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暗闇の道標  作者: 砂滑
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神付与術

「セトさん、盗まれたのなら探し出す方法があるとおっしゃいましたが、本当ですか?」

 テーブルの破片を集めながらキシリスはいった。

「流通をたどればいいのさ。盗品を自分で捌くのは危険だ。仲買人をあたればひっかかるかもしれない」

「どこにいるのだ。仲買人とやらは」

 前髪をいじくりながらクアルはいった。

「魔法道具をあつかえるやつといったら限られる。でも、居場所は教えられないな」

 クアルの細い指先をみながらセトはいった。

「なら、お前がいって聞いて来い」

「俺、自首してきた犯人だぜ」

 そうだった。

 セトは暗に軍と闇ギルドのパイプを使えと促していたのだが、クアルにはそういう考えに至る経験はなかった。恐らく、闇ギルドのこともよくわかっていないのだろう。

「セトさん。どうにかお願いできませんでしょうか。謝礼ならできうる限りのことは考えさせて頂きますので」

 クアルとは違う種類の美人に手を握られ、そうまでいわれてはセトにも考えることはあった。ふと、鼻腔を嗅いだことのある匂いがかすめる。

「あんた、尼さんか?」

 それはクサリの葉を含む香の匂いだった。集中力を高める効果があるため儀式などに秘薬として使われることがある。純度の高いものは中毒性の高さから法外品として摘発の対象となっていた。

「ええ、そうですけど」

 それがなにか?といった風にキシリスは首をかしげた。

「あっ、思い出した!祭事の時にいた神官ではないか」

 神官は神付与術という奇跡をおこなえる神の代行者たちの広義だ。魔術士たちからいわせると神付与術は魔術の一体系にすぎないとのことだが、神殿側は断固としてその説を否定している。

「へぇ、凄いな。なぁ、この逆剥け治せる?いつもこすれて痛いんだ」

「馬鹿か貴様。神聖な力をそんなくだらないことに使えるか」

「そうなのか?」

「え、ええ。治癒術は精神的な作用が大きいので、そういったことではちょっと……」

 キシリスの目は泳いでいる。当然、治癒できるのだが神の奇跡を逆剥けに使用するほどキシリスの信仰心は低くない。

「なんだよ、つまんねぇ」

「しかし、よいのか?神殿にいる者がこんな遅くまで出歩いて」

「私は本来、布教活動担当なので、神殿を空けていても支障はありません。神の御言葉を伝えるにはまだまだ未熟なのですけど」

 キシリスは恥ずかしそうに微笑んだ。その笑顔は彼女の本来の年齢を浮き彫りにした。さらにはクアルですら危機感を覚える清涼感を伴っている。

 とりあえず、遺失物届けを書いてもらうことにして、クアルは届出書を雛形とともにキシリスに渡した。キシリスは机がなくなったので書く場所に困っている。

「おい、貴様」

「なんだよ」

セトは身構えた。

「仲買人の場所を教えろ。リデイオの神官ともなれば放ってはおけん。それになくなったのは得体の知れぬ魔法道具だ。もし、協力すれば貴様の罪状について私が司法官に口を利いてやってもよい」

 彼女にとって賭博場の主の命はキシリスの指輪と天秤にかかる程度のものらしい。

「別にそんなことには期待してないけど。教えてやるよ」

 そう言うと、セトはそこらへんに散らばっていた書類を一枚ひろい、イスを机代わりに地図を描き始めた。

「ほら」

「ふむ……町外れか、ここからならそんなに遠くないな、キシリス、一緒に行けるか?」

「あ、はい」

 顔を上げてキシリスはいった。彼女は床に這いつくばって遺失届けを書いていた。

 その後、三人は思い思いの場所で兵士が戻ってくるのを待っていた。

「遅い」

 セトの予想通り、クアルが苛立ちはじめた。発した言葉も予想どおりである。

「そうだな、もう一時間はたつな」

 セトは共感を示し、欠伸を噛み殺す。

「なにかあったのではないでしょうか?」

「ん?誰かきたぞ」

 気配を感じたセトが呟いた、三人は入り口に注目する。


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