最終話 うさ耳少女と槍撃手
『……ダイショウヲ、ハラエ』
何者かの声が聞こえて来ました。
「僕が払うよ」
グンちゃんが小さな声で言いました。
その瞬間、私達は再び光に包まれました。
◇◇◇◇◇
「あれ、ここは?」
気が付くと私は、十字架の形をした透明な柱のある部屋にいました。
どうやら私はオーディンのお城に戻って来た様です。
私から少し離れた所にはグンちゃんがいました。
私はグンちゃんの元に向かって走ります。
グンちゃんは漆黒の槍を透明な柱に向かって放ちました。
透明な柱にヒビが入りました。ヒビは柱全体に広がって行き、遂に柱は崩れました。
十六夜七海と呼ばれた少女が柱の中から現れ、ゆっくりと倒れます。
グンちゃんは走って七海さんの元に駆け寄ります。
グンちゃんは七海さんが床にぶつかる前に抱きかかえ、ゆっくりと床に寝かせました。
私はグンちゃんの元に辿り着きました。
「グンちゃん、七海さんが無事で良かったですね!」
「…………えっと……」
グンちゃんは何故か返答に困っている様でした。
あっ、そうか……。
グンちゃんにはもう、記憶が無いんだ……。
代償を、払ったから。
神のご加護無しに、時空を越えるほどの衝撃を受けたから。
私は言います。
「グンちゃんが何を考えてるか当てて上げましょうか」
もう、私にも分かっているんです。この人はグンちゃんではなく、十六夜神凪さんである事くらい。
でもこの人をグンちゃんだって、私のたった一人の大切な人なんだって思わないと、耐えられない気がしたから……。
きっとグンちゃんが考えているのは「この人、誰だっけ?」といった事なんでしょう。
けれど、グンちゃんの口からそんな言葉を聞きたく無いから、私は話を逸らす為に別の事を言います。
「これからの旅の予定を考えてた、とかですか?」
グンちゃんは首を横に振りました。
否定されました。
「じゃあこの景色綺麗だなぁ、とかですか?」
ラスボスを倒し、七海さんという名のヒロインを救ったのですからこの景色はさぞ絶景に見えている事でしょう。
なのに、グンちゃんは首を横に振りました。
否定。
「……はっ! 分かりました。お腹空いたなぁ、ですね!」
今までの記憶の全てを、私とグンちゃんの心に刻み込む様に。思い出を忘れない様に。そんな想いで私は言いました。
しかし、グンちゃんもとい十六夜神凪さんの答えは否定でした。
私は泣きそうになりながら、
「もう、分かりませんよっ! 私の知っている無口で鈍感で何考えてるか分からなくて……でもとっても優しい、あのグンちゃんはもう居ないんですからっ!」
私の目からは涙が溢れていました。私の小さな手で拭っても、また溢れて来て。涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃで。
でも、止まらなくて……。
何分間泣いていたのでしょうか。その間、グンちゃんは黙って私を見つめていました。
私はグンちゃんに聞きます。
「結局、グンちゃんは何を考えていたんですか?」
——お前の事を見て可愛いなぁ、って思ってたんだよ。
そう、グンちゃんは言いました。
そっか。
グンちゃんは消えてなんて、なかったんだよね。
グンちゃんはずっと、私の話を聞いてくれていて。
グンちゃんはずっと、私を助けてくれていて。
グンちゃんはずっと、私を想ってくれていたんだね——。
「おいおい、いい加減泣き止めよ。折角ラスボスまで倒したってのに、まるで俺が悪者みたいじゃねぇか」
そう言って、グンちゃんは私を抱きしめてくれました。
この時が永遠に続いて欲しい。冗談や例えではなく、本当にそう思いました。この時、私は間違いなく幸せでした。
ですがその幸せは一瞬にして終わりを告げます。空気を読めない一人の少女のせいで。
「まったく、見せ付けてくれるわね。助かったばかりの妹の前で」
七海さんがそう言いました。グンちゃんが顔を赤らめて、急に私から顔を離します。
「いやいやいや、別にそんなんじゃないから!」
グンちゃんが慌ててそう言いました。
「よく言うわね、こんなに可愛い妹が目の前に居るっていうのに!」
私は二人の話に割って入ります。
「まあまあ、良かったじゃないですか。七海さんも無事だったんですし」
私は続けます。
「あのー、七海さん。七海さんがこの世界に来た時に、最初にどこに現れたか憶えていませんか?」
「えっ、憶えてるけど?」
「案内していただけませんか? そこからなら逆に、元の世界に帰る事が出来るかも知れません」
私達はこの城を出て、七海さんに門までの道を案内してもらう事になりました。
◇◇◇◇◇
門までの道を歩いている途中で、私はグンちゃんに言います。
「でも、なんでグンちゃんは記憶を失わなかったんでしょうか?」
「うーん、俺にもよくわからねぇな」
私とグンちゃんはしばらく考えていました。
「あっ、もしかして!」
私はグンちゃんに言います。
「あの時じゃないでしょうか」
「……あの時?」
「グンちゃんがフレイヤさんを助けた時ですよ!」
そう、確かあの時。
『ですが、私は何時でもグンちゃん様の事を想っています』
フレイヤさんは確かにそう言っていたはずです。
「その時からすでに“神のご加護”は発動していたのではないでしょうか?」
「えっ、あの時からすでに⁉︎」
「でもそれなら辻褄が合いませんか?」
「まぁ、確かに……」
私とグンちゃんがそんな話をしていると、七海さんが言います。
「ほら、着いたわよ」
七海さんはそう言って目の前を指差します。
そこには元の世界に戻る為の門がありました。
◇◇◇◇◇
「なんかこの場所、私達が石像達に襲われた場所に似てますね」
私はグンちゃんに言いました。
私とグンちゃんと七海さんは門に向かって歩きだします。
見渡す限りの大平原。優しい風が草花を軽く揺らします。碧空に浮かぶ積雲は、まるで綿あめの様でした。
でも私はこんな長閑な場所でピクニックをしている訳でも、うたた寝をしている訳でもありません。私は、私達は今、歩いています。
私達の未来に向かって。
この小説を最後まで読んで頂きありがとうございます。
今後の予定については、活動報告で発表する予定です。




