122 三日目-終:帰還後
次話執筆中に矛盾発見してどうしようもなくなったので後半修正掛けてます。
大筋は変わってません。
削除してごめんなさい!
ヨステス村では狼達とセオの姿を視認した村人達が恐慌し、道中のどこかで合流したのか村で体勢を立て直していた冒険者とエンシア王国騎士団達が剣を抜いて曲者ォーーーーッ!と対峙したりと楽しい事になったが親衛隊の副隊長が事情を説明した事で事なきを得た。
ハウリングウルフ達も最初は殺意満々で唸っていたが、セオの一声でお口チャック。
そのまま何も言わず森の中へと歩いて帰っていった。さらばもふもふ。
ナターシャは後ろに続く斬鬼丸と共に宿に帰っている所だが、外の騒ぎを聞きつけたであろうクレフォリアちゃんが宿から飛び出してきた。
そして即座にナターシャを発見。目の淵に涙を貯めながら駆け寄る。
「ナターシャさまぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~っ!」
手を大きく広げ、ウェーブの掛かった長い金髪を風に靡かせて。
服装こそ少し古くて質素だが、それでもその容姿からは気品高い雰囲気が溢れていて。
ナターシャはなんだかとても安心した気持ちになり、駆け寄る少女を腕の中に抱き止める。
そのまま無言で胸に顔を埋める少女に何と言おうか迷ったが、ナターシャはシンプルに一言告げる。
「……ただいま」
その言葉を聞いたクレフォリアは感情の雫を宙に飛ばしながら顔を上げ、満面の笑みで返答する。
「はいっ! おかえりなさいませっ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
スマホで時間を確認した所、丁度3時間ぴったり経った頃に帰還したらしい。
宿では既にガレットさんが起床していて、言い繕うとした場面で村で起こった騒ぎの声を聴いたとの事。
そして窓から外の様子を見たガレットさんの言う通り部屋で待っていたものの、最悪の可能性を想像してしまって居ても立っても居られず外に飛び出し、タイミング良くナターシャと出会った、というのが今に至るまでの経緯なんだけど、
「ナターシャ様……」
「うん……」
俺は今、宿の玄関付近に設置されている長椅子の上でめっちゃクレフォリアちゃんに絡まれてる。
俺の左手とクレフォリアちゃんの右手はもう二度と離れないくらいにしっかりと絡めとられてるし、少し高揚した頬のクレフォリアちゃんはそのまま俺の肩に頭を擦り付けてくる。
もうマジホント、もう、何ていうか、困る。
「ナターシャ様……?」
「……どうしたの?」
「うふふ……」
いたずらっぽく笑いながらナターシャの膝に頭を乗せるクレフォリア。
組んだ手を持ち上げて枕にして、目を瞑ってナターシャの温もりを堪能している。
元童貞としてはこういう場合どう反応して良いのか分からない。と、とりあえず頭を撫でて良いのかな……
強張る右手を少しづつクレフォリアの頭に近付け、生唾を飲み込んで決心した所で声が掛かる。
「……失礼。ちょっと話をする時間を頂けないだろうか」
折角勇気出したのに!と右手を握りしめつつ、目の前を向いて営業スマイルを浮かべる。
ナターシャ達に話しかけて来たのは金髪の少年。
狼の襲撃によって革製の防具は切り裂かれ、見るも無残な状態。
中に着ている服もボロボロで素肌が見えているが、羞恥の表情一つ浮かべず目の前の少女を見つめる。
いやまぁ本人は至って真面目な表情してるけど見てるコッチは視線に困るというのが一番の思い。
ナターシャはその少年に向かって返答する。
「えっと、タリスタン……くん、だっけ。何のお話ですか?」
尋ねられた金髪の少年は姿勢を正し、深々と頭を下げる。
「ありがとう! この度は君のお陰で助かった! 兵を率いる者として、そして一人の人間として、君に感謝をするッ!」
「どう致しまして」
タリスタンの礼に心からの笑顔で返すナターシャ。
感謝されるのは嬉しいからね。
「そして……感謝の礼としてッ、君を私の自宅に招きたいッ!」
「は?」
ナターシャは笑顔そのまま、つい正直な気持ちを出してしまう。何故見知らぬ男の家に行かねばならんのだ。
クレフォリアは二人の会話などどこ吹く風、とナターシャの膝枕の上で目を瞑って穏やかな息を立てている。
相変わらずボロボロのタリスタンは、少し頬を赤く染めながらもう一度ナターシャを誘う。
「……ど、どうだろうか。着いて来てくれるだろうか。盛大に歓迎しようと思っている」
まるで初恋の少女に告白する場面のように視線は泳ぎ、後ろに回した腕が動いている事から手も感情も穏やかではないのだろう。
あーこれは俺に惚れてますなー……と童貞特有の思考に至りながらもどう答弁しようか迷う。
今の俺は旅の途中。どうしようか尋ねようにもクレフォリアちゃんは素知らぬ顔で目を瞑っている。つまり判断は任せると暗に言っている。
しかし、この寄り道は俺一人で全て決められる訳じゃない。ガレットさんや、アーデルハイドさんが事前に旅の計画を立てている。行程に変更を掛ければかなりの支障が起きるだろう。
つまり、このお誘いは俺の手に余るという事だ。なのでナターシャはこう返答する。
「うーん……お気持ちは嬉しいんだけど、今私達は旅の途中なんだ。もう行程も決まっているし、貴方のお家に寄るにはガレットさんとアーデルハイドさんに相談しないと」
「おぉ、そうなのか! ではその二人と話し合ってこよう!」
「え?」
ぽかんとするナターシャに対し、タリスタンはもう一度頭を下げると急ぎ足で冒険者ギルドの服装に身を包んだ男性の下に向かう。
クレフォリアは片目を開け、膝の上からナターシャを見上げて一言。
「ナターシャ様は、自分が何をしたのかご理解なされてますか?」
俺は分からないので首を振る。ただ人助けしただけでしょ?
クレフォリアは軽く微笑みながら教えてくれる。
「簡単に言うとですね、エンシア辺境伯の一人、そしてエンシア王国とスタッツ国との仲を取り持ち、国交正常化に尽力して頂いたウィダスティル伯爵の子息様を、自身の危険を顧みず助けた、という事になります。恩を売った形ですね」
「うん」
「そして感謝の礼として自宅に招いた。それはつまり、ナターシャ様は自分の婚約者として相応しい女性の一人だ、と認めたという事です」
「うん」
知ってた。でも男の恋人は要らねぇ……
諦めたようにため息を突きながら頭を抑えるナターシャ。
「私はまだそういうの早いと思うんだけどなぁ……」
そう呟き、心からのため息をもう一度。
そういうのってさ、ハイファン系の恋愛物特有のアレでしょ? 許嫁的な。
俺個人はまだ心が童貞だし、思春期も来てないから可愛い女の子しか愛せないよ?
クレフォリアは再び目を瞑り、でもナターシャ様のお傍に居るのは私だけです。と呟いて眠りに付く。
なんか、面倒な事になったなぁ……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
タリスタンの行動力は凄まじく、アーデルハイドに掛け合うとすぐさま宿で待つガレットさんも呼び出し、親衛隊の兵士を数人交えて交渉に付いている。
俺とクレフォリアちゃんは宿で食事を取りながらその様子を眺めていて、熊肉の入ったスープと串焼きを堪能しながら聞き耳を立てている。
熊の肉は筋肉質で噛み応えがあるが、油がとてもあっさりとしていて美味しい。
一つ難点があるとすれば少なからず残っている獣臭さだが、異世界で暮らしてきた俺にとってはもう気にならないレベルだ。
ライ麦パンを千切ってもぐもぐと食べているクレフォリアちゃんを横目に見つつ、目の前の彼らが話し合っている内容はこうだと読者の皆に教える事にする。
どうやらウィダスティル家領地の隣、スタッツ領にある街には大きな湖と運河があるらしく、そこから馬車を乗せられる貨物船を3台も貸し出してくれるらしい。
その主な費用は斬鬼丸の討伐したデスベアーの討伐報酬、素材売却益で賄い、船員の手配は親衛隊とタリスタンが持つ事になった。
結果、緊急クエストの報酬は無しになってしまったが、ディビスのポーション代はタリスタン個人のお小遣いで支払うらしい。
その代わりとして残り4日もあった旅の行程が2日に短縮され、合計5日の旅に。余った食料は冒険者ギルドが買い取るそうだ。流石に全額返金は無理なので半額程度だが。
特にショートブレッドは遠方に赴く駆け出し冒険者用に無償支給する携帯食料になるので、ギルドとしても有難いらしい。
まぁ、ざっとこんな感じの内容だな。
今日の所はヨステスの宿に泊まり、明日の朝タリスタン達の治める街“セルカム”に向かう。
そこでタリスタンのご両親に軽くご挨拶。そのあと東へ進んでスタッツ国内に入り、ロスタリカという船場町で一日を過ごす。
ロスタリカは山々に囲まれる湖の畔に作られた街。水路での物資運輸、山で切り出した木材の販売を主要な税収源として栄えているんだってさ。
そこには冒険者ギルドの支部があり、ナターシャ達&冒険者一行はそこで宿泊。次の日に運河を使って一気にスタッツ国首都に向かうって寸法よ。
スタッツ国ってどんな国?とクレフォリアちゃんに尋ねると、何やら魔法研究を専門で行う国らしい。
火、水、風、土などの各種属性は勿論、無属性と呼ばれる属性魔法に分類出来ない魔法を雑に纏めた物の詠唱を開発したり、新しい魔道具を作ったり、長くて魔力消費の多い詠唱魔法をスキル化して一般使用出来るようデチューンしたりと時代の最先端を行く国なんだとさ。
エンシア王国がスタッツに攻め込まずに友好条約を結び、更に国として認めているのもその恩恵を受ける為。
……ついでに、エルフォンス教皇国の武力に唯一対抗出来るのがその国だけらしいので手を組むのは当然の摂理らしい。やっぱり武力は正義と言う事か。
スタッツ国については両親や兄に色々と聞いてたけど、そんなに凄い国だったのかぁ……と思いながら、もぐもぐと料理を食べるナターシャだった。
そりゃお兄ちゃんも留学する訳だよ。




