敗を決する。

 何故か荒い息で汗を垂れ流すナターシャと悔しくてじたばたするクレフォリア。これで15勝14敗。ようやく勝ち越しだ。


 今現在俺ことナターシャちゃん一行&冒険者ギルド一行は馬車に乗り込んでヨステス村を出発し、セルカムという街に向かっている。

 一番前方ではタリスタン親衛隊が乗り込む幌馬車2台が先導し、街道を進んでいく。

 あぁそうそう。ガレットさんに貴族との関わり方について細かく言われるかと思ったがそんな事は無く、


「ナターシャ。貴方はまだ子供ですから変に畏まらず自然体に振る舞いなさい。ただ礼儀だけは忘れないように」


 といった感じの注意だけされて終わった。あんまり厳しくないのは意外である。

 ナターシャは順番交代をする為に駒の片付けを行い、ガレットさんにバトンタッチした所で馬車の後ろから外の景色を見る。


 青々しく晴れ渡り、アクセントのように白い雲が浮かぶ空。地平の果てまで伸びる枯れた草原に、所々点在する木や石。

 魔物は相変わらず例の牛しか居らず、視線を右に向けると秋から冬への移り変わりを映し出す山が聳えている。

 肌に当たる風は実家に居た時よりは幾分か温かい気がするが、それでもまだ寒く感じるような温度。


 馬車の縁に身体を預け、腕を組みながら季節を感じる。

 銀色の髪が朝の日差しを浴びて綺麗に輝き、透き通るような蒼い瞳は後方を歩む馬車の姿を反射する。

 ナターシャがそのままぼーっとしていると、後方の馬車で待機していたアウラと目が合う。

 アウラは優しく微笑みながら挨拶のように手を振る。

 返答するように手を振り返したナターシャはそのまま顔を伏せて眠りに入る。

 中世の旅って相変わらずやる事ない……



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ナターシャが次に目覚めた時には見知らぬてんじょ……馬車の幌だった。

 いつの間にか横になっていた身体を起こすとクレフォリアちゃんが水の入ったコップを渡してくれて、ナターシャはそれを受け取って一気に飲む。

 水を飲み終わり、ふぅ、と安堵のため息をついて外の景色を眺めるとやはり見知らぬ街の中に居た。


 エンシア王国とは打って変わって灰色に支配されている街は、使用している建材のその殆どが石。

 路面、並び立つ家々、道路の上に架かる橋に至るまで規格的に切り出された石材によって造られている。

 建造物の建築方式や見た目から重厚な歴史を感じられるが、暗明の深い不思議な色合いが古さを感じさせない。


「……ここがセルカム?」


 ナターシャの独り言のような質問にクレフォリアが返答する。


「はいっ! ここがエンシアとスタッツの国境近くの街、セルカムですよ。私も此処に来るのは初めてですが、絵画で見た通りなので間違いないですっ」


 楽しそうにドヤ顔を決めるクレフォリアちゃんと喜びを分かち合うようにわいわいきゃあきゃあした後、一緒に馬車の御者台から身体を乗り出して観光気分で街を眺める。

 突然現れた2人の少女に御者の男性が驚いて声を漏らしたが、手慣れた様子で馬の手綱を握り直す。


「あっ、ナターシャ様! 道具屋さんがありますわ!」


「ホントだ。ガラスのショーウィンドウにポーション用のフラスコが並んでる……」


 少女二人は横に流れていく商店を指差し、あれやこれや言い合い、見つめ合って面白そうに笑う。

 馬車は暗明の付いた石の橋を潜り抜け、石造りの建物の間を進んでタリスタンの実家、ウィダスティル伯爵家の屋敷へと向かう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ウィダスティル家はセルカムの頂上にあり、見た目も屋敷というよりは城である。

 冒険者ギルドとナターシャ達の馬車は堀に架かる跳ね橋近くに停車し、タリスタン達の馬車はそのまま跳ね橋を渡っていく。


 ヨステス村から送られたであろう伝令が事前に情報を伝えていたらしく、執事らしき人物が幾人かの使用人と共に城門前で待機していて帰還したタリスタンの馬車に向かって全員で一礼。

 執事は後ろに控えている使用人達にタリスタンの事を任せて歩き出し、跳ね橋付近に停車している馬車の列に近付いてナターシャの名前だけを呼ぶ。

 どうやらクレフォリアちゃんとは一旦お別れのようだ。


 ナターシャはまた後でね、と言ってガレットさん達と別れの抱擁を交わす。

 そして馬車から降ろされ、執事に導かれるままに城門の中へと入る。


 城壁内にはもう一つの城壁のような城が存在していた。その徹底的に籠城戦に特化した構造には機能美を感じる。

 城壁よりも1段高い位置に造られた城は防衛ラインに存在する物らしく彩られておらず、城壁の内側には複数の倉庫棟、馬小屋、武器庫に、遥か遠くまで見通せそうな背の高い塔が合計7つほど。

 倉庫や塔、城壁や城を形作る剥き出しの石材が物凄い威圧感を放ち、ここで必ず敵の進攻を食い止めるという強い意思を感させる。


 ナターシャはタリスタンと親衛隊達が馬車から降りて仲間に迎えられるのを横目に見つつ、大きくカーブした長い坂道を昇る。

 坂道から見える城の壁には無数の隙間、多分矢を射る為の物が空いていて、坂道のゴールには敵の侵入を阻む頑丈な格子門がある。此処が最後の砦と言う奴か。


 執事の男性の声で最後の門が上げられ、ナターシャも続いて城の中へと入る。


 城内部は居住スペースらしく、まず目の前に見えたのは綺麗に手入れされた芝生の庭に蔦の巻き付いた屋根付きの井戸。

 庭を囲う回廊には城内部で働く使用人の姿や兵士棟から出て来た兵士達が見える。

 ナターシャは執事の後ろに続いて回廊を進み、ウィダスティル伯爵が待つ玉座の間へと向かう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 執事さんに領主様の準備が終わるまで少々お待ち下さい、と通されたのは玉座の間から少し離れた場所にある客間。

 外見の殺風景さなど吹き飛ばしてしまうほど豪華な装飾が施された部屋にて、数人の使用人に囲まれながら身だしなみを整える事になる。


 まず質素な見た目を変える為に沢山用意されたゴシック風味なドレスに軽く袖を通し、一番似合う物が決まった所で服を脱がされ、真新しい肌着を着せられ、コルセットを装着させられて締め付けられ……く、苦しい。

 そして銀色の髪と相反するような黒い生地の内側に白いフリルスカートの付いたドレスを着る。

 胸元には白いレースがあしらわれていて、赤いリボンが首元に縫い付けられている。

 スカート部分の丈は膝上くらい。形を保つ為に針金が入っているらしく、綺麗に膨らんでいる。

 いつものブーツは脱がされ、太ももまで届く白い靴下を履かされ、黒く輝くシューズを履く事で俺の雰囲気に一気に高級感が出てきた。


 次に化粧台に座らされて徹底的に髪を梳かれ、髪飾りを付けて、更に薄化粧を施されてあらまぁ更に可愛いくなったナターシャちゃんの爆誕。

 いや元々可愛いとは思ってたけど化粧するとかなり印象が変わるね。お母さんの綺麗さが前面に出てきてるかも。


 その後部屋中央に用意された豪華なラウンドテーブルにて、3段式のケーキスタンドに用意された美味しそうなお菓子や一口サイズのケーキを時折摘まみ、ホットワインを飲みつつ待っているナターシャ。

 ただ、コルセットのせいで身体を曲げられず、背筋をピンと伸ばした状態で座る羽目になっているのはマジ辛い。貴族の世界ってこんなに厳しい世界のなのかよ。


 ナターシャは余りの苦しさに壁際で気配を殺すように待機している使用人さんを軽く見る。

 すると使用人さんは笑顔を浮かべてすぐさま向かってくる。


「何かご要望がございますか?」


「コルセットが苦しいので緩めて貰えませんか……」


「すみません、それはまだ出来ない決まりなのです。領主様とのご挨拶が終わるまではそのままでお過ごし下さい」


「はい……」


 とても申し訳なさそうに壁際へ戻る使用人さんを見送りつつ、何とか苦しさを解消しようと身体を捩る。

 うん、タリスタンの言う通り盛大に歓迎されてるけどコルセットだけは必要無いと思う……。

ざっくりとカット進行。

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